強すぎドラゴン


 爆速でDEU(ドイツ)を通過し、やってきましたはFR(フランス)上空。


 ここはパリから近い場所であり、思いっきり相手の制空権内であった。


 しかし、こちらにはなんでも出来る天才美女ことリィズと、その後ろからおってくる人も殺せない伝説の竜エンシェントドラゴンが居る。


 たかが戦闘機でエンシェントドラゴンを打ち落とせたのであれば、世界は今頃もっと平和だったはずだ。


「また来たよグレイちゃん。今度は30機ぐらいかな?向こうも本気だねぇ」

「もう百機ぐらいは落ちてるはずなんだけどな。流石は大国。次から次へと戦闘機が小バエみたいに飛んでくるぜ。そして、俺たちを追いかけ続けるエンシェントドラゴンドラゴンくんもしつこいな。ストーカーは嫌われるぞ」


 またしてもやってきたFRの戦闘機。


 もう数えるのが億劫になるぐらいには飛んできているはずなのだが、まだまだ余裕がありそうで何よりである。


 まぁ、悲しいことにどれもこれもがエンシェントドラゴンの鱗1つに傷を付けることすらできてないんだけどね。


 強すぎやろあのドラゴン。


「ちょっと揺れるよ。下を噛まないようにね」

「はいよ」


 リィズがそう言うと、グッと体がひっくり返る。


 リィズはこの空中でありえないほど滅茶苦茶な動きをすると、戦闘機から放たれた弾丸を華麗に避けた。


 あー目が回るし、急に上昇したり落ちたりしないで。気分が悪くなるよ。


 多少慣れてきたとは言っても、これはさすがにきつい。ついさっきまで気分が悪すぎて吐いていたのもあって、今は吐きたくても吐けないほどには具合が悪かった。


 水を口の中に具現化して濯げるからいいけど、これこのまま放置されていたらキッついな。


 この年で口臭を気にしなくちゃならんとか嫌だぞ俺は。ミントガム。俺を助けてくれ。


 アリカに“口が臭い”とか言われた日には、自殺する自信がある。何気にアリカにナチュラルな拒絶をされるのが、俺に最も有効的な攻撃かもしれない。


 俺のみならず、仲間のみんなもアリカに“え、普通に嫌いだけど”とか言われたら自殺しそう。


 あれ?実はこの組織の中で最強なのはアリカなのでは?


「大丈夫グレイちゃん?」

「大丈夫じゃないけど大丈夫。無理やり慣れればそれでいいからね。でも気持ち悪い........」

「ごめんね。流石に本気で避けないと当たっちゃうし........」

「気にすんな。こればかりはしょうがないから。後、これが終わったらしばらく寝る」


 正面から突っ込んできた戦闘機はリィズとすれ違い、今度はエンシェントドラゴンに勇敢にも向かっていく。


 がんばえー!!君達なら勝ってくれると信じているよー!!


 爆速でエンシェントドラゴンに向かう戦闘機。


 しかし、エンシェントドラゴンも俺たちと鬼ごっこをする間に何度もこの戦闘機を叩き落としている。


「グヲォォォォォ!!」


 エンシェントドラゴン、怒りの咆哮。更に、俺に向かって牽制で飛ばしてきた光のビームが一瞬にして五機の戦闘機を撃ち落とす。


 ドゴォォォン!!と空中で爆発し、見るも無惨に木っ端微塵となる戦闘機。


 今どきの戦闘機は脱出装置が着いているらしいが、あんな速度で破壊されてしまっては脱出装置する前に死んでしまう。


 パイロットの人、どうか安らかに眠ってくれ。


 恨むなら、この戦争に参入した祖国を恨むんだな。戦争が始まった時点で、道徳というものは無い。


「あの戦闘機、ラーファルをモデルに改造された結構すごいやつなんだけどねぇ。流石にドラゴン相手には足止めにもならないか」

「こうして見ると、ドラゴンってすげーんだな。戦闘機を羽虫の如く撃ち落とせるだけの力があるんだから、そりゃ兵器が意味をなさないわけだ。上手く上から爆撃してても無傷だし、万歳突撃をしても意味が無い。どうやって過去の人達はこれに勝ったんだ?」

「さぁ?御伽噺では普通に正面から殴り勝ってたけどね。なんだっけ........団結の力とか何とか言って」

「それであの化け物に勝てたら苦労しないんだよなぁ」


 こうして話している間にも、次から次へと戦闘機は撃ち落とされていく。


 もうエンシェントドラゴン無双だな。ゲームにしたら売れそうだ。


「核兵器で死ぬと思うか?」

「酸欠で死亡は有り得そうだけど、そもそも酸素を必要として動いている生物なのかすら怪しいよ。実際に核兵器が魔物に使用された例もあるけど、その魔物は余裕で生きてたらしいからね」

