仇討ち


 突然動かなくなった兄弟。


 ここでちょっとしたネタバラシをしてあげるとしよう。


 ルーベルトを殺されて、俺が相手をすんなりと殺してあげるのか?


 答えはノーだ。


 死んだ方がマシだと思うレベルの拷問をしてやらなければ、俺は納得しない。


 ルーベルトを二度も殺させた罪は、たとえ神罰であったとしても生ぬるい。


「戦いの基本は、相手にやりたいことを悟らせないことだ。お前ら、俺達がすんなり殺してやるとでも思っているのか?」

「........」


 兄弟は何も答えない。


 そりゃそうだろ。今頃神経毒が全身を駆け巡って、口すら動かすことが出来ないはずだ。


 むしろ、ここで話されたら困る。


「ウチの組織には毒に精通している奴がいてな。そいつに頼んで、結構前からリィズにすら効く無味無臭の毒を作って貰ってたんだ。いつの日か、お前らを殺せる時が来た時のためにな。ざんねんながら、俺はお前らを普通に殺す術を持たない。多少傷を与える事は出来たとしても、殺すまでには至らない。拷問なら別だけどな?」


 あれはいつだったか。リィズにも有効的な毒をアリカが作れると知った時だったかな。


 俺はリィズと同じ成功例を無力化できる毒を作ってもらうことにした。


 全身の動きを強引に止めるための毒。名前は無いらしい。


「だから、動きを止めさせた。ではどうやって毒をばら蒔いたと思う?」

「........」

「簡単さ。空気中にばら蒔いて、毒ガスのように吸わせたのさ。もちろん、俺自身が毒に侵される可能性があるから先に抗体薬を飲んでな。これを飲めばあら不思議、その毒はただの空気になるらしい」


 戦いの中で毒を食らわせるのは難しい。だが、生物である以上確実に摂取するものがある。


 それが空気。呼吸をしなければ、人は生きていけない。


 これは、相手がドラゴンであろうが例外はない。もちろん、人体改造された人間だって例外は無しだ。


 ガスマスクでもしていれば別だろうが。


 ちなみに、実験でアリカの毒はガスマスクを貫通することが分かっているので意味がなかったりする。


 皮膚呼吸にすら反応するのが、アリカの作った毒。やっぱりアリカって強くね?とあの時は思ったものだ。


 知識さえあれば、どんな毒でも作り出せる。その気になれば、全世界を覆うとんでもねぇ殺戮兵器とか作れそう。


「お前、俺の勝ち筋が目をぶち抜くことだと思っただろ。ざんねん。俺の狙いは時間稼ぎだ。この毒の唯一の欠点は、効果が現れるまでに時間がかかること。大体5分から10分ぐらいか?要は、その時間までは常に毒に晒しておかなきゃならん。足止め係が居るってことだな」

「.........」

「俺とリィズはお前らに因縁があるし、お前らも俺たちを殺したい。だから、逃げという選択肢はない。そして、戦いに意識を向けさせることで、毒から意識を逸らした。目をぶち抜かれたらアウト。そんなふうに思ってたお前は、毒という可能性を完全に消去したわけだ」


 戦いの基本腹相手の虚をつくこと。


 自分の本当の武器を隠し、別の本命を作り上げる。


 今回は、目を弾丸で撃ち抜くことが勝利条件だと錯覚させた。面白いことに、ポンポンと引っかかってくれるからやりやすくて助かったよ。


 お前らの性格上、逃げることもないだろうから、適当におちょくりながら遊ぶだけで勝ててしまう。


 そうして毒を浴び続け、今に至るというわけだ。


 タネは分かったかい?おバカさん達。お前らは最初から掌の上で転がされてたんだよ。


 毒が本命であとはフェイク。本命を気がつかせない動きには、慣れている。


「グレイちゃん、相変わらず戦い方が上手だねぇ。なんでも出来るじゃん」

「リィズの速さになれてたからな。あとは相手の動きを予測するだけでいい。しかもこいつらは、半端に頭が回るからやりやすくて助かったよ。勘だけで何とかしてくるリィズより弱いね」


 正直、野生の勘とか言って逃げられてたらピギーを使う羽目になってた。


 やっぱリィズが可笑しいだけなんだな。助かったよ。お前らはちゃんと考える半端もんで。


 そんなことを思っていると、ぞろぞろとみんながやってくる。


 ちなみに、全員抗体薬は接種済みなので、この毒に侵されることは無い。


「終わったな。移動するぞ」

「悪いな。俺の我儘に付き合わせて」

「気にすんな。これも仕事だ。欲を言えば、ボーナスを出して欲しいとは思うがね」

「ハハッ!!ダンジョンを攻略してドンパチが終わったら支給してやるよ。300万ぐらいでいいか?桁が足りねぇか?」

「多いぐらいだな。基本なんでも支給してくれるこの組織は金の使いどころがなくて困る」


 ジルハードはそう言うと、倒れ込んだ2人を縛り上げて両肩に担いだ。


 場所は確保してあるし、あとは俺達がスッキリするまでグチャグチャにしてやるだけ。


 仇はちゃんと取ってやったぞルーベルト。あとはペンダントをどこに返せばいいのかってことだな。


「なぁ、半端者の兄弟よ。お前は自分のケツの穴の数を数えたことはあるか?」

「........」

「今から片手で2進数を数えるやり方を覚えておくといい。両手両足を折るだけじゃ足りなくなるからな」


 こうして、1年越しの敵討ちに終止符が打たれた。


 拷問の内容は流石に省くが、翌朝、ローマにある教皇庁の入口には人間の形を保っていないグチャグチャの死体が2つ置かれており、血の文字で“You're up next次はお前だ”と書かれた文字が見つかり大事件となる。


