正義は我らにあり

世界の混乱


 朗報。五大ダンジョンちょろい。


 ITA(イタリア)に存在する五大ダンジョン“天国”。そこは本当にただ観光するだけの場所であった。


 いや、多分あの問答が今後のダンジョンの難易度に左右する重要な要素だったとは思うのだが、なんか満点を叩き出していたっぽい俺達に何か厄災が降り注ぐなんてことは無い。


 俺の予想では、その得点次第で難易度が大きく変化すると思うのだがどうだろうか。


 既に攻略を終えてしまい、答え合わせできない今となってはどうすることも出来ない。


 さて、この世界で初めて見た熾天使に我儘を言って日本へと帰ってきた俺達。


 ダンジョン攻略についてどんな報道をされているのかなと思い、ネット記事を見てみるとそこにはとんでもない事が書いてあった。


“全世界に熾天使が出現。ローマ教皇庁で非人道的な実験が行われているのか?”と言うものである。


 あの、熾天使さん?


 サラッととんでもないことを全世界に暴露しないでくださいよ。


 そう。あの熾天使が、全世界に向けてローマ教皇庁の悪事を暴露したのだ。しかも、それに合わせて木偶情報屋が全世界に情報をばら蒔いたのか、すでにその地下室なんかの写真や取引のデータが出回っている。


 それだけでは無い。


 一部の神の言葉を信じたもの達が、既にローマ教皇庁に突撃をしかけ、木偶情報屋の情報を頼りに地下室を発見してしまったのだ。


 いくら何でも展開が早すぎる。


 気がつけば、あのパスタ国家は神の怒りを買った国となり、全世界から非難されるようになっている。


 そして、その悪事を暴く要因となった俺達は、いつの間にか英雄扱いされていた。


「流石は主人マスターですね。これで日本がITA(イタリア)に対して宣戦布告する大義名分が生まれましたよ。熾天使は最後に素晴らしい仕事をしてくれたようですね」

「お陰様で、今からすぐに戦争の準備をしなきゃならん。サッサと戦争を初めて、世界中が冷静になる前に正義を行使しなきゃならんのは面倒だな........ゆっくり準備したかった」

「まぁいいじゃねぇか。面倒なことはサッサと片付けちまう事に限るぜボス。それにしても、熾天使が暴露してくれることまで分かってただなんてすげぇなボス。悪魔の国を見ることは出来なかったが、話を聞く限り明らかにヤバい場所だし、これで世界はまた1つ平和になった訳だ」

「ドンパチ仕掛ける予定でしたが、使えるものを最大限活用するとは流石はボスですね。ここまで見越していたとは」

「グレイお兄ちゃんの手にかかれば、どんな相手でもなすすべ無しだな。つくづく敵に回しちゃいけないと思うよ」

「さすがグレイちゃん!!もう戦争の準備をしてたんだね!!」


 あのー。人の話聞いてます?


 ゆっくり準備したかったと言ってるじゃん。なんでこいつらは、当たり前のように俺が全てを分かっていて思惑通りに事が運んでいると思ってんの?


 出たよ、仲間たちのボスわっしょい。そんなに俺を神輿に担いで何がしたいんだ。


 アレか?俺に死んで欲しいのか?


 そんなに命を狙いたいのか?


 勘弁してくれよ。俺は神輿に担がれる趣味もなければ、平穏に暮らしたいんだ。


 今回の件については正直助かっているし、熾天使の肩入れが無くとも戦争はおっぱじめるつもりだったが。


 ルーベルトの敵討ちはまだ終わっていない。その死を辱めた連中を皆殺しにして神の罰を与えなければならないのだ。


 これは確定事項である。例えそれによって世界が滅んだとしても、俺はこの手を止めるつもりは無い。


 そう考えると、俺達に正義があると発言してくれた熾天使には感謝だな。


 キリスト教徒の連中は、あの神々しい見た目をした熾天使を本当に神の使いとでも思っているのだろう。


 信仰深い彼らはきっと、快く神の罰を受け入れてくれるはずだ。


 まぁ、実際に神をこの目で見たことがある俺からすると、熾天使も紛い物だなと思ってしまうが。


 たしかに神々しかったが、本物の神はそもそも存在している次元が違うと本能的に感じ取れるのだ。


 俺が出会った中で一番神に近いのは、ピギーである。


『zzzz』


 其のピギーちゃん、今爆睡してるけど。


 健康的でいいねぇ。ぐっすりじゃん。


 と言うか、以前も思ったが、ピギーも寝るんだよな。名前を呼べばパッと目覚めてくれるけども。


 寝る子は育つとは言うし、このまま寝かせてあげるか。


 世界を三度滅ぼした存在がさらに育つのかと言う疑問は置いておいて、寝ている子を起こすのは忍びないからね。


「お、悪魔の国が攻略されていることに関しても書かれてんな。しかも、もうボスが攻略者だとバレてるぞ」

「前代未聞の1人によるダンジョン同時攻略。全世界が混乱しているだろうね。何せ、五大ダンジョンが二つ消えて、次いでに熾天使が現れて悪事を暴露して行ったんだから」

「世界は今大混乱ですよ。それこそ、第三次世界大戦の時よりも滅茶苦茶になっている可能性はあります」

「もう全てがグレイお兄ちゃんの手のひらの上だ。転がされている人類達は、いつになったら気がつくのかね?」

「そりゃグレイちゃんを神と崇める訳だわん。本人はすごく嫌そうだけど」

「神に成り下がる趣味はない。俺は人間が好きなんだよ」


 どいつもこいつも俺を神だのなんだの言いやがって。俺は一般高校生ですよ?


