本場だからと言って別に美味しいとは限らない


 貨物輸送機からスカイダイビングをした俺たちは、無事にITA(イタリア)に入国することに成功した。


 その後、偽装した身分証を使って車を借り、ITA(イタリア)の首都ローマへと向かう。


 大きめの車を借りたが、9人での移動となるとやはり少し狭い。


 人に甘えることを覚えたアリカが、俺とリィズの膝の上を行ったり来たりしながらローマへと向かった。


「随分と機嫌が良さそうだな」

「私は存外、こうして抱きつかれるのが好きらしい。ちょっと強めにな。少し苦しいぐらいが、何故か心地いいんだ」

「それは良かった。ミルラが“私も抱きつきたい”って顔で見てることに関しては?」

「アイツは胸を揉んできそうだからヤダね。ギブアンドテイクじゃなきゃダメだよ。あ、グレイお兄ちゃんはいいぞ?別に嫌じゃない」

「俺を犯罪者にでもしたいのか?そういうのはリィズにお願いしな」


 ローマ市内へと入り、一日中俺達に甘えていたアリカはとてもご機嫌であった。


 俺に抱きつかれ、アリカの腕の中にはナーちゃん。ナーちゃんは、アリカに結構懐いているのでこうしてアリカに撫でられる事を許していたりする。


 やはり、アリカのような可愛い子にはナーちゃんも懐くのだろう。


 俺やリィズに懐いていたナーちゃんはどちらかと言えば、そうしないと死ぬ状況にあったから懐いただけで(今は普通に懐いてる)純粋な心で懐いたのはアリカだけだったよな。


 子供は素直だし、嘘も可愛い。ナーちゃんは心が綺麗なやつになつきやすいのかもしれない。


 リィズも頭のネジがぶっ飛んでいるとは言えど、割と純粋だからな。つまり、逆説的に俺も純粋という事だ。


 俺の心はいつだって少年のまま。授業中にテロリストが攻めてくる妄想をする、悲しき生物なのだ。


 全国の野郎どもに聞いてみたい。授業中にテロリストと戦ったことが無いか。


 俺はある。まさか、俺がテロリスト側になるとは思ってなかったけども。


「〜〜♪」

「ご機嫌ねん。初めてであった頃のアリカちゃんからは考えられないほどに可愛いわん」

「最初は違ったのか?」

「当たり前よん。私と出会った時なんて、信頼という言葉を全く信じてなかった子供だったわよん。何もかもが敵。私を助けたのは、恩で縛りつけようと考えていたかららしいしねん」

「恩を感じて自分の味方になってくれると期待している時点で、まだ人の心はあったってことだ。アリカは結局、最後まで人を信じる心を捨てきれなかったんだな」

「ハハッ!!今思えば、確かにそうだな。ローズを助けた時は、打算しか無かった。野郎だったが、あの特徴的な見た目から私のような女には興味が無いと判断して、恩を押し売りしたのは間違いない。ローズには悪い事をしたと思っているよ」

「気にしなくていいわよん。そのおかげで私は生きているし、頭のイカれたボスにも出会えたからねん」


 ローズはそう言うと、優しくアリカの頭を撫でた。


 この中ではローズが1番付き合いの古いアリカは、その手を拒むことも無く嬉しそうに頭を撫でられる。


“んふふ”と、小さく笑う姿は年相応の可愛らしい子供だ。そして、子供が笑えばその場の空気は暖かくなる。


 アリカは結構ムードメーカーのような立ち位置。困ったらアリカを甘やかして可愛い姿を見せれば、世界は救われる。


 ハッ?!もしかして全世界にアリカの可愛さを知らしめれば、世界平和が訪れるのでは?!


 やはりトーマスは正しかったのかもしれん。国に帰ったらアリカの可愛さを布教する準備をしなくては!!


「ボス、もうすぐバチカンに入るぜ。どうする?」

「一旦入らずに観光しようよ。折角本場のイタリアンに来たんだから、楽しまなきゃそんだろ?」

「了解。とりあえずパーキングエリアを探さねぇとな........あんのか?そんな場所」

「昔は世界遺産とか国の外観を損なわないようにしていたらしいが、今はダンジョンの影響でグチャグチャに破壊されている場所もある。そこら辺で車を止められるだろ」

「あぁ、そういえばそうだったか。ところで、今更ながら気がついたんだが、俺達どうやって帰るんだ?これ」


 あ........


 行きのことは考えていたが、帰りのことを考えてなかった。


 やっべ。ノープランだよどうしよう。


 行きは貨物に紛れる方法が使えたが、帰りはそんな手段が使えない。


 となると、やはりアルプス山脈でも登るしかないか?


 嫌だよ登山とか。俺は別に登山が好きなわけでもなければ、山も好きじゃないんだ。


 緑に侵食された富士山にすら登る気力が起きない男だぞ。


「あーまぁ、なんとかなるだろ」

「ノープランって事か。まぁ、ボスのことだから俺達に言えないような手段があるんだろうな」


 こいつ、どうな思考回路していたら今の会話で俺に考えがあるなんて思えるんだ?


