暇な平和
レイズとカルマ王がちょっといい雰囲気になりつつも翌日、俺は久々の平和な休暇を味わっていた。
やはり平和はとても素晴らしい。命の危険がないと言うだけで、とても穏やかな気分で過ごせる。
なんかこの世界に来てから平和の基準がものすごく下がった気がするが、こんな世界では命の危機がないと言うだけで素晴らしく平和と言えるだろう。
真昼間からブンブンクソうるせぇバイクの音も、平和を称える今日に聞こえてきてしまう。
「皆不便はないか?」
「フゴー」
「そっか。特に問題は無いんだな。それは良かった。暫くは戦争もないだろうし、この海でゆっくりしていてくれ。たまに遊びに来てあげるからね」
「フゴー!!」
そんな訳で、俺は久々にサメちゃん達に逢いに来ていた。
ナーちゃん、スーちゃん、ピギーに続く俺の癒し枠。
ゴツゴツとしたサメ肌が少し痛いものの、可愛くそして人懐っこいサメちゃん達はいつ見ても可愛い。
パタパタとヒレを動かし喜ぶその姿に、思わず顔がほころんだ。
「こうして見ると可愛いわねん。魔物も懐けば愛着が湧くわん」
「珍しいなローズ。お前が来るなんて」
「今日は皆オフでしょう?私だって偶にはこうして可愛いこと触れ合いたいのよん」
俺とサメちゃん達が遊んでいると、そこにローズが現れる。
ローズはあまり魔物に興味を示さない。ナーちゃんが近くにいても触れようとはせず、大人しくしているようなやつなので、こういう風に魔物との触れ合いにはあまり興味が無いと思っていた。
ナーちゃんも“こいつの横は何もしてこないから安全”と判断しているのか、ローズの横だと結構気を抜いて寝ていたりする。
懐いてはなさそうだけど、落ち着く場所。それがローズなのだ。
「ゴフー」
「あら?撫でて欲しいのかしらん?」
「ゴフー!!」
「ふふふっ、可愛いわねん」
ローズに臆することなく、それどころか“撫でろ”と甘えてくる子供サメちゃんを笑いながら撫でてやるローズ。
子供サメちゃんは、そのゴツゴツとした手に撫でられるとパタパタとヒレを動かして喜んだ。
あのローズですら一瞬で陥落させてしまう程の可愛さを持つサメちゃん。恐るべしである。
「他のみんなはどうしてるんだ?」
「レミヤちゃんとアリカちゃん、そしてリーズヘルトちゃんはドワーフ達と一緒にエンシェントドラゴンの解体をしているわよん。ジルハードはその見学ねん。ミルラちゃんは仮眠を取ってると思うわん。お爺さんは散歩ねん。レイズはカルマちゃんとデートよん」
「もう解体を始めてるのか。肉だけは確保させておかないとな」
「ナーちゃんが着いていたから、多分肉は影の中に保管されるわよん。便利よねん。影の中に物をしまえる能力。生物は無理だけど、無限に物が入るバックみたいな感じよん?」
確かにナーちゃんは至る所でその利便性を発揮している。
影を操る能力と言うのは、昔から強能力として定番だからな。
漫画や小説だと、だいたい強い。
暗殺者系のお話でよく使われているイメージがある。後は........現代ファンタジー系のお話か?
ほら、自分だけレベルアップするやつとか影の権能みたいなの持ってたでしょ。
いいよね。厨二病感満載で。応用も聞きやすいから、色々と弄れるのだ。
「あー後、ボスの誕生日パーティーの準備をしていたわねん。アバートちゃんが怒ってたわよん?偉大なるこの世界の救済者が生まれた日を祝わずして何が国家か!!って言いながら、王達を緊急招集して作戦を練ってるわん。流石に、恋する乙女の時間を奪う気は無いみたいだけど」
「そりゃ、恋する乙女の恋路を邪魔したら、命がいくつあっても足らねぇからな。と言うか、マジでやるの?その主役の意見は無しか?」
「あら、ボスはお誕生日会が嫌いなタイプ?でも、諦めるしかないわよん。もうみんなやる気満々だからねん」
別にお誕生日会が嫌いという訳では無い。仲間内だけで祝われるのであれば、本日の主役タスキでもつけてノリノリで祝われてやっていい。
しかし、その規模が国となると、流石に嫌である。
だって国民全員に祝われるんだよ。それもはや仕事じゃん。
身内だけで遊ぶならまだしも、赤の他人にまで顔を見せで祝われるのは勘弁願いたい。
天皇陛下ってスゲーんだな。毎年毎年誰かもわからんようなやつらの前に出て、手を振りながら自分の誕生日を祝われるのだから。
俺、歌舞伎の子と天皇家の子には生まれたくないよ。
住めば都かもしれないが、少なくとも庶民の感覚を持ってしまっている俺からすればかなりの苦痛でしかない。
生まれた時からそこで生きていれば、それが当たり前となっているだろうけども。
「嫌いなわけじゃないけど、そこまで大々的にやらなくていいかな。身内だけでどんちゃん騒ぎするぐらいが楽しいだろ?あぁいうのは」
「分からなくもないわん。私も崖から突き落とされること以外は楽しかった記憶があるし」
