死ねよ


 既に死んでいたルーベルトは、再び死んだ。


 情報から分かってはいたが、この機械化された身体に戦闘力は無く、俺でも殺すことが出来た。


 心臓部に存在するコアを破壊すれば死ぬということは知っていたので、俺はそこに弾丸を撃ち込むだけ。


 微かな希望も持っていなかったと言えば嘘になる。もしかしたら、本物を思い出させるほどにそっくりなルーベルトがいるかもしれないなんて思っていた。


 しかし、いざ話して見れば、ただの木偶。


 人の心を学んでいるだけのただの機械でしか無かった。


 クソが。俺に二度もルーベルトを殺させやがって。この借りは高くつくぞ。お前たちの命だけでは足りない。家族恋人友人。それらを奪ったとしてもお釣りが来るぐらいには、でかい借りだ。


 今すぐにでもドンパチをおっぱじめたい気分だが、それよりも先に殺さなければならない奴がいる。


 元アリス機関所属、リィズと同じく成功例であった兄弟。


 彼らだけは、たとえ世界が滅びようとも殺さなければならないのだ。


主人マスター。木偶情報屋様からのご連絡です。どうやら、餌に食いついたようで」

「どうなことを言ったのかは知らんが、情報ひとつで相手を動かせるだなんてやっぱり敵に回しちゃダメだタイプの奴だな。その気になれば、世界で何もかも好き勝手できる」

「私も情報戦においてはかなりのものだと自負していますが、彼女を相手にするのは不可能ですね。真正面から戦えば、間違いなく負けるでしょう」


 レミヤからの報告を聞き、俺たちはこの場所にやってくるであろう兄弟を待ち構える。


 今回、奴らを相手にするのは俺とリィズの2人だ。


 俺たち2人の敵である。本当にやばい時以外は、他の仲間たちには手出無用と言ってあった。


 普段は空気も読めないおバカ連中とは言えど、こういう時はちゃんと空気を読んでくれる。


 ここからは俺とリィズの戦いだ。


 誰一人として邪魔はさせない。


「では、私達は別の場所で待機させていただきます」

「おう。手を出すなよ」

「わかってるさボス。だが、本当にやばい時は手を出すからな」

「気をつけてくれ。まぁ、グレイお兄ちゃんとリーズヘルトお姉ちゃんならば問題ないとは思うが」

「フォッフォッフォ。幸運を祈る」


 そう言いながら消えていく仲間たち。


 人気のない細道に残された俺とリィズは、奴らの到着を今か今かと待つだけであった。


「良かったの?一旦帰ってルーベルトを世界樹の元で焼いてあげることも出来たんだよ?」

「ルーベルトがそんな盛大な葬式を望むようなやつに見えたか?俺は、知り合いだけが集まって涙する葬式を望んでいたと思うがな」

「........ふふっ、確かにそうだね。ルーベルトならそう言いそう。お供え物にケンタッキーをよろしくってね」

「ハハッ。それは言いそうだな」


 ルーベルトの身体は火葬された。どんなものでももやせるアリカの特性薬をかけて、灰のひとつも残らないように。


 もう二度と、その死を辱められることは無いだろう。


 天へと還ったその魂の元に、肉体も還ったはずだ。


「あいつらの死体はどうするの?」

「んなもん決まってるだろ。原型すらもないぐらいにグチャグチャにした後“次はお前達だ”と言わんばかりに教皇庁に叩き込んでやるさ。街が混乱している中で、俺達はダンジョン攻略を進める。終わったら、戦争だ。この地中海に飛び出た空気の読めない国を地図から消してやるよ」

「また戦争だねぇ。これだけ大きな鎮魂歌が流れたら、ルーベルトも煩さすぎて寝れなさそう」

「文句を言いに来たけりゃ来てくれよ。いつでも待っててやる」


 そんなことを話しながら待っていると、ついにその時が訪れる。


 気配に鋭いリィズが後ろを振り向き、それに釣られて俺も振り向いた。


 そこには、赤と青の兄弟が。


 当時はヘルメットを被っててその顔を画面越し以外で拝むことは無かったが、随分と綺麗な顔をしてるな。


「........どういうことだ?」

「ここで機械が倒れているって通報があったはずなんだけどね」

「久しぶりだな。クソ野郎ども。母親のケツの穴をファックする準備は万端か?」

「久しぶりだね。フレイにアイス。今からきっちり殺してあげるから、大人しく死ね」


 さぁ、敵討ちの時間だ。今まで歩んできた人生を精算する時間。


 天秤を持った女神ユースティティアに祈るといい。その天秤が、裁きを下す前にな。




【ユースティティア】

 ローマ神話に登場する女神。

 正義の女神であることから、裁判所などでは、天秤と剣を手にし目隠しをしたユースティティア(あるいはテミス)の像 (Statue of Lady Justice または Statue of Jusctice) を飾る習慣がある。ユースティティアの像は日本の最高裁判所にもある。ただし日本の最高裁判所にある像の様に目隠しされていないものもある。

 ギリシア神話のホーラー(ホーライ)の一人ディケーや、その母で掟の女神であるテミスと同一視される。また、アストライアーとも同一視され、おとめ座の女神とされる。




 ついにこの目で見ることが叶ったルーベルトの仇、フレイとアイス。


 このクソ共は、リィズと同じくアリス計画の実験体であり、その中の数少ない成功例であった。


 その中でもさらに特別なリィズとは違い、エンシェントドラゴンのコアが埋め込まれている訳では無いが、それでも普通の人間とは一線を各する力を持つ。


 つまり、正面からの殺し合いで俺が勝てるわけが無い。


「ハッ!!誰かと思えば、俺達から逃げ────」


 パンパン!!


