土、恒
あまりにも取りに来るのが遅すぎて、結局俺が自ら届けに行っちまった。
もし、あの世に行く時が来たら、安いワインとmarlboroのメンソールライト、そしてケンタッキーでも持っていこう。
どうやら天界はジャンクフードも無ければタバコも置いてないらしい。
どこの誰だよ、天国には美人な女と豪華な酒や食料があると言ったのは。
そんなものどこにもねぇじゃねぇか。
そんなことを思いながらやってきたは、第七天“土”。
神曲では“土星天”として描かれていた世界へとやってくる。
ここには、信仰ひとすじに生きた清廉な魂が置かれているらしい。
正直、さっき見たという感想しか浮かばないのはしょうがないだろう。だって同じような景色なんだもん。
「魂の違いがわからん。何が何だかさっぱりだ」
「ここは信仰深き者達が置かれた地。グレイ、君は信仰心についてどう思う?何をどう定義したら信仰と言えるのかな?」
ふと、そんなことをベアトリーチェが聞いてくる。
うーむ。綺麗事だけを並べた回答ももちろんできる。しかし、今までの俺のスタンスとはかけ離れた回答になるし、作った話はボロが出る。
ならばここはベアトリーチェの不機嫌を買うとしても素直に言った方がいい気がするな。
何となく、今試されている気がしてならない。
俺は、ギャルゲーの選択肢を間違えないようにしつつも、できる限り本音で話す。
いつもみたいに相手を煽ると多分ヤバいので、ちょっとオブラートに包んで話してあげよう。
「定義については人それぞれだよ思うよ。神が世界を作り、神が世界の中心にいるという事を思うのは信仰のひとつだけど、神様ってありがたいよね〜って緩い感じても信仰と言えば信仰だ。信仰心の重さが違えど、同じ信仰と言えるとは思わないか?」
「そうだね。確かに信仰という部分においては同じかも」
「神の思想を押し付けるヤツらだって、人様に迷惑をかけてはいるがある種の信仰だ。神の思想を全人類に押し付けようとしているんだからな。まぁ、多くの場合は神への信仰心を盾として自らの欲を満たすだけの獣だけど」
「信仰は悪?」
「信仰が悪なら、そもそも人類の存在自体が悪だろ。今はダンジョンができて人間以外にも思想を持つ種族が現れたからその限りでは無いけど、少なくとも人類しかいなかった時代に信仰心を持っていたのは人類だけだ。その理論で行けば、人類という種族は悪になる。俺は、俺の属する種族そのものを否定する気にはなれないね」
そもそも、信仰心とは弱き者が心の拠り所として作り出した幻影だ。だが、それを否定してしまっては、人として終わっている。
俺も神はクソだのなんだの言っているが、少なくとも個人で信仰しているやつを前に“神はクソだ”なんて言った覚えはない。
というか、そんな奴にあったことがない。
悲しきかな。いつも出会う神の信徒は、大抵狂ったテロリストばかりだ。
なんでなん?1人ぐらいまともな信者と出会わせてくれてもいいじゃん。
それともあれか?本当に人類は信仰というものを盾に欲を満たす怪物ばかりになってしまったのか?
「 死した彼らも?」
「死人は死人。前世で何をやってようがもう過ぎたことだ。俺の知ったこっちゃない。それが知り合いや恩人ならともかくな」
「ふーん。君は常に“他者に迷惑をかけない限り思想は自由”っていう理念なんだね。一貫してて気分がいいよ」
「そいつはどうも」
「ほかのみんなは?」
ベアトリーチェはそう言うと、仲間たちにも信仰とはなにかを説いて来る。
「興味無い。勝手にすれば?」
「興味無いな。同じく勝手にしたらいいんじゃないか?赤の他人を気にする暇があったら、自分のために時間を使うね」
「私も研究に時間を使うな。赤の他人に興味は無い」
「私も修行するわん」
「フォッフォッフォ。どうでもいいわい」
「私は一応クリスチャンですが、正直どうでもいいです。敬虔なる信徒という訳でもないですしね」
「クソどうでもいいです。詐欺の手口には使えますがね」
「私自身は信仰心はありますが、ほかはどうでもいいですね。私が神と崇められればそれで良いので」
マジで変な回答をするなよとは思っていたが、そもそもこいつら神様なんて信じもしないファッキン無神論者達だったわ。
ミルラとレミヤは多少信仰心がありそうだが、ほかはマジで興味無さそうである。
せめて世界樹ちゃんぐらいは信仰してあげようね。信じるというか、仲良くしようね。
なんか世界樹ちゃん、ココ最近活発なんだよな。国を出る時も精霊ちゃんが見送りに来てくれてたし、コミュニケーションも取りやすくなってた。
そして、アリカが興奮してた。
終わってるよこの子。世界樹に興奮する変態少女を見せられるこっちの気持ちも考えてくれ。
「みんな結構適当なんだね」
「神も仏もない世界で生きてきたら、いやでもそうなるもんだよ。望んでいた回答は得られたかい?」
「ふふふっ、またサンドイッチくれたら満点あげちゃう」
