古の竜vsリーズヘルト・グリニア


 リーズヘルト・グリニア。


 彼女はアリス適合者であり、第一次アリス計画において、第五段階まで通過した実験体。四名しかいない成功例。さらにその中でも特殊な実験を行われていたため、素体だけで見れば唯一無二の性能を誇る。


 第六時段階の実験を前にしてアリス機関が実質的に崩壊した為研究は打ち切られたが、そのほかの三人と比べて圧倒的な性能を誇るのが彼女だ。


 では、何が特別なのか。


 それは、リーズヘルトに埋め込まれた魔物細胞の種類による。


 基礎となる魔物の細胞はもちろんのこと、彼女はとてつもない数の魔物を埋め込まれている。


 他の成功例が5~7体の魔物を埋め込まれていることに対して、リーズヘルトは21もの魔物が埋め込まれていた。


 そしてその中には、人類が歴史的勝利をあげたとある魔物の組織も含まれている。


「流石グレイちゃん。10秒どころか、余裕で1分ぐらいは稼げそうだね」


 口から煙を吐き出しながら落下を始めるエンシェントドラゴンを見て、リーズヘルトは素直にグレイに賞賛を送る。


 あのふざけた能力でよくここまでできるものだと。


 アリカや魔物の力を使っているとは言えど、実行しているのはグレイ。


 本人は決して自分の力だとは言わないだろうが、リーズヘルトからすればその力を使いこなす主人こそが最も優れた存在だと思っている。


「私も頑張らないとねぇ。お前と同じ、竜の力で」


 シューと、リーズヘルトの体温が一気に上昇し、周囲の空気に含まれた水分が蒸発を始める。


 リーズヘルトが特殊だと言われていたのは、その体に宿る魔物の数ではない。


 その中の一つ500年前に討伐され、FRが買取ったその伝説を身に宿しているからだ。


「これ、体力の消耗が激しすぎてあまり使いたくないんだけど、グレイちゃんの誕生日に間に合わなくなるから本気でやらせてもらうよ」


 背中に生やした翼は徐々に形を変え、竜の姿に成り代わる。


 腕からは鱗が表れ、銃弾はもちろん爆弾すらも耐えうるであろう防御力を手に入れる。


 歯は鋭くなり、尻尾さえ生えてくる。


 その姿、正しく竜人。


 エンシェントドラゴンの組織を取り込み更には粉々に砕いたエンシェントドラゴンの魔石すらもその身に宿したリーズヘルトは擬人化したエンシェントドラゴンとなったのだ。


「フシュー........」


 これがリーズヘルトの持つ切り札。


 古来より恐れられ伝説とされてきたエンシェントドラゴンの一部を取り込み、その力を行使することの出来る正しく特殊個体。


 リーズヘルトの体にはこのエンシェントドラゴンの力を行使するためだけの器官が存在し、そこに力を溜め込むことが出来る。


 特に強い魔物の魔石は力の根源となり、かつてグレイが討伐した火竜の魔石を貰って食べたのもこの為だ。


「1分以内に終わらせる」


 エンシェントドラゴンの力をその身に宿したリーズヘルトは、一瞬でエンシェントドラゴンの後ろに回ると、力の限り蹴り飛ばす。


 ドゴォォォォォォン!!と、到底人がものを蹴ったとは思えない轟音が響き渡り、エンシェントドラゴンの背中をくの字に曲げた。


「グギェェェェ?!」

「オラァ!!」


 まさか、自分の鱗を貫通してダメージを与えてくる存在がいるとは欠片も思ってなかったのだろう。


 エンシェントドラゴンは情けない悲鳴を上げながら、血をさらに吐き出す。


 ちなみに、とても悲しいことだが、この一撃の方がダメージが大きかった。


 グレイの決死の紐なしバンジーによる攻撃よりも、本気を出したリーズヘルトの蹴りの方が破壊力があったのである。


 悲しきかな。彼は、魔物に対して本当に攻撃手段を持たないのだ。


 落下から上昇に変わったエンシェントドラゴン。


 リーズヘルトは更にここから追撃をする。


 今度はエンシェントドラゴンの上に登ると、拳を握って全身全霊の一撃を叩き込んだ。


「オ、ラァ!!」

「ゴブゥゥゥ!!」


 たかが打撃。しかし、その一撃は確実にエンシェントドラゴンへダメージを与える。


 エンシェントドラゴンの体を覆う硬い鱗を破壊し、なんとその肉を思いっきり殴ったのだ。


 ただのパンチが伝説を超えた瞬間である。


 上から下へと弄ばれるエンシェントドラゴン。


 しかし、彼も腐っても伝説の竜。


 地面に激突する前には何とか体制を立て直し、同じ気配がするリーズヘルトに向かって魔力のビームを打ち出す。


 相手が自分と同じぐらい大きければ、迎撃するか横に避けるかぐらいはしただろう。


 しかし、相手は極小の人間。


 真っ直ぐ飛んでくるだけのビームなんぞ、今のリーズヘルトに当たるはずもない。


「遅い」


 必要最小限の動きでエンシェントドラゴンの一撃を交わし、再び急接近するリーズヘルト。


 エンシェントドラゴンも接近されるのは不味いと判断したのか、体を大きく振ってリーズヘルトを近づかせないように試みた。


 が、一手リーズヘルトの方が早かった。


 大きく振られた一撃をかわすと、先程砕いた鱗がある場所へと張り付く。


 そして、口を大きく開けてドラゴンが放つ必殺技ブレスの準備に入った。


「グヲォォォォォォォォ!!」

「バイバイ」


 冗談を抜きにこれは死ぬと悟ったエンシェントドラゴンは自分事リーズヘルトを地面に叩き付けようとするが、やはり一足遅い。


 口を大きく開けて全てのエネルギーを凝集したブレスは、放たれた瞬間にエンシェントドラゴンの体を貫いて確実に心臓部にある魔石を破壊した。


