ギャーギャー‼︎


 ミルラは死んだ。良い奴だったよ。


 これでもかというほどお袋さんに絞られ、ミルラは冗談抜きに東京湾辺りに沈められる可能性すらあった。


 可哀想だけど、自業自得ではあるんだよな。


 ミルラは別に悪いやつじゃない。


 アリカの胸を揉むとか言う普通に犯罪じみた事をやっているが、ちゃんと本人に許可を取ってからやっているだけまだマシと言えるだろう。


 それに、そのあとは実験体と言う苦しみが待っていると考えれば、一時の幸福と苦しみを交換しているとも言える。


 終わってるけども。


 アリカも嫌ならちゃんと“嫌”という子なので、本気で嫌がっては無いのだ。


 流石にキモイとは思っているらしいが。


 これ以上暴走するようなら止めていたが、その前に釘を刺されていたな。


「ボスゥ........私は死にましたァ........」

「自業自得ではあるぞ。レズビアンならまだしも、そこにぺドが入ったらアウトだろ。せめてアリカが成人してから手を出さなきゃ」

「だって!!アリカちゃんOKしてくれたんですよ!!それってそういうことじゃないですか!!」

「いや、たとえ同意の上だとしても普通に犯罪だからな?相手は11歳だということを忘れんなよ」


 トーマス達がこの国にやってきた翌日。俺はトーマス達の案内やら何やらを王に押付け、調べ物をしていた。


 ちょっと可哀想だったミルラやジルハードと一緒に。


 ミルラは昨日コッテリと絞られたことが効いているのか、恐ろしいぐらいに大人しかった。


 普段からそんな感じなら、普通に美人で出来る護衛なんだけどなぁ。


「ナー」

「ううっ、ナーちゃんの優しさが染みる........」


 あまりにもシナシナになってしまっているミルラを見て、流石に可哀想だと思ったのかナーちゃんがぺろぺろとミルラの頬を舐める。


 ナーちゃんは基本的に俺とリィズとアリカ以外は積極的にコミュニケーションを取ろうとしないのだが、さすがに今回は可哀想すぎて構ってあげてるな。


 ナーちゃんが哀れに思って構ってあげるって相当だぞ。ナーちゃん、基本的に今言った3人以外にはツンツンしてるんだし。


「良かったじゃねぇかミルラ。これで真人間に戻れるぞ」

「私は真人間ですよ!!少なくともボスよりもまともです!!」

「あのなぁ、ボスと比べたら全世界の人間が真人間だっての。どこの世界にたった一人で国を滅ぼして五大ダンジョンを二つ攻略して、第三次世界大戦の引き金を引くやつよりやべーやつがいるんだよ。比べちゃいけねぇよそれは」

「おい待てジルハード。俺は真人間だろ。少なくとも、このペドレズよりは」

「自分の頭がおかしいやつほど、自分はまともだと言いたがるもんだぜボス。ボスの頭がおかしいのは間違いないんだ」


 そんな馬鹿な!!俺がこのペドレズミルラよりも頭が狂っているだと?!


 訂正しろジルハード!!俺はこんな変態じゃない!!


 少なくとも子供に土下座して“胸を揉ませてください!!”とか言わねぇから!!


 解せぬ。マジで解せぬ。ローズと比べられるならまだしも、ミルラと比べて俺が下だとは解せぬ。


 ローズはオカマだけど、常識的な考えを持った割と普通のやつ。しかし、ミルラはまぁまぁ頭のネジがぶっ飛んでるだろ。


 断固抗議するぞ!!デモだデモ!!


「納得いってない顔だな」

「当たり前だ。そこでナーちゃんに慰められてるミルラと一緒にされたら困る。俺は少なくともこいつよりはマシだよ」

「ボス、どっちもどっちだ。ミルラは性的趣向がちょっと変なだけ、ボスは全世界を巻き込んで滅茶苦茶するだけ。客観的に見てどっちがヤベーと思う?」

「ファッキンミルラ」

「あぁ、ダメだこりゃ。ボスも人の話を聞きやしねぇ。どうして頭がイカれたやつほど、自分は常識人だと言いたがるのかねぇ」


 いや、アリカに土下座までして胸を揉ませろと言うやつよりはマシだよ絶対。


 だって俺、ほとんどの事は偶然起きたことだし。俺ほとんど関与してないし。


「ま、今に始まったことじゃねぇか。ボスはこうなると人の話を聞かねぇからな」

「俺は間違ってないぞ」

「はいはい。ボスが正しいボスが正しい」


 そんな適当な返しをされていると、ナーちゃんに慰められていたミルラが悲しい声を上げる。


 ミルラ、本当に親に弱いよな。


「ボス........何とかなりませんか?」

「何が?」

「両親を上手く説得してくださいよ。私も頑張ってるからって」

「頑張ってるのは事実だけど、流石に子供に手を出すのは擁護できないかな........本当に愛し合ってるならまだしも、アリカはお前を実験体として使ってたし」

「それもまた一種の愛です!!昨日もなでなでしてくれました!!これは最早相思相愛と言っていいのでは?!」

「いやさすがに無理があるって。アリカは都合のいい実験台としか思ってないよ」


 何言ってんだこいつは。いやまじで。


 昔は出来るクール美人って感じで良かったのに、どうして今はこんな頭の悪い子になっちゃったの?


