強制エンカ


 俺は冗談を言ったら現実に反映する能力でも持ってんのか。


 そう疑いたくなるほどにタイミングよく現れた古の竜エンシェントドラゴン。


 俺は、伝説となっている竜の顔を拝みに行くことにした。


 あぁ、見たくねぇ。現実逃避したいよ。


 悲しい事に、現実逃避したところで現実は俺の前に突きつけられているのだが。


 誰か現実から逃げる方法を教えてくれ。あれか?死んだらいいのか?


 いや、でもなんかまだ転生させられそうな気がする。神の試練がクリア出来なかったとか言って。


 あのクソッタレの神ならやりかねない。つまり、試練をクリアするまでは死ねないということだ。


「ミスターグレイ。不測の事態だ。エンシェントドラゴンが確認された。我々は即座に撤退しなければならない」

「でしょうね。で、そのエンシェントドラゴンとやらはどこに?」

「あれだ。ここから見ると豆粒ほどにしか見えないが、この距離でも絶対にやばいぞ。私も歴史の授業で習ったが、エンシェントドラゴンは南アフリカ大陸の全てを消し炭にしたと言われている。未だに不毛の大地となり、何もかもを奪い去った。下手をすれば、ヨーロッパ全土が滅ぶ」


 ジョンソン少尉が指を指した方向をよく見ると、確かに豆粒サイズのなにかが空を飛んでいる。


 俺は双眼鏡を具現化すると、それを使って豆粒の主を見た。


 このおもちゃの双眼鏡では限界があるが、確かにドラゴンっぽい見た目をしている。


 これが普通のレッドドラゴンとかならそこまで焦る必要は無いんだけどなぁ........過去に一度倒しているし。


「向こう側の軍も撤退を?」

「今、急いで撤退しているが........ヤツの目に止まったら終わりだな。POL(ポーランド)はあの化け物に対して対抗する手段を持たない」


 持ってたらここまで焦った顔をするはずもないか。


 POL君、実は超秘密兵器があったりしないかなと期待したが、所詮はPOLか。


 そんなことを思いながら、豆粒サイズのエンシェントドラゴンを眺めていると慌てた様子で1人の兵士がやってくる。


 彼は確か、観測が得意で敵軍の位置とかを把握する観測士の仕事をしていたな。結構話せる良い奴だった気がする。


「少尉!!高魔力反応が確認されました!!ブレスです!!」

「........狙いは?」

「おそらくFR軍かと!!しかし、そのエネルギーが凄まじすぎます!!ここまで余波が来るかと!!」

「なんだと?!10km以上離れているんだぞ!!」


 ........どうやら、エンシェントドラゴンはブレスを放つつもりらしい。しかも、10km以上離れたこの場所にも余波が届くレベルの。


 最早核兵器じゃんそれ。なんなら核兵器よりもえぐい被害を出しそうじゃん。


 とんでもねぇな伝説のドラゴン。これがアフリカ大陸の半分以上を滅ぼした化け物か。


「どうすんだボス。敵を殺すついでに自分たちも死んじまうぜ?」

「どうするって、何とかするしかねぇだろ。やらなきゃ俺たちは仲良くあの世行きだ」

「グレイちゃんグレイちゃん。ジルハードから聞いたんだけど、あのドラゴンを使ってFR(フランス)にカチコミをかけるんでしょ?」


 違いますが?


 目をキラキラさせながら俺にそう言っていくるリィズ。


 何余計なことを吹き込んでんだと言わんばかりにジルハードを睨みつけたが、このおっさんはどこか誇らしげに鼻をさするだけであった。


 なんで誇らしげなの?ねぇ。その顔面殴っていいの?


「作戦の共有はしないとな?そうだろ?」

「........クソが」


 冗談を冗談とわからないやつとの会話は疲れるが、さらにそれを言いふらすやつは死んだ方がいい。


 ジルハード、てめぇ余計なことを言ってんじゃねぇぞ。


 ブレスで核兵器以上の破壊力を出すやつにどうやつまで勝つんだよ。


「ブレス、来ます!!」

「っ!!総員!!衝撃に備えろ!!頭を低くしてできる限り爆風から逃れるんだ!!」


 そんな茶番をやっていると、エンシェントドラゴンがブレスを放つ。


 はるか遠くから放たれたブレスは、俺達がいる場所からも光り輝いて見え、一直線に全てを焼き払っていた。


 ドゴォォォォォォォォン!!


