チッスチッス‼︎


 たった一撃のブレスで、中部戦線から北部戦線までの全てが滅んだ。


 事実上POL(ポーランド)とFR(フランス)の戦争はこれで終わりを迎えることになるだろう。


 レミヤに衛星画像を見せてもらったが、戦争継続できるとは到底思えない被害が出ているからな。


 ちなみに、勝ったのはPOL(ポーランド)である。


 どうやらこの国は運がいいらしい。ブレスは自国内に入っておらず、FR軍だけを的確にぶっ飛ばしたのだから。


 まぁ、その余波で相当な被害が出てるんですけどね。


「グレイちゃん、今からFRに向かって逃げるんでしょ?なら、私が担いで言ってあげる。この場で狙われるのはおそらく私とグレイちゃんだろうしね」

「頼むよリィズ。もうどうせなら全部巻き込んでやるか。アリカ、あのヤベー物をくれ。エンシェントドラゴンに効くかどうかは知らんけど、多少なりとも牽制にはなるはずだ」

「分かった。全部で五本ある。強い衝撃や水に直接液体が触れると大爆発を起こすから気をつけてくれ。自爆して死んだなんて言った日には、私も後をおうからな」

「そりゃおっかねぇ。地獄の底まで着いてきて、挙句の果てには説教されちまいそうだ。まぁ、大丈夫だとは思うよ。スーちゃんに持っててもらうから衝撃は抑えられるはずだし」

(ポヨン!!)


 俺はアリカから5本の試験管を受け取ると、スーちゃんに持っててもらう。


 衝撃に対してはべらぼうに強いスーちゃんならば、たぶんビルの10階辺りから飛び降りても問題ないはずだ。


「私も援護に着きますか?」

「いや、レミヤはこのままこっちに残ってくれ。お前、ピギーが鳴いている中で飛べないだろ。墜落して死にたいなら別だがな」

「嫌です。やめておきます。死ぬなら老衰がいいですよ」


 援護に回ろうか考えていたレミヤだが、俺が防御にピギーを使うということが分かると爆速で手の平を返す。


 そうだよね嫌だよね。誰だって好んで墜落死などしたいわけもないのだ。


 俺だってしたくない。


「んじゃ、俺達は残党でも狩りに行くか。運良く生き残った連中を殺して、ついでに自軍の連中を助けてやろう。それしかやることが無さそうだしな」

「私もいるし、ポーションに困ることもない。こちらは任せてくれ。ちゃんと加減はするからな」

「頼んだよ」


 そう言いながら、ふとエンシェントドラゴンが居る方向に視線を向けるとやつはかなりの勢いでこちらに迫ってきているのがわかる。


 良かった。ここでもう1発ブレスとかやられてたら、また助けてピギー!!をしないといけなくなるところだった。


 と言うか、あのブレスすらも掻き消せてしまうピギーってやっぱイカれてんな。


 やはり世界を三度滅ぼした存在は訳が違う。


「よし。グレイちゃん行くよ」

「おっけー。サッサと逃げよう。あの化け物がこっちに興味がある間にな」


 リィズはそう言うと、形を変えて背中から翼を出す。


 リィズの異形態を初めて見るジョンソン少尉は目をぱちくりさせていたが、うちじゃ割と当たり前の光景なんで。


 レミヤとかも変形するからな。能力の関係で。


 ウィーンガシャガシャと言う効果音が似合うほどには、かっけぇ変形をするのだ。


 リィズの変形は........うん。エッチだな。多分、こんな感想を抱くのは俺しか居ないだろうが。


 普通は、ちょっとグロいと思うだろう。ボコボコと背中が動いて一気に翼が広がるのだから。


「行ってくるね」

「気をつけてな。FRをぶっ壊してきてくれ」

「常時情報は送り続けますが、おそらく戦闘機と接触する可能性が高いです。気をつけてください」

「ファイトよん」

「頑張ってくれ。お兄ちゃん、お姉ちゃん」

「頑張るっす!!ついでにあのクソデカドラゴンもぶっ潰すッス!!」

「こちらはおまかせを」

「フォッフォッフォ!!儂も戦ってみたかったのぉ」


 若干1名だけなんか違う気がするが、伝説に挑む俺達に応援の言葉をかけてくれる仲間たち。


 こういう時は素直だから可愛いよな。でも、そのほかが酷すぎて素直に喜べないのは悲しい。


「行くぞリィズ。防御はしてやる(ピギーが)」

「ふふっ、グレイちゃんと空の旅へレッツゴー!!」


 ノリノリなリィズは、俺を掴むと空へと舞い上がり、エンシェントドラゴンとの鬼ごっこが始まるのであった。




【エンシェントドラゴン】

 別名“古の竜”。第一次ダンジョン戦争の際に出現し、南アフリカからエチオピア南部辺りまでを全て破壊し尽くした伝説の竜であり、少なくとも数億人の命を奪っている。

 数万年以上生きた竜のみが到れる竜の極地であり、その力は絶大。500年たった今も尚、この竜が暴れた場所は不毛の大地となっている。

 数万人以上のハンターが集まりこの竜を討伐したが、生き残ったのはわずか三名。全員Sランクハンターの中でも上澄みの実力者であり、今の基準のSランクハンター達を全員集めて戦わせても半数以上は死ぬ。