 それだけアリカが可愛いってことか。


 うちの組織のアイドルだからな。あのおじいちゃんですら、アリカにはすごく優しいし。


 この前、お菓子を買って貰った!!って言いながら、ポリポリ食べてたしな。


 意外と相手に深入りしないレイズもアリカだけにはちゃんと構ってあげて、周回を手伝ってたりするし。


 アリカ、基本は素直でいい子なんだよ。純粋で可愛いし、甘え上手。そりゃこうやって勘違いする厄介オタクも現れるわな。


 アリカちゃん、恐ろしい子。


「ジルハード、これを見てもなお俺の方がやばいか?」

「どっちもどっちだな」

「んな!!俺の方がマシだろ?!」

「そもそも比べられている時点でダメだってことにきがつけよ........」

「ピギーに慰めてもらおうかな(ボソッ)」

「あ、いや、ボスは素晴らしい!!こんなぺドレズファッキンビッチとは比べ物にならないな!!」


 素晴らしく早い手のひら返し。俺でなきゃ見逃しちゃうね。


「ちょ、ズルくないですかボス!!ピギーちゃんを使って脅すなんて!!」

「別に脅してなんかないけど?俺は純粋にピギーに慰めてもらおうと思っただけですが?」

「これが組織のトップに立つ男の器ですか?!私の方がマシですよ!!」

「なんだとコノヤロー!!ロリコンぺドレズファッキンビッチに言われたかないわ!!」

「ボコ・ハラムですら裸足で逃げ出すようなことばかりしかやってない人がよく言いますよ!!私の方がマシです!!」

「いーや、俺の方がマシだね!!少なくともお前みたいに子供相手に発情したりなんかしねぇよ!!」

「私はFRでテロなんて起こしませんがね!!」

「あれは俺のせいじゃねぇって何回言えばわかるんだお前はァ!!」


 クソッ!!こんなやつと一緒にされても困るぞ。俺は確かに一般人と比べてちょっとおかしなとこもあるかもしれないが、こいつよりはマシだ!!


 ギャーギャー言い合う俺とミルラ。


 その横でジルハードはぼそっと呟いた。


「争っている時点でどっちもどっちなんだよ。それにしても、ボスとミルラって結構仲良いよな」


 もちろん、その声は俺達には届かない。


 こうして、調べ物をしていたはずがいつの間にか喧嘩になっていた俺達。結局、この論争は仲間達全員を呼び出して“どちらの方が頭がおかしいか”と言う投票までして........俺が敗北した。


 しかも大差で。


 ちょっと真面目に凹んだよね。何がいちばん悲しかったって、その後ミルラがちょっと申し訳なさそうに慰めの言葉をかけてきたのがいちばん辛かった。


 煽ってくれた方がマシだよこれ。最早死体蹴りだろ。


 それと、慰め方もおかしい。もっと自分の体は大切にしてね。




【ボコ・ハラム】

 ナイジェリアのサラフィー・ジハード主義組織。正式な名称は「ジャマート・アール・アズ・スンナ・リッド・ダアワ・ワ・ル・ジハード」と名乗っており、直訳すると「宣教(ダアワ)及びジハードのためのスンナ派ムスリム集団」という。

 ナイジェリア北部の各州にシャリーア(イスラム教の経典)の導入を目指して武装闘争を展開している。「ナイジェリアのターリバーン」と呼ばれる。アルカーイダと連携しており、2015年にはISILに忠誠を誓っている。

 やってることが多すぎて書けないのだが、調べてみるとかなりやべーことばかりやってる連中。日本って平和なんだなということがよくわかる。




 グレイとミルラが仲良く騒いでいる時、リーズヘルトはアリカの実験に付き合っていた。


 特殊な人体構造を持つリーズヘルトは人間としての体質も持ちながら、人ならざる耐久力を持つ。


 アリカの実験では正確なデータが取れないが、それでもやっている。


 グレイに言われているのだ。


“リィズにも有効的な毒を作ってほしい”と。


「グレイお兄ちゃん、ミルラの相手大丈夫かな。かなりメンタルやられてたっぽいけど」

「グレイちゃんはなんやかんや人のフォローが上手だからね。大丈夫だよ。今頃適当に焚き付けて喧嘩でもしてるんじゃないかな?」

「あはは。それは面白いな。ぜひ見てみたい。意外とグレイお兄ちゃんは稚拙なところがあるから、バーカバーカっていう言い合いになってそうだな」

「有り得るかも。ミルラもグレイちゃんの事はかなり好きだしねぇ。きっと機嫌を良くしてくれると思うよ」

「グレイお兄ちゃん、私達が相手じゃなきゃ今頃ハーレムでも築けてたんだろうな」

「みんな癖が終わってるからねぇ........」


 九芒星エニアグラムは誰もがグレイの事を尊敬し、敬愛している。


 恋愛感情を持っているのはリーズヘルトだけだが、それは単純にグレイがそこまで好みでは無いと言うだけだ。


 もし、一般的な癖を持っていたら女性全員がグレイを求めたことだろう。


 それほどまでに、グレイには人を惹きつける何かがある。


「時代が違えばチンギス・ハーンやアレクサンドロスを超える名君になってたかもな。全世界の統一だって夢じゃない」

「グレイちゃんならどの時代でも名前を残しそうだよねぇ」


 その後、本当に喧嘩をしてどちらがマトモかと言う頭の悪い投票をさせられるとは思っていない2人は、黙々と実験を続けるのであった。





 後書き。

 実際問題、どっちの方が頭のネジ飛んでるんだろう...?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る