誕生日パーティー(準備)


 グレイがローズと共にサメちゃん達と触れ合いながら平和を噛み締めていた頃。


 王によって徴収された各種族の職人達が慌ただしく動いていた。


 彼らだけではない。会場となる日本国本土が兎に角騒がしかった。


「馬鹿野郎!!そいつはこっちだ!!」

「急げ!!あと三日で作り上げて、前夜祭もやらなきゃ行けないんだぞ!!」


 この国のトップにして、世界樹の世界を救った救世主グレイ。


 かの邪神ニーズヘッグすらも滅ぼしたかの英雄の生誕祭ともなれば、誰もが気合いが入ってしまう。


 グレイはあまり気にしないようにしているので知らないが、グレイは自分が思っている以上にこの国の住民から神聖視され世界樹の次に神として並ぶ生物として扱われていた。


 それどころか、ニーズヘッグの討伐作戦に参加した者の中にはグレイこそが神であり、世界樹は偶像としての神だとして同格に扱う人もいる。


 皆、世界樹への信仰心を持っているが、それにプラスしてグレイを神として崇める考え方を持っているのだ。


「凄いですね。私達のボスは」

「フォッフォッフォ。神の国、太陽が登る国の唯一神とも言えるお方じゃ。そりゃ、皆気合いも入るというものよ」

「現人神という訳ですか。確かにボスは神が下界に降りてきた存在と言われても、納得出来てしまいますね。本来ならばありえないであろう事を、さも当然のようにやりますから」

「これで天皇家としての名を持ってくれたら、儂としては最高なんじゃがな........主は絶対にそこだけは譲らんのぉ」


 祭りの準備をしているエルフやドワーフ達をみながら、ミルラと吾郎はゆっくりとまちの中を歩く。


 この二人の付き合いはグレイよりも長い。グレイの下に着くようになってからあまりこうして2人で話す機会は無かったが、昔はこうしてよく街の中を歩きながら話したものだ。


「まさか、こんなことになるとは思いませんでしたよ。貴方に出会った時と同じように、ボスとともに歩む道は予想ができなくて大変ですね」

「フォッフォッフォ。あの時は偶然であっただけであったしな。ちと儂が早とちりして殺しかけたが........」

「人生で五本の指に入るレベルの命の危機でしたね。相手は何せ、生きた伝説。20年と少ししか生きていない私が、500年の歴史を持つ貴方に勝てるはずもありませんでしたから」


 この2人の出会いは、グレイも知らない。


 興味がなくて聞いていないのて知るはずもないのだ。


 かつてはお互いにフリーランスの請負人であり、様々な仕事をこなしていた。そしてある日、彼らは同じ仕事を受けることとなる。


 ふたつの組織から恨まれていた女の始末。それが、この2人を引き合わせた。


 先に仕事に取り掛かったのはミルラ。ミルラは自分の能力を遺憾無く発揮し、早急に仕事を終わらせる。


 そして、ターゲットの死亡を確認した後家を出ると、そこに待ち構えていたのが生きた伝説上泉吾郎であった。


「私をターゲットと間違えるとは思いませんでしたよ。今までどうやって依頼をこなしてきたのですか」

「フォッフォッフォ。適当に切れば大体は殺せておったからのぉ。あの時もそれと同じようにやってしまったわい。じゃが、ワシの一撃を死ぬ気で防いだのは素晴らしかったと思うぞ。儂の剣が人を殺さなかったのはあが初めてじゃ」

「運が良かっただけですけどね。その後、何とか誤解が解けたから良かったものの、あのまま殺しあっていたら死んでましたよ。私がね」

「フォッフォッフォ。ほんと、あの時はすまんかった」


 同じ依頼を受けていた吾郎は、ミルラをターゲットと勘違いし攻撃。


 運良く最初の一刀を捌いたミルラは、相手が生きた伝説だと瞬時に察すると会話を試みたのだ。


 もし、吾郎がその言葉に耳を貸さなかったら、言葉を発するよりも吾郎の剣が早かったら、ミルラの体は今頃骨となっていたことだろう。


 かけ合わさった奇跡によって、ミルラは生きているのである。そして、その偶然が今を呼び起こしているのだ。


「本当に人生とは何があるのか分かったものではありませんね。気が付けば、私は世界最悪のテロリストに従い、第三次世界大戦の中で生き残ったのですから」

「フォッフォッフォ。それが人生というものよ。儂なんて、急に出現したダンジョンに蹂躙された挙句一度故郷を失っておるからのぉ。ミルラには分からんじゃろうが、当時はダンジョンや魔物は本当に御伽噺の世界じゃった。本気でそんな世界が存在すると宣うアホは、頭の心配をされて精神科に連れていかれるほどには非常識な世界だったのじゃよ」

「今じゃ全く想像もできませんね。これが当たり前ですから」

「本当に人生とは何があるのか分かったものでは無いわい。気が付けば世界は魔物の恐怖に怯え、儂は不老の身となり祖国を失った。それから500年。今はこうして祖国に戻り、偉大なるお方の生誕祭を楽しみにしておる。フォッフォッフォ。この年で祭りが楽しみになるとはのぉ」