 心臓を貫かれたエンシェントドラゴンは即死。空を飛ぶことを忘れた竜は地面へと落ちていき、リーズヘルトは素早く離脱して変形を解く。


 そして地面へと降りると、体内に溜まっていた熱を全て放出しプシューという音と共に煙を吹き上げた。


「フゥ........実践で使ったのは初めてだったけど、結構疲れるね。しかも燃費悪すぎ」

「リィズ!!大丈夫か?!」


 僅か数十秒の空の攻防を見ていたグレイは、慌てた様子でリーズヘルトの元へと向かう。


 リーズヘルトはそんな愛おしい唯一の相棒に目を向けると、ニカッと笑って親指を立てた。


「easy。伝説も所詮、私の前では無力だね」

「ハハッ、無理すんなよ。とりあえず水でも飲んで休め」

「そうさせてもらおうかな........流石にちょっと疲れた........」


 伝説は伝説を食らった人間に敗北し、FR(フランス)の首都パリ及びそのほかの街を幾つも燃やし尽くして尽き果てる。


 軍も街も政府も壊滅。事実上、FR(フランス)は敗北することとなるのであった。


 エンシェントドラゴンの出現。そして、それをたった2人で討伐した英雄。


 その英雄がどちらも日本帝国の人間であったということから、その戦力を理解した国々は間違っても喧嘩を売らないように気をつけるようになったのである。




【J・ロバート・オッペンハイマー】

 アメリカ合衆国の理論物理学者。

 理論物理学の広範な領域にわたって大きな業績を上げた。特に第二次世界大戦中のロスアラモス国立研究所の初代所長としてマンハッタン計画を主導し、卓抜なリーダーシップで原子爆弾開発の指導者的役割を果たしたため、「原爆の父」として知られる。戦後はアメリカの水爆開発に反対したことなどから公職追放された。




 1.名無しの神

【伝説討伐】グレイくん、やっぱり魔物に対して攻撃力がない。


 2.名無しの神

 知ってる定期。

 グレイくんは対人特化の化け物だから........エンシェントドラゴンとかいう魔物に対してほぼ有効打を与えられてないのは許してあげて。


 3.名無しの神

 リーズヘルトちゃんが普通に殴った方が威力があるとかおかしいだろ。決死の紐なしバンジーでやれたのが足止めって可哀想すぎる。

 しかも、アリカちゃんの爆弾とピギー達の力を借りてこれだからな。


 4.名無しの神

 これ、グレイくんが弱いって言うかリーズヘルトちゃんが強すぎただけなんじゃ........

 なにあの形態。完全に最終形態のラスボスじゃん。


 5.名無しの神

 Hey有能神!!リーズヘルトちゃんめっちゃ強かったことの解説と、グレイくんだって頑張ってたってフォローをよろしく!!


 6.名無しの有能神

 グレイくんは普通にすごいんだよなぁ。大抵のことでは死なずにピンピンしているような相手に一撃かましたんだから。死んでないけど。

 リーズヘルトちゃんについては、アリス計画でエンシェントドラゴンの細胞を埋め込まれたからエンシェントドラゴンの力を使えるって考えてくれればいいかな。

 ちなみに、あの拳地面に叩きつけるとクレーターができるよ。隕石が落ちた時のエネルギーぐらいは出せる。


 7.名無しの神

 やばすぎて草も生えないわ。

 リーズヘルトちゃんが特殊だって話はちょくちょくされていたと思うけど、これが理由だったんだな。

 人間と分類していいのか怪しくなってきた。


 8.名無しの神

 分類したらダメでしょこれ。だって最後はブレス使ってたし。普通にドラゴンだよあの子。


 9.名無しの神

 そりゃ今まで本気を出せるわけないよね。出したら周辺一帯が消し飛ぶし。

 普通にニーズヘッグとか相手にもタイマンはれそう。


 10.名無しの神

 ニーズヘッグとエンシェントドラゴン、どっちが強いんだろうな?


 11.名無しの神

 流石にニーズヘッグじゃね?活躍の機会がなかったけど、見た目は圧倒的にニーズヘッグだった。


 12.名無しの神

 いやいや、エンシェントドラゴンでしょ。ブレス見ただろ?あんなの撃たれたらニーズヘッグも死ぬって。


 13.名無しの神

 有能神はどうおもう?


 14.名無しの有能神

 ケースバイケースかな。でも、揺るぎない絶対強者はいるよ。


 15.名無しの神

 誰?グレイくん?


 16.名無しの神

 やっぱグレイくんが最強かー!!俺たちのグレイくんは格が違うもんなー!!


 17.名無しの神

 完全にバカにしてて草。

 まぁ、最強ランキングとかあってもグレイくんは堂々の最下位なんだよなぁ。単体性能だけで言えば、ルーベルトにすら未だに負けるだろこいつ。


 18.名無しの神

 で、誰が最強なのさ。


 19.名無しの有能神

 ピギー(封印解除状態)


 20.名無しの神

 うん。知ってた。


 21.名無しの神

 知 っ て た


 22.名無しの神

 ピギーよりも強いやつなんてどの世界にも存在しないんだよなぁ。

 あれは例外でしょ。


 23.名無しの神

 やはり、ピギーを従えたグレイくんが最強なのでは........?!





 後書き。

 この章はこれにておしまいです。いつも沢山のコメントありがとうございます。全部読んでるよ。

 リーズヘルトちゃん、実は人類の中で最強レベルに強い。この状態だと、おじいちゃんすら一方的にボコせます。

 次はちょっと平和な回になるはず。グレイ君の誕生日ぐらい平和にしてあげないとね‼︎

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る