洗脳教育?


 俺の誕生日パーティーが終わり、再び日常が戻ってくる。


 祭りはトラブルこそあったものの、大成功したと言えるだろう。


 それぞれの街でもかなり盛り上がっていたらしく、俺の誕生日を祝うと言うよりかは単純に祭りを楽しんでいた。


 良かったよ。楽しそうで。俺としては迷惑でしか無かったが、結果的に開催してよかったという訳だ。


 エンシェントドラゴンの肉もめっちゃ美味しかったしな。


 バーベキューをした後で花火大会。10月の少し肌寒い季節に見えた夜空の花は、今までの人生の中で1番であったことは間違いない。


 というか、当たり前のように花火を自作してるアリカってヤバくね?本当になんでも出来るんだな。


 そんな祭りが終わってから一ヶ月後。俺は戦争によって止まっていた内政やら何やらの仕事をこなしつつ、平和な日常を堪能していた。


主人マスター。USA(アメリカ)とMEX(メキシコ)の戦争が集結しました」

「どっちが勝ったんだ?」

「もちろんUSA(アメリカ)ですよ。MEX(メキシコ)は敗戦した後、おそらくですがUSAの傘下に入ることになるでしょう。あの配信者大統領は思っていたよりも上手く立ち回っているようでして、かなりの支持率が有ります」

「へぇ。急に大統領を押し付けられた割には頑張ってるんだな」


 第三次世界大戦が勃発してから四ヶ月ほど。そろそろ決着が着いた戦争がチラホラと出てきた。


 三大大国とまで言われたFR(フランス)はPOL(ポーランド)に敗北。首都まで吹っ飛ばされたあの国は、さらに多額の賠償金を背負わされて国としての形を保っていないレベルにまでボッコボコにされている。


 死体蹴りなんでレベルじゃない。次第に核弾頭を落とすレベルのオーバーキルだ。


 可哀想。


 そして、今回はUSAの戦争が終結。あの国は特にウチとやり合う理由もないので、ここらで撤退することになるだろう。


 MEXをボコしたことで国民の溜飲を下げることも出来ただろうし、何よりあの配信者大統領にこれ以上の負担が掛かると過労死してしまう。


 俺達が偶々救った配信者。俺と同じような感じで国のトップになってるからちょっと親近感湧くんだよな。


 ただただ配信していた子が、気がついたら大統領になってしまったのだ。


 しかも、分断(物理)し、国がめちゃくちゃな時に大統領隣、更には第三次世界大戦にまで巻き込まれているのである。


 普通に可哀想。もしかしたら、俺よりも大変な人生を歩んでいるレベルである。


 もし、彼女と再び会う機会があるなら仲良くさせてもらおう。なんというか、他人事じゃない気がする。


「バルカンはどうなってる?旧制人民解放軍チトーパルチザンの連中はまだ動けてないのか?」

「いえ、既にバルカンの同盟をぬけて戦争を吹っ掛けてますよ。上手く統治したらしく、かなり支持率も高いようです。我々の力を借りないのは、おそらく戦争で我々が出張った場合見せ場を全て取られて統治に影響が出ると思っているのでしょうね」

「戦況は?バルカン全部を相手にしてたらかなりキツイだろ」

「普段ならそうですが、戦争中にいきなり背後を刺されたということもあってかなり順調なようです。現地で国に不満を持つ者達すらも仲間に引き入れているらしいですね」

「へぇ、そいつはすげぇ。それに、また戦争に駆り出される心配も無いのはいいな。しばらく戦争は懲り懲りだ」


 どうやらシュルカ達は自分たちの力で新たな国を作るらしい。


 まぁ、当たり前と言えば当たり前か。外部の力によって作られた国というのは、大抵愛国心に欠ける問題国家となるからな。


 ほら、KR(韓国)とか。


 前世の世界では何かと日本との問題ばかりが起きていたKR(韓国)。しかし、この世界じゃそもそも存在してないんだよなぁ。俺がこの世界に来た時には既に滅んでたし。


 俺がコリアンだったら、多分韓国を再建しに行っただろう。しかし残念。おれは日本人である。


 なんならいまはCH(中国)すらないからね。極東アジアを代表する国々のほぼ全てが滅んだもしくは、滅んでいたとかこの世界ヤベーな。


「暫くは俺達に仕事がこなさそうでよかったよ」

「そうですね。代わりに国内での仕事が多いですよ。明日はタイタンの街にある学校の視察です。子供たちの授業を見たり、いじめに対する対策などの話があります」

「今度はタイタンかよ........まぁ、子供のためだと思えばそこまで大変でもないか。正直、訳の分からん政治の話をされるよりかは分かるし」

「何を言っているのですか。毎回議会で発言をしては、革新的なアイディアを出しているではありませんか」

「違う、それ俺の功績じゃない」


 何言ってんのか分からなくてペン回ししてたら失敗し、ペンを落としたらまたまた地図の上でそこが農業に適している場所だったとかそういうのばっかだから。


 そんなミラクルを連発してるから、俺は気が付けばこの国のトップになってるんだよ。


 誰か変わってくれマジで。俺はそんなに頭がいいわけじゃないんだ。


 こうして俺は、今日も書類と向き合うのであった。




【大韓民国】

 アメリカの支援によって建国された国。その為、建国当時は国としての意識が低く当時敵国とも言えた日本を共通の敵とすることで、国民の意志の統一を測ったとされている。もちろん、それ以前に国は存在していたが今の大韓民国という形になったのは第二次世界大戦後の話。




