世界樹の怒り
祭りの舞台に現れた空気の読めない大人たち。
そんなんだからリストラされるんだよと俺は思いながら、ここからどう対処しようか考える。
エルフという種族は五大ダンジョンの中に存在する種族であり、その強さはAランクハンターすらも余裕でボコれるほどに強い。
ウチの戦闘員達が馬鹿げたように強いのでちょっと下に見られがちだが、普通にAランクハンターを殺せるだけの力を持っているのだ。
つまり、俺一人では余裕で負ける。
ピギーを使えば無力化できるし、エルフの体はほかの魔物と比べて圧倒的に脆いためピギーと言う切り札を使えば制圧は簡単だろう。
まぁ、タイタンとドワーフは無理だけど。
タイタンは当たり前のようにワイヤーを引きちぎるし、何より普通に硬い。
タイタンと話していた時に、その体の頑丈さについて色々と聞いたからね。
そして、今回は殺すことが厳禁だ。
正直やりたくはなかったとは言えど、俺はこの4日間の頑張りを知っている。昼夜問わず交代制で舞台や祭りの準備を続け、街でも色々な準備をしていた人たちを知っている。
そんな彼らの頑張りをこんなところで無駄にしたくない。
失敗はできないのだ。俺の演説が下手なのはともかく、放送事故を起こしてはならない。
つまり、こいつらを殺すのではなくエンタメに昇華しなくてはならない。
あれ、難易度高くね?
俺がアーサーなら多分爽やかに対処出来ただろうが、あいにく俺は英雄王では無い。
おいアーサー。今からでもいいから、この場所変わってくれないか?
『ピギー?』
「いや、ピギーはダメよ?さいあく機材が全部ダメになるから。できる限り、冗談でしたー!!みたいな雰囲気で終わらせないと」
「ナー?」
「そうだなナーちゃんとスーちゃんで何とかしたいな」
どうしたものかと考えていると、ピギーやナーちゃんが声をかけてくる。
ピギーは俺の中に宿っている存在だし、ナーちゃんは俺の影の中に潜んでいるからこうして護衛に持ち運ぶのは最適。
スーちゃんはいつものように防弾チョッキ代わりになってもらっているから、俺の服の中にいる。
所でスーちゃん?君なんの反応もないんだけど、もしかして寝てる?
こんな時におねんねするなんて、スーちゃんはなんて健康児なんだ。でも起きてお願い。俺が死んじゃう。
「何をブツブツと言っている?神へ祈る言葉でも考えていたのか?」
「ん?あぁ、まぁそんなところだ。折角の平和を壊さんとする輩に、世界樹の制裁をって祈っておいたよ。もう少ししたらら世界樹様から審判が下るんじゃないか?」
「貴様ごときが世界樹様の何を分かる!!殺せ!!この世界を汚染する悪しき悪魔をうち滅ぼせ!!」
エルフの男、ガーロットがそう言うと、全員が俺を殺さんと迫ってくる。
ダークエルフは陰に隠れて俺の首を刺そうとし、エルフはお得意の魔法を使い、ドワーフはハンマーで俺を叩き潰そうとし、タイタンは俺を殴り殺そうとする。
うーん。やはり我らがピギーで何とかしなけばならないのか。
と言うか、中継を止めるように言ってよ誰か。そしたら、もう少し楽な方法があったかもしれないのに。
そんなことを思いながら、仕方がなくピギーを使おうとしたその時であった。
ボコ!!と、俺の足元が盛り上がり、何者かが俺を上空へと一気に運んでいく。
「うをっ!!」
迫り来る魔法やナイフは俺を持ち上げた何者かに突き刺さるが、誰もがそのあとの追撃をしようとはしなかった。
急な衝撃により尻もちを着いてしまった俺は、何事かと思い地面を見る。
するとそこには、木の根っこのようなものが俺を持ち上げていた。
これは........世界樹かな?