 今、ノープランって自分で言ったじゃん。


 ノープランなのにプランがあるっておかしいだろ。頭使えよ脳筋ゴリラ。


「そうですよジルハード。ボスが何も考えずにここに来るわけないじゃないですか。ところでアリカちゃん。そろそろ私の膝の上にも乗りませんか?」

「嫌だね。お前は私の匂いとか嗅いでくるから気色悪い」

「なんでですか!!リーズヘルトさんは匂いを嗅いでますよ?!」

「リーズヘルトお姉ちゃんはいいんだよ。別に気持ち悪くないし、むしろ心地いいから。だが、お前はダメだ」

「今度実験体になってあげます!!さすがに指が溶けるやつとかは無理ですが、神経系の毒とからなば実験体になりますので!!」

「んー........それならいいか。胸を揉んだら指が溶けるやつも試すからな」

「やったぁ!!」


 んで、こっちは我慢の限界が来たのか、ミルラがアリカに本気で頼み込んでいる。


 情けなさすぎて悲しくなる。大人が子供に対して“抱きつかせて匂いを嗅がせて”だなんて、もう俺見てられねぇよ。


 今はまだ無理やりとかそういうのがないからいいが、そのうち本当に犯罪者になりそうで怖い。


 いや、今も充分犯罪者じみて見るんだけどね。終わってるよこの残念美人。


「なぁ、アリカ。ミルラを治せる薬は無いのか?」

「人の癖を治せる薬があったら、まず私に使ってるよ。人の欲は薬じゃ治せん。悲しいことにな」

「あぁ、神は何故人類を作ったんだ」


 俺はそう言いながら、アリカを離してやるのであった。


 ミルラ、お前度が過ぎたらまた親に言いつけるからな。死なたくなければ弁えろよ。




【バチカン市国】

 バチカンとは、バチカン市国とカトリックの総本山の総称である。国家としてのバチカン市国(バチカンしこく、ラテン語: Status Civitatis Vaticanae、イタリア語: Stato della Città del Vaticano)は、1929年にラテラノ条約により独立国となった南ヨーロッパに位置する国家で、その領域はローマ市内にある。国土面積は世界最小である(0.44km²)。ヴァチカンやバティカン、ヴァティカン、ヴァティカーノとも表記される。

 東京ディズニーランドよりも小さいと言えば、何となくその小ささがわかるだろう。

 五大ダンジョンの1つ“天国”を有している国でもあり、毎年多くの観光客が訪れている。




 折角ITA(イタリア)に来たのだが、本場の味を楽しもうということでイタリアンな店にやってきた俺達。


 ここで腹ごしらえをして、宿をとって休んでからダンジョンの攻略に着手しようという事になった。


「........なんというか、俺の口には合わねぇな。いや、生地は美味しいんだけど、具材が微妙」

「そうか?俺は結構美味いけどな。ボスの下には会わなかったか」

「んー、私も正直微妙だな。これならシリアルを食ってた方がマシまである」

「そうですか?私は結構いける口ですけどね」


 本場のイタリアンということで、ピッツァを頼んだ俺だったがなんというか味がとても微妙であった。


 多分、単純に俺の口に合わないタイプの料理なんだろうな。生地は美味しいのだが、トッピングがあまりにも微妙であり、期待していた以上の美味しさではなかった。


 俺が期待しすぎたのかな。それとも、ジャンクフードのピザを食べすぎて、本場の味が受け付けなくなってしまったのか。


 理由は分からないが、どちらにせよ両手を上げて“What the fuck!!”と叫ぶような美味しさではない。


 ちょっと残念だな。


「まぁ味の好みは人それぞれっすからね。ボスの口には合わなかっただけという話ッスよ」

「それはそう。でも、期待していただけにちょっと残念だよ」

「それなら、口直しで鶏肉の唐揚げでも食いに行くか?丁度近くにケンタッキーがあるのは見たぞ」

「マジかよ。こんなことろにまで来てジャンクフードか?観光気分が薄れるからやめておくよ........あ、アリカは食べたい?」

「ん?別にいらないぞ。というか、そんなに食えん。後、私の能力で味は変えられるしな」


 アリカはそう言うと、指先からぽたぽたと能力を使って緑色の汁を出していた。


 そうだった。この子、やろうと思えばなんでも出来る子だったのを忘れてた。


 味変すらもできるんだから、結構便利な能力だよな。問題は知識がないと全く使えないってことだけど。


 そんなことを思いながら本場の味を楽しんでいると、リィズがピタッと止まって静かに店の外を眺めていた。


 どうかしたのか?


「リィズ?」

「........」

「リィズ?どうした?」

「........いや、なんでもないよ。ちょっと本場の味に感動してただけだよ」


 嘘だ。


 リィズの今の顔は、何か見てはならない、本来存在しないはずの摩訶不思議なものを見たような顔であった。


 宇宙人でもいたのか?


「........早急におばちゃんに連絡を取らなきゃ」


 その呟きが俺の耳に入ることはなく、そう遠くない内にリィズが固まっていた理由は判明する。


 しかし、それを今の俺が知る由もない。

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