ご機嫌世界樹ちゃん


帰ってくるなり早々に山積みの仕事をコツコツと片付け、馬鹿みたいな法案に目を通しながら頭を抱えていた俺は翌日。


最近になってできた日本の国会議事堂にあたる建物“日本帝国議会”へ足を運んでいた。


この国はほかの国々と違ってかなり特殊だ。そもそも人間の数が少ないし、信仰する神も独自のもの。


そしてこの国の中心にあるのは、世界樹である。


建前上、首都は東京になっているが、正確には東京の中にあるダンジョン(世界樹)が首都なのだ。


つまり、建物が建てられているのは世界樹の間近くである。


「──────♪」

「やぁ。世界樹ちゃん。ただいま。元気にしてた?」

「─────」

「それは良かった。何か問題はあったか?」

「─────」

「ちょっとした下らない喧嘩と犯罪ばかり?なら平和だな。MEX(メキシコ)みたいに学生バスに警官が乗り込んでカージャックしているわけじゃないんだし」


俺が帰ってきたということで、精霊を飛ばして喜びを露わにする世界樹。


命の恩人のためか、世界樹からはとても好かれている。


この好意に甘えすぎないように気をつけないとな。恩人だからと言っても、やっていい事と悪いことがあるし。


ニーズヘッグによって弱っていた世界樹は、半年程の期間を経てかなり元気になっている。


この調子で行けば、完全回復するのも時間の問題なんだとか。


こんなに元気そうなのに、まだ全開ではないとは。


完全回復した世界樹が本気で暴れたら、この世界は滅びを迎えることになるかもしれない。


だってクソ強いし。なんでニーズヘッグにモグモグ食べられていたのか分からないぐらいには強いし。


「最近は何をしてるの?」

「────!!」

「え?俺の銅像が不満だからドワーフに作り直させてる?ちょっと待って、そんな話聞いてないぞ」

「────」

「今言ったからって........まぁ、それはいいとして、作り直す必要なんてないのに」

「────!!─────!!」

「分かった分かった。世界樹ちゃんからしたら大きな問題なんだな。どの種族も世界樹にはお世話になってるし、そのぐらいの我儘は聞いてあげるからそんな興奮しないで」


悲報、世界樹ちゃんオタクになる。


いや、前々からそんな感じはしていたのだが、やはり世界樹ちゃんは俺の大ファンらしい。


いつの間にか作られていた俺の銅像を毎日掃除しているらしいが、クオリティが微妙で作り直させてるのか。


あれ、本人から見ても結構似てると思ったんだけどなぁ........


いいじゃん、似てるって。


「───」

「うん。それはダメだよ?本当は金で作らせようとしたとか、とんでもないことを言ってんね」

「────?」

「偉い偉い。よく我慢してくれたよ」


俺はそう言いながら、精霊ちゃんを撫でてやる。


本当は全部金で作らせたかったとかアホかな?


この世界でも金は貴重品であり、様々な部品に使われている。なんでも魔力伝導率とか言う魔力を伝える力が優秀らしく、需要は減るどころか増える一方らしい。


ドワーフのいる国に存在する鉱山には、金鉱脈が腐るほどあり、我が国のちょっとした収入源となっている面もある。


とは言っても、イギリスとかポーランドにチョロっと売っているぐらいだから、そこまで外には出てないんだけどね。


日本でも使うし。


なお、一番の稼ぎ頭は世界樹ちゃんである。


世界樹の落ちた葉っぱ1枚が60万以上とか言う馬鹿みたいな値段してるからな。


葉っぱ1枚売ったら俺の給料と同じってマジ?これ、そこら辺にいっぱい転がってるんですけど。


アーサー曰く、効力が凄まじくて伝説の回復薬エリクサーの実現に1歩前進したとの事。


欠損部位が治る日が来るかもしれないとすら言われており、世界中で需要が爆発している。


普通に薬品として使ってもその効力は発揮され、また上級ポーションよりも即効性があるとかで人気が高いんだとか。


確かこの前、1枚100万でも買うからもっと売ってくれ!!って言われてたな。


あの、100枚売ったら億行くんですけど。


しかも、それとは個別で俺の口座には毎月3000万ぐらいの金が入ってくる。


どうやらミスリルとか言う貴重金属が取れるダンジョンの管理をまだシュルカがしてくれているらしく、最近は戦争の影響もあってたんまりと金が入ってくるのだ。


後、パルチザン共のシノギ。貴方達今戦争中ですよね?いいよ、そっちに金を使っても。


俺はここからみんなの給料を支払っているが、それでも金が増える増える。


最近は危険手当とか残業代とか言って1人頭月100万ぐらい出しているが、それでも2000万分は俺の給料を差し引いても余るのだ。


大体その金はみんなで観光する時に使われるが、入国方法が密入国ばかりなお陰で金が減らない。


プラスして、俺の場合はなんか知らんけど代表手当みたいなお金すら入ってくるからな。


書類に目を通してポチポチサインを書くだけであら不思議、年2000万ぐらいの収益になるのである。


いや、もっと減らしていいよ。どうせ使わないし。


と、少し前に抗議したのだが“国の代表の給料が低ければ、庶民の給料も必然と低くなる”とか言われゴリ押されてしまった。


結果、俺の年収は年3200万(ボーナスを除く)となっているのである。


若干17歳にして年収3000万超。みんなも俺と同じ人生を歩めばこれだけお金が稼げるぞ!!