「─────!!」
「あ、精霊ちゃんじゃん。守ってくれたのか?」
「──────!!──────?」
「えーと、多分“そうだよ!!迷惑だった?”かな?そんなことは無いさ。むしろ、祈りが届いて安心しているよ。マイク、落としちゃったけど」
「────!!」
「皆殺し?あ、殺さず生け捕りでお願いできるかな?今生中継中で子供も見てるから。後で幾らでも殺していいからさ」
「─────!!」
足元に木の根が出現したかと思ったら、我らが守護者世界樹の精霊が姿を現す。
世界樹の精霊は俺に頑張って意志を伝えようとし、俺も何となくその言いたいことを理解した。
世界樹、多分ニーズヘッグを討伐してくれたことを借りだとでも思ってるんだろうな。
俺としては助けたつもりは無いが、世界樹からすれば命の恩人とも言える。恩を受けたなら恩で返す。
どこぞのクソッタレの神共は恩着せがましく俺を転生させた上にクソみたいなことばかりを迫ってくるが、こちらの神はとても話がわかるらしい。
うん。やっぱり世界樹は神ではないな。だって良い奴だし。
神とは基本クソなのだ。実際に見たことがある俺だから言えるが、俺を遊び道具として使うようなゴミクズどもなのだ。
もう一度会える時があったのであれば、どんな手を使ってでも殺してやりたいね。
やっちゃえピギー!!で滅ぼしてやりたい。
「こ、これは........!!」
「そんな、馬鹿な!!」
俺が世界樹のひとつの意志である精霊と話していると、下ではありとあらゆる者が世界樹の出現に驚きを隠せずにいた。
そんな馬鹿な。ありえない。
そんな声ばかりが聞こえてくる。
「皆の者!!頭を垂れよ!!」
大きな混乱が生み出されつつある中、舞台の下から飛び出して大きな声が上がった。
アバート王やその他の王達が舞台袖から飛び出し、土下座のように頭を下げる。
それを見た観客たちも、即座に頭を下げて土下座した。
え、なにこれなにこれ。今までそんなことしてなかったじゃん。
なお、空気の読めない大人たちは頭を下げない。彼らはただ、困惑を続けるだけであった。
後、リィズ達も頭を下げてない。まぁ、別に神聖視はしてないしね。
「世界樹様、お怒りを沈めてください!!」
「え、怒ってるの?」
「─────!!」
俺が精霊に怒ってるのか聞くと、それはもうプンプンであった。
“私の恩人に、この世界の住人が不敬な真似をするのは許さない。ブッコロブッコロ!!”と言いたげな程に怒っている。
でも、精霊の姿で見ているためか全く怖くない。むしろ、ちょっと可愛いぐらいである。
それにしても、本当に感謝されているんだな。正直、日本に世界樹の加護を与えてもらっただけで俺としては十分なんだけども。
「うわぁぁぁぁ!!」
そんなことを思っていると、今度は舞台の地面から蔓が這い出し、空気の読めない奴らを拘束する。
ウニョウニョと出てきた蔓は、ガーロット達をミイラのように拘束し身動きひとつ取れないようにしてしまう。
そして、俺を乗せていた木の根からも蔓が生え、俺の頬に蔓を押し当ててきた。
これは好感度MAXですわ。どうやら俺は知らない間に世界樹ちゃんを落としていたらしい。
ようやく触れられたと言いたげに、精霊ちゃんは俺の肩に乗る。
そして、ぺちぺちと俺の頬を軽く叩いて感触を確かめたりサワサワと俺の頭を撫でたりして満足したのかようやく頭を下げるアバート王たちの元へと精霊は降りていく。
「─────(何してんの?)」
「はっ!!申し訳ありません!!私たちの不始末です!!どのような処分でもお受けいたします!!」
「─────(それをしたらグレイが悲しむからやらないけど、同じようなことが続いたら........わかるよな?)」
「誠心誠意この国の治安維持を努めさせていただきます!!」
「──────(グレイは私の恩人。私の手の届く範囲で少しでも彼に害を与えるようなら、私はお前らを捨てる。そのことをよく理解しておけ)」
「心に刻んでおきます!!」
「─────(あと、彼には普段通りに接してあげるように。私のせいで君達が神のように扱えば、彼は困る。彼に嫌われたくない)」
「かしこまりました!!」
「─────(でもどう思うかは自由だから、裏で神のように崇めるのは自由だからね。それと、コイツらは貰っていくよ。ニブルヘイムで凍りつかせて、ムスペルヘイムで焼き殺さなきゃ。その前に、私の持てる限りのおもてなしもしてあげないとね)」
「かしこまりました!!」
何を話しているのか分からないが、どうやら世界樹の精霊とアバート王たちが何やらお話しているらしい。
でも何故だろう。雰囲気がちょっと脅しのように見えるんだけど。
それにしても、世界樹は本当にこの世界........
話によれば、彼らが生み出されたのも世界樹からという話だしある意味生みの親であるわけだ。そして、世界樹の加護によって、彼らは生かされているとも考えられる。
彼らを国民とするこの国にとって、世界樹は切っても切れない間柄というわけなのだ。
「これからもよろしくな。俺も土下座した方が良かったりする?」
俺の頬をずっと触る世界樹にそう言うと、蔓はビクッとした後に慌てて横に蔓を振る。
それはもう蔓が吹っ飛びそうな勢いで。
そんなに俺に頭を下げられるのが嫌なのか。俺たちは対等というわけかな?
神のような存在と対等と言われてもちょっと困るが、まぁ本人がそれを望んでいるのであればそうしてあげよう。
別に俺は世界樹が嫌いなわけじゃないしな。
「──────(わかったな?この国でグレイに手を出したら、お前ら全員連帯責任で滅ぼすからな。よく覚えておけ)」
「はっ!!」
んで、いつまであれをやるつもりなの。そろそろ祭りに戻ろうぜ。
そんなこんなで、しばらく待っていると、お話が終わったのか精霊ちゃんが戻ってきていた。
「─────」
「え?コイツら欲しいって?処分してくれるならお願いしようかな。それと、この空気どうしようか?」
「........──!!」
「いや、丸投げかよ!!」
頑張ってねじゃねぇよ!!おめぇも頑張んだよ!!わかってのかコノヤロウ。わかってんのかコノヤロウ!!
全く、世界樹、もしかしてあまり考えて行動しないタイプだな?
俺はそんなことを思いつつも、適当にいい感じに話をまとめ祭りの始まりを宣言するのであった。
まさか、世界樹が俺を同格として認め、それをこの中継で証明していたとは露知らず。
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