次の狙い


 俺がミルラよりも狂っている事実に悲しみを覚え、割とマジめに凹んだ翌日。


 俺は昨日途中でやめてしまった調べものの続きをしていた。


 ちなみに今日はミルラは居ない。両親に呼ばれたらしく、今ごろミルラは絶望していることだろう。


 思ったけど、ミルラって反抗期の子供って感じがするよな。そう考えると、案外可愛い所もあるのかもしれない。


 いや、ミルラはあの性癖さえなければまともだし普通に美人なんだよ。その一点が全てを台無しにしているだけで。


 残念美人とは正にこのこと。美人なだけに、その欠点が浮き彫りになってしまうのだ。


天国ヘヴンか。何度もその名前は聞いたが、実際はどうなのかね?」

「ITA(イタリア)、バチカン市国に存在する五大ダンジョンの一つにして唯一一般人の出入りが許された観光地。驚異がない代わりに、次へと進む道が分からず攻略不可能とされているから五大ダンジョンに入った異例のダンジョン。パッと調べた感じはこのぐらいしか情報がないな」

「ですが、それでもほかのダンジョンに比べて情報があります。地獄門とか悪魔の国に比べればまだ有難い方ですよ」


 第三次世界大戦は終わりに向かっている。今ドンパチやっているのはどっかの国の内戦やヨーロッパの一部のみ。


 多くの国では既に終戦ムードが漂い、第三次世界大戦の戦勝国が決まりつつある。


 そんな俺達とはもう間関係のない戦争の中、そろそろ次のダンジョン攻略に行こうとしているのが今の現状だ。


 残るダンジョンは3つ。


 オーストラリア大陸存在する悪魔の国。


 南アメリカ大陸にある地獄門。


 そして、バチカン市国に存在する天国。


 この3つを攻略すれば、俺は神の試練を乗り越えたこととなる。


 それが終わったら平穏な日々に戻れるんや。もうあっちこっちから死ぬほど恨みを買ってるけども、日本からでなければ平穏な日々に戻れるんや。


「なぜ天国を選んだのですか?主人マスター

「悪魔の国は多分強すぎる。なんでも核兵器すら効かなかった魔物をぶっ殺しただとか聞いたぞ。そんな相手に挑むのは早いし無理。なんの手段も思いつかないから、一旦保留。んで、地獄門と天国が選択肢に残った時に、どちらを選ぶかって話だけど情報が多い天国の方がワンチャンありそうだなーと思ったからな」

「確かにそっちの方が可能性はありそうか。天国は観光地にすらなっているからな。毎日のようにキリスト教信者が現れては、天国の世界を見て回る。五大ダンジョンの中でも異質な存在で一般人が観光気分で入っても生きて帰って来れるのがこのダンジョンだし」


 世界樹のダンジョン、そして黙示録のダンジョンをクリアした俺が次の目標に定めた天国。


 このダンジョンは先程も言った通り、ほかの五大ダンジョンとは違ってかなり異質な存在である。


 第一次ダンジョン戦争の際に出現したのは同じなのだが、このダンジョンは大きな被害をもたらすことは無かった。


 この時点でほかの五大ダンジョンとは違う。


 ほかのダンジョンは大陸単位で被害をもたらしたり、一つの国を丸々飲み込んだりしているのだがこのダンジョンはそういった事がない。


 五大ダンジョンの中で最も大人しいダンジョンとすら言われている。


 そして、ダンジョンに入っても無事に出られる。


 1歩でも足を踏み入れたら即死するような五大ダンジョンとは違い、このダンジョンは一般人が入れるほどに安全だ。


 事実、観光地にもなっており、多くの人がこのダンジョンを訪れては天国の世界を見て回る。


 これほどまでに安全なのに、なぜこのダンジョンは五大ダンジョンと呼ばれているのか?


 それは五大ダンジョンの定義が“人類にとって攻略不可能なダンジョンである”と言うことだからだ。


 今まで、数多くのダンジョンを攻略してきた人類だが、第一次ダンジョン戦争よりずっと攻略されて居らず攻略が不可能だと判断されたダンジョンが五大ダンジョンとなるのである。


 この天国のダンジョンは、多くのハンター達が攻略に挑みそして誰もがロクな成果も挙げずに帰ってきたとされている。


 Sランクハンターですら、同様の結果しか得られなかったため五大ダンジョンに認定されたのだ。


 バチカンの野郎共は、このダンジョンが攻略されないのは神の御加護があるからだとか戯けたことを言っているし、攻略されていないダンジョンなのに聖都として神聖視しているが。


 まぁ、うちの国も人のことは言えないのでアレなんだけどね。むしろ、異種族が集まるこの国は最もダンジョンの恩恵に授かっていると言っても過言では無いし。


 ありがとね世界樹ちゃん。君のおかげで俺は日本帝国を再建できたんだよ。


 ........なんか世界樹ちゃんが照れてくねくねしている気がする。感情豊かな木だな。可愛いかよ。


「命の危険は低そうですが、どうやったら攻略できるのかさっぱりですね。やはり、そこは実際に入ってみないと分からないのでしょうか?」

「入ってもわならないからこうなってんだろ?レミヤ。未だにこのダンジョンの攻略条件や、次に進む道を探しているってのに何も見つからねぇんだから。500年近く探しても見つからないってことを考えると、謎解きをしてはい合格という訳にはいかないんだよ」

