お祭り


 どうやら思っていた以上に世界樹に懐かれていたらしい。


 世界樹が俺を守り、俺を殺そうと画策した輩をどこかへと運び込んだ後、世界樹は精霊と共にどこかへと消えてしまった。


 俺も何とかその場を丸く収め、祭り開始の宣言をし仕事を終える。


 ハプニングはあれど、そこそこ上手く終われたと思う。


 そして、その後話を聞いたのだが、どうやら世界樹がこうして直接動くことは過去に1度もなかったそうだ。


 エルフとダークエルフが戦争していた時も、幾ら世界樹に人々が祈りを捧げたとしてもこの世界樹は動くことなく見守っていただけ。


 しかし、今回俺の誕生日パーティーで動いたことにより俺がこの世界で最も世界樹の寵愛を受けている生物となってしまった。


 アバート王曰く、俺は同格として扱われこの国においては神のような存在であるとなってしまったらしい。


 いや、流石にそれは勘弁してよ。俺は神じゃないんだから。


 世界樹も面倒なことをしてくれたものだ。俺を守ってくれたのは嬉しいが、俺を神様に祭り上げないでくれ。


「いやーいいものが見れたよ。あの大きな木が君を守ってくれたんだね。これも全部仕込んでいたのかな?」

「本気で言ってるならケツに聖剣ちゃんをぶっ刺すぞ」

「あはは!!僕は君がそういうことなんて考えてない人物だと知っているけど、君の仲間はどうなのさ」

「........“さすがボス。これを見越して世界樹と話をつけてたんだな!!”って言われた。あいつら、こうなるとまるで話を聞かねぇ。勘弁して欲しいよ」

「これが1度だけならまだしも、何度も起こるんだから仕方がないよ。偶然も三度連続で続けば必然さ」


 祭りが始まり、この国全てが賑やかになり始めた頃。


 俺は少し休憩ということで言ったん家に帰っていた。


 一応式典ということでスーツを着ていたのだ。俺はかっちりした服があまり好きでは無いので、もっと楽な服に変えたい。


「それにしても雰囲気だけで楽しいね。こんなに純粋に楽しめる祭りは初めてだよ」

「俺は全く楽しめないけどな........」


 だってまたいつものように、仲間達がまるで話を聞いてくれないから。


 どうやら、俺の仲間たちは俺がこの襲撃を全て予測し、世界樹に話をつけていたと思っているらしい。


 お前らの頭に偶然という選択肢は無いのか?何度も言ってるよね。偶然だって。


“この国の異端分子を炙り出すために祭りを利用するだなんて、流石はボス!!”とか言ってるが、そもそもこの祭りを計画したのは王達なのを完全に忘れている。


 馬鹿なのかな?


 確かにこの国の異端分子は炙り出せたし、世界樹が自主的に動いたことからこの国での悪事は世界樹によって見られているという証明にもなった。


 悪いことをしたら、世界樹が地獄のそこに連れて行ってしまうのだ。


 俺は世界樹に認められた人物としてこの国で確固たる地位をさらに固め、その気になれば独裁政治すらもできるだろう。


 それこそ、ポル・ポトやアドルフ・ヒトラー、スターリンに毛沢東のような大虐殺ですら許されような勢いだ。


 これぞまさしく俺の世界。やりたい放題できる夢の国である。


 まぁ、好き勝手にやったツケは必ずどこからか回ってくることを知っているので、間違ってもやることは無いが。


 面倒だし。........あ、仕事を全部ぶん投げることは出来るな。


 最高かよ世界樹。これで俺は面倒な仕事から逃れられるじゃないか!!


 ハンコを押すだけの仕事だけれども。


「そう言えば、てっきりみんなで回るものだと思ってたら個別で遊ぶんだね。意外だよ。君たちの組織は皆仲が良さそうだったのに」

「俺たちにだってプライベートはあるし、見て回りたい場所は違うだろ?基本的にウチは自由だからな。何をやってようがお好きにどうぞって感じなんだよ」

「リーズヘルトさんぐらいは君と回ると思ってたんだけどね」

「リィズはアリカ達と回ってるんじゃないか?妹のように可愛がってるしな。後、どうせ夜はみんなで集まって騒ぐんだ。昼間ぐらいは個人で祭りを楽しめばいいさ。アーサーもオオカミちゃんとデートしてきたらどうだ?」

「んー........僕はいいや。この雰囲気が味わえただけでも十分に楽しいし、何より君とこうして話すのがいちばん楽しいからね。よく良く考えれば、今僕は今日の主役を独り占めしている訳だし、1番の役得かもしれないね」

