誕生日


 ミルラが割と本気でレズの道に走ろうとしているのに頭を抱えながら、俺達はようやく中部戦線の後方にやってきた。


 いやー、人ってすごいね。


 ミルラ、マジでリィズの事を好きになってる。


 ローズが“元々そう言う素質があった”とは言っていたが、もう可愛い女の子なら誰でも愛せるんじゃないかな?


 ちなみに、俺は別に寝盗られたとか思ってない。


 だって女の子同士だし。リィズがそれで俺に構ってくれなくなるとかないし。


 もし、構ってくれなくなったら拗ねるけども。


 人間関係で組織が崩壊するとかよくある話だが、案外ここら辺はみんな寛容だ。


 なんと言うか、“私も愛してくれたらそれでいいよ”みたいなスタンスがある。


 うん。まぁ、いいんじゃないか?これで組織が崩壊するとか、みんなの仲が悪くなるとかない訳なんだし。


 俺はそれよりも、リィズが楽しそうにしているのを見れて嬉しい。ミルラとイチャイチャしているの見れて眼福だぞ。


 見た目だけはいいからな。ミルラは。


 見た目以外はどうなのかと言われると、物凄く言葉に困るが。


 仲良きことは美しきかな。武者小路実篤先生もそう言ってた。


「ここからは迅速に動きます。流石にこれほど大きく動けば、奴らもどう動いているのか感づいていることでしょう。対応策を取られる前に潰す。それが勝利条件です」

「レミヤが妨害しているとはいえど、街の近くなんかも通ったから情報は流れているだろうな」


 そんなキマシタワー!!な展開を微笑ましく思いながら、やってきましたは中部戦線から少し離れた後方。


 まだ戦闘音が聞こえないぐらいの場所で、俺達は作戦の最終確認に移っていた。


 現状、中部北部戦線は停滞。


 お互いに血を流しながら、1歩も譲らない殺し合いをしているのだ。


 補給路の確保や移動距離の長さからFRの方が若干不利とは言えど、ここまで持ちこたえられるPOLは普通にすごい。


 上がとんでもなく腐っているだけで、国民は真面目なんだなという事がよく分かる。


 ジョンソン少尉みたいな、有能で真面目なやつが多いのだろう。


 グダニスク?あそこは例外だ。


「北部中部戦線共に攻勢を仕掛け、我々もそれと同時にうごく事となっております。制空権は確保出来ているので、上からの爆撃は心配ありません」

「爆弾が降ってきて殺される時が1番しょうもないからな。と言うか、空軍は強いな。ここまで制空権を推し返せているのか?」

「先日、FRの補給路が壊れた事と、DEU(ドイツ)に会った飛行場が襲撃されたことにより、制空権がかなり狭まったそうでして。流石はミスターグレイ。抵抗軍の勝利がここれほどまでに我々に有利に働くとは思ってませんでしたよ」


 俺も思ってなかったよ。抵抗軍がここまで有能で馬鹿だったなんて。


 補給路を破壊した抵抗軍。彼らの勝利はDEU(ドイツ)国民の魂に火をつけた。


 レミヤが流したマンハントの動画が一気に拡散されたことも相まって、今占領下のDEUではレジスタンス活動が広まり始めている。


 彼らが勝利を上げてから僅か二週間で、凄まじい戦果を次々と上げているのだ。


 ベルリンの奪還にはまだ至ってないが、ベルリンでも大規模なレジスタンスが起き始めている。


 本軍と呼ばれるボックス達が率いるレジスタンスは、レミヤから提供された情報を元に襲撃を繰り返し徐々にFRの戦力を削ぎ落としていた。


 すごい。凄いんだけど、なぜ最初からそれをやらないのか。


 第二次世界大戦から随分と間が空いて、平和ボケでもしていたのか?