 なにやら話そうとしたていたフレイの口を強引に閉じさせる。ほら、怒れよ。セリフを遮られたぞ?


「........」

「ゴチャゴチャ抜かしてないでかかって来い。二度と朝日を拝めなくしてやるよ」

「おい、アイス。俺はあの男をやる。リーズヘルトは任せていいか?」

「いいよ。あの男がいるってことは、能力は使えない。僕でも抑えられる」

「舐められたもんだねぇ。所詮は劣化版の癖して、1人前気取りですかぁ?」


 はい。釣れた。


 元々俺達もその予定でここにいるのだ。少し暑くなりがちなその性格を利用して、苛立たせてやればあら不思議。あっという間に俺の望んだ展開がやってくる。


 俺vsフレイ。リィズvsアイス。


 予想通りの展開だ。


「こっちもお前には借りがあるんだ。先生を殺してくれた借りがな」

「先生?なんだ。お勉強できる頭でもあったのか?それは残念だ。その先生とやらは、人の道徳は教えなかったようだな。人を殴るよりも先に、殴られた痛みを教えるべきだった。教育は失敗だな」


 俺はそう言うと、能力を使用して野球のボールを具現化する。


 ちなみに、軟式だ。小学生の頃は軟式野球だからね。しょうがないね。


 懐かしいなぁ。フライを取り損ねて頭を思いっきり打ったっけ。軟式ボールだからと言っても、普通にいてぇんだよこれ。


 頭蓋骨が割れるかと思ったわ。


「野球って知ってるか?」

「あ?」

「ベースボールだよベースボール。まさか先生はベースボールすら教えてくれなかったのか?サッカーって知ってる?」

「知ってるわ。ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ」


 良かった。ここで“知らんが?”とか言われたら普通に会話に困るところだった。


 何せここはサッカーの方が人気だからな。野球はヨーロッパじゃマイナー競技だ。


 日本ぐらいじゃないか?ここまで人気が高いのは。


 USA(アメリカ)にはメジャーがあるから人気があるだろ!!と思うかもしれないが、残念なことにアメリカで一番人気なスポーツはアメフトだ。


 次点でバスケかアイスホッケー。野球は精々4番目ぐらいだと俺は思ってる。


 もちろん世界最高峰であるのは間違いないが。


「ベースボールは基本的に、ピッチャーとバッターのタイマン勝負だ。だが、ピッチャーは時に対戦相手を変えることがある。知ってるか?」

「あ?何が言いてぇんだ」

「牽制と言って、走者と勝負することもある。実際はリードをとるんじゃねぇと忠告しているだけなんだが、上手ければ相手の走者をノックアウト。ゲームから下ろすことが出来るわけだ」


 俺はそう言いながら、大きく構えをとる。


 この能力は所詮雑魚。しかし、相手は1度俺の能力を見ているとは言えど、正確な情報までは知らないはず。


 既に戦いを始めているリィズとアイスだが、俺にあんな映画でも見ないアクロバティックな戦いは演じられない。


 だから、口と頭で戦うのだ。時間が稼げれば、それでいい。


「ここで言うピッチャーは俺。バッターはお前だ。なら、走者は誰だと思う?」

「........!!てめぇ!!」

「そう。お前の弟だ」


 俺はそう言いながら、爆速で動くリィズ達に向かってボールを投げる。


 当たる当たらないは関係ない。これはあくまでも言葉と心理を使ったフェイク。


 野球の話でゲームから下ろすと言ったのだ。今頃この短調バカの頭の中では、あのボールがとんでもない秘密兵器に見てえいることだろう。


 そして、投げたことにより意識はそちらへと傾く。


 そうなれば先手は俺がとったも同然。しっかりと頭に刷り込ませてやるよ。俺の戦法を。


「アイス!!避けろ!!」

「えっ」

「「隙あり」」


 パン!!パン!!パン!!ドガァァァァァン!!


 俺の球を必要以上に警戒した彼らは、一瞬の隙を晒す。


 その間に俺は3発の銃弾を打ち込み、リィズは顔面を殴り飛ばした。


 壁に当たって転がるボール。俺はそれを拾い上げると、掌の上で転がした。


「........やっぱり効かねえか。あのな?銃弾なんだからきっちり当たって死ねよ」

「てめぇ........!!」

「牽制成功だ。ここで死んでくれるのが1番楽だったがな」


 まぁ、分かってはいた。銃弾を食らってもピンピンしているリィズと同じなのだから、こいつらも銃弾が効くはずもない。


 全く。俺の攻撃が効くやつの方が珍しいっておかしくないか?


 銃で撃たれたら死んどけよ。


「殺す........!!」

「いい顔をするようになったじゃないか。だが、できないことを言うのは感心しないな」


 こうして、殺し合いは始まった。

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