生誕祭


 ついにこの日がやって来た。否、やってきてしまった。


 帰国してから4日後、奴らは本当にやり遂げてしまったのだ。


 国家全てを上げての大生誕祭。


 全ての種族が初めて一つとなった原因である俺を祝う祭りを、本当に僅か三日で終わらせ、なんならリハーサルまで始めていたのだ。


 馬鹿なのか?そんなことに使える労力があるなら、他のことに使おうぜ。


 俺、身内でわちゃわちゃやる分にはいいけど、流石にこれは勘弁して欲しいよ。


 あぁくそっ、戦争の時は頼もしかったドワーフの無駄な技術力とその速さがこんな形で俺に牙を剥くとは。


 お前ら、俺をいじめて楽しいんか?ついこの間いじめの対策とかそういう話したじゃん!!


 何が“祭りがあった方が民の心も落ち着く”だよ。別に俺の誕生日でやらなくていいだろそれ。


 しかも、何をとち狂ったのか、態々祭りに来られない人の為に国にクソでかいモニターとか設置して、ダンジョンの中にケーブルを敷き、挙句の果てにはテレビ放送までできるようにしやがった。


 今日この日はどのチャンネルもこの祝いの席を放送するとか、もはや独裁国家である。


 アドルフ・ヒトラーや毛沢東だってここまでやらねぇよ。


 馬鹿なのか?やはりこの国の国民は全員馬鹿なのか?


 どいつもこいつもノリノリで祭りの準備をしやがって。こんな事なら、ゆっくりと戦場から帰ってくるべきだった。


 誕生日を過ぎてから帰ればよかった。それなら仲間内で騒ぐだけの楽しいパーティーになったというのに。


「あぁ、最悪だ。なんで俺がこんな目に........」

「ごめんねグレイちゃん。私が誕生日の話をしたばかりに........」

「いや、リィズが悪いわけじゃないからいいんだ。問題は神の生誕祭とか言って勝手に盛り上がるどこぞの馬鹿な王たちが悪いだけだからな。俺を神として扱うなら、俺の意見も聞けよ。神のお言葉だぞ」

「うん。まぁ、みんな暴走してたしねぇ........」


 祭り当日の舞台裏。


 一体わずか三日でどのように立てたのか不思議なほど素晴らしいできであるこの舞台は、パッと見でとてつもない労力が使われているのが分かる。


 アイツら、マジで昼夜問わずやってたからな。本当に勘弁して欲しいんだけど。


「いやー楽しみだねグレイ。僕、こういう祭りとか純粋に楽しめなかった人だから、すごく楽しみだよ」

「おーそれは良かったなクソ英雄王。人の不幸を笑うのは楽しいか?」

「すっごい楽しい!!」

「そうか死ね。狼相手に盛り上がって死ねよ」


 んで、なんでこいつは当たり前のようにここにいるんだ英雄王。


 ブリテンにいるはずの人類の英雄アーサー。彼はどこから噂を聞き付けたのか、愛する狼ちゃんと一緒にこの国にやってきていた。


 しかも、昨日。


 本当にビビった。


“お客様です”ってきたから、てっきりボクちゃんが逃げ出してきたのかと思ったら、お前かよアーサー。


 しかも、ずっとフェルとイチャイチャしているもんだから頭が痛い。


 誰だよこいつを英雄王とか呼び始めたアホは。誰がどう見てもただの変態じゃねーか。


 ちなみに、やったのか聞いたら、それはもう毎日やっているらしい。


 特にフェルが発情期になるとアーサーの体力が持たなくなるほどらしく、クソどうでもいい話を延々と聞かされ続けた。


 わかった。わかったから黙れ。別にどんなプレイをしてたとか、そういう話に興味はねぇんだよ。


 生々しい話ばかりをするな。俺を汚すな英雄王め。


 こいつ、もはや人類悪だろ。誰が聖杯持ってきて。


 そんな訳で、狼ちゃんとファックするド変態までやってきてしまった。


 勘弁して欲しい。いやほんとに。人の不幸を笑う友人を招いた覚えはないんだけどなぁ。


「でも、本当に楽しみだよ。僕は今まで英雄王としての気品が求められたから、どちらかと言うと君のような感じの立場でしか参加したことないんだよね」

「お忍びだとしてもバレそうだしな........ところで、祖国はいいのか?」

「いいよいいよ。どうせ上の人達はどうやってヨーロッパの主権を握るか考えているし、僕はあくまでも世界の守護者だからね。戦争には興味無いんだ」

「友人の不幸を心の底から笑うやつが、よくもまぁそんな顔で世界の守護者とか言えたもんだ。腰に刺さってる聖剣ちゃんも泣いてるだろうよ。なんでこんなやつに使われなきゃ行けないんだってな」

「あはは。最近よく言われる」

「──────!!」


 言われてるんだ。なんなら今も言われてるな。


 多分、聖剣ちゃんが一番可哀想だよこれ。相棒となったはずの勇者が、そこら辺のオオカミに寝盗られてるんだから。


 しかも、夜の行為を見せられてるだろ。俺だったらケツから頭にかけて剣をぶっ刺して殺すね。


「聖剣ちゃんも大変なんだな。俺ところに来るか?少なくとも、狼の喘ぎ声は聞かなくて済むようになるぞ」

「────」

「あの、本気で悩まないでくれる?」

「─────」

「いや、だってあれは仕方がないじゃないか。僕は悪くないよ」

「──────!!」

「でも君の特性で離れられないじゃん。どうしようもないよ」


 えーと、多分“やるのは構わないけど、少しはこっちにも気を使え”って感じかな?