そういえば、ローズの誕生日は崖から突き落とされるんだったな。
お前の親、やばくね?一歩どころか、半歩間違えたら殺人者だよそれ。
「そういえば、親父さんの影は見つかったか?元々、俺たちの組織に入ったのは親父さんを見つけるためだろ」
ふと、俺はローズが加入した理由を思い出してそんなことを聞く。
そう。ローズが俺たちの仲間となったのは、失踪した父を探すためだ。
最後の痕跡が五大ダンジョンの1つ、悪魔の国のダンジョンにあったためそこへ向かうための仲間として俺達を選んだのである。
「一つだけ情報を得たわよん。ボスが木偶情報屋と引き合わせてくれたおかげねん」
「ほう?その情報とは?」
「南米、五大ダンジョンの1つ地獄への門に父らしき影を見つけたらしいわん。どうも、五大ダンジョンを回っているらしいわねん」
「へぇ。
南米全土を覆う五大ダンジョンの中でも屈指の広さを持ったダンジョン、
500年前に出現し、瞬く間に南米全土を制圧してしまったやばいダンジョンであり、かつてSランクハンターが2人とAランクハンター数名のパーティーが挑んだが行方不明となってしまった超高難易度ダンジョン。
Sランクハンターですら敵わないそのダンジョンは、五大ダンジョンの名にふさわしく、人類が取り戻すのは不可能と言われているほどであった。
でもぶっちゃけ、黙示録のダンジョンよりは理不尽では無いと思う。
完全ギミックの理不尽の押しつけダンジョンよりも、パワーで全てを解決するダンジョンの方がたぶん簡単だろ。
マジで、二ヶ月の生存がクリア条件とかいう意味のわからん事をやってた黙示録は許さんからな。
しかも、クリア報酬として笛を渡してきやがって。こんなのどのラッパを選んでも世界が滅ぶっての。もう終わりだよこの世界。
「んじゃ、次はそこを目指すか?」
「いえ。目指さなくていいわよん。おそらくだけど、既に父はそこにはいないわん」
「その心は?」
「女の勘よん」
いや、お前男やろ。
そんなツッコミが出かけたが、ローズは一応心は女の子である。
女の子というかメスゴリラというか。
俺は性自認に対しては甘い人間のつもりなので、ツッコミは入れないでおいた。
「次はどこを目指そうかねぇ。戦争は終わったし、そろそろ五大ダンジョンの攻略も再開したいよ」
「悪魔の国はやめた方がいいわん。多分あそこが1番難易度が高いわよん」
「やっぱり?リィズから聞いたんだけど、バカでかいドラゴンを討伐したんだとか」
「噂じゃ核兵器すらも無力化できる魔物だったらしいわねん。そんなのに勝てる悪魔達とことを構えるには、早すぎるわん」
「
天門。
ITA(イタリア)、正確にはバチカン市国の中心地に出現した五大ダンジョンの1つ。
あそこは色々と特殊だが、その分情報も多く得られるだろう。
事実、調べていた時は1番情報があった。
その分どデカい問題を抱えていたりするが、まぁ、なんとかなるやろ知らんけど。
「それはいいかもしれないわねん。でもまずは、ボスのお誕生日会が先よん。もうあと4日しかないもの」
「勘弁して欲してくれよ。俺は表舞台に立つような人間じゃないんだって」
「そんな冗談、ホラ吹きマルコですら言わないわよん。世界の表舞台にたっているあなたが、よく言うわん」
俺はマルコ・ポーロじゃねぇよ。東方見聞録だって書いてない。
俺は軽く頭を抱えると、4日後が嫌で嫌で仕方がないのであった。
自分の誕生日が来ないで欲しいと思うのはこれが初めてだ。全く、この世界は初めての体験が多すぎるな。
【マルコ・ポーロ】
ヴェネツィア共和国の商人であり、ヨーロッパへ中央アジアや中国を紹介した『東方見聞録』を口述した冒険家でもある。
黄金の国ジパングと日本を表し、その悉くが嘘っぽかった為“ホラ吹きマルコ”と呼ばれていたりもする。
他にもマルコには『イル・ミリオーネ(Il Milione、百万男)』というあだ名がついていた。『東方見聞録』でルスティケロは「それらはすべて賢明にして尊敬すべきヴェニスの市民、《ミリオーネ》と称せられたマルコ・ポーロ氏が親しく自ら目睹したところを、彼の語るがままに記述したものである。」と述べている。
このあだ名の由来には諸説あるがはっきりしたことは分からない。中国の人口や富の規模について百万単位で物語ったことからきたという説、またそれを大風呂敷だとして当時の人がからかい、そのように呼んだという説、またアジアから持ち帰った商品によって「百万長者」になったことを表すという説などがある。
後書き
どうも。G級ハンターです。ダブルクロスG級に上がったぜ。取り敢えずディアブロスの角をしばいてきます。
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