「もしかすると、1番難しいダンジョンだったりする?」

「敵を倒してはい終わりってダンジョンじゃないのは間違いないだろうな。簡単かどうかは、ボス次第だろ。でも、ボスなら余裕でクリアできそうで怖い」

「それはありますね。主人マスターなら大抵の事は余裕でこなせるでしょうし、私達が見たこともない方法であっという間に攻略してしまいそうです」


 仲間からの信頼が重すぎる。世界樹も黙示録も割とギリギリなクリアだったというのにはなぜこいつらはこんなにも俺を持ち上げるんだか。


 言っておくけど、俺は戦闘力も低ければ頭もそこまで良くないからな。


 神算鬼謀の超天才だと思っている仲間が多いが、俺は至って普通のただの一般人。悪運が強すぎて偶然に頼って生きていただけの、可哀想な神の被害者であるのだ。


 そこら辺をもう少し考えてくださいよ。何で毎回君達は俺の能力を過大評価しすぎるのかな。


 ちょっとアーサーが恋しくなる自分が嫌になる。あの変態狼ファック野郎が唯一の理解者だなんて、俺はこの世界に呪われているのか?


「ダンジョン攻略もそうだが、そもそも指名手配中のボスがどうやって入国するのかも問題だぞ。ITA(イタリア)は今回の戦争に参加しなかったから、国力が低くなっているわけでも混乱が起きている訳でもない。むしろ、警備はさらに厳しくなってるだろ。上空を飛ぶんでどこかへ行くにしても無理がある」

「五大ダンジョンは基本どこの国にも属さない場所にあるのですが、こればかりは例外ですからね。入るだけでもかなり難しいかと。流石に連絡して“今からダンジョン攻略するんでヨロシク”とも言えませんし」

「他にも問題はあるぞ。このダンジョンを攻略したら、間違いなくキリスト教を敵に回す。神に最も近い場所なんて言われているダンジョンだ。神聖なる場所としてバチカンから認められているし、あのローマ教皇すらもこの場所を崇めている」

「そんな場所を金儲けのために使っている時点でダメだろ。神への敬意が足りてないんじゃないか?」


 神に最も近い場所にズカズカと観光気分で乗り込んでくる輩を放置していいのかよ。しかも土足で。


 土下座しながら入るならまだしも、観光地になっている時点で神よりも金の方が有難みがあるってことを証明しているようなもんじゃないか。


 嫌な世の中だねぇ。この世界は金金金ってか。


 まぁ、救いなんて与えてくれないクソッタレの神よりも、金の方がよっぽど役に立つ。


 金は力。神よか幾分か役に立つってな。


「下手をすれば戦争だ。宗教の連中は面倒事しか起こさねぇ。キリスト教vsユグドラシル教の宗教戦争が始まるぜ?500年ぶりに十字遠征が見られるかもな」

「そりゃイスラムに行く時の話だろ。十字遠征したければ、イスラム国家に喧嘩を売れよ。今は無いけど」


 そうか。宗教によって保護されているから、ドンパチの可能性すらあるのか。


 他のダンジョンのは違った面倒がまたあるんだな。キリスト教との全面戦争すらあり得ると考えると、かなり面倒なことになるかもしれん。


 人類のために五大ダンジョンを攻略してやると言うのに、恩知らずな連中だ。


 そんなに神が見たいなら、ピギーを本気で鳴かせてやろうか。


 ウチのピギーちゃんは世界一なんだぞ。宇宙で一番可愛い神様なんだから、跪け。


 まぁ、まだドンパチやるとは決まった訳では無い。上手く立ち回ればなんとかなるかもしれないし、ここは神に祈っておこう。


「もし戦争になるんなら、まだ世界が騒がしい時期に行きたいな。どさくさに紛れて国際的非難を浴びずに済むし」

「なら早めに行かないとな。ウチは未承認国家だから、国際法なんざ知ったこっちゃねぇ。守る義務もないんだしな」

「そもそも、内戦やらハンター協会に対しての圧力ができない組織に指図される意味もないですけどね。あぁいう連中は綺麗事だけを抜かして世界の指導者になった気でいますから」

「全くだ。M416でも手に持って、戦場という地獄を味わってから言って欲しいもんだな。上に立つ連中はどいつもこいつもてめぇの懐と評価だけを気にしやがる。俺を見習って欲しいもんだぜ」


 評価なんて気にせず、史上最悪の都市グダニスクで人を殺し、戦場に率先して立った国のトップなんてこの世界にいるのか?


 ........探せば居そうだな。カエサルとか普通に戦争してたって言うし。


 まぁ現代の話なら俺以外に居ないだろう。銃を撃ったこともない連中に指図される事なんぞひとつも無い。


「いや、ボスを見習ったら世界が終わるぞ........」

「失礼な。俺は平和主義者だぞ?きっと争いのない素晴らしい世界が出来上がるはずさ」

「それ、人類が滅亡していたりしませんよね?」


 こうして、俺達は次の攻略目標天国についての情報を集め続け、さらにその後起こりうるであろう問題の対処について考えるのであった。


 五大ダンジョン天国。


 実は1番厄介なダンジョンなのかもしれない。

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