五大ダンジョン“天国”
レミヤのクソ長い話を何とか回避したり、ジルハードとレミヤの腕相撲を見て騒いだり(レミヤが勝った)しながらも俺達は昼食を取って天国のダンジョンへと向かう。
事件が発覚してからまだ数時間。バチカンを閉鎖するには時間が足りておらず、普通に車出待ちの中に入ることに成功した。
まさか天下の教皇庁の前に人の死体を送り届けるとは思ってなかったのだろう。
俺が向こう側の立場でも思わないからね。
教皇庁とは権力の塊。その気になれば政府すらも動かせる。そんな相手に真正面から喧嘩を売る馬鹿が何処にいる?
少なくとも、俺たち以外には居ないだろうよ。
「随分と間違が慌ただしいな」
「そりゃ、他人の家に死体を送り届ける野郎が現れたんだ。街の中も煩くてたまったもんじゃないだろうよ」
「前代未聞の事件に、対応が遅れていますね。ところでボス。五代ダンジョン“
「ん?簡単簡単。おばちゃんにちょっとお願いして警備の時間を僅かにずらしてもらったから。2分ほど誰も警備しない時間がある。そのすきに入らせてもらうとしよう」
これほどの事件が起きたとなれば、当然ながら観光地は閉鎖される。
当たり前だ。観光地の目の鼻の先にある場所で殺人事件が起きたのだから、犯人はまだ近くにいるかもしれない。
そんなやべーやつが彷徨く中で、人混みで溢れる観光地を解放したらどうなるのか。
最悪の場合、神の愛を叫びながら銃弾の雨が降り注ぐ。
そんなことになれば、責任は観光地に行くだろう。なぜ解放したのか、そんなくだらない責任の押し付けあいが始まり、マスコミなんかからも批判が殺到するに違いない。
ディズニー出暴れた時も、責任問題が発生してたからな。園内で起きた事件は全て、そこの責任者の責任となるのが世の常である。
そのため、天国へと続く道も閉鎖されている。
たかがにんげん風情が、天へと登る道を閉鎖するとはなんと傲慢なことかとは思うが、当たり前の対応なので仕方がない。
その為俺は、おばちゃんに連絡してこの日の警備時間を少し弄ってもらった。
飯を食ってる時にお願いして、もう終わってんだからすげーよな。お陰で俺達は楽に侵入できるわけだ。
「さっきの電話はそういう事だったのか。抜け目がねぇな」
「こうなることは予想出来たしな。まぁ、2分しか空き時間がないから、5分前行動されると終わるけど」
「そこら辺は安心していいんじゃないか?第二次世界大戦時、世界最弱の軍隊なんて言われていた枢軸のお荷物達の子孫だ。基本やる気がないだろう?」
「そうは言うがなアリカ。何もイタリア人全員が怠惰を背負っているわけじゃない。中に入るちゃんと仕事出来るやつもいるんだよ」
「そうか?私が知ってるイタリア人はみんな時間にルーズだったよ。お陰でろくな実験結果を得られず、実験をやり直すなんてことがよくあった」
「よくそれで仕事できてたなそいつ」
そう言うアリカの顔は、ちょっと怒っていた。
実験までもルーズにしたらダメでしょ。実験結果にもろに影響するんだから。
あの温厚で可愛いみんなのアイドルアリカちゃんが苛立ちを露わにするって相当だぞ。
今すぐに其のイタリア人を連れてきて、時間の大切さをその体に叩き込んでやりたいね。
「頭だけは良かったからな。しかも、時には失敗するはずが成功になったりする。イレギュラー要因として入れられていたんだろうが、付き合わされる方はイラッとするよ」
「そりゃイラつくわな。そいつにはアインシュタインの相対性理論でも叩き込んでやった方がいい」
「全くだ。だが、優しいやつではあったぞ。私を1人のレディーとして扱い、決して子供と侮ることはしなかった。そこだけは評価できるな」
「へぇ。良い奴じゃん」
「手の甲にキスをされた時は流石にやりすぎだとは思ったけど」
ピシッ!!
アリカのその一言に、車内の空気が固まる。
アリカのもちもちなお手てにキス........?殺すか。うちのアイドルに何してくれてんだそいつ。
ピシッ!!
また同じような音が聞こえたかと思えば、窓にヒビが入っていた。
うちの組織の面々は、みんなアリカのことが好きである。好きの意味が違う者もいるが、基本アリカの優しさと純粋さに惹かれて自然と笑顔になるのだ。
もちろん、おじいちゃんやローズなんかもアリカのとこは好きである。
特におじいちゃんは孫娘のように可愛がっているからね。アリカが街中を歩いていて食べたそうにしていると、全部買ってあげるぐらいには甘いからね。
で、そんな真の強者たち特有の圧を一気に解放するとどうなるのか。
そう。漫画のように、圧だけで物体に影響を及ぼすのである。
初めて見た。気配だけで窓ガラスにヒビを入れるヤツ。
漫画の世界だけじゃないんだ。これできるの。
「フォッフォッフォ........アリカよ。その者は今どこにおるのかの?」
「そうねん。どこにいるのかしらん?ちょっとこのダンジョンを攻略した後に尋ねてみたいわねん」
「フフフ........天使の手に口付けをするなんて........アリカちゃん、そのファッキンパスタ野郎はどこにいるのですか?ちょっとお話しなければならないことがあるのですが........」
「えぇ........」
俺も一瞬キレたが、それ以上にキレている3人。
ミルラはまだ分かるけど、おじいちゃんとローズがここまでキレるのも珍しい。
実はアリカの大ファンはこの2人なのでは?