 翌日、俺はタイタンの街にある学校を訪問していた。


 この学校はタイタンの町の中で最も大きな学校であり、街に住むほとんどの子供はこの学校に通っている。


「........でけぇ」

「おっきいねぇ。タイタンという種族自体が大きな種族だから、自然と家も大きくはなるよね」

「ハッハッハ。こればかりは仕方がないな。子供に無理やり体を小さくする魔道具を付けさせる訳にも行かぬし、理解してくれるとありがたい」

「分かってるよ。でも交流会の時とかどうしてんだ?」

「その為の敷設した小さな学校だ。あちらで交流を進めつつ、普段はこちらの方で伸び伸びとやってもらうんだよ」


 なるほど。分けているのか。


 タイタンという種族はとにかくでかい。ドワーフの謎技術によって体を小さくする方法を手に入れたが、自分たちの街では普段の姿です過ごしたいだろう。


 しかし、この街にもほかの種族がやってくることがある。そういう時のために、別の街や学校を作っているそうだ。


 ちなみに、今の俺達はタイタンの王の方に乗せてもらっている。


 タイタンからしたら俺達はアリンコだからな。踏まれて死にましたとか笑えない。


「ここが上級生の教室だ。しばらくここで授業を聞いみてるよしよう」

「いいね。どんなことを教えているのか気になるし」

「異種族の教育か。世界が広いとは言っても、こんなことが出来るのはこの国だけだろうな」

「アリカは年齢的にまだ学校に行けるだろ?行くか?」

「ハハッ、流石に勘弁願いたい。だって実験できないじゃないか」


 このロリっ子マッドサイエンティストは、やはり実験研究が全てなんだな。


 昨日もなんかヤベー実験してたみたいだし。知ってるか?エルフの薬学者達が口を揃えてアリカの事を“狂笑の魔女”って呼んでることを。


 どんなに危ない実験でも笑いながらやるから、ヤベー奴だと認知されているらしい。


 でも実力は本物だから、ちゃんと尊敬もしているんだとか。


 この世界の種族は結構素直な性格のやつが多くて助かるよな。人を妬む。人間の悪い所だ。


 もちろん、全員が全員良い奴だとは思ってないけども。


「─────よって、この世界樹の世界に邪神ニーズヘッグご現れたというわけだ」


 耳を済ませていると、そんな声後聞こえてくる。


 どうやら授業は歴史。それも、ごく最近に起こった歴史の話をしているみたいだ。


 歴史の授業は基本的に過去から現代に遡る。上級生なのだから、現代の歴史を学ぶ時期とも言えるだろう。


「ちょうど俺たちでも分かりそうな時期の話だな」

「そうだね。ニーズヘッグかぁ、懐かしいね」

「ボスがグレネード放り投げてトドメを刺したやつですね。今でも覚えてますよ」

「グレネード1つで死ぬようなやつには見えなかったんだけどな。ボスには違う物が見えてたんだろ」


 あぁ、適当にぶん投げたグレネードが何故かいい感じにトドメになったように見えたヤツか。


 あれ、俺のグレネードで死んだわけじゃないだろ。偶々タイミングよく死んだだけに見えたんだけどなぁ。


 どうせこいつらに行っても聞かないので何も言わないけども。


「────君たちも知っているな。この時期は各種族の仲はあまり良かったとは言えない。邪神ニーズヘッグが現れ───」


 その後も授業は続き、俺たちでも知っている歴史が語られる。


 懐かしいなぁと思いながら聞いていると、ついに俺達の出番がやってきた。


「そんな時に現れたのが、世界樹様と同格を成すグレイ様とそのお仲間達だ。彼らは人間という種族であり、この世界の住人ではない。しかし、彼のおかげでこの世界は救われ、今となっては世界樹様から唯一の寵愛を受けるお方なのだ。私もニーズヘッグの討伐戦争には参加したのだが、本当にあの方は凄かったんだぞ。何せ─────」


 いまさっきまで普通に授業をしていたはずの教師が、だんだんオタク特有の早口になっていく。


 あーあの顔見覚えがあるなと思ってたら、ニーズヘッグ討伐戦に参加してたやつか。


 教師をやってたんだな。


「────それだけでは無い!!なんと、あの邪神ニーズヘッグの攻撃を全て無力化してしまうその力!!みなも見たと思うが、先月の祭りで世界樹様のお力を借りていただろう?本来、彼はそんな必要が無いのだ!!しかし、あの力は強大すぎて私達のような者が見るにはあまりにも────」


 長い長い。なんか俺のことを話す時だけめっちゃ長い。


 こいつ、俺のファンだろ。タイタンにすらファンがいるのかよ。


「........そのー普段はもっと普通の授業をしておるぞ?」

「わかってる。実際に見たことがあるとちょっとテンションが上がるよな。気持ちは分かる」

「注意しておこう」

「そうしてくれ。聞いてる俺が恥ずかしい」


 大丈夫かこれ。若干洗脳じみた演説だろこれ。


 俺はそう思いながら、これ以上は聞いてられないとタイタンの王に他の場所を見せてもらうことにするのであった。

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