エンシェントドラゴン
アリカが実はFBIやらCIAから目をつけられる程に超危険人物だったという事に呆れながら、俺は作戦が始まるのを待っていた。
FR軍の裏を取ってから2日後。
睨み合いを続ける中部戦線に大きな打撃を与えるべく、俺達はその時が来るのを待ち続ける。
今日の天気は曇りであり、秋の風が少しばかり冷たかった。
「なぁボス、中部北部戦線に勝利した場合、POL(ポーランド)軍はどう動くんだ?このままDEU(ドイツ)を解放してFR(フランス)に攻め込むのか?」
「そんなわけないだろ。POLにそこまでの力は無いし、FR(フランス)だって馬鹿じゃない。ここで負けたら和平交渉が行われることになるだろうよ。DEU(ドイツ)は戦争が続くかもしれんが」
「なんでそう言えるんだ?こっちの方が圧倒的に有利じゃねぇか」
ジルハードはそう言うと、純粋に首を傾げる。
確かにゲームなら、自分たちが有利な状況を手放すことも無く戦い続けるのもひとつの手段だろう。
しかし、この世界は現実。ゲームのように0と1の集合体のように単純なものだけで動いているわけじゃない。
「ジルハード。戦争に必要なものはなんだ?」
「そりゃ、兵力なんじゃないか?負けたら意味がねぇ」
「そうだ。戦争で1番重要で最も必要なのは兵士の数と力だ。それじゃ、彼らに力を発揮してもらうにはどうしたらいい?」
「........美味い飯とか金をやるとかか?」
「それもひとつの案だし、間違ってないな。兵力を維持するには飯や武器なんかの物資が必要になる。そしてそれは、国力に依存する。最悪同盟国や仲のいい国から輸入すればなんとかなるがそれをすると金がかかる。結局、金を持っている国の方が強くなる。ここまでは分かるか?」
「そうだな。飯はボス一人で賄えちまうという点を除けば」
「俺という例外を持ち出すな。で、POL(ポーランド)に長期的な戦争を継続できるだけの金と兵力は無い。ここから攻め込むとなると、部隊の再編成も必要になるし作戦の立て直し、更にはDEU(ドイツ)との交渉もある。もし交渉が上手く行ったとして軍を通して貰えるようになったとしても、物資の補給は自国からやらなきゃならん。DEUも補助する余裕は無いからな」
戦争は結局のところ国力がものをいう。
もちろん、ジャイアントキリングもあるにはあるが基本的には金があって国力のある国が強いのだ。
そして、FRはマルセイユが吹っ飛ばされたとしても大国であり国力は依然として高い。
POL(ポーランド)が勝てるかと言われれば、ほぼ無理だろう。
第二次世界大戦期のUSA(アメリカ)に日本が勝てないように、大国と呼ばれている国にはそれだけの理由があるのだ。
大国を潰せるのは大国のみ。
ひとつの戦線で勝利をあげることはできても、結果的には負ける。
「それに、FRはこの戦争にハンターを動員していない。一人でもSランクハンターが居たらどうなっていた事やら。お前も分かるだろう?」
「........そうか。確かにそう言われると攻め込むのは悪手に思えるな。それならまだ、自分達が有利な状況で交渉の席に座った方がいい。CHE(スイス)はどうなんだ?」
「CHE(スイス)は正直わからんな。Sランクハンターを捕虜に取ったからかなり有利な交渉ができるのは間違いないが、場合によっては戦闘継続も有り得なくはない。1番丸いのは搾り取れるだけ搾り取って和平だし俺ならそうする。欲をかいて攻めることを選ばないようにして欲しいな」
何より、CHE(スイス)は永世中立国という立場を破ったのだ。
これは国際世論で間違いなく厳しい言及や反感を買う事になるだろう。
彼らはあまりにも感情的で軽率な行動をしてしまった。
一時のテンションが身を滅ぼすと言ったやつは正しかったな。いいことを言う。
「それじゃ、この戦線を吹っ飛ばせれば俺達の勝ちとなるわけか。俺はそこら辺の動きとかよくわかってなくて予想できないから、ボスの話を聞くまでどう動くのかわからなかったぜ」
「ジルハードはそういうの苦手だよな。良くも悪くの常識人って感じだよ」
「ギャングの元ボスなんだけどな。ボスが居てくれたら、嫁を無くすこともなかったのかねぇ」
あの、触れづらいんでそういう話はやめて欲しいです。
俺だって煽っていい内容とダメな内容は理解しているんです。ジルハードとともに時間を過ごした聖母マリア様のお話は、何を言っても気まづいんで勘弁してください。
ほんと、なんであんなにも美人でできた奥さんがこのゴリラみたいなやつに着いたんだ?