「待て待て待て。別に唇を奪われた訳じゃないし、挨拶程度のものだ。私は気にしていない」
「アリカちゃんが気にせずとも、私達が気にするんです。マジでそいつ殺します。天使の手に口付けを許していいのは、天使に見初められた人だけです。股間でしかものを考えないゴミは去勢しないと........」
「フォッフォッフォ。孫娘のように可愛い子の手に汚い野郎の唇が着いた?死を持って償ってもらうかの」
「命の恩人の手を汚した罪は重いわよん。ぶっ殺すわん」
「........グレイお兄ちゃん、助けて」
アリカが行け!!と言えば爆速でイタリア人をぶっ殺して来そうな勢いの3人。
アリカ、彼氏とか作った日には阿鼻叫喚な事になりそうだな........そもそも人間の形をしてないだろうし。
植物特性を持った人間?能力者かね。
アリカの好みに会う植物系統の能力を持った男か........いるのか?この世界に。
「殺すならバレないようにやれよ。後仕事が終わってからな」
「ボスから許可が出たわん。後で絶対殺す」
「そうじゃの。殺すわい」
「殺します」
「ちょ、グレイお兄ちゃん!!止めてよ!!」
「いいか、アリカ。馬鹿には何を言っても無駄なんだ。諦めろ」
俺はそう言うと、肩を竦めるのであった。
何でとめないかって?俺もそいつには死んで欲しいからだよ。うちのアイドル天使ちゃんの手にキスをした罪は重い。死を持って償え。
【ローマ教皇庁】
使徒ペトロに由来するとされる使徒継承教会の首長としての地位の継承者として存続するカトリック教会の聖座(使徒座)の(統治)機関のこと。また、ローマ教皇の下に全世界のカトリック教会を統率する組織であり、国際法上の主権実体として外交使節の派遣や大使館の設置も行う(バチカン市国基本法第二条)。現在の所在地はローマのバチカンであり、バチカン市国という世界最小の主権国家の中に置かれている。
この世界でも似たような組織ではあるが、イタリア政府との繋がりが強く寿命に対しての研究が盛んで後暗いことも多い。
アリカの手にキスをした腐れ野郎は死刑という事が決定した後、俺達は天国へと続く道の前へとやってきていた。
何もしてないのに窓ガラスにヒビが入ってしまった可哀想な車は乗り捨て、ここからは徒歩で行くこととなる。
果てさて、彼らは時間にルーズかなっと。
「........誰もいなくね?」
「いないな。数時間前から厳戒態勢のはずなのに、誰もここを見張ってないな。罠か?犯人がダンジョンに逃げ込むという想定で」
「それなら既に潜り込んでるだろ。え、未だ交代の時間ですらないんだが?」
どんな様子なのかと思いチラリと見ると、そこには誰もいなかった。
まだ交代の時間まで10分ほどあるはずなんだが?なんで誰もいないんだよ。
「トイレ休憩か?」
「いや、それにしても警備が一人もいないのはおかしいだろ。サボりか、罠か。どうする?」
「レミヤ」
「はい。監視カメラに警備のものが映ってます。ガッツリサボってますね」
「すげーな。大犯罪があったその日ぐらいは真面目に仕事しろよ」
こんな日でもサボれるとは、なんて素晴らしいメンタルをしてんだこいつら。
どんなに仕事をサボりたくとも、今日から1週間ぐらいは真面目にやるだろ普通。そりゃこんな奴らが兵士になったら足でまといだわな。
かのヒトラーが“枢軸の敗因はイタリアを仲間にしたことだ”だなんていうだけはある。
実際に言ったのかは知らんけど。
「ま、鍵を開けっ放しにしてくれるなら、ご好意に甘えるとしよう。ここから先は五大ダンジョンだ。気を引き締めろよ」
「写真撮影はオーケーか?」
「人の話聞いてた?いいけども」
どうせ最初は安全なのは分かっている。俺達も観光気分で歩いても問題は無い。
記念撮影ぐらいは許してやろう。どうせ、もう見ることは出来ないだろうしな。
こうして、俺達は五大ダンジョンの一つ“
さぁ、これで3つ目の五大ダンジョン。もうすぐ年越しだし、今年はダンジョンの中で新年を迎えそうだな。
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