多分と言うか、ほぼ間違いなくどこかで死ぬと思うが。


「お、私が一番のりかと思ったが、グレイ殿の方が早かったか」

「やぁ。アバート。調子はどうだ?」

「ボチボチだ。最近は面倒事も少なくて助かるよ。保守派が革新派になってくれたし、今や革新派は息をしていない。粗を見つけて改正案を出しもせずにあれこれ言うゴミ共が減ってやりやすいな。精神にいい」

「反対するならせめて改正案を出して欲しいよな。例え間違ってたとしても」

「そりゃ違いない。真面目に問題点を見つけて改正案を作ってくるやつもいるんだけどな。ちなみに私はそいつの事が好きだぞ。反対されても嫌な気分にならん」

「反対されるだけ羨ましいよ。ウチは全員全肯定だ」

「ハッハッハ!!グレイ殿の考えに反対する者など誰もおらんよ!!私だって肯定するしかない!!」

「勘弁してくれ。俺が間違ってたらどうするんだ?」

「間違ってたことがあったのか?」

「間違いだらけさ。この世界に生まれ落ちた時点で間違いだよ」


神の提案に乗ったのが全ての始まり。やはり諸悪の根源はあのクソッタレのファッキンゴッドだ。


とは言えど、こんな馬鹿げた世界で楽しめている自分もいる。だが、感謝はしないぞ。絶対殺す。覚えておけクソ野郎。


「神も道徳を学ぶべきだと思わないか?」

「........?世界樹様に道徳がないと?」

「あぁ、そうだった。エルフからしたら世界樹が神だったな。そうじゃなくて、俺達が信じているような人間側の神の話さ」

「ふむ。確かキリスト教なるものを信仰していた者が何人かいたな。少し気になって話を聞いてみたが、無糖滑稽なものばかりだった。あれは恩恵に預かっているからこその信仰と言うよりは、心の拠り所と言った感じだな。神を信じることで、自分の心を強く保っている」

「よく分かってるじゃないか。だがな、この世界に神は実在するんだぜ?世界樹とは違った神がな。だが、奴らは俺達に干渉しない。恩恵を齎さない神に神としての価値があるか?しかも、こんなクソッタレの世界を見て笑っているだろうよ。道徳が足りないとは思わないか?」

「........そうはならないように、子供達には心についてしっかりと考えさせるべきだな」

「全くだ」


そんなことを話していると、ほかの王達もやってくる。


「集まったな。んじゃ、中に入って会議でも始めようか........そうだな。もう1回戦争を起こしに」


軽い挨拶を交わした後、俺達は帝国議会を始めるのであった。


タイムリミットはすぐそこだ。神の領域に手を伸ばした哀れな人間の末路を、歴史が証明してくれる事になるだろう。




【パルチザン】

他国の軍隊または反乱軍等による占領支配に抵抗するために結成された非正規軍の構成員である。英語ではレジスタンス運動の一部にも適用される。第二次世界大戦中のナチス・ドイツやファシズム時代のイタリアの支配に抵抗した各国の抵抗運動がその例である。

イタリア語のpartigianoからきたフランス語で、占領軍への抵抗運動や内戦・革命戦争といった非正規の軍事活動を行なう遊撃隊およびその構成員を指す単語である。ゲリラの類義語である。




グレイが会議を始めようとしていた頃。海辺でのんびりと過していた彼らは何となく察する。


サメたちは、感情に敏感であった。


「ゴフー?」

「フゴー!!」


自分達をこの世界に呼び出してくれた主の怒りを感じる。理由は分からないが、怒っている。


表では平然としているが、とにかく怒りに満ちている。


「フゴー!!」


母なる海の王者は知っている。怒りとは弱さ。怒る者には弱さが宿る。


そして、その弱さを補えるのは近くにいる者たちだけ。


常に隣にいてやる事は出来ないが、今ならば隣にいる。


ならば、牙を研げ。その鋭い牙で食い殺せ。


野生の勘はよく当たる。


母なる海の王者は、自分たちの出番が近づいていることを察し、力になるために大きく吼える。


借りは返す。安全な地と安定した食料の代わりに、彼らは力を提供するのだ。

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