古の竜vsグレイ


 古の竜が放った一撃は、何もかもを吹き飛ばし残されたのは灰と焦土と化した大地のみであった。


 正直、ちょっとやりすぎた感はある。エンシェントドラゴンのブレスはFR(フランス)という国を焼き滅ぼしたのだ。


 これが戦時中でなければ、流石に申し訳なく思っただろう。


 いや、そのまえにピギーでブレスを消している。


 戦争は悲しいことに道徳心を捨てた方が強い。道徳の教科書を焚き火の燃料にできるやつの方が、圧倒的に強いのだ。


 それは今も昔も変わらない。


 所詮は俺の知らない赤の他人。流石に可哀想だなとは思うが、それ以上に悲しむこともないのが現実である。


「日本に核が落とされたあの日も、こんな感じで全てが吹っ飛んだのかね?そりゃ降伏するわけだオッペンハイマーはとんでもないものを生み出してくれたな」

「人類同士の戦争で、唯一核兵器を使われたのが日本だったけ?確かにこれを見ると降伏したくもなるのがわかるよ。こんな一撃、防御特化の能力者じゃないと防げないし、防いだとしても酸欠や熱で死んじゃいそう。かくいう私達も、ピギーが居なかったら酷いことになってたかもねぇ」


 エンシェントドラゴンのブレスはその悉くを討ち滅ぼし、最後に残ったのは何も無い瓦礫の山。


 少なくともここから見える範囲全てが消し飛ばされ、地平線の彼方まで何も残っていなかった。


 こんなのを連発された日には、大真面目に世界が滅ぶ。


 ピギーは封印されているから直接的な殺しはできないが、こっちは普通に相手を殺しにくるから怖いね。


「グルヲォォォォォォ!!」

「んで、そんな核兵器をぶっぱなした張本人はピンピンしてやがるな。元気よすぎだろ」

「あれだけのエネルギーを放っても元気って事は、エンシェントドラゴンにとってあのブレスはただの攻撃って感じなんだろうね。今からこれを何とかしなくちゃいけないのかぁ」


 爆撃にすら耐えうるその体と、周辺一帯を消し飛ばす高火力を備えた化け物を今から討伐しなきゃ行けないってまじ?


 どう頑張っても勝てる気がしないや。Hey!!アーサー!!狼とファックするのは結構だが、それより友人を助けてくれ!!


 俺はどうせ来ないとは思いつつも、アーサーの助けを求めてしまう。


 あの動物性愛者ズーフィリアめ。狼と友人を天秤にかけて狼を選ぶ辺り終わってやがる。


 何が世界の守護者だ。仕事をしろヒキニート。


 そんな友人への愚痴が心の中で止まらないものの、ないものは仕方がない。


 俺はリィズに抱き抱えられながら、その化け物相手にどう立ち回るのかを考えていた。


 能力で使えそうなのはない。だって何をやっても意味が無いし。


 正直、ピギー以外に対抗する手段がないのだ。ピギーを上手く使わないといけないな。


「グレイちゃん。あいつの動きを10秒ぐらい止められる?出来れば、ピギーを使わないで」

「凄い。死んで天国と地獄を確認してきて伝えてくれるって言われた方がまだ出来そうなことを言ってくるね」

「10秒。それだけの時間があれば、私が何とかしてあげる。本気を出すから」


 珍しく真面目に俺にそう言ってくるリィズ。


 リィズがそう言うと言うことは、本当にやつを何とかできる手段を持っているのだろう。


 ならば、やって見せる他ない。


 やって見せろよグレイ!!お前は男だろ!!


 相手を殺すのは無理でも、10秒間足止めを出来ればそれで十分。


 あとは相棒を信じるだけなのだ。


 となれば、最初の一撃で決めるしかない。チャンスは一度きり。


 使えるもんは全て使って勝ちに行くとしよう。


「分かった。何とかしてみる。無理だったら、2人仲良くあの世行きかもな」

「ふふっ、グレイちゃんとならどこへだって行くよ。それが例え死後の世界だとしてもね。ケツを地獄の業火に焼かれながら、私はグレイちゃんと共に死ぬよ」

「そいつは頼もしい。まぁ、その時には多分地球が滅んでそうだけどな。主にピギーのせいで」

「それはそう」


 俺が老衰や病気で死んだならともかく、誰かに殺されたとなればピギーが自らの封印を解いて暴れるだろう。


 そうしたら、この宇宙は無くなる。ピギーは4度目の世界崩落を引き起こすのだ。


 そうさせないためも、何とか生き残らなきゃならん。俺はピギーが仲間を殺す姿を見たくない。


「リィズ。やつのブレスを誘発してくれ。出来れば、俺達が上になるように」

「分かった。やってみる」


 リィズは素直に頷くと、エンシェントドラゴンの上をとってブレスを誘発するために隙を作る。


 俺は怪しまれないように牽制の弾丸を打ち込むが、やはりなんの意味もない。


 火力ぇ........なんでこんなに火力が無いん?銃弾で無理なら俺の能力はどれも通用しないんですが。


 対するエンシェントドラゴンもビームを放ってくるがリィズがこれを華麗に回避。


 俺がまた気持ち悪くなって吐きそうになるということを除けば、素晴らしい回避術である。


 そして、その瞬間は訪れた。


 リィズがわざと見せた隙をエンシェントドラゴンは見逃さなかった。


 口を大きく開き、真上にいる俺たちを焼き付くそうとするエンシェントドラゴン。


 このタイミング。今だ!!


