そう言うこと


 捨て駒を手に入れた俺は、早速彼らにFR軍の邪魔をしてもらうことにした。


 俺達はこのまま北上し、POL国境部に張り付いているFR軍を叩きのめす。


 抵抗軍はDEU(ドイツ)奪還の為に国内のFR軍に抗う。


 俺達は彼らにFR(フランス)の動きを共有し、彼らは本来得られなかった情報を得る。


 そして、彼らが活動することによって俺達に対しての視線を少しでも遠ざけることが出来るようになる。


 これぞwin-winの関係。俺達は得するし、彼らも得する。


 別に抵抗軍が死のうがどうだっていい。少しでも暴れてくれればそれでいいのだ。


 正しく捨て駒。俺達にとって彼らはそこら辺の小石と変わらない。


 ただ、投げて当たったら痛いよねという話。それだけだ。


「これで補給路を破壊してくれれば最高なんだけどな。一応、一番壊して欲しい補給路を教えてあげたが........上手くいくかね?」

「わずか1師団にも満たない戦力で、命綱ともなる補給路を簡単に攻略させてくれるとは思わないがな。ボスも人が悪いぜ。ありゃ完全な捨石だろ」

「石は古代から使われた狂気だぜ?もしかしたら、石が銃に敵う日が来るかもしれんだろ。戦いは、必ずしも強い武器を持っている奴が勝つわけじゃない。精々クソのついでにでも祈ってみようぜ。もしかしたら、勝利の女神様が微笑んでくれるかもしれないじゃないか」


 俺達に砲撃を行った彼らを逃がし、行軍を続ける俺たち。


 抵抗軍は十中八九負けるだろうが、少しでも補給路を攻撃できたのであれば、その分補給を遅らせることが出来る。


 そして、その遅れは前線で戦う兵士達の気力を削ぎ落とし、少しばかり有利に戦いを進められるはずだ。


「契約で縛らなくて良かったんすか?やろうと思えば無理矢理にでも突撃させることが出来ましたよ?」

「いいよ。俺達に危害を加えることは無いだろうし、あとは好きにやってくれれば。無理矢理戦争に参加させるよりも、自分の意思で頑張って貰った方がいい結果が出るかもしれないだろ?モチベーションは大事だぜレイズ。今日は働きたくねぇって時に働かされると、仕事のスピードも落ちるだろ」

「確かにそうっすね。それでも働かなきゃいけないのが辛いですが」

「まぁそんなもんだわな。だが、できる限りの休息は必要だ。だから、うちの国はホワイト企業を目指してるんだしな」


 発展途上国である我らが日本帝国。


 俺はかつて(前世)の日本を見て、ありらかに悪い部分は全てとっぱらおうとしている。


 消費税とかそこら辺の税金に関してはともかく、働き方については明らかに効率が悪かったからな。


 一日8時間労働を義務だと思ってやがる。違うだろ。最大でも8時間までしか働いてはダメですよが本来のあり方だろ。


 そんな訳でこればかりは王達にも徹底させるようにしている。


 8時間以内に仕事を終わらせろ。終わらないなら、他の人も雇って使え。そして、残業はするな。


 そんなことを口うるさく言ったかいもあり、今では残業は悪という空気ができ始めている。


 ちなみに、ここで言う8時間労働は職場への拘束時間だ。休憩時間とかあるけど、家で休むのと仕事場で休むのとじゃまるで違う。


 営業時間外収入に直結する飲食店や、家畜の世話をしなければならない牧場経営者などに関しては補助金を出すようにと言ってある。


 まぁ、そこら辺の調整は俺の仕事ではない。王達が上手くやってくれているので無問題だ。


 今は外貨に頼り切りの時期だからちょっと国庫が辛いけど、ここを乗り越えれば自国内で経済を回せるようになる。


 あと1年もあれば、安定し始めると言っていたのでそれまで俺達が頑張って外貨を得る手段を持たなければならない。


 ゲームをやっていた時も思ったがら内政ってクソ面倒だな。俺は理想を言って丸投げしているだけだからいいけど、王達への負担は滅茶苦茶でかそう。


 今度、いっぱい差し入れでも持ってくか。王達が気に入りそうなものを。


 汚職とかは無いから、税金は有効活用できるのが嬉しいね。レイズの能力によって官僚や上に立つ者は確実に縛ってあるから。


 ドワーフ。なるべく早くレイズの能力を再現した道具を作ってくれ。お前らドラえもんみたいな格好してるんだし、テレテテッテレー“強制契約書(裏声)”をしてくれ。


「確かにモチベーションというのは大切だな。私もその研究に飽きてくると、ダラダラやってしまう時があるし」

「そういう時はどうしてるんだ?」

「別の実験をしている。その実験中に思いついたことを適当に試しているよ。で、モチベーションが戻ったら元の実験に戻ってた。グレイお兄ちゃんはモチベーションの維持とかどうやってたんだ?」

「俺か?俺は決めた量を必ずやるようにしていたよ。毎日な。習慣化させるのさ。毎日毎日やり続けて、最終的にやらないと気持ち悪くなるようにする。すると、いやでもやるようになる。モチベーションとか関係なしに、嫌だなぁとかも思わなくなるぞ。無理矢理自分を慣らす方法だな。心を無にしてできるようになる」

