玩具とブラフは使い用
掌の上で転がされ、苛立ちを露わにするフレイとアイス。
弟の方もリィズに殴られた割には元気そうでなによりだ。ここで殺してしまったらつまらないよな。
きっちり耳を揃えて借りは返す。どう頑張ってもお釣りが来るが、できる限りは買ってやるよ。
さて、冷静な怒りの中で俺は改めて彼らの能力について思い出す。
兄のフレイは炎系の能力者であり、超高温の炎を出すことが出来る能力。
対する弟は、氷を作り出すことが出来る能力だ。
対照的だが実に兄弟らしい能力と言えるだろう。髪の色も真反対だしな。
混ぜたら紫になってスゲェ破壊力を生み出しそう。詠唱でもしてみる?もしかしたら、平安の世から生き続ける化け物も殺せるかもしれないぞ?
さて、この単純でわかりやすい能力だが、単純が故に使いやすく強い。
これを無力化する手段を俺は持っているが、ピギーに頼るのはできる限り避けたかった。
普段なら“よろしくピギー”で全てを終わらせるが、今回ばかりは俺の手で殺したい。
多少の手助けは貰う(貰わないと何も出来ない)が、それ以外はできる限り自分の手で決着をつけたかった。
殺すだけなら、ピギーからのリィズのコンボで既にこいつらは死んでいる。
あれ?ピギーってやっぱりチートじゃね?
「リィズ。もう少しゆっくりやるぞ。時間はまだある」
「分かってるよ。時間はまだまだあるんだから、できる限りいたぶってあげるよ」
俺は銃を構え、なんの躊躇いもなく引き金を引く。
パンパン!!と破裂音が響き渡るが、その音で血が滴ることは無い。
「くそうぜぇ!!燃えろや!!」
ゴウ!!と炎が巻き上がる。
炎って氷よりも便利な力だよな。触れるだけで火傷するからら近づきたくない。
しかし、俺もこれに対する手は幾つか考えてある。
その中でも1番単純なものを使わせてもらうとしよう。
「炎タイプは水タイプに勝てない。そうだろう?」
俺は爆速で水を具現化。それも、とんでもない量の水だ。
昔なら能力が鍛えられてなくてこの炎を消し去る量は無理だっただろうが、様々な修羅場をくぐった今なら盾になるぐらいには水を出せる。
重力によって下に落ちることは変わらないのでタイミングが大事だが、それをミスるほど俺の経験値が足りてない訳でもない。
灼熱の炎は水を蒸発させたが、あまりにも多すぎた水の量に負けて限界を迎えた。
ドラゴン相手に生き残れる素晴らしい水だ。ドラゴンブレスに勝てないお前じゃ無理だよ。
「チッ........面倒な能力を持ってんな」
「褒め言葉として受け取っておくぜ。俺を殺したきゃ、普通に殴った方が早いぞ?体はお前らみたいに改造されている訳でもないからな」
俺はそう言いながら、今度はおさるのジョージを具現化。
ポイッと放り投げるとおさるのジョージを起動。
お前は覚えているだろう?俺たちをおっていた時に見た不気味な猿の玩具を。
その記憶が、お前の足を一瞬止める。初見では無いが、初見の記憶が強すぎてこの猿が切り札のようにも見える。
そうだろう?
カシャンカシャンと音を鳴らしながら宙を舞うジョージ。
フレイは予想通り、その猿を異常に警戒して後ろに下がる。
が、それを俺が許すはずもない。
ほら、バックステップしたいなら、足元には気をつけなきゃな。
「うをっ?!」
「おや?転んじゃってどうしたのかな?」
俺の対人戦における常套手段、ワイヤー戦法。
不意に訪れる一撃は、意外と避けられないものだ。
バックステップの初動、重心が後ろを向いた瞬間にワイヤーで足を絡め取ればあら不思議。
人は簡単に転ぶのだ。
俺は自分の持てる全ての力を使いフレイに接近。そして、拳を思いっきり叩きつける。
もちろん、普段の俺の拳ではまるで意味が無いだろう。
だが、俺には相手の内部に衝撃を与える術をひとつ持っている。
ローズが使う魔力とも似た力、気功術。
才能がないためさらに先へと進むことは無いが、内部へ衝撃を与えるぐらいはできなくもない。
「ゴハッ!!クソが!!」
「おっと危ない。ローストになるのは勘弁願いたいね」
全身を発火させて無理やり俺を遠ざける。
わかっていたから避けられたけど、初見なら間違いなく燃やされてたな。
リィズも言っていたが、あの改造された身体は内部まで強化するわけじゃない。
この気功術を見せたことにより、こいつは今度から俺の拳にも注意を払う。
ほら、どんどんやれることが狭まるぞ?次にとる手段だって読めてしまう。
次はどうせ、ワイヤーを引きちぎって近接だ。遠距離からの能力は意味が無いから近づいて燃やす。
俺の反撃は気合いで耐えようとか思ってんだろ。
「殺す!!」
「ほんと、予想通りだな。ポーカーでもやったらどうだ?多少は思考力が高まるぞ」
爆速で近づいてくるフレイ。
正直、目で追うのもギリギリな範囲だ。
だが、狭い通路で俺に近づいてくる方法は限られるし、何よりその速さはリィズと訓練していた時に何度も見てタイミングがある程度掴めている。
俺は再びおさるのジョージを具現化。そして、直線的に来るであろうフレイに向かって投げつける。
「ハッ!!もう見た!!こいつ自体になんの効果もありゃしねぇ!!」
流石にバレたか。薄々気づいているのだろう。俺の能力が自分を殺すことは無いと。
そしておさるのジョージには事実なんの効果もない。
だってカシャンカシャン鳴るだけのおもちゃだし。
だからお前はこのおさるのジョージを真正面から突破しようとする。
そこまで読んでて俺が何もしていないとでも思ってんのか?
