原、至


 初代ローマ教皇とトランプをして遊ぶとか言う意味不明な経験をした俺達は、なんの問題もなく翌朝を迎えた。


 いやー丸1日遊び倒すとは思ってなかったね。


 ポーカーやババ抜き、その他にも多くのゲームで遊んだ俺は流石にちょっと疲れていた。


 手加減って難しいんですよ。ババ抜きの時にあえて癖を作ったり、こいつの性格的にこっちにババを起きそうだなーとか観察したり。


 正直、勝つよりも負ける方が難しい。昔からのくせで相手をよく見て勝とうとするから気を抜くと勝つ方へと思考が向かってしまう。


 多少は運に左右されるゲームではあったとしても、何度も繰り返せば実力が出るのがトランプというものだ。


 実力を偽るのは簡単なことじゃない。


「楽しかったー。おじいちゃんも随分と楽しそうだったね」

「ハッハッハ。娯楽とは良きものだな。しがらみのない中で遊べるものほど、楽しさがある」


 夜更かしまでして遊び倒した翌日、元気もりもりのベアトリーチェと聖ペトロは楽しそうに話していた。


 程よく勝たせたからね。圧勝するよりも気分はいいだろう。


 別に金を掛けている訳でもないのだ。ぼろ勝ちして喜ぶのは、現金がかかっている時だけである。


「まさか、初代ローマ教皇とトランプをして遊ぶ日が来るとはな。人生、何があるのかわかったもんじゃないぜボス」

「全くだ。というか、そもそも初代ローマ教皇をこの目で見る事自体が異常なんだよ。相手は2000年以上も前の人物だぜ?そもそも存在していたのかどうかすら、今の時代じゃ証明できない」

「きっと、初代ローマ教皇がそこら辺のおじいさんと何ら変わりないと言っても、誰も信じないだろうな。ありゃ孫娘と遊べて楽しいって顔だぜ?」

「ローマ教皇だって人間さ。俺達の目の前にいる奴が人間かどうかは定かでは無いけどな」


 世界初、初代ローマ教皇とトランプをして遊んだ人間として名前を刻めそう。


 そんなことを思いながら、ベアトリーチ達を眺めているとようやく移動の時間がやってくる。


 初代ローマ教皇に見送られ、地動説に則った世界を後にした俺たちがやってきたのは、またしても人間の脳では理解できない世界。


 なんだこれ。何も無いはずなのに万物がそこに存在している。


 そんな矛盾した世界が、第九天“原”であった。


「何が何だかさっぱりだ。人間が神に至る日は来ないだろうな」

「全くだね。何この世界。私たちが知る世界とは随分とかけはなれているし、何もかもが理解出来ないよ。なんと言うか、全てが矛盾している世界って感じがする。あれだよ。ピギーを初めて見た時と同じ感じかも」

「万物の根源はそこにあるはずなのに、万物が見えない。こんな体験、人生で1度も味わけないのが普通なんだろうな。グレイお兄ちゃんに拾われてからこんな経験ばかりだ。私はきっとロクな大人にならないぞ」

「普通の子供は植物に性的興奮を覚えたりしませんよアリカちゃん。アリカちゃんは私たちと出会う前からロクな子供ではありませんから」

「失礼な。私はあれだぞ?子供の中では割と聞き分けのいい、いい子ちゃんと自負しているぞ?」

「大人顔負けの思考力と知識を持っているのに何を言ってるんですか。まぁ、主人マスターからすれば、可愛い子供でしょうがね」


 第九天“原動天”。


 ここには、諸天の一切を動かす根源となる天があるとされている。


 え?よく分からないって?大丈夫、俺もよくわかってない。


 俺が理解しているのは、この世界が人類にはあまりにも早すぎるという事ぐらいだ。正直、何一つとして理解できないし、何一つとして頭に入ってこない世界である。


「どう?この世界は」

「正直なんもわからん。何が何だかさっぱりだ。人が神へと至れない理由はハッキリとしたけどな」

「ふふっそうだよね。私もこの世界は未だに理解できないよ。難しい世界だよね」


 難しいと言うか、頭に何も入ってこない。


 情報量が多すぎて、脳がその情報を処理することを拒否している。


 これが根源。人類にはあまりにも早すぎる世界。


 多分、この世界には未だ改名されていない暗黒物質ダークマターやダークエネルギー、更にはどこからともなくやってきた魔力や能力についての情報が全て乗っているはずである。