「随分と強引な方法だな」

「そうでもしなきゃ、俺はやらない子だったんだよ。これには一つポイントがあって、最初は無理のない範囲でやるのさ。勉強で言えば教科書の見開き1ページを覚えるとかだな。あまり時間もかからないし、そのぐらいならできそうだろ?」

「できるだろうな」

「で、段々と慣れてきたら、次は二ページに増やす。最初は嫌だろうがどうせやってりゃ慣れる。ここで重要なのは、その日は調子がいいからもう1ページとかやらないことだ。そして、その日は調子が悪いからやらないということをしない事。毎日必ず決まった量をやる。人間は欲に弱い生き物だからな。1ページ余分にやった日があると、翌日“昨日余分にやったから1ページだけでいいや”って思考になりやすい。そうすると、習慣化しなくなる」


 これは、一種の勉強方法だ。習慣化させてしまえば、あら不思議。嫌だなぁとか一切思わず、機械的にやるようになる。


 俺はゲームでこれをやっていた。作業ゲーの時は毎日ここまで進めると決めて、それ以上も以下もならなかったのだ。


 尚、勉強ではやらなかった模様。


 両親はゲームやイカサマは強制的に教えていたが、勉強だけは何も言ってこなかったからな。


 おかしいだろ、ゲームをやれ。イカサマを覚えろとかいう親なんて。


 お袋も親父も割と普通の親ではあったが、そこだけはおかしいよなと子供ながらに思っていたよ。


 数少ない友達にその話をすると、羨ましがられたが。


「そんなやり方でモチベーションを維持させるとか、ボスは変わってますね」

「ソロゲーの基本だ。いいか、ゲームは習慣化させてやることで長く続けられるんだよ。クリア出来ないクエストがあっても、一日最低でも1回は挑むとかやってれば、いやでも上手くなる」

「いや、そもそもゲームは楽しむものでしょうに。機械的にやる意味なんてないでしょ........」


 それはそう。


 ゲームは楽しむためにやるもの。苦しみながらやるゲームなんて、ゲームではない。


 一時期俺はゲームが嫌いになってたしな........それでもやり続けてたら、知らない間になんとも思わなくなったのだが。


「一番の問題点は、実行するのが難しいことか。慣れるまでに心が折れる」

「それを乗り越えたら強くなれるぞ。主に精神的に。嫌なことでも、どうせ慣れるしなって考えられるようになる」

「結局慣れじゃねぇか」


 こうして、行軍は続く。あと2週間ほどで着くらしいけどその間が暇だなぁ。




【八時間労働】

 世界史的に「8時間労働」という基準値が生まれたのは、産業革命時代のイギリス。当時、子どもを含む工場労働者が1日に10時間を超えて働かされている過酷な状態を改善するために、「仕事に8時間を、休息に8時間を、やりたいことに8時間を」というスローガンが叫ばれ、労働時間短縮を求める運動が欧米各国に広がった。

 日本で最初に8時間労働が導入されたのは1919年。川崎造船所が導入したと言われており、八時間労働発祥の地の碑がある。




 グレイに捕まり、開放されたシャーリーとボックスはPOL軍から離れるとコミュニティに情報を書き込んでいた。


 このコミュニティは抵抗軍の中でもインターネットに詳しいエンジニアが立てたコミュニティであり、FR軍ですらハッキングが難しい程に強固なセキュリティが敷かれている。


 軍に所属していない天才は数多く、このサーバーを建てた人物もまたそんな天才の1人であった。


「なぁ、さっきは気づかなかったし、お前は寝ていたから分からないだろうがあの顔、どこか見覚えがあると思ったらアイツだ」

「あいつ?」

「史上最悪にして最もFRに打撃を与えたテロリスト、グレイだよ。懸賞金六億ゴールドの、頭のイカれたテロリストだ」


 ボックスは、恐怖のあまり気づけなかったが冷静になった今ようやく気がつく。


 あの男は、世界を騒がれせる厄介者、グレイだと。


「それがどうしたの?」

「考えてみろ。奴は反FR思想を持ったヤベー奴だ。そんな奴が俺達に情報を流したってことは、グレイは俺達に期待をしてくれているんだ。自分たちと同じ志を持つ同志として」

「........確かにそうかも?」

「間違いない。だって俺たちに態々補給路を教える理由が見当たらないからな。きっと、グレイは俺達が戦う力をくれたんだ。情報はその表れ。今はぐたぐたなコミュニティを何とか団結させて、自分と共に立ち上がろうというメッセージなんだよ」


 否。彼らは捨て駒である。


 あわよくば掻き乱してくれないかなと思っての行動であり、別に期待など欠片もしていなければそもそも反FR思想の持ち主でもない。


 が、事情を知らないものからすればグレイは反FR思想の持ち主に見えるだろう。


 何も考え無しにダンジョンを爆発させてテロを引き起こすわけが無い。


「私達は期待されている?」

「そうだ。グレイを旗印に、俺達は国を守るんだ。団結の為の象徴。連絡先もくれたしな。これは、そういうことだろ」

「そうだね。そういう事ね」


 この場に本人がいたら、“どういうことだよ”と言うだろう。


 しかし、グレイはここにして抵抗軍の旗印となってしまったのである。

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