 でもアーサーから離れられないから、どうしようもないと。


 それなら、小さな防音室でも建ててやれよ。聖剣ちゃん用の家みたいに。


 なんか本気で聖剣ちゃんが可哀想に見えてきたぞ。やっぱり家に来る?


「アーサー。少しは聖剣ちゃんの気持ちも考えてやれよ。毎晩毎晩お前とオオカミのファックを聞かされるんだ。外からの声が漏れないような防音室を作るとか、そういうのをしてやるべきだよ」

「1m以上離れられないのに?」

「........あー、なら聖剣ちゃん専用の防音室とかは?ほら外からの音を遮断するタイプの」

「わずか振動で音を拾っちゃうから無理だよ。かなり敏感なんだこの子は」

「........えーと、他にもなんかあるだろ。考えてやれよ」

「考えたけど、何も思い浮かばなかったんだ。一応保管庫みたいなのを用意してはあげたんだけど、それでも声が聞こえてきちゃんうだって」

「ならもう喘ぎ声を抑えろ。なんというか、聖剣ちゃんが普通に可哀想。リィズもなんか言ってやれ」

「聖剣ちゃん可哀想。死ねよ英雄。そこの狼相手に尽き果てて死ね」

「わぁ。すっごいストレートな悪口」


 そういうアーサーはちょっと嬉しそうであった。


 うちのメンツは誰もこいつを英雄王扱いしないから、アーサーからすると嬉しいんだろうな。でも、そこは喜ぶところじゃない。ドMか?殴られて喜ぶのであれば殴ってやろうかその綺麗な顔を。


「あれだよ。それかもう聖剣ちゃんを参加させたら?そしたらみんな楽しめてハッピーじゃん」

「そうだな。そうしてやれよアーサー」

「いや、僕がぶった切れちゃうって。それ死んじゃうやつ」

「気にすんな、ケツがふたつに割れても元々だから問題ないって」

「違うそうじゃない」


 こうして、俺はアーサーをちょっと弄ってやるのであった。


 最後の方はボコボコに言われてちょっと涙目になっていたけど、こいつ泣いた顔も綺麗すぎて罪悪感よりも先に世界の不平等さを感じたぞ。




【天皇誕生日】

 日本の国民の祝日の一つである。旧称は、天長節(てんちょうせつ)。法律上の定めはないが、外交上では国家の日(ナショナル・デー)として扱われている。

 日付は、第126代天皇徳仁の誕生日である2月23日(2020年〈令和2年〉以降)。




 世界樹には意思がある。


 世界樹は生まれたその瞬間から世界を見守り、多くの歴史を見守ってきた。


 そんな中、唯一この世界樹が恩を感じている存在がいる。


 根を食らう邪神ニーズヘッグを打ち滅ぼし、このまま行けば滅びを待つしか無かった自分を救ってくれた命の恩人。


 彼の為ならば、世界樹はなんだってやるつもりだ。


 その気になれば、この世界を1度滅ぼして彼の為に作り替えることすらも厭わないほどに。


 世界樹は一種の神に近い存在だ。そんな神に大きな貸しを作っている時点で、グレイという男はだいぶおかしい。


 そして、それを理解していないもの達がとにかく世界樹の期限を悪くさせる。


「─────」


 世界樹は決断した。彼の生誕を祝う祭りを邪魔するのであれば、自分の持てる全てを持ってして破壊してやろうと。


 ついでに、彼への敵対心を持つものたちに、自分が彼に加護を与えているということを理解させるためのパフォーマンスに使ってやろうと。


「──────!!」


 邪神ニーズヘッグにより削り取られた力はある程度回復しつつある。当時はニーズヘッグの邪気によって万全の力を出せず、自信を維持するために力を使っていたが今ならば外に力を放出してもある程度は問題ない。


 そして、世界樹の力はたとえ一雫だけだとしても格が違うほどに大きい。


 少なくとも、この不埒な輩を殺すだけならば、一滴すら多いほどである。


「─────!!」


 世界樹は集める。自らの世界に存在する全ての生命に語りかけ、彼を守るように。


「──────!!」


 世界樹は命令を下す。不埒な輩達を世界樹の根の下に落とし、絶望の業火によって焼き殺すように。


「───────!!」


 世界樹は高く吠える。


 この世界で唯一自分と対等な存在に恩を返すために。


 未だ嘗て自身の意志によって動いたことのなかった世界樹が、何十万年という歴史を経て今動き始める。


 きっと彼ならば1人でも切り抜けてしまうだろう。しかし、それでは祭りは失敗に終わる。


「──────!!!!」


 何気にこの祭りを1番楽しみにしているのは、世界樹自身なのだ。

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