どうせ突っ込んでくるって分かってんだから、攻撃を仕込んでいるに決まってんだろ。
「BooN!!」
ドゴォォォォォン!!
フレイがおさるのジョージと接触しそうなタイミングでおさるのジョージが大爆発。
2度目のおさるのジョージにはグレネードを取り付けてある。あとは任意のタイミングで爆発させればあら不思議。
爆発(人を殺す)する玩具の出来上がりだ。
意識外からの一撃。効く効かないは関係ない。流れさえ掴んでいれば、それでいい。
「っつ!!今度は爆発しやがっ─────っぶね!!」
爆炎が晴れていく中で、俺は銃弾を放つ。
意識がこっちに向いてないなら、攻撃のチャンスだ。
そして、大きな弱点を晒したな。これで、お前は意識するだろう?
つーか、まともにグレネード食らってなんで生きてんの?そこは死ねよ。生物として。
「お?避けたな?避けちゃったな!!その眼球は魔物の改造を受けてないのか?そりゃそうだよな。目は人間のみならず、多くの生物にとっての弱点!!内蔵と何ら変わりないその丸い目は明確な弱み。どうやら俺でもお前は殺せそうだ」
「ふざけやがって........!!」
何もかもが掌の上。俺に触れることすら出来なかった上に、弱点まで見破られた。
さて、次にとる行動は何かな?
決まってる。弱点を守りながら突撃だ。近距離戦に持ち込みたいだろうからな。
ほら、弱点である目を片手で防ぎながら突撃してくる。
馬鹿だなー。戦闘において、目よりも重要なものは無いというのに。
相手をちゃんと見てなきゃ、当たる攻撃も当たらんぞ。
それと、俺に対して意識を割きすぎ。そんなことしてたら、足元がお留守じゃないか。
「転べ」
「うをっ?!」
俺は油とスーパーボールを具現化。相手の足元にばらまくことで、強引に動きを封じる。
相手は所詮人と同じ形で重心がズレたりすることは無い。リィズほどスムーズに体の形を変えられないのも知っているから、ここで急に背中からてが生えてくることもない。
人間型が相手だとやりやすくて助かるな。足をちょっといじめれば、何も出来なくなる。
俺は転んだフレイに向かって銃弾を打ち込む。が、悲しいことに銃弾は体に弾かれた。
火力不足ぇ........頼むから銃弾を食らったら多少は怪我してくれない?一応これ、ドワーフが作った最新の魔弾拳銃なんだけど。
「ッチ!!本当にうぜぇ!!」
「さっきからそれしか言えないのか?小学生からやり直すことを進めるよ。お前を教育した教師は、随分と教師の腕が無いようだ」
「黙れ!!先生を殺した分際で!!」
「黙れよ。恩人を殺した分際で」
銃弾に打たれながらも立ち上がるフレイは、再び走ってくる。それじゃ次。
俺は銃で牽制しながら、大量の軟式ボールを空に具現化。
ボールは重力に従って落ちていき、雨のように降り注ぐ。
先程から俺のやりたいようにボコられていたフレイは、この中に攻撃が混じっているのではないかと警戒して足を止めたが何も起こらなかった。
そりゃ、そうだろ。それ、ただのボールだし。
「おいおい。今度はボールすらも恐れるようになったのか?大丈夫でちゅよ。ボールは怖くないでちゅよ〜」
「殺す殺す殺す!!」
こんなにも簡単に煽りに乗ってくれるんだからやりやすい。まぁ、弟ならかなり冷静に物事を考えていただろうがな。
思慮が浅くて直情的。リィズから聞いていた性格通り。
こういう相手は得意だそ。キレて動きが単調になる。
俺はそう思いながら、白い玉を投げつける。
これだけのボールを見せた後に俺がボールと同じものを投げつけてきた。当然、お前は警戒するだろ?
でも残念。それもボールだ。リィズぐらい頭が回って感が鋭ければ、この瞬間に接近できたのにな。
「ワンストライク」
「クソが!!」
そして強引な突破。分かりやすすぎる。
俺はさらにボールを投げつける。しかし、今度は違う。
何度も白いボールを見せて安全性を示した。だから、白く塗られたグレネードに対してまたボールだと思い込んでしまう。
やつの目はいいが、いっしゅん反応が遅れる。ましてや、先程から“目”を強調したから目を守るために視界を覆っているのだ。
ドゴォォォォオン!!
グレネードが炸裂し、フレイが煙の中で立ち止まる。
その攻撃を無理やり突破してきたら、ワイヤーで引っ掛けようと思ったのに。残念だ。
「........ッチ。こいつウザすぎる........!!」
その後も俺は目を狙い続け、勝負はいつしか目を攻撃出来たら勝ち、攻撃させたら負けという勝負に置き換わり始めた。
ありとあらゆる手を使って目を狙う俺と、逃げ回る俺を捕まえようとするフレイ。
何度か能力を使っていたが、水を大量生成できる俺にとっては無害も無害。
流石に掴まれて直接燃やさせると死ぬだろうが、遠距離攻撃程度は防げてしまう。
そうして鬼ごっこをすること数分。
決着は急に訪れた。
「........あ、ガッ!!」
「お、ようやく効いたか。これの弱点は効き目が遅い事だな」
「こっちも効いてきたね。私の体で試験した時よりも早いけど」
急に苦しみながら倒れ込む兄弟。
これで、俺達の勝ちだ。
俺は勝負の決着が着いたことを悟ると、ニィと笑うのであった。
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