「なにそれこわい」

「ちなみに、オーストラリアにでてきたドラゴンだね。山のようにでかくてどうしようもなかったから使ったんだけど、意味がなかったらしいよ」

「それ、未だに生きてんのか?」

「いや、五大ダンジョンの出現で悪魔達に殺されたらしいね。だから、上陸できずとも逃げ帰ってきたローズは普通にすごいんだよ」


 たしかにそう考えると、核兵器すら効かない化け物を殺した悪魔たちから逃げてきたローズって凄いんだな。


 船を壊されたから海を泳いで逃げてきた、とか言うギャグをやっているから凄さが分かりにくいが。


「さて、ここからはエンシェントドラゴンに国を破壊してもらおっか。わざと隙を晒すから、かなり無理な動きをやるけど頑張って耐えてねグレイちゃん」

「あーうん。頑張る」

「ふふっ、これが終わったらいっぱい甘やかしてあげるから」

「甘やかされても気持ち悪いことには変わりないんだよなぁ........」


 それでも、やる気が出てしまう俺という人間は、やはり単純なのだろう。


 男って馬鹿。




【ラーファル】

 フランスのダッソーが開発した多用途戦闘機。当初フランスは、イギリス、西ドイツ、イタリア及びスペインとの欧州戦闘機の共同開発計画に参加していたが、軍事的・政治的理由により脱退し、単独で完成させた。機体名称は、フランス語で「疾風、突風」の意味。




 一体どこで間違えたのか。


 FR軍をとりまとめる元帥及び提督の2人は、この絶望的な状況に頭を抱えるしか無かった。


 初めは順調そのもの。


 早期にDEU(ドイツ)を占領し、あっという間に戦争に勝利した。


 第二次世界大戦の時のような失態は無く、国民からも英雄として扱われた。


 その後、CHE(スイス)と共に行ったPOL(ポーランド)侵攻作戦。


 これが全ての始まりであった。


 FR(フランス)にとって宿敵である日本帝国首相グレイの参戦により、何もかもが狂ってしまったのだ。


 南部戦線は崩壊し、更には抵抗軍と名乗るレジスタンスに補給路を破壊され完全にFR軍は孤立。


 何とかして補給路を繋げようと作戦を立てていたところに入り込んできた報告は、地獄の底から這い出てきた悪魔よりも恐ろしいものである。


“エンシェントドラゴンの出現”


 これが作戦の全てを消し飛ばした。


 最前線にいる郡からの通信は途絶え、衛生情報からかの竜が暴れたのがいやでもわかる。


 そして、その絶望は宿敵と共にこの国の上空にまでやってきたのだ。


「国民の避難は?」

「なにぶん急すぎることでして、ほとんど進んでおりません」

「そうか。それでは、ハンター達はどうなった?」

「既にSランクハンター5名が到着しております。しかし、一人は辞退し行方をくらませました」

「相手はかの伝説エンシェントドラゴンだ。無理もない。しかも、あの忌々しきテロリストまで居るのだからな」


 全くもって余計なことをしてくれたものである。


 エンシェントドラゴンの出現もそうだが、それをこの国に押し付けようとしている辺り本当に頭がどうかしているとしか思えない。


 もし討伐できなければ、ヨーロッパ全土の危機だ。


「奴らは?」

「応答無しです」

「ちっ........使えないゴミ共が。ケツをまくってさっさと逃げたな。英雄王アーサーへの連絡は?」

「しましたが、彼は世界の危機では無いとして参加を拒否しました」

「この........!!こういう時に動かずして、何が英雄だ!!堕落したクズめ。親の顔が見てみたいものだ!!」


 FR(フランス)だって馬鹿じゃない。こちらへエンシェントドラゴンが向かっていることを察した彼らは、とにかく対策を立てて様々な手段を講じた。


 国内のSランクハンターの集結に、英雄王アーサーの助力、更には裏社会に生きる者達への協力すらも仰いでいる。


 しかし、この二時間弱の間で実現できたのはSランクハンターの集結だけであった。


 特に、英雄王アーサーの不在が大きすぎる。


「これのどこが世界の危機ではないというのだ!!あのヘラヘラとした顔面を三流に整形してやりたい気分だぞ!!」

「全くもって同意だ。しかし、GBR(イギリス)と日本帝国の関係が良好と考えると、それを危惧してなのか?」

「先手を取られたというわけか?いつから?」

「化け物が。戦争が始まる前から先に手段を講じていたというわけか。そんな策士がテロリストだなんて、神も仏もありゃしない。史上最悪のテロリストと言われるだけはある」


 なお、アーサーは本当にこれが世界の危機ではないと判断している。


 ピギーの出現レベルにならなければ、彼が動くことは無い。


 それに、今の情勢を考えるとアーサーが手を貸すことはFR(フランス)への加担を意味してしまう。


 そして何より、唯一友人が全部何とかしてくれると彼はわかっていた。


 変な期待をしているのでは無い。アーサーはグレイの弱さを知った上で、このような判断を下していのだ。


「とにかく、我々ができることを全力でやるしかない。あの竜を討ち滅ぼし、あのクソッタレのテロリストを殺せば、我らが英雄となるのだ」

「立場上逃げれないしな。はぁ。私が生きている時にこんなことになるとは........前世の行いが悪かったか?もっと真面目にイエス・キリストでも信じるべきだったな」


 彼らはそう言うと、ほぼ勝ち目のない勝負に挑むのであっ─────


 ───ゴウ!!


 刹那。その全ては灰と焦土と化した。





 後書き。

 FR君、抵抗すら許されず滅びる。

 ちなみに、ドイツは被害が出そうになるたびにピギーだけしてたので最初の一撃以外はほぼ無傷です。

 たまに墜落してきた戦闘機が畑を焼くぐらい。

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