悪くない


 なんかちょっと可哀想になってきたボクちゃんに助け舟を出してあげようということで、俺はちょっとした仕込みを済ませる。


 とは言ってもやる事はそこまで難しい事じゃない。ただ、日本に彼が密入国をしてきたことを確認したら優しく保護しろとだけ伝えただけだ。


 ハンターの情報はハンター協会から調べることが出来る。顔写真などは公式サイトから閲覧できるので、顔を知らせるのは簡単なのだ。


 今すぐに彼を迎え入れるのは無理だが、CHE(スイス)との戦争が終わり次第助言だけ残してあげよう。彼がこの気なら、きっとこの国に来てくれるはずだ。


 日本帝国は圧倒的に人間の数が少ないから、移民大歓迎だぞ。もちろん、犯罪者や問題を起こすやつは即刻死刑だが。


 そんなわけで、助け舟の用意だけは済ませた俺たちは、ボクちゃんに構いながらちょっとした暇な日を過ごしていた。


 どうも参謀本部は、俺達がここまで馬鹿げた戦果を上げるとは思ってなかったらしい。


 戦線を維持してくれればそれでいいみたいな考え方だったらしいが、ウチの最高戦力を舐めすぎだ。


 実質たった一人でCH(中国)を滅ぼした人類核兵器こと上泉吾郎に、改造人間でありとあらゆる事柄において対抗策をもつリィズ。


 世界でも有名な拳法の使い手にして気功術の達人ローズ。そして、自称超高性能AI搭載のポンコツメイドレミヤの4人がいれば、大抵のことはなんとでもなってしまう。


 強すぎか?こいつら。


 レミヤはポンコツ扱いされることが多いが、彼女も戦闘力で言えば凄まじいものを持っている。


 特に面制圧に関しては一級品であり、瞬間火力もその気になればじいさんを越えられるらしい。


 まぁ、実際に見てないのでなんとも言えないし、デメリットが大き過ぎて余程窮地に陥らない限りはやらないらしいが。


 そんな、言葉通り一騎当千の彼らが暴れ散らかしたのだ。


 POLの参謀本部は人外の強さを理解していない。その気になれば、たった一人で国をぶっ潰せるような連中の集まりなんだぞこっちは。


 周囲への被害を考えず皆殺しだけを意識したら、多分アリカも国を消せるしな。


 一滴で国を覆う程の猛毒みたいなのとか普通に作れそうで怖い。


「北部、中部戦線はやはり停滞していますね。FR軍としては冬が来る前に戦争を終わらせたいでしょうけど、これだと厳しそうです」

「なんだ?ナチスみたいにモスクワマラソンでもするのか。真冬の大地は怖いぞ。何せ、スコップを地面が弾き返すからな」

「第二次世界大戦では地面を掘れず塹壕を作ることすら出来なかったらしいな。ヨーロッパの冬は寒いし雪が降るしで面倒が多い。シモヘイヘぐらいだろうよ。雪が降って喜ぶのは」

「口に雪を詰めて息を潜めるってか?そんな戦い方はしたかねぇな」


 俺はそう言いながら、能力で出したお茶をすする。


 第三次世界大戦が勃発してから約二ヶ月。季節は秋に差し掛かり、徐々に暑さが消え始めている。


 どうもこの世界の季節は異常気象があまり起きないようで、割と予測がしやすいらしい。


 その対価としてダンジョンがこの世界に出現するだなんて、いい迷惑だ。まだ異常な気象に悩まされていた方がいいね。俺としては。


「もう9月だぜ。時の流れが早すぎて困るわ。また歳をとる」

「そんなもんだ。諦めろジルハード。人は時の流れに逆らえないんだよ。いや、時のみならずその全てがと似の流れには逆らえん」

「悲しいねぇ」


 季節は9月。俺がこの世界に来て九ヶ月が経過した。


 おかしいな?これほどまで滅茶苦茶な事ばかりが起こっていると言うのに、まだ九ヶ月しか経ってないのか。


 この世界に来て九ヶ月で、懸賞金20億のテロリスト........あぁ。頭が痛い。


 ひとつなぎの大秘宝の漫画でも、もっとインフレは抑えられてたぞ。太陽の神が10億首になったのは、2年後とかだからな。


 まぁ、実際の懸賞金は6億なのだが。


 どちらにしてもヤベーわ。


「これからPOL軍はどう動くの思う?ボス」

「そりゃ包囲殲滅に動き出すだろ。POLも別に余裕がある訳じゃない。出来れば、冬が来る前に少なくとも国境沿いの戦線は消したいはずだ。冬の戦争は補給路が限られるし、兵士達の士気も下がるからな。となると、俺達が必然的に裏を取る動きをすることになる」

「つまりは、行軍すると?この領土防衛軍を使って?」

「そうだ。最低限の軍事訓練を積んでいるんだから、ある程度の行軍や戦闘はできるだろう?なら多少の損害は覚悟して有利なうちに叩くのさ。civ(シヴィライゼーション)をやってて分かるだろう?戦争の基本は数が正義だ。そして逃げられないように囲むことが正義なんだよ」


