パスタを食べに行こう


 ボクちゃんもこの国にやってきて、気がつけばそこそこ賑やかな国になった日本帝国。


 このままのんびり内政をしてもいいかもなと思いつつも、俺は悲しいことに神の御意志に従わなくてはならない。


 なぜか。


 それは、時期的にITA(イタリア)の五大ダンジョンに挑めるタイミングが今しかないからだ。


 この第三次世界大戦が終われば、多くの国が日本を正式な国家として認める声明をだす。


 アジア諸国はもちろん、ヨーロッパの一部の国々や太平洋に浮かぶ島国なんかが既に日本を国として認めることを約束しているのだ。


 なんか知らんけど、太平洋の島国から話が来て“日本認める。よろしく”みたいな話になったんだよな。


 どこだったかな........フィジーだったかナウルだったか。そこら辺だった気がする。


 何もやってないのだが、何故か味方になってくれたのは有難い。国として認められる条件が三分の二の国家に承認されることらしいから、こうした小さな国々の票も大事になる。


 そして、日本が国家となると俺達は一気に動きにくくなるのは間違いない。以前のような気軽さで密入国なんてした日には、日本という国が非難されてしまう。


 今は未承認国家だから、国際条約なんざしったことかと言わんばかりに動けるが(それでも大問題)、正式な国となると面倒事の方が多くなるのだ。


 ぶっちゃけ、国として認められなくとも既に自治権をもっているのでどうでもいいのだが、爺さんとの約束もあるからな。


 まぁ、天国を攻略したら滅茶苦茶批判されそうな気もするけど。


 キリスト教信者を全員敵に回すようなことになるし。


 そんな訳で、時期的に今攻略した方が何かと都合がいいのだ。


 あぁ、行きたくねぇ。


「入国はどうしたらいいのかね。さすがにアルプス山脈を超えて密入国する訳にも行かんし」

「モンブランを登りましょうは流石に勘弁願いたいな。と言うか、そこまで難しく考えなくともいいんじゃないか?」

「と言うと?」

「偽装はパスポートと軽い変装で通れるだろって話だ。ちゃんとした物なら特に問題は無いと思うがね。ヅラでも被って少し特殊なメイクでもすれば別人になれるのが今の時代だ」


 冬も本番。寒い風が吹き荒れて、そろそろ新たな年が始まる頃。


 俺は仲間たちを集めて、次の目標“天国”について色々と話し合っていた。


 当面の目標は、ITA(イタリア)国内に入ること。しかし、戦争の影響もあってか、かなり厳しい警備が敷かれていて密入国はかなり過酷なものになると俺は思っていた。


 が、そういえば偽装パスポートなんてあったな。ちょっと変装してパスポートを見せれば簡単に入れる可能性があるのか。


 観光客を装って。


「入国審査は厳しいんじゃないのか?後、ナーちゃんとスーちゃんが入れない可能性があるだろ」

「そこら辺はボスの腕の見せどころってやつじゃないのか?」

「んな無茶な」

「あの、主人マスター

「どうしたレミヤ」


 ジルハードと話していると、レミヤが申し訳なさそうに手を上げる。


 そして、最も重要でどうしようもない事実を言い放った。


「私、全身金属なので絶対止められます。そして、検査でまず間違いなくバレます」

「「「「あっ........」」」」


 そういえば、そうだった。


 レミヤは脳以外の全てが作られた存在。そんなサイバーな世界に生きる彼女は、金属探知機に絶対引っかかる。


 武器を持っているのでは無いかと思われるし、間違いなく検査を受けるだろう。そうすれば目立つし、何よりレミヤも裏社会では未だ指名手配を食らっていたはずだから、面倒事しか起きないはずだ。


 ........空路による入国は却下だな。どう頑張っても入れる気がしねぇ。


「申し訳ありません」

「気にするな。元々気軽に入国できる立場じゃない」


 ちょっとしょんぼりしながら肩を落とすレミヤを慰めつつ、他の手段を考える。


 空路がダメなら陸路か。島国とは違って空や海以外にももうひとつ手段があるのはいいな。


「陸路は?」

「車さえ調達出来れば何とかなりそうだが........それでもPOL(ポーランド)から移動する羽目になるぜ」

「オーストリアとハンガリー辺りを通る羽目になりますし、今あそこはバチバチの戦争中ですよ。車で通るには少々リスクが高いかと」

「あー、そうか。今は二重帝国を再建しようと殴りあってたな。あの国は」


 さすがに地雷原の中に車を突っ込ませてドライブを楽しむ趣味はない。


 流石に死んじゃうし、大抵こういう時は巻き込まれるのがいつものテンプレである。


 俺知ってる。戦争中の国に行ったら戦争に巻き込まれるの。


 やってらんねぇよクソッタレ。


「それじゃ航路は?」

「無理だな。レミヤが引っかかる。あれ、やっぱり密入国者する必要があるな。やっぱり山越えが1番か?」

「えぇ........登りたくないんだけど」

「俺だって嫌さ。だが、それ以外に手段があるようには思えない。後は、貨物に紛れて入国か。難民の気持ちを味わえるぞ」


 どれも嫌な方法だな。残された手段が山登りか、密入国者だなんて。


 とりあえずPOL(ポーランド)辺りに連絡をとってみるか?ITA(イタリア)とはそこまで仲が悪い訳でもないみたいだし、貿易はしていたはず。


 山を登るぐらいなら俺は難民の気持ちを味わうぞ。


 また途中でスカイダイビングをすることになる方がおれはマシだ。




【オーストリア・ハンガリー帝国】

 かつて中央ヨーロッパに存在した多民族国家である。ハプスブルク帝国の一つで、ハプスブルク家領の最後の形態である。またの名を二重帝国。

 ハプスブルク家(ハプスブルク=ロートリンゲン家)の君主が統治した連邦国家であり、国家連合に近い。1867年に、従前のオーストリア帝国がいわゆる「アウスグライヒ」により、ハンガリーを除く部分とハンガリーとの同君連合として改組されることで成立し、1918年に第一次世界大戦に敗北して解体するまで存続した。