生きていたら、絶対に惚れた理由やジルハードの話を聞いていたよ。
ジルハードの奥さんの写真を見せてもらったが、くっそ美人だった。
しかも、話を聞く限り滅茶苦茶優しい人で、組織の野郎共からも相当慕われていたらしい。
もし、うちの組織にいたらみんなのママって感じになっていたことだろう。アリカやリィズ辺りは、絶対に懐いていたはずだし俺達野郎共も彼女には敬意を払っていたはずだ。
「ちなみに、ここからFRに勝とうとしたらボスはどんな手段を取るんだ?」
「んー........POLの戦力だけじゃどうやっても勝ち目がないし、アレだな。ダンジョンからドラゴンでも引っ張ってくるわ」
「ハッハッハ!!で、ドラゴンをFRに押し付けるのか!!そして弱ったところを美味しくいただくと。その前に国が焼け野原になっちまいそう─────」
ゾワリ。
ジルハードが俺の冗談を笑い飛ばそうとしたその瞬間、俺を含めた戦場に立つ全員の背筋が凍る。
嫌な予感がする。
ピギーに会った時ほどでは無いが、俺の本能が今すぐに逃げろと叫んでいる。
こういう感覚が鈍いと言われる俺ですら感じ取れるほどの気配。となれば、感覚が鋭いものたちはさらなる恐怖をその身に刻み込んでいるだろう。
やっべぇ。絶対やべぇ。
テントから出て状況を見たくねぇ。今すぐに逃げて、安全な場所まで避難したい。
「ぼ、ボス!!ヤベェっす!!大変っす!!」
「だろうな。俺でも感じるよ。なんだ?ドラゴンでも出たか?」
合われて様子でテントに入ってくるレイズ。
いまさっきドラゴンの話をしたので、ついそんなことを口走ってしまった。
そして俺はこういう時必ずと言っていいほど正解を引いてしまう。
「よくわかったっすね!!その通りっす!!........あ、なんだ。ボスの作戦だったんすね」
なーんだそういうことかーと言いながら、どこかホッとした表情のレイズ。
いや違いますが?
何もかもが間違ってますが?
そんな作戦あるわけないんですが???
こいつら、マジでこういう時の頭の作りが狂ってやがる。
俺、そんな話一言もしてないじゃん。しかも、この軍から1度も離れてないからどうやってもドラゴン呼ぼうぜなんて作戦を立てられるわけがないじゃん。
「なんだよボス。準備してるならそう言ってくれよ。やっぱり勝つならパーフェクトゲームだよな!!」
「うんうんそうだね(諦め)」
「それじゃ、みんなを呼んでくるっす!!エンシェントドラゴンを呼び出すだなんて、さすがはボスっすね!!」
「うんうんそうだ........は?エンシェントドラゴン?」
もう全てを諦めて、適当に会話を流そうとした俺だったが、流石にその言葉は聞き逃せなかった。
エンシェントドラゴン。古の竜。
かつてこの世界に1度だけその姿を現し、この世界の人類に多大なる被害をもたらした伝説のドラゴン。
この世界に来てまだ1年も経っていない俺ですら、その伝説は知っている。
南アフリカのとあるダンジョンから出現したその竜は、サハラ砂漠から下の場所を尽く消し飛ばしたとされている。
当時はまだ魔物に対する対抗策がわかっていない時期であり、ありとあらゆる軍が壊滅。
北アフリカ以外の国々は滅ぼされ、この調子で行けばアフリカ大陸どころか世界そのものが滅びると言われていたほどだ。
当時のハンター達を可能な限り集めまくり、討伐隊を結成し死闘の末に何とか勝ったとされているが生き残ったのはわずか3名。
数万人近くのハンター達で挑んだ結果が、これなのだ。
そして、生き残った3名は世界で最初のSランクハンターと認定されそのハンターを有していた国は他国よりも1歩先に行った言われている。
それが今の三大大国、FR(フランス)USA(アメリカ)EGY(エジプト)である。
エンシェントドラゴンはこの世界のパワーバランスを決めてしまった存在なのだ。
そして、その死体はFRが半分以上を買取り、残りはUSAとEGYで分けたとされている。
この世界の歴史を学ぶ上では絶対に欠かせない話であり、今の小学生なんかも学ぶ程には有名な話である。
1歩間違えれば世界は滅んでいたし、エンシェントドラゴンの討伐によって世界のバランスが決まった。
今でもその3人は人類の英雄としてた称えられ、あのアーサーに並ぶ有名人として人気を誇っている。
しかし、彼らは誰一人として子孫を残すことはしなかったんだとか。超絶な力を手に入れた代わりに、人を愛することはできなくなってしまったらしい。
割と問題児で国の言うことも聞かなかったらしいし、扱いやすさではアーサーに軍配が上がるだろう。
人を愛せないのは同じだけども。
あれ?もしかしてその英雄たちも狼とファックしてたりしてんのか?狼人間を見つけたら、先祖様の話でも聞いてみるか。
「エンシェントドラゴンだなんて、ボスもえげつないものを用意するな。下手したらPOLが滅んじまうぜ?」
「あの話の流れで俺が用意したと思えるその頭に俺は驚きを隠せないよ。あぁクソッタレ。どうしていつもこうなんだ」
「ボスともなれば、エンシェントドラゴンでも余裕って事っすね!!流石はボスっす!!」
レイズ、お前本当はわかってて言ってるんじゃないだろうな?
もしかして、お仲間全員が同じようなことを思っている?だとしたら最悪だ。
神様頼むから死んでくれ。まだ疫病神の方がマシかもしれねぇよ。
俺はそう思いながら、どうせ俺のせいになるんだろうなと全てを諦めていた。
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