「リィズ!!俺を落とせ!!」

「分かった!!」


 なるか上空でなんの躊躇いもなしにおれを落とすリィズ。


 紐なしバンジーはこれで人生2度目だな。ハッハ!!今度は普通に死ねるかもしれん。


「ピギー!!」

「ピギェェェェェェェェ!!」


 落ちていく俺は、先ずピギーを使って溜めていたブレスを打ち消す。


 エンシェントドラゴンの体が硬直し、僅かな好きが生まれた。


 そして、俺は素早くピギーを戻すと能力を発動。


 大量の水を具現化させると同時にナーちゃんにも指示を出す。


「口を閉じさせるな!!」

「ナー!!」


 ナーちゃんが影を操り、ブレスの為に口を開いていたエンシェントドラゴンが口を閉じるのを防ぐ。


 俺も僅かながら力になろうと、鉄パイプを口の間にはめ込んだ。


 まぁ、多分意味が無いけど。


「スーちゃん!!」

(ポヨン!!)


 そして最後にスーちゃんにアリカから貰った爆弾を受け取る。


 俺が何をやりたいのか察してくれたスーちゃんは、期待通りの働きを見せ、エンシェントドラゴンの口の中に落ちていく水に向かって五本の試験管を投げ込んだ。


「乾いた口には水が必要だろ?たらふく飲めよ。美味いぞ俺の水は」

「ゴボッ!!」


 無理やり流し込んだ水は試験管と共にエンシェントドラゴンの胃の中に入っていく。


 ちなみに、少しでも威力が高くなってくれたらいいなということで釘も大量に混ぜてあった。


「ナーちゃん!!」

「ナー!!」


 さらに、今度は飲み込んだ水を吐き出さないように口を閉じさせる。俺もいつものワイヤー戦法を使って口を強引に閉じさせると、落下しながらその時が来るのを待つ。


 ところで、俺はどうやって着地すればいいんだ?やべ、何も考えてなかった。


 最悪大量のダンボールと綿で何とかするしかないと思いながら、ゆっくりと落ちていく時間を感じていると、胃の中に仕込んだ爆薬が弾け飛ぶ。


 スーちゃんは試験管をゆっくりと溶かす酸を纏わせてから、水の中に投げ込んだ。


 つまり、胃の中で溶けた試験管はその中に入っていた液体を外に出てしまうのだ。


「爆破条件は強い衝撃を与えることか、水に触れさせること。たらくふ食えよ。最後の晩餐だ」


 ドゴォォォォォォォォォォン!!


 胃の中ではじけ飛んだ爆発は、確実にエンシェントドラゴンにダメージを与えた。


 外が硬いなら中を攻める。これでワンチャン死なねぇかなとか思っているんだが........


「ゴフ........」


 5本も使った最高級の爆薬だと言うのに、エンシェントドラゴンは普通に生きていた。


 煙をふきあげ、血を吐き出しながら落下を始めているので確実にダメージは入っているが、それでも普通に生きていた。


 体内も頑丈とかチートかよ。なんでもありじゃねぇか。


 こりゃ足しになればと思って入れた釘はまるで役に立って無さそうだな。


 やはり圧倒的火力不足。いや、今回の場合は火力不足というより単純にこいつが硬いだけな気がするが、火力が無いことに変わりは無い。


 使えるもん全て使って足止めが限界なのだから悲しくなるね。レミヤみたいな能力だったらもう少しダメージを与えられただろうに。


 しかし、10秒は稼いだ。


 リィズが何をしようとしているのかは知らないが、確実に10秒以上は稼げているはずである。


 あとは頼んだぞ。


「んで、どうやって着地しよう。ピギー落下直前で落下エネルギーを打ち消せる?」

「ピギッ!!ピギー」

「え?できるけど今はやらない方がいい?そっか。なら、スーちゃんナーちゃんに頑張ってもらうか。ダンボールの中に大量の綿を敷き詰めて........んであとはスーちゃんのクッションとナーちゃんの影で何とかしてもらおう。死ななきゃ一応アリカお手製のポーションがあるしな」


 アリカ、大活躍だな。


 これが終わったらアリカのわがままはいっぱい聞いてあげるとしよう。


 薬の実験台までならやってあげる。死なない程度のやつ限定だけど。


 俺はそんなことを思いながら、爆速でダンボールの山をつくりあげ、そして綿を詰めていく。


 限界高度まで作れば問題無し。あとはワイヤーとクソデカブルーシートでなんちゃってパラシュートを作成すれば多少の衝撃は抑えられすはずだ。


「っぐ........!!」


 ダンボールに突っ込み、そのまま凄まじい衝撃が体に襲ってくる。


 しかし、スーちゃんのクッションやナーちゃんの影による威力減衰によって、何とか打撲程度で俺は着陸に成功した。


 普通に俺だけの能力だったら死んでたかもしれんなこれ。


 ビルから飛び降りるときとは訳が違うわ。


「あー、何とか生きてた。あとはリィズを信じるか........」


 俺はそう言うと、寝転がって空を見上げリィズがエンシェントドラゴンを討伐してくれることを祈るのであった。

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