 まだ17の高校生なんですよ。死んでなきゃ、赤点回避のために一夜漬けの勉強をしてるんだよ。


 全ての始まりである熱中症。やはり暑さは世界の敵である。


 ........とりあえず今年の夏に備えてエアコンの設置を義務付けるか?あ、いや、世界樹の世界は比較的過ごしやすいす気候だったなそういえば。


 俺はそんなどうでもいいことを思いながら、緊急で書かれた英文の記事を眺めるのであった。


 ニューヨーク・タイムズの記事は読みにくくて困るな。もっと見やすいようにしてくれよ。




【ニューヨーク・タイムズ】

 アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市に本社を置くニューヨーク・タイムズ・カンパニーが発行している高級日刊新聞紙。アメリカ合衆国内での発行部数はUSAトゥデイ(162万部)、ウォール・ストリート・ジャーナル(101万部)に次いで第3位(48万部)。

 調べると分かるが、典型的なマスゴミ。と言うか、こういう情報誌においてまともな記事を書いてるところってあるのか?




 全世界が俺達のやらかしたことについて色々と報道をする中、我らが祖国日本帝国は特に騒ぎもなく平和であった。


 いや、俺からしたらあまり平和では無いのだが、少なくとも全世界的に見たら治安はかなりいいほうだろう。


 もちろん、犯罪行為は毎日のように起きている。


 エルフだろうがダークエルフだろうが、ドワーフだろうがタイタンだろうが所詮は思考のある獣だ。


 欲に負けて犯罪を犯すなんてことはよくあることである。


 しかし、犯罪の内容は可愛い。グダニスクとか言う頭のイカれた街に比べれば赤ん坊ぐらいには可愛かった。


 では何が俺としては平和では無いのか。


 それは、この机の上に山積みにされた書類である。


 あぁ、これを見るだけで頭がクラクラする。これでも少ない方なんながら更に嫌になってくる。


 現在日本帝国は新たな法案や制度の導入など、急速な変化を迎えつつある。


 税金に関してはできる限り緩くしつつ、その税金の使い道などは大幅に増えているのが現状だ。


 特に道路だな。街の行き来がもっと楽になるように、道路を作るのが今の政策である。


 ちなみに、中抜して他の業者に任せるみたいな事が横行していた過去の日本を俺は知っているので、わざわざわこの為だけに公共事業を委託された企業及び人々が更に下請けの者に委託することを禁止している。


 さらに、できる限り無職の人達にこういう仕事を割り振れるような制度を作ってもらい、ニートが増えないように頑張っていた。


 ニートが自分で働いて金を稼ぎ、そしてそのお金を様々なところに使う。


 そうすれば、ばら蒔いた税金は幾分か帰ってくるだろう。


 結果的に経済が回ってくれたらラッキー。もしそうでなくとも、道路ができることで国民は旅行なんかに行きやすくなる。


「........で、人間代表である俺にも認可が必要な法案や制度がこれだけあると。全部目を通さなきゃならんとかヤバくねぇか。広辞苑よりも分厚いぞ」

「こればかりはグレイちゃんにしかできないお仕事だがら、手伝えないよ。精々応援してあげるぐらいしか........」

「わかってる。でも、多すぎんよ」


 俺はそう思いながら、1番上にある書類を手に取る。


 えーとなになに........これは犯罪者に対する刑罰の条約か。しかも、性犯罪に関する話だな。


 レイプ魔はどんな理由があろうと去勢?いいんじゃないか?問題は冤罪の場合がやばいって事だけど。


 後、女が男を無理やり襲った場合に関してもちゃんと決めておけよ。我が国は男女平等がモットーだ。野郎だけにかけられる法案は通さねぇぞ。


 ちなみに、この国、実は男よりも女の方が強い場合が多々ある。


 特にエルフなんかが顕著で、エルフの使う魔法に関しては女性の方が優れているとされていた。


 だから、軍人もエルフは女性の方が多い。男が戦う時代は終わったんや!!


 逆に、ドワーフなんかは野郎の方が強い。まぁ、ドワーフは腕力勝負みたいなところがあるしな。


 そして、既婚者は全員女が強い。種族が変わろうとも、世界が変わろうとも、妻の尻に敷かれるのは同じらしい。


「この法案については一旦保留だな。問題が多すぎる。とりあえず牢獄にぶち込んだ後、ドワーフの国の鉱山にでもぶち込んどけ」

「去勢はともかく、男だけに課せられる法案っていうのは不平等だねぇ。女だって男を襲う時はあるのに」

「........あー、確か犯罪者用の鉱山があったよな。そんなにヤりたいならそこで発散させてやればいいのでは?」

「いいんじゃない?それで」

「でも反感買いそうで怖いなこれ。先送りにしてぇ........」


 男女の垣根はどうしてもある。女だけの利権を主張したり、野郎だけの利権を主張したり。


 できる限りそれを無くしたくはあるが、限界はあるのだ。どちらも納得できる法案を作るというのは難しすぎる。


 しかもそこに種族の問題まで入ってくるからな。


 あれ?この国結構めんどくね?


 俺はそう思いながら、1枚1枚書類に目を通してあれはダメ、これはOKと選別していくのであった。


 おい、誰だよこの祝日は神(俺と世界樹)に最低3回の祈りを捧げましょうっていう法案を出したバカは。しかも、なんで俺以外の代表の認可が降りてんだよ。


 却下だ却下。信仰は強制するものでもないし、俺と世界樹を神に並べるな。俺と世界樹に失礼だろうが。

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