 自分達が奪われてからようやく火が灯るとは随分と遅いとは思わないか。


 まぁ、抵抗を始めるだけマシなのだが、あえて言おう。最初からそれをやれと。


 完全に手遅れになる前に彼らは立ち上がったが、1歩間違えれば全てを失っていただろうに。


 日本帝国ではそんなことが起きないようにしっかりと教育させないとな。この際、ガチガチの宗教洗脳とか用いてもいいかもしれん。


 宗教って楽だよな。思想の統一という点に関しては、本当に使い勝手がいい。


 そりゃ新興宗教団体を作るわけだ。数ある人類の中で数百、数千人取り込むことが出来れば、あっという間に上に立つ連中は金が手に入るのだから。


 流石に日本ではそこまでやらないけど。


 あくまでも、自国の防衛と自国愛を持たせるためだけのためにやるのである。


 その為の便利な世界樹君がいる訳だしね。あれ、多分ガチの神に近い存在だし。


 ........その点で言えば、ピギーも1種の神様なんだよな。


 力が強すぎて邪神すらも殺すレベルの化け物だが。


 俺だけはお前を信じているからね。こんな世界に放り込むだけ放り込んで、めちゃくちゃな人生を歩ませているクソッタレの神よりは全然信じられるよ。


「ねぇ、グレイちゃん。そろそろ国に帰りたいし、もうこの戦争を終わらせてもいい?」

「ん?戦争なんて早く終わってくれた方がいいんだし、終わらせて貰えるなら終わらせて欲しいな。なんでそんなことを聞くんだ?」

「いや、ほら、グレイちゃんの計画の邪魔になっちゃわないかなって。レジスタンス時のように、何かやるべきことが残ってたら困るでしょ?」


 俺の後ろに抱きついて、頬を擦り合わせながらそういうリィズ。


 あの、別にレジスタンスは何も狙ってないんですけど。何度言えばわかるんですか君達は。


 なんか知らんけど勝手にトップにされて、意味のわからんオールハイルグレイとかいう造語を作られているだけなんですが。


 俺も早く帰りたいよ。誰が好き好んで戦争の最中で僅かな平和を感じるんだ。


「無いよ。最終的にPOLが買って、DEUに恩を押し付けられたならそれでいいよ」

「なら、街を破壊せずに戦場だけ焼き払えばいいね。早く帰りたいよ」

「どうしてそんなに早く帰りたがるんだ?」

「もうすぐグレイちゃんの誕生日でしょ?どうせなら、国で祝いたいじゃん」


 ........え、そんな理由で戦争を終わらせる気?


 確かに俺の誕生日はもうすぐだ。


 10月18日。


 前の世界の話だが、それが俺の誕生日である。


 この世界も時間の流れや月日は同じなので、俺の誕生日は同じ日にしている。


 と言うか、覚えてたんだな。


 俺はリィズにだけ俺の真実を話している。


 五大ダンジョンを攻略する理由や、俺の過去がいくら調べても出てこないことなど。リィズはありとあやゆることを知っているのだ。


 世界で唯一、俺が俺であることを知る人物。それがリーズヘルト・グリニアと言う存在なのである。


「あ?ボス、もうすぐ誕生日なのか?」

「グレイちゃんは10月18日が誕生日だよ」

「マジかよ。後10日しかねぇじゃねぇか。もっと早く言ってくれよ。そうしたら、もっと真面目に仕事したのに」

「へぇ、グレイお兄ちゃんの誕生日は聞いてなかったな。それはいち早く戦争を終わらせないと。仕方ない。私の取っておきも使うか」

「主人の個人情報はどれほど調べても出てきませんでしたが、こんなところで知ることになるとは。イエス・キリストが生まれた日よりも大事な日ですよ。そんな事をなぜ隠していたのですか」

「いや、俺は別に祝ってもらいたいとか思ってないし........」

「ボス。いいですかボス。ボスにとってはどうでもいい日でも、私達にとっては神々が戦争を引き起こそうが天変地異が起きようが絶対に祝わなくてはならない日なのです。分かりますか?分かりますか?」

「ミルラ、目が怖い........」

「フォッフォッフォ!!その日は休日にせねばならんな!!我が祖国の再建者にして、偉大なる天皇陛下の跡を継ぐ人の生まれた日なのだからな!!」


 やめておじいちゃん。天皇陛下系の話題には触れないで。それすっごいデリケートだから。


 日本人からすると、滅茶苦茶恐れ多い話題になるから。


 それにしても、たかが生まれた日を祝うだけの事がこんなにも重要視されているとは思わなかった。


 我、ただの人間ぞ?なんでこんなに誕生日パーティーをすることに命をかけてんだこいつら。


 そりゃ俺だって小学生の頃は誕生日が嬉しくてたまらない可愛い子供だったが、流石に高校生にもなるとそこまで嬉しいものでも無い。


 ちょっと豪華なご飯が食べられるぞやったー!!ぐらいにか思ってなかったからな。


 え?友達に祝われたりしてないのって?


 うるせぇ黙れ。誕生日を祝い会う友人なんていねぇよ。


 ちなみに、俺の誕生日ではお袋が俺の好きな料理を作ってくれる。白菜と春雨のスープとトンテキ。そしてちょっとしたデザートが俺の誕生日の楽しみだった。


 あぁ、あまり考えないようにはしていたけどお袋の作ってくれる料理が食いたい。親父のでもいいぞ。とにかく、我が家の味が食べたいなぁ........


 作り方、学んでおけばよかった。


「ボスにも誕生日とかあるんすね........」

「レイズ?お前は俺をなんだと思ってんだよ」

「いや、ボスのことだから、誕生日とかいう概念が存在しない神様なのかと........」

「普通の人間だよ。その手に持ってるアサルトライフルで頭をぶち抜いたら普通に死ぬよ」

「ふふふっ、それにしても誕生日ねん。懐かしいわ。誕生日の日はいつも崖に突き落とされて、登らされたわん。それを登りきると、ご馳走が待っていたのよん?ボスも崖から落ちてみる?」

「そんな特殊すぎる誕生日パーティーはごめんだ。第一、崖から落ちた時点で死ぬわ」


 それ、誕生日パーティーじゃなくて殺人未遂って言うんですよローズさん。


 ローズの家庭もまぁまぁイカれてんな。


 自分の子供を崖から突き落とすとか、バキの世界でしか見た事ねぇよ。


 そういえば、ローズの親父さんの情報が未だに入ってきてないんだよな。おばちゃんにも手伝ってもらっているというのに、なぜ見つからないのやら。


「ジョンソン少尉。そういうわけだから、今から本気でやるね。大丈夫。自軍には被害者を出すようなことはしないから」

「........本部に連絡を入れておこう。そして、私では止められないこと、グレイ殿の誕生日パーティーには何を送ったらいいのかの相談をな」


 そういったジョンソン少尉の顔は、呆れ果てていた。


 と言うか、ジョンソン少尉。別に無理して誕生日プレゼントを送ってくれなくていいんだぞ。





 後書き。

 グレイ君が生まれた日=神が誕生した日

 と言う式が成り立つのがこの組織。あれ?宗教団体に見えてきたぞ?

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