 と、凄まじい破壊音が鼓膜を揺らす。


 爆破の音にはかなり慣れている方だと思っていたが、それらとは格が違うとわかるレベルの爆音。


 やべ、しばらく耳がイカれるかもしれんな。


 そして、音の衝撃はの次は爆風の衝撃が襲ってくる。


 遅れてやってきた衝撃派は、砂埃を炊き上げながら全てを飲み込むように破壊しながら進んでいた。


 これはまずい。まるで風の津波だ。


 これを食らったら、簡単にあの世に行けそうだな。


 逃げることも出来なければ、防ぐことすら困難。


 しかし、こちらにも神に準ずる存在というのはいるのである。


「おい、お前ら。衝撃に備えろ。慣れてないやつはアリカから薬を貰え」

「げっ、ボスまさか........」

「ピギー、出番だ。あのクソッタレのトカゲ野郎にお前が負けるはずもないだろう?」

「ピギィェェェェェェェェェェ!!」


 俺の合図と共に、待ってましたと言わんばかりにピギーが鳴き叫ぶ。


 ピギーはエネルギーに対して絶対的な力を持つ。それがどんなエネルギーだろうが、無効化できてしまうのだ。


 唯一の欠点は、落下してくるものに対しては意味が無いということぐらい。


 重力エネルギーをかき消したいなら、星そのものを吹っ飛ばさないと行けないからね。こればかりはしょうがない。


 世界を三度滅ぼした許されざる存在の嘆き声は、迫り来る風すらも容易に打ち消しあっという間に爆風を無力化してしまう。


 困った時のピギー。やはり、ピギーはどえしようもない時の切り札である。


 問題は、味方を巻き込む上に力が強すぎて機械とかも全部ぶっ壊すことか。


 これで観測機は全部壊れたし、下手をすれば携帯も壊れる。


 俺の携帯も2回それでぶっ壊れてるからな。どうやったら壊せるんだろう?


「ピギー!!」

「お疲れ様ピギー。おかげで助かったよ」

「ピギッ、ピギー?」

「無力化はできても、殺せはしないからなぁ。また防御の時に使うと思うからその時はよろしくね」

「ピギー!!」


 久々に呼ばれて機嫌のいいピギーは、元気よく返事をすると俺の中に戻っていく。


 可愛い。


 この死の恐怖を強制的に付与してくる力さえなければ、ピギーは全世界のアイドルになれると思うんだよ。


 偶に暇だからって歌ってるし、俺は結構その歌を聞くのが好きだったりする。


「おーい、お前ら大丈夫か?」

「ぼ、ボス........やるなら前もって言ってくれ。マジでキツイんだこれ」

「私の分しか用意できなかったぞ。やるなら先に言ってくれ。いやほんとに」

「あっぶない........主人マスターお願いですから先に行ってください。私の場合命に関わるので。管理AIとかを切らないと、バグって死にます」

「悪い悪い。突然のことだったからな。でも、お前らなら対応できるって信じてたんだ。これからは、もう少し余裕を持って言うよ」

「ま、まぁ、私たちなら対応できるしな!!」

「そうですね。余裕です」

「俺は無理だぞ?おっさんだから」


 信じていると言われ、直ぐに機嫌を治す仲間たち。


 うーん。チョロい。大丈夫か?なんか少し不安になるちょろさだぞ。


「レミヤ、今の一撃でどのぐらいの被害が出た?」

「ちょっと待ってください........核兵器よりも被害が出てますね。流石にこの短時間で死者数を数えるのは無理ですが、衛生情報から地形がどれだけ破壊されているのかは分かります。見ますか?」

「見せてくれ」


 これほどの一撃。一体どれだけの被害が出たのか気になりレミヤに調べてもらうと、それはもう酷い有様であった。


 衛生写真からその破壊力が伺える。


 少なくとも、俺たちのいる中部戦線は崩壊。しかも、北に向けて首を振ったのか北部戦線もグチャグチャに破壊されているのがわかる。


 多分これ宇宙から見ても肉眼で確認できるんじゃないか?ほら、万里の長城は肉眼で見えるって噂だし........あ、いや、実際に検証して無理だってなってたか。


 確か、NASA辺りが難しいと結論を出していた気がする。


「........おいおい。今からこんなバケモンと俺たちは戦うのか?」

「凄いな。的確に戦争していたであろう場所を撃ち抜いてる。ある意味綺麗な国境線になったという訳だ。誰も感謝しないがな」

「おー、凄いねぇ。流石はエンシェントドラゴン」

「よく昔の人類はこんなのに勝てたッスね........」

「フォッフォッフォ。儂、その頃は樹海をさまよっていた記憶があるから、エンシェントドラゴンは見た事がないのぉ。この500年生きてきて初めての経験じゃろうて」

「こんなのと戦わなきゃいけないんですか?普通に死にますよこれ」

「流石にあんな一撃を食らったら死ぬわねん。と言うか、誰だって死ぬわよん。ボスぐらいよん?平然とたっていそうなのは」

「いや、おれもピギーが居なかったら普通に死ぬからね。ピギー様々だよ」


 破壊された国境部を見て、ワイワイと盛り上がる俺達。


 こういう時、絶望に染まらないのは彼らのいいところだ。


 心が折れたら、勝てる勝負も勝てなくなる。


「しかし、この後どうするんだ?ブレスは防げるだろうが、殺さなきゃ意味が無いぜ?」

「作戦のことも考えると、こっちに誘き寄せる必要があるわよん?」

「それなら大丈夫でしょ。何せ、グレイちゃんが力を見せたおかげで─────」


 リィズはそう言うと、一旦言葉を切ってエンシェントドラゴンの方に視線を向ける。


 つられて俺達もそちら側に視線を向けると、徐々に徐々に大きくなっていく影が目に入った。


 ピギーを出したから、脅威とみなされたってわけね。


 やべぇ、完全にロックオンされてんな。


「───こっちにしか興味無いだろうからね」


 結局こうなるんかい。


 どうやら俺は、過去に世界を恐怖に陥れた伝説と強制的に戦わなければならないようだ。


 FR君。押し付けていい?






 後書き。

 エンシェント君を仲間にするんか?みたいなコメントが多いですが、普通に戦います。

 流石にコイツを仲間にすると今後が困るし、何よりエンシェントドラゴンはプライドの塊なので死んでも誰かの下につくことはありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る