生誕祭

一足先の平和


 その日、POL(ポーランド)は戦勝国に名を連ねた。


 エンシェントドラゴンの出現によりPOL(ポーランド)軍も少なくない被害を被ったが、それでも伝説を前にして何とか生き残った。


 FR(フランス)は事実上の敗北。パリとその周辺の悉くが吹き飛び、軍や政府は壊滅。


 首都が落ちたことにより、ほぼすべての機能が停止したFR(フランス)はもうかつてのように大国と呼ばれることは無いだろう。


 マルセイユが吹っ飛んだと思ったら、年内に首都まで吹っ飛んだのだ。可哀想と言うか、不憫すぎるな。


 その原因を作ったの、俺なんだけど。


 マルセイユテロに関しては未だに否定させてもらうけど、今回のパリ爆破については確信犯なので何も言えない。


 戦時中じゃなかったら、もっと別の手段を取っていたのは間違いないが敵国にダメージを与えられる手段が降ってきたならやるしかない。


 仕方がないと言えば仕方がなかった。使えるものは使う主義の俺に、伝説を渡してしまったのが悪い。


 それにしても、リィズってヤベーな。


 俺が足止めをしたとは言えど、ほぼ一人でエンシェントドラゴンをぶっ殺すだなんて人間がなせる技じゃない。


 あの後、疲れ果てたリィズに色々と聞いたが、どうやら実験の過程でエンシェントドラゴンの細胞や魔石の一部を埋め込まれていたらしい。


 アリス機関は随分と無茶な研究ばかりをしていたんだな。そして、それに適応できてしまったリィズは特殊個体と言えるだろう。


 奴らの情報は追っているが、未だに場所が掴めない。おばちゃんの力を持ってしても居場所を把握できないとなると、ルーベルトの敵討ちをするのはまだ先になりそうだ。


 そんな訳で、FRは事実上の敗北。これにより残されたCHE(スイス)は1人でPOLと戦わないと行けなくなったのだが、エンシェントドラゴンをも滅ぼした化け物相手に勝てるわけが無いと判断したのだろう。


 FR(フランス)が滅んだ翌日、彼らは白旗をあげた。


 FRは混乱状態にあり、臨時政府すら経っていない状況なので降伏もクソも無い為戦争は継続という形になるのだが、実質終戦と言っても過言では無い。


 俺達はPOLに勝利をもたらし、国に帰ることとなった。


「ボクちゃん、最後まで嫌がってたな........」

「異様に俺たちに懐いてたからな。精神年齢がガキンチョまで戻ったんだ。仲の良かったダチと離れるのは嫌なんだろうよ」

「あの感じじゃ速攻で日本にやってきそうですね。受け入れるのですか?」

「もちろん。精神年齢が下がったとはいえ、ボクちゃんの戦力はSランクハンターレベルなことには変わりない。普段はお絵描きで飯を食って、有事の際には兵士として活躍してくれればいいさ」

「ちゃっかりしてんな。思いっきり引き抜きじゃねぇか。しかも、引き抜き方がおかしすぎるぞ」


 POL(ポーランド)の首都ワルシャワにあるショパン空港。


 俺達は傭兵としての仕事を終えたとして、日本に帰る準備をしていた。


 流石にここから戦争に負けるなんてことは無いだろう。一応FRとは戦争継続の状態ではあるが、そもそも向こうは戦争ができる状態じゃない。


 それに、POLに攻め込みたければ、まずは国土解放を進める抵抗軍をなければならないのだ。


 オールハイルグレイとか言うクソみたいな言葉を叫びながら、FR軍を殺すイカれた集団の規模はさらに大きくなっているらしく、この調子で行けばあと一ヶ月近くでDEU(ドイツ)を取り戻せるだろう。


 戦争においては最先端を走りがちなDEU(ドイツ)は、無人爆撃機(ドローン)を主軸とした戦いを展開しているらしく、この第三次世界大戦に大きな衝撃を与えている。


 そう言えば、前世でもウクライナ戦争でドローンが活躍していたな。


 コストが低く、製造が簡単。それでいながら、自分達は被害ゼロで相手を一方的に叩き伏せられる脅威の兵器。


 もし、次の世界大戦が勃発した時にはドローン爆撃が常識となっていることだろう。


 普通に困るから、日本でも開発を急がせるか。


 ドローンは電子機器だから、簡易電磁パルスEMPみたいな持ち運びができる防御札みたいなのも用意させた方がいい。


 兵器の開発は忙しいな。全部ドワーフ君に丸投げするから俺は大変じゃないけど。


「お、まだ居たか。よかったよかった。間に合わなかったら困るところだったよ」

「ジョンソン少尉。なんだ?見送りか?」


 そんなことを思っていると、ジョンソン少尉が小走りでやってくる。


 どうやら、彼は俺達の見送りに来てくれたらしい。


 結構な仕事が残っているはずだと言うのに、律儀な事だ。彼、普通に良い奴だよ。


「そんなところだ。この国を勝利に導いた英雄への見送りが、一人もいないだなんて寂しいだろう?」

「政治家連中はCHE(スイス)に叩きつける賠償金やら何やらで忙しくて、それどころじゃないからな。ちゃんとお前達にも報酬が行くように軽く脅しておいてあげたから、ボーナスが貰えるだろうよ」

「ハッハッハ!!それは有難い。楽しみにさせてもらうよ。それと、もう1つ」


 ジョンソン少尉はそう言うと、懐から1つの指輪を取り出した。


 え、何?お前もしかしてそういう趣味が........