 この世界を解明した時、人は全知を得るのだと言うのは見てわかる。


 が、解明なんてできるわけもない。先に全てを解明し、改めてこの世界を見ればもしかしたら違った景色に見えるのかもしれないな。


 そして、当然のように観光パターンだし。


 あのー、俺の記憶では天国編はあと一つで終わりなんですが。


 マジで観光して遊んでいるだけでクリアしちゃいますよ?いいんですかこれで。


 こっから地獄編と煉獄編が始まったりしないよね?お話では天国が最終目的地だったから大丈夫だよね?


 俺は今の今まで観光とお遊びしかしてないことに不安を感じつつ、この未知なる世界は頭がおかしくなるとしてベアトリーチェに最後の案内を頼むのであった。


 こっから地獄編か煉獄編が始まったら泣くからな。いやまじで。




【ベアトリーチェ】

 神曲の案内人。『神曲』に登場するベアトリーチェに関しては、実在した女性ベアトリーチェをモデルにしたという実在論と、「永遠の淑女」「久遠の女性」としてキリスト教神学を象徴させたとする象徴論が対立している。実在のモデルを取る説では、フィレンツェの名門フォルコ・ポルティナーリの娘として生れ、のちに銀行家シモーネ・デ・バルティの妻となったベアトリーチェ(ビーチェ)を核として、ダンテがその詩の中で「永遠の淑女」として象徴化していったと見る。非実在の立場を取る神学の象徴説では、ダンテとベアトリーチェが出会ったのは、ともに9歳の時で、そして再会したのは9年の時を経て、2人が18歳になった時であるというように、三位一体を象徴する聖なる数「3」の倍数が何度も現われていることから、ベアトリーチェもまた神学の象徴であり、ダンテは見神の体験を寓意的に「永遠の淑女」として象徴化したという説を取っている。(wiki引用)




 ベアトリーチェの案内により、俺達は最後の階層第十天“至高天”へと足を踏み入れた。


 あぁ。この景色は知っている。天井に咲く純白の薔薇。この世を動かすのは神の愛であると言うことをダンテは知ったとされている地。


 そしてその薔薇の先にあったのは四枚の純白の翼を携えた、天使の姿であった。


 これが天へと登る最後の階段。第十天“至”。


 その世界はあまりにも、美しくそして白かった。


「ここが最後の目的地。第十天“至”だよ。私の案内はここまで。楽しかったよ」

「ありがとうベアトリーチェ。悪くない観光だった。ちなみに帰りはどうしたらいいんだ?」

「大丈夫。それを決めるのは熾天使セラフィム様だから」


 おいちょっと待て。今、熾天使とか言わなかったか?!


 あれ、熾天使か?!もしかして天使の中で最上位に位置する熾天使なのか?!


 やべぇ、あれと戦って勝てる気がしねぇ。いや、ピギーとか言うナチュラルチートを使えば勝てるとは思うけど、天の世界でピギーをあまり使いたくない。


「──────(よくぞ来たな人間よ)」


 そんなことを思っていると、天井の白薔薇の頂点にいた熾天使が話しかけてくる。


 人間が聞き取れない言語の筈なのに、ちゃんと意味は理解できる。


 神の翻訳機能が生きているかと思ったが、これは違うな。そういう話し方であると言うだけだ。


 ところで、相手が人間なら大まかな態度や対応の仕方が分かるけど、流石に熾天使の望む対応は知らねぇよ。


 えぇいこうなったらダメ元だ。普通に話してやる。


「初めまして。最高位の天使熾天使セラフィム。お会いできて光栄だよ」

「──────(ふむ。中々に面白い人物だな。貴様の行動、全て見ていたぞ。随分と天の者達と仲が良くなったでは無いか)」

「ノリが良くて助かったよ。冷たい対応をされてたら、心の中で涙を流してた」

「───────(ハッハッハ!!この私を見てもなおその態度。神を信仰しない心とは面白いな。それでいながら、思想の自由を説く。興味深い話であったぞ)」

「それはどうも」


 今、あの天使の好感度はどっちなんだろうか。


 プラスか?マイナスか?


