ニトロウォーター
もうすぐ俺の誕生日だと言うことを知った仲間達は、今までに見た事がないほど張り切っていた。
人の誕生日を純粋に祝える奴らだということにも少し驚きだが、それ以上に俺の誕生日というのにここまで固執するとは以外である。
誕生日とは所詮生まれた日と言うだけであって、そこまで特別な日じゃない。
毎日世界各地で誰かの誕生日が祝われているのだ。
俺はそんな中の一つでしかない。
しかし、仲間達にとっては大きな意味を持つのだろう。
みんなが祝いたいと言うのであれば、大人しく祝われるのが人というものである。
「よしできた。いやー、昔の研究が役に立ってよかったな。これを作るのは正直あまり好きじゃないが、今日ばかりは仕方がない」
「何を作ってたんだ?アリカ」
作戦を明後日に控えた俺達は、各々が戦争につさ向けて準備をしていた。
俺は特にやることもないので暇をしていたが、アリカは何やら能力で作っていたらしい。
偶然それを目にしたので聞いてみる。
俺の声に振り返ったアリカは、ニヤニヤと笑うとその大きな胸を張って俺に自慢をしてきた。
「昔、植物の成分だけで爆薬が作れないか考えたことがあってな。興味本位で色々と実験していたのさ。ニトログリセリンって知っているか?」
「確か、ダイナマイトとかに使われる有機化合物だったかな?爆破物でありながら治療薬にもなる言葉通り、使い方次第のものだったはずだ」
「そう。グレイお兄ちゃんは賢いな。ニトログリセリンは爆薬に使われるし、治療薬にもなる。作り方はグリセリンを硝酸と硫酸の混酸で硝酸エステル化すると作れる訳だが、これを植物の成分から抽出できないかという実験をしていたわけだ」
な、なるほど?
流石に混酸とかエステル化とか言われても分からんが、要は植物でニトログリセリンって作れるんじゃね?という実験をしていたという解釈でいいのかな?
アリカは当たり前のように専門用語を使うため、こういう話になると何を言っているのか全く分からない時が多々ある。
自分なりの解釈をしないと、マジで何を言っているのか分からない時があるからな。
そういう時は“もっと噛み砕いて分かりやすく”とお願いするしかない。
「作れたのか?」
「結果から言えば、作れた。が、その研究の過程でもっとヤバいやつが作れてな。わずか0.1gだけしか生成出来なかった本物の劇物が現れちまったんだ。多分、この世界でわたしが初めて発見したんじゃないか?条件も素材も滅茶苦茶だったし、かなり複雑なものだったからなぁ」
「アリカがヤバいって言うと、シャレにならなさそうだな」
「あぁ、シャレになってない。当時は私も偶然できた産物で何も分かってなかったから、ニトログリセリンのように水と混ぜて感度を落としていたんだ。そしたらそれが大間違い。どうやら、水に混ぜると効力が倍増するヤベー奴でな、放置していたら研究室が吹っ飛んだ。いやー、ほんと一歩間違えたら私も死んでいたよ」
ケラケラと笑いながら、サラッとやばいことを言うアリカ。
毎度毎度危険な研究をしているのは知っているが、そこまで危ない実験をしていたのかこのロリっ子マッドサイエンティストは。
毒を自分の体で試していても“一歩間違えたら死んでいた”とは言わないほどにキモが座ったイカレサイコパスが、そういうということは本当に間違えたら死んでいたのだろう。
それだけで爆破の威力が凄まじかったことがよくわかる。
「1gでも作っていたら、研究所そのものが吹っ飛んでたな。会社に迷惑をかけることになってた。研究室だけだったから、笑って許してくれたけども」
「........あぁ。あの会社か」
テキサス州ダラスにあるクソデカ製薬会社の社員だった時の話か。確かに、あのおっちゃんなら研究室を吹っ飛ばしたぐらいは笑って許してくれそうである。
だってアリカに甘いし。あの人たち。
そう言えば、もうすぐ移転の準備が整うとか言ってたな。そろそろ日本にやって来そう。
後、ミルラの両親も今のUSA(アメリカ)情勢からこっちに来ようか悩んでいるらしい。
POLに来る前に連絡があったので、いつでも来てくれていいよとは言ってある。
日本はカジノとか賭け事を禁止してないので、カジノを作ってもいいかもな。
ただし、破産者が出ても困るのでそこら辺の対策はしなければならないが。
賭け事が弱いやつほどギャンブルにハマるからな。ほら、メジャーで通訳していたやつみたいに。
あれ、すげーよな。あそこまでまけられるのはもはや才能だよ。ジルハードですら引き際を弁えているというのに。
「で、見事研究所を吹っ飛ばしてしまった訳だが、そんな中で得たのがこれ。名付けてニトロウォーターだ」
「ほう。その効果は?」
「水に触れると超爆発を起こす。初めて作った時は水に触れてから一定時間の経過が必要だったが、こいつはそんなちゃっちいものじゃない。1gでも水に触れるとTNT換算で35kg程度の爆発を起こす。取り扱いがすごく難しいからあまり好きじゃないんだが、こと戦争に置いては凄まじい破壊力を持つぞ」
「1gで対戦車地雷の威力........?おい待て、その試験管に入ってる液体全てが........」
「そうだニトロウォーターだ。多分各一発分に届かないぐらいの威力は出るんじゃないか?リーズヘルトお姉ちゃんに空から落としてもらえれば、その衝撃でも爆発するぞ。これを量産して空爆でもしてもらおうと思ってな」
なんでそんなに純粋な顔してるの?ねぇ。
ガチでやばいものを作るんじゃねぇ。
個人で作っていいレベルのものじゃないぞこれ。たった一人で戦略級兵器を作るとか、頭イカれてんのか。
レミヤも大陸弾道ミサイルみたいなのを作れると言えば作れるが、あれは結構威力が控えめだったりする。
本人いわく、ビルをひとつ破壊するぐらいが限界らしい。
それでもぶっ飛んでいるが、それよりもヤベー物を平気で出して来ないで。
ガチの人間核兵器じゃねぇか。Hey、ブラザー。この幼女危なすぎるよ。
多分、俺の今の顔は引きつっている。
いや、これを聞いて引き攣らない方がおかしい。
もしかして、アリカって滅茶苦茶強いのでは?