 そう。次はお前だ。いや、お前らだ。


 ルーベルトの肉体を弄び、あまつさえその死を辱めたお前らだ。


 命乞いも聞きやしない。だが、喜ぶといい。次は戦争で会うこととなる。全国民を拷問はできないから、安らかな死が待っているぞ。




【神経毒(アリカお手製)】

 アリカが作った毒。全身の肉体を硬直させつつも、心臓や呼吸器官など生命の生存に取って重要な部分は動けるようにするというとんでも代物。

 今回は空気中に散布していたが、本来は液体であり相手に突き刺して流し込むか飲ませることで効力を発揮する。抗体薬を飲めば無力化できるが、あえて抗体薬を世界樹にある植物からしか取れない成分で構成することで相手が作らないようにしている。なんだこの子天才か?




 1.名無しの神

【合掌】グレイくん、敵討ちを果たす。


 2.名無しの神

 南無三。出来れば天国で安らかに眠ってくれルーベルト。


 3.名無しの神

 南無三


 4.名無しの神

 南無三


 5.名無しの神

 南無三。ルーベルト、マジで不憫だな。なんというか、最後まで救われなかった気がする。


 6.名無しの神

 正直、実は意識が宿っててグレイくんとまた馬鹿やってくれるってどこか期待してた。


 7.名無しの神

 俺もしてた。でも中身が完全に違ってた。そりゃ、グレイくんもあんな悲しそうな顔をしてルーベルトを殺すよ。だってあれルーベルトの皮を被った別人だもん。


 8.名無しの神

 グレイくんにとって、ルーベルトは今後の生き方を左右させた大恩人だからな。表では執着している素振りなんてなかったけど、多分相当執着してただろうし。


 9.名無しの神

 グレイくんが泣くって相当だぞ。あのメンタル強者ですら涙する程には悲しかったんだろうなぁ........


 10.名無しの神

 初めてグレイくんがちゃんと人間らしい精神を持ってるって安心したわ。あそこで無表情で殺してたら、流石に怖かった。


 11.名無しの神

 Hey、有能神。イタリアの未来は?


 12.名無しの有能神

 どう足掻いても滅びしか待ってない。グレイくん、多分ディズニーパレードを潰された時よりもブチギレてる。

 グレイくんにとってルーベルトという男は、絶対的な存在だったからね。ちょくちょくペンダントを見ては、悲しそうにしてたし。


 13.名無しの神

 グレイくんパワーでも死者は蘇らせられないか。


 14.名無しの神

 もし死者蘇生のチャンスがあったらグレイくんはどうするんだろ?


 15.名無しの有能神

 多分、やらないんじゃないかな。ルーベルトはそんなこと望まないって言って。


 16.名無しの神

 大事に思ってんだから生き返らせるのが普通じゃないの?


 17.名無しの神

 俺もそう思う。


 18.名無しの神

 分かってないな。ルーベルトなら生き返らされたら絶対文句言うよ。

「格好つけて死んだのに、生き返ったら格好つかねぇじゃねぇか」って。

 グレイくんはそんな言葉が聞きたいわけじゃないでしょ。


 19.名無しの神

 でも蘇生されたらまた話せるぞ?


 20.名無しの有能神

 それなら世界樹の願い事の時にルーベルトを生き返らせてって願ってるよ。

 グレイくんは多分、ルーベルトの死を尊重してるんだよ。男が自ら選んだ道を後でねじ曲げるのはナンセンスだってね。


 21.名無しの神

 そういうものなの?神だからそこら辺の感覚が分からないのかな?


 22.名無しの神

 神でもここまで意見が割れるのは珍しいな。でも、俺も生き返らせたりはしないと思う。

 なんか、グレイくんは死んだ奴には多少なりとも敬意を払ってる気がするし。


 23.名無しの神

 え、グダニスクでは道の真ん中に死体があったら蹴り飛ばして脇に退けてたのに?


 24.名無しの神

 少なくともその死体で遊ぶマネはしなかったよ。どこぞの教皇庁とは違って。

 脅しの道具としては使ってたけど。


 25.名無しの神

 まぁ、確かに雑に扱ってはいたけど真の意味で死を辱めるような真似はしてなかったかもな。

 グレイくんにはグレイくんなりの哲学があるのかもしれん。

 死者蘇生ができたとしてもそれは神の領域だとか言い出しそうだし。意外とグレイくん、神の領域に触れるようなことを嫌うからな。天皇陛下になるならないの話とか、神として扱われる世界樹と同列に扱われることをあまりよく思ってなかったりとか。


 26.名無しの神

 全員後方彼女面なの笑える。グレイくん!!この世界に来たら神様抱き放題だぞ!!


 27.名無しの神

 正直、私はグレイくんに抱かれてもいいと思ってる。よし、今から異形になる練習でもしておくか。


 28.名無しの神

 馬鹿がいるw馬鹿がいるよww


 29.名無しの神

 グレイくん、普通にすごい戦いを見せていたはずなのにここまで誰にも触れられてない件について。


 30.名無しの神

 グレイくんが対人戦最強なのはわかっている定期。そして火力もないのはわかっている定期。


 31.名無しの神

 悲しいなぁ........





 後書き。

 アリカって何気に組織の中で一番やべー能力を持っているのでは?

 というわけで、この章はこれにておしまいです。いつも沢山のコメントありがとうございます。全部読んでるよ。

 今回は敵討ち回でした。いつか書かなきゃなとは思ってたけど、こんなに長くなるとは...

 次回は天国のダンジョン攻略です。クッソ難しいけど平和ダヨ。

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