 パターンとして、マイナスに振り切れていたら殺しに来そうで困る。逆にプラスなら何が起こるのかまるで想像できない。


 困ったな。


 そんなことを思っていると、天使はとんでもない提案をしてきた。


「──────(さて、ここまで無事に来れた褒美に、一つ我儘を聞いてやってもいい。何を望む?)」

「え、願い事を叶えてくれるのか?」

「───────(私ができる範囲での話だぞ。そうだな........例えば、第六天にいるかの者を甦らせることもでき───)」

「おい。天使。その続きを口にしたら弾くぞ。80年後に土産話を持って、安いワインとタバコ、そして美味いチキンを持っていくと約束したんだ。邪魔すんじゃねぇよ」


 思わず、そんな言葉が漏れてしまう。


 ルーベルトを生き返らせる?冗談じゃない。野郎が格好つけて死んだのに、生き返らせるなんてナンセンスにも程がある。


 人を守って死んだ後に生き返らされて、そいつは生き恥を晒すだけだ。それに、ルーベルトは“80年後にまた会おう”と言ってくれたのだが、会いに行くのは80年後である。


 人様の再会の約束に口を指すんじゃねぇよクソ天使。ピギー(封印解除)で暴れるぞコラ。


 天使も今のは失言だと思ったのか、素直に頭を下げる。


 例え話でも、言っていいことと悪いことがあるんだよ。


「────(失礼した。では、何を望む?)」

「........未攻略の五大ダンジョンを俺が攻略した扱いで消滅させることは出来るのか?」


 もし、一つだけ願いが叶うのならば何を叶える?


 そんな話を1度ぐらいはしたことがあるだろう。


 ちなみに、正解は“その願いを10000個に増やして”である。まぁ、それは無理だと分かっているので今回は違うことを望むとしよう。


 で、考えついたのが“五大ダンジョンをクリア扱いにしてくんね?”である。


 これが出来たら、もう俺やること無くなってスローライフまっしぐらなんですけど。イタ公とドンパチやって勝ったら引きこもれるんだけど。


「........──────(........貴様、とんでもないことを考えるな。出来なくは無いが、私の力ではひとつが限界だ)」


 あ、できるんだ。ならお願いしちゃおっかな。色々と話を聞いて集めた感じ、明らかにヤバそうな悪魔のダンジョンを攻略扱いにしてもろでいいかな?


 核兵器すらも無力化した相手を殺す悪魔は絶対にやばいって。


「じゃ、悪魔の国のダンジョンを攻略扱いとして消して欲しい。そうしたらオセアニア大陸は再び人類の手に戻るしな」

「─────(よかろう。それと、これはサービスだ。神に手を伸ばした者達への罰でもある)」

「?」

「─────(出れば分かる。さて、これにてこの世界は扉を閉じる。最後に何か言いたいことでもあるなら言うがいい)」

「あー、それなら、日本まで送ってくれると嬉しいかも。ベアトリーチェも来る?ペトロのおじいちゃんとかなんなら熾天使さんも来ていいけど」

「ごめんね。それは無理なんだ。私達はこの世界の案内人だから」

「それは残念。じゃ、家までお願いします」

「........─────(それ、願いというのだぞ。まぁいい。大したてまでは無いし、満点をたたき出した褒美にもう1つぐらいは叶えてやるとしよう)」


 こうして、俺たちのダンジョン攻略は幕を閉じた。





 後書き

 Q.スリーアウトになったらどうなる?

 A.残ってる五大ダンジョンの一つがクリアされる。

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