植物兵器も作るし、核に相当する爆薬すらも作ってしまうとか、もう終わりだよこの世界。
「量産するの?」
「するつもりではあるが........そこまで沢山は作れないだろうな。せいぜい5本辺りが限界だぞ。これ、取り扱いが難しすぎてすっごい集中力を使うんだ。偶然できた時よりもな」
「改造しまくった結果か........アリカ。今後日本でそれを使うの禁止な」
「当たり前だ。こんな状況でもなければ作らないよ。私だって好き好んでこんな馬鹿げたものを作っているわけじゃないんだからな」
「本当か?そういう割には、顔が輝いて見えるんだが?」
鏡でも用意してやろうか?今のアリカは、新しいおもちゃをもらって遊ぶのを心待ちにしている子供そのものだ。
あのヤク中親父。とんでもねぇ教育を娘にしてくれたな。
地獄まで行って一言文句を言ってやりたいぜ。
「ふへっ、だって使う機会がないと思っていた私の最高兵器が輝く日が来たんだ。少しぐらい楽しみに思ってしまうのは仕方がないさ」
「マジで狂ってんな。まぁ、とりあえず誤爆して死ぬようなまではするなよ?そんな事をしたら俺の誕生日は葬式に早変わりだ。赤いキャップを被ってケーキを食べる日に、黒い喪服を着て精進料理を食いたくはねぇからな」
「ハハハ。安心してくれ。さすがにそれは弁えてる」
本当か?不安しかないんだけど。
アレだな。一応念の為にミルラとリィズを監視につけよう。この子、マジで危ない子だから。
俺はそう思うと、アリカってこの世界でもトップクラスに危険人物なのでは?と思いながら、頭を撫でてやるのだった。
【ニトログリセリン】
有機化合物で、爆薬の一種であり、狭心症治療薬としても用いられる。
わずかな振動で爆発することもあるため、取り扱いはきわめて難しいが、一般的に原液のまま取り扱われるようなことはなく、正しく取り扱っていれば爆発するようなことは起きない。昔は取り扱い方法が確立していなかったため、さまざまな爆発事故が発生していた。実際の爆発事故は製造上の欠陥か取り扱い上の問題がほとんどである。日本において原液のまま工場から出荷されることはない。綿などに染みこませて着火すると爆発せずに激しく燃焼するが、高温の物体上に滴下したり金槌で叩くなど強い衝撃を加えると爆発する。
なお、アリカの作ったニトロウォーターはガチの危険物。薬になるはずもなく、水に触れたり強い衝撃で大爆発を起こす。
中部戦線の後方。FR軍が陣を構える場所から少し離れた場所には、一つのダンジョンが存在する。
「ったく。補給が来ないから自分たちの手で飯を探さなくちゃいけないだなんて勘弁願いたいぜ」
「全くだ。飯を調達する当番の日ぐらいは戦争に参加したかねぇわ。こっちも命懸けなんだぞ」
抵抗軍によって補給を絶たれたFR軍は、何とか食料だけでも確保しようと近場のダンジョンで魔物を狩っていた。
ハッキリ言って食えたものじゃないゴブリンの肉も、今は貴重な食べ物である。
それでも、数師団を賄うほどの量を確保するのは難しいので徐々に彼は弱っていた。
「戦争なんてやるもんじゃねぇよ。クソッ、家に帰ってゲームの続きをやりてぇぜ。昔は国のために働こうなんて言って、軍に入ったがこんなことなら自宅を守ってた方がマシだ」
「ニートってか?おいおい、そんな事をしたら次に戦うのはお袋さんだぜ?銃を持った敵兵よりもおっかねぇや。子供は親に勝てねぇからな」
「ハッハッハ!!そりゃ違ぇねぇ。アルバイトはしておくべきだな。銃よりもフライパンの方が怖ぇや」
彼らは知らない。その奥に眠る竜を。
彼らは知らない。その竜が目覚めつつあるのを。
彼らは知らない。彼らが偶然その竜を目覚めさせ、不快に思わせてしまったことを。
彼らは知っている。その竜の伝説を。そして、その竜の名前を。
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