「それはいいことを聞いた。丁度いい時間だし、飯にでもするか」
こうして、俺達は夕飯の準備を始める。
昼は抜いてしまったから、腹が減ったな。今日はパンを多めに食うか。
【天国編】
ダンテ著作“神曲”に出てくる話の1つ。地獄、煉獄と渡ってきたダンテが最後に行き着く地。地獄の大淵と煉獄山の存在する地球を中心として、同心円状に各遊星が取り巻くプトレマイオスの天動説宇宙観に基づき、ダンテは、天国界の十天を構想した。地球の周りをめぐる太陽天や木星天などの諸遊星天(当時、太陽も遊星の一つとして考えられていた)の上には、十二宮の存する恒星天と、万物を動かす力の根源である原動天があり、さらにその上には神の坐す至高天が存在する。
夕食を食べてその日は土星天の中で一夜を過ごした。
まさか土星の中で寝る日が来るなんて思いもしなかったな。人生とは何があるか分かったものでは無い。
ちなみに、その日はみんなで人生ゲームやトランプをして遊んだ。
娯楽に植えていたベアトリーチェは結構楽しそうであったので、トランプを上げてソリティアの遊び方まで教えてあげたのだ。
多分、めっちゃ好感度を稼げたと思う。
やはり、仲良くなるには一緒に遊ぶのが1番だな。人種が違えど、性別が違えど、俺達人類は遊びという共通の言語を持ってして仲良くなれる。
まぁ、頭がちゃんとしている奴という前置きがいるが。
そんなわけで翌日。俺達は第八天“恒星天”へとやってきていた。
水、金、陽、火、木、土と来て、次は天じゃないのか。
仲間はずれにされた天王星と海王星君。可哀想に。
........いや、一番かわいそうなのは準惑星になってしまった冥王星か。昔は、水金地火木土天海冥まであったんだけどなぁ。
「ここが第八天“恒”だよ。ここは、七つの遊星の天球を内包し、十二宮が置かれている天。即ち、君たちが見る世界の全てがあるとされているね」
「なるほどわからん。とりあえずなんかスゴイってことでいい?」
「いいよ」
わーい。ノリがいいベアトリーチェちゃん大好き!!
昨日でさらに仲良くなったのか、頭の悪い会話もできるようになったベアトリーチェ。
好感度は上々やな。やはり遊びは全てを(ry
当たりを見渡すと、そこには今まで訪れてきた世界が見える。
確か、地動説を元に作られた世界だったはずだからか、確かに地球が中心となって世界が回っている。
ガリレオ・ガリレイが見たら激怒しそうな世界だ。コペルニクスだって許してはくれない。
「お初にお目にかかる客人よ」
過去の人々がどんな世界を思い浮かべていたのか、そんな神秘に触れていると後ろから声をかけられる。
今度は誰やと思ったら、俺でも知っている人が出てきた。
白髪と白髭をモサモサ生やした聖職者。初代ローマ教皇にして、イエス・キリストの一番弟子。
教科書で見たことがあるその姿は、正しくペトロの姿そのものである。
やっべ。ローマ教皇に喧嘩を売ってたらご先祖さま来たって。しかも、初代ローマ教皇様来ちゃったって。
「は、初めまして。一応お伺いしますが、お名前は........」
「私の名は色々とあるが、君達でも知っていそうな名だとシモン・ペトロかな?初代ローマ教皇として有名だとベアトリーチェから教わった」
「ペトロおじいちゃん、すごく有名だよ」
「ハッハッハ。生きていた当時は、そんな後世に名が残るとは思ってもみなかったな!!」
最初こそ威厳ある姿を指定だが、ベアトリーチェを話す姿は孫娘を見るおじいちゃんである。
あれだ、うちの爺さんが俺やアリカと接する時の表情だ。
大抵こう言う表情をする人は、いい人である。
俺の記憶では人の耳を切り落とすような人であったが、まぁ、一国家をぶっ潰したどっかの誰かさんよりはマシだな。
「して、採点は?」
「ん?満点だよ。それよりさ、見てよこれ。トランプって言うらしいんだけど、色々な遊びができて面白いんだ!!」
「ほう。客人から貰ったのか?」
「うん!!おじいちゃんも遊ぼうよ」
「ふむ、しかし案内があるのでは........」
「あー、いや、遊んでくれて構いませんよ。このダンジョンが攻略された時、どうなるのか分からないので今の間にできることはしておいて下さい。多少時間を食ったとしても俺達は困らないので」
「む?そうか?」
ここで案内を優先させられてみろ。ベアトリーチェの好感度がダダ下がりになるわ。
という訳で、今日も足止めを喰らいそうだ。
でも、好感度を上げたおかげで多分助かってるよなこれ。
だって“採点は?”とは聞かれてたし。
なんと言うか、五大ダンジョンの攻略ってコミュ力かなり必要じゃね?
俺はそう思いながら、まさかの初代ローマ教皇とトランプで遊ぶとかいう意味不明な事をやるのであった。
もちろん手加減しましたとも。接待は当たり前ですよ。
後書き。
えー、ツーアウト。
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