 吾郎はそう言うと、ゆっくりと歩き始める。


 本当ならば自分も手伝ってやりたいのだが、技術も知識もない自分が参加しても邪魔になるだけなのは明白。


 ここは大人しく彼らに任せ、吾郎は祭りの日を楽しむだけにしようと心に決める。


「フォッフォッフォ。この日を天皇誕生日と名付けるのはどうかの?」

「絶対ボスはダメと言いますよそれ。あの人、何気に天皇陛下や天皇家に関しては敬意を払ってますから」

「意外とそこら辺は真面目よな。もう天皇陛下も居らぬのだから、自らが名乗っても許されるというのに。実に模範的な日本人じゃろうて」

「マルセイユでテロ事件を引き起こし、人を人とも思わず頭をはじき飛ばす人が、模範的........?日本は凄いですね。もしかして修羅の国なんですか?」

「鎌倉時代は修羅の国じゃったの。かの大国、元が日本に攻め入った時、鎌倉の武士をモンゴルの奴らは人質に取ったそうじゃ。鎌倉の武士たちは気にせず人質ごと殺したが、彼らはひとつの考えが過ぎったとされている。“あれ?人質を取ってくるということは、こいつらに人質有効じゃね?”とな。よくもまぁ、人質を取られただけでそんな思考になるものじゃ」

「........そんなご先祖さまを持っていたのだから、その子孫も間違いなく似ますよね。何となく、ボスの頭がおかしい理由がわかった気がします。」

「まぁ、史実かどうかはわからん。昔のことを数ある資料の中で推測しているだけに過ぎぬのだからな。もしかしたら、意味不明な石像は誰かが遊びで作っただけの出来損ないかもしれぬ。そういうことだ」


 吾郎はそんな中でも自分達の主は、間違いなく史実通りに勝たられるのだろうなと思うのであった。


 むしろ、史実が創作と思われても仕方がないのでは無いのか。それほどまでに無茶苦茶なことをしていらのだから。


「フォッフォッフォ。祭りが楽しみじゃ」


 吾郎は、後のためにも史実を書いた歴史書を残すべきかと考え。この日からコツコツとグレイのことについて書き始めるのであった。




【元寇】

 モンゴル帝国(元朝)および属国の高麗によって2度にわたり行われた対日本侵攻である。蒙古襲来とも呼ばれる。1度目を文永の役(ぶんえいのえき・1274年)、2度目を弘安の役(こうあんのえき・1281年)という。

 神風によって日本は何とか国を守りきったとされているが、中には“実は余裕でボコしていた”という説もある。鎌倉武士蛮族説と呼ばれるこの説はデマや間違いが多いため、あまり信用してはならない。

 調べてみると話がとにかくちぐはぐであり(例えば、神風の時期が11月頃で時期的に台風の可能性は低く、吹いてもちょっと強い風程度だとか)、何が真実なのか全く分からなかった(教科書ってあくまでも一説に過ぎないんやなって)。




 日本帝国でグレイの生誕祭を祝う祭りの準備が勧められる中、彼らは動き出した。


 この国では神として扱われつつあるグレイは、多くの国民から英雄として好かれているが中にはグレイを良くもおわない者もいるのは必然。


 人の数だけ思想はあり、中にはグレイを敵として見なす勢力だってもちろんある。


 例えば、グレイの手によって自分たちの権力を失った者たちとか。


「何が生誕祭だ。その日を命日にしてやる」

「全くだ。我らから全てを奪っておきながら、自分だけ輝かしい世界を歩けると思うなよこの下等種族め」


 運良く粛清の中を生き延びた彼らは、再び権力を手にしようとする。


 一度味わった権力の甘美というのは、中々忘れらるものでは無い。資金の横領に権力に物言わせ他贅沢な暮らし。1度生活水準が上がってしまえば、それより下に下げることは難しい。


 そして、その原因がハッキリしていらるのであれば復讐しようと試みるのは当然の流れだろう。


 彼らは恐れ多くも、この国の英雄に対して世界を救った守護者に対して殺意を抱いているのだ。


「計画は?」

「もちろん順調だ........と言いたいところだが、少し情報が浅い。しっかりと精査する時間がないんだ」

「だけど、この時を逃すと大変よ。あのクソ人間は中々この国にいる時間がないからね」

「そうだな。やるなら今ここでやるしかない。なんとしてでも成功させよう」


 こうして、彼らは作戦を練って今後の動きをどうするのかを話し合う。


 相手が邪神ニーズヘッグを殺した英雄だと知りながら、世界樹の恩人であると知りながら彼らは無謀な挑戦を初めてしまったのだ。


「─────」


 そしてそれは、当然ながら世界を見守る者の目に止まる。


 この時点で既に、彼らに残された道は一つだけとなってしまったのであった。






 後書き

 あっ......(察し)

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