頑張れカルマちゃん‼︎


 飛行機に揺られること数時間。俺は我らが祖国日本帝国に帰ってきていた。


 自然豊かなこの国は、やはり空気が澄んでいて美味しい。


 全く違いが分からないけど、気分的に美味しいので美味しいと言うことにしておこう。


 そんな訳で帰ってきた我らが祖国。久々に帰ってきたこの国のトップ(仮)を出迎えてくれたのはいつもの王たちであった。


「ニュースで見たぞ。ちゃんと勝って帰ってきたらしいな。流石だ」

「ドラゴンを倒したそうじゃないか。かの邪神ニーズヘッグを滅ぼしたおとこはひと味違うねぇ」

「ただいま。アバート王にカルマ王。暫く戦争は勘弁だ。この国の敵となる国はもうほとんど残ってないし、一足先にこの国だけ終戦してもいいぐらいだよ」

「ハッハッハ!!世界中を巻き込んだ戦争を引き起こした張本人が、一番最初に抜けるのか。相変わらずだな」

「戦争を通して思ったよ。平和が1番だ」


 出迎えてくれたのは、エルフの王アバートと、ダークエルフの王カルマ。


 ドワーフはどうせいつものように研究に明け暮れているだろうから別として、タイタンの王が居ないのは珍しい。


 大抵こういう時は出迎えてくれるんだけどな。


「ジュフスはどうした?」

「ん?彼なら今学校の建設を指揮している。奴は建築技術があるからな。あのタイタン達の家の多くはジュフス王によって建てられたらしいぞ」

「へぇ。そうなんだ........って、学校?既にあるじゃないか」


 この国には既に学校がいくつか存在している。元々各国に学校があったので、そこを使おうという話になったのだ。


 教育の仕方だけ統一し、あえて戦争の歴史などは包み隠さず教えるようにさせている。


 隠したところでどうせバレるし、このような歴史があるから今があるということを子供たちには知って欲しい。


 ダークエルフとエルフの戦争はこの世界樹の歴史を語る上では欠かせないし、戦後手を取り合って国を作った歴史がどれだけ美しいことかを理解できるのだ。


 ただし、どちらが正義でどちらが悪なのか。という議論については絶対にさせないようにしている。


 俺はこう教えるように言ったのだ。“どっちも正義でどっちも悪だ”と。


 戦争なんて、やっている時点で悪だ。しかし、当時の彼らにも正義はある。


 だから、戦争は相容れない者同士によって起こる正義の押しつけあいだと言うのを、ハッキリと言うようにさせていた。


 そして、教員に徹底させている。


 内戦ほど愚かでアホな戦争もないからな。思想は自由だが、内部での殺し合いは辞めてくれ。


 他にも、種族間の偏見や誤解を解くために、月に一回交流の場を設けさせている。


 エルフがダークエルフの街を観光したり、その逆も然り。ドワーフの子供たちがエルフの街を走っている姿を見た時は、とても微笑ましかった。


 そんな訳で、学校というものは既に存在している。


 それなのに、なぜ学校を作っているのだろうか?


「いやいや。日本国の本土には学校がないだろう?全ての子供を集めるのは無理だろうが、異種族が集まり手を取り合う学校を作っておくべきだと思ってな。子供たちの中には人間を実際に見たことがない物も多いのだ」

「そういう事だ。ドワーフ、タイタン達も賛成してくれたぞ。次世代を担う子供たちにはとにかく多くの世界を知って欲しい。二度と、私たちのような過ちは繰り返してはならない。かの邪神ニーズヘッグのような強大な敵を前にしても尚、手を取り合って戦う事をしない者達に明日は無い」


 なるほど。確か本土には学校が存在しない。そもそも、本土に苦しみ子供すらも少ない。


 そんな子供たちに自分ちが住む国を見せてやると同時に、異種族との交流を深めさせる。


 それが狙いなのか。


 いいんじゃないか?親元を離れて暮らすことになる子供達への支援や、他校との繋がりをどうするのかとか色々と考えることはあるけど。


「へぇ。いいじゃないか。人間、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、タイタン。この5種族が集まって作り出す学校は、さぞ楽しいだろうよ。まぁ、義務教育すら受けなかった俺が言える立場じゃないけどな」