「もうすぐ誕生日だという話があっただろう?世話になったし、このぐらいは送ってもバチは当たらないと思ってな」

「........お前、もしかしてゲイなのか?やばいぞジルハード。俺は今からケツを焼いて穴を塞がないといけないらしい」

「ちょ、ちょっと待て。そういう意味で指輪を選んだわけじゃない!!」


 俺が勘違いを起こしていることに気がついたジョンソン少尉は、慌てた様子であった。


 ハハッ、からかうの面白いな。


「これは、魔道指輪と言われていて、はめ込んで魔力を流すと指輪に刻まれた魔法が放たれる仕組みなんだ。ミスターグレイ。君の能力はなんでも出来るが、1つ足りてないものがあったなと思ってな」

「なんだよ?」

「冷房。暖房は服や布を重ねればいいが、冷房はあまり得じゃなさそうだったからこれを選んだ。氷は出せるらしいけど、それで全身が冷えたら今頃エアコンなんてものは無い」


 すげぇなんとも言えないチョイスだなおい。


 確かに俺の能力では暑さに対抗できない。氷だって溶けて水になるし、氷だけで体を冷やすことはできないのだから。


 確かに冷房はできないな。ジョンソン少尉、俺の能力をよく理解していらっしゃるようで。


「ありがたく貰っておくよ。暑い日は、これで涼ませてもらうさ」

「ハッハッハ!!是非ともそうしてくれ。では、快適な夏を」

「もうすぐ冬だけどな........」

「あっ、確かに」


 最後の最後でおちゃめなところを見せてくれたジョンソン少尉。


 しかし、意外と便利なものを貰ったな。これは大切に使わせてもらうとするか。


「んじゃ、帰るか」


 こうして、俺達は二ヶ月近くに及ぶ戦争から解放されるのであった。


 あー、暫くは戦争とか荒事はごめんだ。家でゆっくりダラダラしたいよ。




【電磁パルス】

 パルス状の電磁波であり、EMPと略されることがある。

 ケーブル・アンテナ類に高エネルギーのサージ電流を発生させ、それらに接続された電子機器などに流れる過剰な電流によって、半導体や電子回路に損傷を与えたり、一時的な誤動作を発生させる。軍事用の電子装置には、金属箔などでケーブルをシールドする、過負荷が予想される箇所に半導体の代わりの真空管を使うなど、電磁パルスに対する防護措置がされているものもある。特に、爆撃機や核ミサイルは、自らの発射した核爆弾や、同じ目標に先行する核爆弾に破壊されないよう、防護措置がされていることが多い。

 それらを全て破壊できてしまうピギーってやっぱりやばくね?




 あー。疲れた。


 帰りもプライベートジェットを用意してくれたらしく、俺はバカ広い部屋でのんびりと寝転がる。


 普通の飛行機に乗っていたら、こんなことは出来ないだろう。


 俺は前世で飛行機に乗ったことがないが、少なくともテレビで見ている限り足を伸ばしてゆったりすることは出来ないはずだ。


 何度か乗った個人用の飛行機とか、結構狭いからな。


「みんなお疲れ様。俺の護衛ありがとね」

「ナー!!」

(ポヨン)

『ピギー』


 俺はワイワイと騒ぎながらゲームを楽しむ仲間達を尻目に、今回も活躍してくれた魔物達にお礼を言う。


 俺一人だったら、間違いなく死んでいた。


 特に、上空からの紐なしパラシュート無しスカイダイビングは、死んでもおかしくなかったと言えるだろう。


 やはり、俺は1人じゃ何も出来ない。人を殺すだけならまだ単純なんだけどなぁ........


 相手が魔物となると、できることも出来なくなってしまう。


 エグいてこの世界。なんでどいつもこいつも当たり前のように銃弾を弾いてくるんだ。


「サメちゃん達にも会いたいなぁ。お土産もあるし、お肉は帰ったらみんなで食べよっか」

「ナー!!」

(ポヨヨン!!)


 エンシェントドラゴン討伐後、俺はナーちゃんの影を使ってエンシェントドラゴンを回収している。


 その血の一滴すらも研究材料になるほどの価値が高い素材ばかりでできたドラゴン。鱗や血はドワーフとかにくれてやっていいが、肉はどうせならみんなで食べてしまうとしよう。


 頑張ってくれたナーちゃん達や仲間達へのご褒美だ。


 どうせ肉は腐るし、食べてる以外に選択肢もない。


 余った分はサメちゃん達にあげればいい。流石に全国民に配る程の量はないから、素材で我慢してくれ。


 ちなみに、体内に残っているであろう魔石の欠片達は、リィズがくれと言ってきたので解体後あげるつもりだ。


 なんでも、今まで貯めてきたエネルギーが枯渇してしまったらしい。


 あれだけ馬鹿げた力を行使するとなると、やはり燃費が課題となるんだな。


 でも、魔石を食ったら回復するって凄いよね。どうなってんだその体。


 後、レミヤが研究材料として1部の素材を欲しがっている。どうせクソデカすぎて素材は沢山あるので、少しばかりならくれてやるとしよう。


 ポンコツメイドだけど、基本優秀だからな。


「帰ったら誕生日パーティーの準備ってマジかよ。しかも、俺の」

「ナー?」

「ん?ナーちゃんも祝ってくれるのか?」

「ナー!!」

「ハハッ、ナーちゃんは可愛いなぁ」


 こうして日本帝国は少しばかり早めに第三次世界大戦を終えることとなった。まだまだ戦争中の国が沢山あるけど、既に敵となる国はほぼ倒したしな。


 で、国を上げてのお誕生日会は勘弁して欲しいんだけど、逃げられたりしないかな?

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