 領土には、オーストリア・ハンガリー・ボヘミア・モラヴィア・シュレージエン・ガリツィア・スロバキア・トランシルバニア・バナト・クロアチア・カルニオラ・キュステンラント・スラヴォニア・ブコヴィナ・ボスニア・ヘルツェゴビナ・イストリア・ダルマチアなど、多くの地域を抱える大国だった。




 パスタを食べに行こうという事で、俺達は今上空にいる。


 結局、どれもいい手段が思いつかなくてPOL(ポーランド)の力を借りることにした。


 定期的に飛ぶ貨物輸送機に乗せてもらい、途中でスカイダイビング。


 飛行中にハッチを開けてもらうのは滅茶苦茶危険な行為なのだが、何とか了承してくれたPOLには感謝しかない。


 今度の取引は少しまけてあげよう。馬鹿みたいに搾り取っているしね。


 ブリテンくんとPOLくんには感謝してるよ。どれだけ吹っ掛けても言い値で買取ってくれるから、日本は今やお金持ち。


 世界樹の資源というのは、かなり貴重な上に豊富な魔力の中で育った為か他のものよりも効力が高いものが多い。


 また研究材料としての価値も高く、あんだけ吹っ掛けて売っても利益が出るそうだ。


 そこら辺の草1つで数十万ゴールドを超えるとかバカかな?カードゲームやってる気分だ。


 上手く価値を落とさないように輸出を制限しつつ、それでいながら金を搾り取る。出来れば、世界樹の世界でしか取れないもので何か重要な薬が作れれば最高なんだけどな。


 そうすれば、世界樹の価値はさらに高まり、その資源を唯一有するこの国なさらにウハウハになる訳だ。


 え?人の命で金儲けするなって?


 金儲けは基本、命を人質に取ってするものだよ。金があったら人は働かない。人は生きるために渋々働いているのだから。


「そろそろITA(イタリア)上空です。こうして空からダイビングするのは二度目ですかね?」

「世界樹のダンジョンを攻略する時以来だな。あの時はレイズがチキン野郎の玉無しだったが、今回は大丈夫そうか?」

「いや、メッチャ怖いっす。産まれたての子鹿のように足がガクガクっす」


 情けねぇ。


 こいつ、元エリート軍人のくせして、未だに高いところが怖いのかよ。


 俺からすれば、ニーズヘッグや銃を持った怖いおじさんたちの方がよほど恐ろしいけどね。


 あいつらは刺激したらこっちを殺しにくるのだ。対して空は何をしても特に何もしてこない。


「レイズ、これを飲むといい」

「なんですかこれ」

「恐怖心を無くす薬だ。ピギーのような例外はともかく、高所の恐怖なんかはこれを飲むとかなり和らぐぞ。ちなみに、副作用として半分ハイになるから気をつけろ」

「ヤクじゃないっすか!!とんでもねぇもん飲ませようとしないでくださいよ!!」

「大丈夫大丈夫。死にはしないし、後で解毒できるから。飲んでみると面白いぞ?絶対見えたらダメなやつが見えたりするからな。事前に解毒薬を作ってなかったら、ちょっと大変だったかもしれん」


 何てものを仲間に飲ませようとしてんだこのイカレロリっ子は。


 何がタチが悪いって、本人は至って真面目にレイズの助けになろうとしているのがタチが悪い。


 多分、本気で“後で解毒薬を飲めば平気”とか思っているのだろう。アリカは自分の体で毒や麻薬を試しすぎて、感覚が明らかに狂ってやがる。


 自分の体すらも実験体にしてしまうのだから、マッドサイエンティストよりもやべーよな。


「ボス!!何か言ってくださいよ!!この子、将来ろくな大人になりませんよ?!」

「もう手遅れだ。それに、可愛いからもういいじゃないか。心は純粋だぞ」

「いや、純粋悪程厄介なものは無いですよ!!俺死にますよこれ。その内死にますよ?!」

「大丈夫大丈夫。もっと実験台にされてるミルラを見てみろ。ピンピンしてるじゃないか。解毒薬を飲むか、俺にケツを焼かれるかの違いだよ」

「わかりました!!ちゃんと自分で飛びます!!」


 よろしい。


 この空も飛べないチキン野郎は、自分から空を飛ぶことを決意したようだ。


 最初からそうしろ。結局飛ばなきゃならんのだから、諦めろ。


 人間ら諦めも肝心だぞ。俺なんていつも諦めてる。


 こうして、俺達はパスタを食いに空から飛び降りた。


 さて、天国の世界はどんな感じなのだろうか。




 後書き。

 どうも。ダブルクロスクリア者です。ソロストーリークリアは何気に初めて。達成感はあった。忍耐力が鍛えられた気がするぜ。クリア時間78時間30分程度。逢魔?知らない子ですねぇ。

 あ、今回の章はダンジョン攻略ではないので悪しからず。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る