「差別やイジメが不安だな。思考ある生き物は、常に誰かの上に立とうとする。そこら辺の対策をしなければ、私のような思いをする子供も出てきてしまうぞ」

「いや、アリカさんも言うて子供じゃ........まぁ、確かに子供の中でも弱肉強食はありますからね。そこは何とかしないと行けないかもしれないっす」

「それが課題でな。やはりどうしても、暴力を受ける子供が出てきてしまう。何とかならないか?」


 イジメ。


 大人になって社会に出たとしても、その問題はついてまわる。


 大人にも出来ないことが、子供にできるはずもない。


 しかし、これに関しては割と簡単な解決方法があったりする。イジメっていう言い方が悪いんだよ。


 子供だろうが、相手を殴ったら暴行罪。つまるところ、犯罪なのだ。


 子供用の豚箱にぶち込んでやれ。そして、そこで殴られる痛みを知るといい。殴られる痛みを知るやつは、そう簡単には手を出さないようになる。


 少なくとも、娯楽で人を殴る蹴るはしなくなるのだ。


 しかし、普通に刑務所とか言われると聞こえが悪すぎるので、軍隊学校とかにするか。悪いことをした子は、義務教育の他に軍事訓練を積ませて心身を鍛えさせる。


 もちろん、自分の意思で入りたい子もOK。そして教官は鬼のように厳しく、特にイジメ問題を起こしたヤツには徹底的にしぼりあげる。


 今の日本なら大問題になりそうな方針だが、実際問題ここまでやらなければ彼らは痛みを理解しない。


 幸い、この国は令和の時代のような口うるさい者達も居ないのだ。


 大半は戦争を経験しているし、自分の子供が弱いものいじめをしていたら、ちゃんと叱って痛みを分からせる親が殆どである。


「軍学校という名の、更生学校でも作るか。自分の意思で入るのも良し、悪いことしたヤツは強制入学。暴力を振るやつは、痛みを知らない子が多いんだ。殴られる痛みを知れば、暴力をしないでおこうと思うやつは増える。ゼロになるとは言えないけどな」

「もし治らなかったら?」

「豚箱にぶち込め。子供だからってなんでも許されるわけじゃないって事を体に教えてやれ」

「やはり、それが最も有効的なやり方となるか。しかし、イジメでそこまでやるのか?」

「イジメ、じゃない。犯罪だ。更生させるチャンスを与えているだけ慈悲深いだろ。問題は、遊びと犯罪の区別が付きにくいのと教師の目が届かない場所で起こるということだな」

「遊びでの殴り合いとかもあるもんなぁ。それがイジメなのかどうかの判断はたしかに難しい」

「暴言ですらイジメとなる場合だってある。これは何かしらの対策を考えないとな。分かりやすいのは監視カメラだが、子供ってのは思いのほか頭が回る。どうせカメラのないところでやり始めちまう」


 ジルハードの言う通り、イジメをイジメと判断し、その現場を抑えることが最も問題である。


 分かんねぇんだよイジメって。大人の目が届かないところで起こるから。


 虐められた本人は相談なんてできるわけもないし、周囲で見ている子供が教師に告げ口できるわけもない。


 うーん。これはよくよく考えないとな。


「子供の世界も残酷ですね」

「むしろ、子供の世界ほど残酷だ。大人になったからアリの足を全て取る遊びなんてしないだろ?子供の頃は割とやるからな」

「まるで実体験のように話しますね?」

「やってたからな。トカゲの目をエグり出して観察するとか、尻尾を切るとか。子供は加減を知らない。もちろん、暴力もな」

「人を殺す私たちよりもマシでは?」

「それはそう」


 悲しきかな。どれだけ綺麗事を並べようが、今の俺たちの方がやってることがやばいからな。


 お前、人の事言えんの?と言われると何も返せないのである。


 でも、大人は子供に注意するのです。自分が出来ていないことも言う大人の大半は、それが出来ないと苦労すると知っているから。


 勉強とかそうだよな。親が勉強できないと言うのに、“勉強しなさい”と言う。


 ウチは全く言われなかったけど。むしろ、ゲームしなさいと言ってきたけど。


 やっぱりウチの親はおかしい。お陰で身についたものもあるけど、絶対失ったものの方が大きい。


 ところで........


「け、怪我はなかったか?」

「大丈夫ですよ。そういうカルマさんこそ、大丈夫ですか?ウチのボスは無理難題を押し付けたりしてきますからね。国を出る前に無茶苦茶言われたりとか........」

「それは大丈夫だ。確かにグレイ殿はちょっと........いや大分頭のネジが外れているが、できないことは言ってこないからな」

「あー、まぁたしかに無茶苦茶なこと言ってるけど、できないことは言わないですよね」

「う、うん。そ、それでだな。折角国に帰ってきたわけだし、どうだ?私と食事でも........」


 急にラブコメ始めるのやめて貰えます?


 そう言うのは誰も見てないところでやってよ。見てるこっちが恥ずかしくなる。


 モジモジしながら乙女の顔を覗かせるカルマ王と、それに気づいてないのかそれとも気づいてない振りをしているのか、普通に話すレイズ。


 レイズの性格上、本当に嫌ってたら避けるはずだしワンチャンありそうなんだよなぁ。


「カルマ王、あんな詐欺師のどこがいいんでしょうかね?」

「結婚詐欺にだけは引っかかって欲しくないな........あと、レイズは割と優良物件だぞ。元詐欺師という点を除けば、普通に優しいし顔も悪くない。まだ若いし、金もそこそこある」

「命の危険が伴うという点は?」

「本当に恋人とかになったら、連れ回す機会は減らすよ。結婚したら、国でできる仕事を優先させるさ」

「本当にこの組織はそういうところが甘いですよね」

「ホワイト組織だからな。やってることは真っ黒だが」


“よし!!”と小さくガッツポーズを見せるカルマ王。


 どうやら、デートに上手く誘えたらしい。


 何だこのダークエルフ。可愛すぎか?初めて会った頃のツンツンカルマちゃんはどこへ行ったんだ。


 頑張れカルマちゃん!!俺は陰ながら応援するぞ!!なんなら、こっそり命令権を使って結ばれるようにしてやってもいいぞ!!

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