「お前みたいな変態野郎に祝われる俺の気持ちも考えてくれよ」

「あはは!!グレイは、自分のケツの穴をファックしたがる野郎ども相手にニコニコしながら話したことはある?」

「........ごめん。お前の方が大変だったな」


 そうだった。こいつ、顔が綺麗すぎてホモ受けも抜群だった。


 そんな激強エピソードに勝てるわけねぇだろ。


「お前も大変なんだなアーサー」

「全くさ。だから、僕にもう少し優しくしてくれてもいいんだよ?」

「嫌だね。狼とファックしているような野郎にかける情けは無い。聖剣ちゃんをいたわれ」

「それは残念。僕に優しくしてくれたら、僕の純血は君のものだったかもしれないのに」

「お前、マジで殴るぞ?お前の顔は綺麗だが、野郎に興奮しねぇんだよ。後、人の形を捨ててから来てどうぞ。異型になってから出直せ馬鹿が」

「君も言うて大概だよね。人のことは言えないよ」


 それは俺も思う。リィズに思いっきりねじ曲げられたからな。


 どうも俺は人間に興奮できなくなってしまった。と言うか、人の形をギリ保ちつつ、異形の形じゃないと興奮しない。


 あれ?俺も大概だな。でもアーサーと比べられるのはなんか癪だぞ。


「人の癖は業が深いな」

「全くだよ。世の中には色んな奴がいるもんだ。そんなんだからLGBTQなんて言葉が生まれるんだよ。時代は多様性ってか」

「神すら恐れる人の欲さ。バベルの塔を作って怒りを買った時のように、いつの日か多様性によって神の怒りを買う日が来るかもしれないね」

「勘弁願いたいものだよ。全く」


 さて、俺もそろそろ街を歩いてみるとしますか。折角の祭りだ。楽しまなきゃ損だしな。




【LGBT】

 レズビアン (Lesbian)、ゲイ (Gay)、バイセクシュアル (Bisexual) の3つの性的指向と、トランスジェンダー (Transgender)のジェンダー・アイデンティティ(性自認・性同一性)、各単語の頭文字を組み合わせた頭字語であり、特定の性的少数者を包括的に指す総称である。後述の通り、LGBTQなど多くの派生形も存在する。ただの頭字語ではなく、政治的連帯を示している。




 少し休憩を取った後、俺はアーサーと共に祭りの様子を見に行っていた。


 急遽決まった祭りということでそこまでのクオリティは期待していなかったのだが、多くの人たちが金の匂いをかぎつけたのか色々な屋台が並んでいる。


 祭り特有のぼったくり料金ではあったものの、みんな楽しそうであった。


 そう言えば、何気にこうして祭りに参加するのは初めてだな。


 もちろん、この世界での話だが。


 この世界に来てから祭りを楽しむ余裕なんて欠片もなかった。


 誕生日を祝うクラッカーを鳴らすような気軽さで銃声が鳴り響き、1歩間違えればあの世に行ってしまうような世界で生きてきた俺が、今となっては祭りを楽しめるだけの余裕がある。


 こうして見ると、日本帝国を再び建国してよかったと心の底から思えるね。


「これも中々美味しいね!!向こうの世界の郷土料理かな?」

「........あまり金を使いすぎるなよアーサー。その場の雰囲気であれこれ買うのは金の無駄だぞ」


 右手には薬草の素揚げ、左手には串焼きを持ったアーサーは子供のようにはしゃいでいた。


 気になったものは次から次へと買うし、全部位の中に消えていく。


 フェルにも食べさせながらあれこれ買い漁るアーサーは、完全に祭りの雰囲気に飲まれていた。


 そう言えば、アーサーは有名人すぎて祭りを純粋に楽しんだことがないとか言ってたな。


 街を歩くだけで人だかりができてしまうような人気者だ。人が集まる祭りに参加した日には、身動きが取れなくなるだろう。


 しかも、彼の場合は来賓として祭りに参加することも多い。仕事では無い祭りというのはそれだけで新鮮なのだ。


「はひひょうふはひひょうふ(大丈夫大丈夫)。ほく、ほへはひひほはへはほっへふはは(僕、それなりにお金は持ってるから)」

「口に物を入れて話すなバカ。ったく、これが世界の英雄様の姿か?」

「ごくん。いいじゃないか。僕は他国の祭りとかに参加しても楽しめなかったからね。本当に初めてだよ。こうして楽しい日を過ごせるのは。あの日、君に出会えて良かった。巡り合わせてくれたピギーには感謝だね」


 お前、そのピギーを始末しようとしてたけどな。


 俺がいなかったらアーサーはどうやってピギーと戦っていたのだろうか?確か、世界の危機という事でグダニスクに来たはずなのだが、ピギーはどう足掻いても勝てる相手じゃない。


 封印状態ですら、邪神ニーズヘッグやエンシェントドラゴンと言った化け物達を圧倒する存在なのだ。


 人間でしかないアーサーがピギーに勝てるイメージが全く浮かばない。


『ピギー!!』

「ん?なんだピギー。殺意を向けられてたってのに随分と嬉しそうだな」

『ピギッ、ピギー!!』

「アーサーが居なかったら俺に出会えてなかったからむしろ感謝してるって?お前、滅茶苦茶良い奴だな」

『ピギ〜』

「あぁ、後この祭りの雰囲気が楽しいのか。何か食べるか?」


 名前を出されたピギーは、嬉しそうに鳴く。


 どうやらピギーは心が広いらしい。良かったなアーサー。我らがピギーちゃんが寛大で。


「ピギーが何か行ってるのかい?」

「お前に感謝しているんだと。俺に出逢えたから」

「あはは!!それで言えば、僕もピギーに感謝だよ。君がグダニスクのダンジョンに現れなければ、グレイに出会えてなかっただろうからね!!」

『ピギー!!』


 意外と、アーサーとピギーの相性は悪くないのかもしれない。


 俺はそんなことを思いながら、せっかくの祭りなんだしちょっと高くても何か買うかという事でポテトを買ってつまむのであった。


 アーサー、あーんを求めるな気持ち悪い。お前、もしかしてそっちの気があるのか?それは勘弁だぞ。

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