 戦線が膠着している中で、裏から回り込まれればどうなるか。


 当たり前だが、戦線が増える。


 戦線が増えればどうなるのか。


 当たり前だが消耗が激しくなる。


 単純な戦法に思えるが、単純だからこそ強いのだ。包囲殲滅して着実に相手の軍を削り、勝ちに行く。


 civ(シヴィライゼーション)やHOI(ハーツオブアイアン)での基本戦術である。


「でも、それは相手も予測してるんじゃないのか?虚を突く作戦とか必要な気もするがな」

「アホか。そんな事ばかり考えているから、お前はゲームが弱いんだよ。こういう戦略系の戦いでは基本を忠実に守った方が強いんだ。第一、虚を突く作戦をするメリットがないだろ。FR本国に乗り込むか?少なくとも一ヶ月はかかるし、向こうだって馬鹿じゃない。本土防衛用の兵力は残しているし、POL戦線にいる連中が帰ってきたら逆包囲されるだろ」

「ひ、飛行機で空挺とか........」

「相手の制空権をくぐり抜けられる上で、本土を占領できるだけの兵士が投入できるならやってみろ。殲滅と占領は違うんだぞ。殺すだけなら俺たちでもできるが、市民を殺さず占領するのは難しい。周囲を威圧できるだけの数が必要になる。そういう空挺は、あくまでも戦線を増やすための手段でしかない。奇襲をかけることが目的になったら終わりだよ」


 空挺による奇襲攻撃が悪い訳じゃないが、それは制空権を取った上で相手の兵力が少ない場所尚且つ今後の増援が見込める場所出なければ意味が無い。


 ほら、HOIで空挺を使う時も港を占領する時とかが1番有効的だろ。まぁ、あのゲーム空挺が強すぎて普通に空挺連打で勝てる時とかあるけど。


 やっぱり時代は空だよね。ロマン砲の巨大戦艦とか時代遅れなんですわ(大和)。


「ジルハードさんは一撃でドカーンとやったり、奇襲をするのが好きですよね。使っている武器も大剣とかハンマーですし。動きが分からなくて被弾しまくるんですから、もっとあと好きの少ない武器を担いできてくださいよ。それか、ぶっ壊れ武器を担いでください。具体的には操虫棍とか」

「エキス取るのが面倒臭い。あれ赤ないとまともに戦えないからやだ」

「........主人マスターこのアホに何か言ってあげてください」

「性格と才能が噛み合ってない。でも、ゲームは楽しむものだから別に強要したりはしないさ。三乙しなきゃ許す許す」

「ボスゥ!!やっぱりボスは優しいな!!俺がどんな武器を担いでも文句言わないし、弱点殴らなくても文句言わないし!!二乙までは許してくれるし!!」


 えぇい、抱きつこうとするな気持ち悪い。


 ゲームとはそもそも楽しむものだ。ストレスを貯めてまでやるゲームなんて意味が無い。


 俺は忍耐力を身につけろとか言われて、ゲームをやらされていた時もあったけど。ポケットなモンスターで、手持ち全部レベル100になるまで他ゲー禁止とか言われた時は普通に苦痛だった。


 え?簡単だろって?


 それは今の話だろ。昔のポケは戦闘に参加したポケしか経験値貰えなかったんだぞ。


 今の時代のポケに学習装置とかあるのかな。あれ以来俺はポケがトラウマになってやってないんだ。


 そのお陰で結構な忍耐力はに身についたけども。


 クソみたいな事をクソみたいな記憶で補うとはまさにこの事。


 辛い時があると“あの頃よりはマシ”と思えるようになるからな。


 ........今の状況とレベル上げどっちがマシかと言われれば、圧倒的に後者だが。


 殺し合いの世界には流石に敵わないよ。今なら向こうの世界に帰っても大抵の事は許せそう。


 いや、癖で先に手が出るかも。そのぐらい俺はこの世界に染ってしまっている気がする。


「はぁ........グレイお兄ちゃん。静かにしてくれ。ライトが寝た」

「俺に言うなジルハードに言ってくれ。この見た目がおっさんのくせに精神年齢がガキのお守りをしている俺と変わるか?」

「植物で絡めとって動きを封じるな。それとジルハード、うるさい」

「あ、悪い」


 アリカに注意され、視線を向けるとそこでは捕虜になったショタがスヤスヤと寝ていた。


 なんといいご身分だこと。


 捕虜のくせして幸せそうに寝やがって。


「なぁ、あいつ一応捕虜だよな。よくあんな顔して寝られるもんだぜ」

「全くだ。捕虜の癖して図太すぎるよ。この世界で生きていく上では必要な技術だけどな」

「ちょっとばかり、こいつをうやらましく思うよ。私ももっと早くグレイお兄ちゃんに出会えていたら、こんな安らかな眠りが早く訪れただろうにな」

「その苦しみのおかげでこうして出逢えたんだ。今はそれで我慢するしかないよ」

「分かっているさ。それに、グレイお兄ちゃんの隣は心地いい。リーズヘルトお姉ちゃんの隣もな........なんだか眠たくなってきたな。私も寝るか。グレイお兄ちゃん、私の枕になってくれ。多少の我儘は聞いてくれるんだろう?」

「もちろん。俺はどこぞのミルラとは違うから、安心して寝てくれ」

「ふふっ、名前を言っているじゃないか。あぁ、たまには腕の中で寝るのも悪くない。抱きしめてくれ」


 幼児退行したボクちゃんを見ていたからか、若干甘えん坊になったアリカ。


 そうそう。それでいいんだよ子供なんて。甘えたい時に甘えればいいのだ。


 甘やかしすぎはダメだけども。


 俺は“俺も言うてガキだけどな”と思いつつ、俺にもたれかかって来たアリアを優しく抱きしめると次いでに俺も寝るのであった。


 早くこんな平穏な日々が訪れますようにと、叶わぬ夢を抱きながら。






 後書き。

 偶に書きたくなるグレ×アリ。アリカちゃんは可愛い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る