 地球の歴史を大きく変えた存在であり、どの国でも歴史的な事件として多くの人にその名を知られている。




 リィズに抱えられて空を飛ぶ俺は、やはりエンシェントドラゴンに追われていた。


 ピギーとか言う自分を殺しうる存在の排除を目論んでいるのだろう。あのドラゴン、本当に容赦がない。


「こうして見ると、思っていた以上にデカイな。この距離でもはっきりと見えるって滅茶苦茶でかいだろ」

「体高100m以上、体長150mなんて言われているからねぇ。恐竜時代にも見なかった規模の大きさだよ。普通は自分の重さに耐えきれずに死ぬはずなんだけど、魔力やら何やらの要素が沢山あって潰れないらしいよ。しかも、数千年何も食べすとも生きられるらしいから、滅茶苦茶だよねぇ」

「滅茶苦茶と言うか、それは最早生物とすら言えないレベルだな。本当にそれは生命か?宇宙人とかそっちの類だろ」

「そもそも魔物は宇宙人と言っても過言じゃないでしょ。知らない場所ならやってきた未知なる生物なんだし」

「確かに」


 魔物はダンジョンの出現によって現れた、未知なる生物。ある意味、宇宙人と変わりない生物だと言えるな。


 そう考えれば、俺たちの常識が通用しないのも納得だ。宇宙人に地球の常識を求めてはいけない。


「グヲォォォォォ!!」

「ピギィェェェェェェ!!」


 爆速で飛ぶリィズに追いつけないのが苛立ったのか、エンシェントドラゴンが咆哮を挙げながらビームのようなものを放ってくる。


 普通に避けられないスピードで飛んできたレーザーは、これに反応したピギーによってかき消された。


 やはりピギー。ピギーしか勝たん。


「サンキューピギー」

「ありがとうピギー。助かったよ」

「ピギ〜」


 それほどでもあると言いたげに、照れた声を出すピギー。


 あのクソッタレのドラゴンの何万倍も可愛いなお前は。あのドラゴンとは仲良くできそうにないわ。


 ところで、今のはブレスではなく何らかの術のなのかな?


 口を大きく開けて放つのがブレス。今のは、牽制用の軽い攻撃みたいな感じだった気がする。


“俺の一撃を受け止められるんか?”みたいな、確認をしていたと言った方がいいだろうか。


 随分と、頭が良さそうだな。


「ピギーにエネルギーを纏った攻撃は意味が無いのかを試したような一撃だったな。かなり頭が良さそうだ」

「仲良くなれたりしないかな?」

「無理だろ。あれは完全にプライドの塊だ。死んでも誰かの下に着くなんてことは無いだろうよ。そのぐらいには、格が違う。サメちゃん達みたいに話せたら良かったんだけどなぁ........」

「私からすれば、同じように見えるけどグレイちゃんから見ると違うように見えるんだねぇ」

「本当に賢いやつなら、自分の脅威にやりそうなやつとは仲良くなろうと思うもんだ。仲間にしたらさらに自分が安全に強くなる。だけど、それをしようとしてないって事はそれだけプライドが高いのさ。生存の賢さで言えばサメちゃんやナーちゃん達に劣る。強くなり過ぎでプライドだけが残った可哀想な奴だ」


 自分を殺しうる存在を目にして取れる手段は3つ。


 相手を殺すか、逃げるか、仲良くなるか。


 どうやらこのエンシェントドラゴンは、殺す選択をやめないらしい。


 それだけ自分の強さに自信があると言う表れである。


 いや、ピギーにはどう足掻いても勝てないよ。こいつ、強さの次元がマジで違うから。


 君、ピギーが鳴く度に体の動きが止まってるよね?俺は見逃してないぞ。


 殺せない、倒せないなら逃げるか仲良くなる方が賢いと言うのに。


 長年頂点を味わったものはプライドがそれを許さない。


 俺はそんな人間にはなりたくないな。場合によっては、命取りとなる時だってあるのだから。


「FR(フランス)に入るまで後どのくらい時間がある?」

「2時間もあれば着くよ。ピギーが守ってくれているから、安心して飛べるね」

「OK。なら、ペチペチと嫌がらせでもするか。やーい!!お前の母ちゃんデベソ!!」


 俺はそう言いながら、ドワーフお手製のハンドガンをパンパン!!と2発打つ。


 爆速で飛んでいる上に風の影響をもろに受ける上空での射撃なので、正直当たるとは思ってない。


 しかし、相手が攻撃を返してきたという事実がやつのプライドを傷つける。


 人間ごときに反撃される伝説の竜さんチッスチッス!!魔力の弾丸の味はいかがっすか?!


「グヲォォォォォ!!」

「お、ラッキー当たった。あはは。格下に攻撃されて怒ってらァ。これならこっちに興味を無くしてどこかに行くなんてことも無いだろうな」

「ほんと、人も魔物も怒らせるのが上手いねぇグレイちゃんは」

「それほどでもないよ。俺は必死に抵抗しているだけさ」

「よく言うよ。伝説の竜を目の前にして、笑ってられる時点でグレイちゃんは狂ってるよ」

「失礼な。俺ほどの常識人もそうはいないぞ?」


 俺は誰がなんと言おうと常識人なんだよ。少なくとも、仲間たちの中では常識人側だよ。


 あいつらの方が非常識である。何せ、頭のネジがぶっ飛んでるからな。


 俺はそんなことを思いながら、エンシェントドラゴンにずっと嫌がらせを続けるのであった。


 やーい!!人間2人を殺せないなんて、ドラゴンとして恥ずかしくないんですかぁ?!やめたら?ドラゴン。

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