抵抗軍

ヌーブドール


 その日、POL(ポーランド)はひとつの戦線でおおきな勝利を上げた。


 五師団にも及ぶ敵軍をなんと一人の犠牲者も出すことなく殲滅してしまったのだ。


 挙句の果てには捕虜としてSランクハンター、ライト・ブラストを捕らえ圧倒的に有利な状況を作り出してしまう。


 その戦場に立っていたのは、たった九人。


 九芒星が如何に人外じみた強さをしているのかを、世界に知らしめた戦争となった。


 が、ひとつの戦線で勝っただけでは戦争の勝利とは言えない。


 敵国を降伏させるまでが戦争である。


 という訳で、俺達は引き続きPOLの傭兵として南部戦線に留まっていた。


 ........精神年齢が見た目相応となってしまったショタの相手をしながら。


「グレイ!!見て!!グレイを書いたの!!」

「お、おぉ。ありがとうボクちゃん。結構うめぇな」

「えへへ。ぼく、絵を描くのが好きなんだ!!」

「おー、そうかそうか。ボクちゃんは絵が好きなんだな」


 暇つぶしになるかと思って、ボクちゃんに紙と色鉛筆を渡してやったのだがクッソ美味い絵を彼は書いていた。


 見たものを見たままに書くというのは、結構難しい。


 俺も絵を描こうとするとひどい絵になることが殆どなのだが、ボクちゃんの絵は普通に売れるレベルで上手であった。


 写真と言う技術がなければ、肖像画を書く仕事で食って行けるぞこれ。


 色鉛筆ってこんなにリアルにかけるものなんだな。


「うっま。グレイちゃんそっくりじゃん。凄いねぇ........いやほんとに凄い」

「あのグレイ狂信者のリーズヘルトが、一切ダメだししないのを見るにガチで上手いんだろうな。どれどれ........うっっっっま!!これで飯食えるレベルで上手いだろこれ」

「へぇ、そんなに上手なんですか?........凄いですね。私が全ての機能を使って書いてもこうはなりませんよ」

「上手いな。これだけの才能がありながら、なんでハンターなんてやってたんだ?」

「絵で飯は食べられませんからね。しかし、本当に上手ですね」

「あら、滅茶苦茶上手ねん。そっくりというか、本人そのものじゃない」

「普通にすげぇッスね。俺、全く書けないっすよ」

「フォッフォッフォ。普通に欲しいのぉ。写真がまだまだほとんどなかった時代におったら、金を稼げるぞこれ」


 俺がボクちゃんをよしよししていると、暇を持て余した仲間達がよってきてそれぞれ絵を見る。


 そして、全員が口を揃えて“上手い”という程には絵が上手であった。


 今の時代、こう言うリアルなものを書く絵描きは食っていけない。写真と言う、一瞬の時間を切り取ることができるものがあるから。


 しかし、上手なことには変わりない。たとえ捕虜だとしても、普通にその部分を褒めてあげられる仲間達はある意味人間ができていた。


 そこだけはみんな褒められるんだけどな。そこだけは。


「それにしても、異様に懐いちまったな。殺されかけたのを忘れたのか?」

「どうも、俺よりも鏡が怖いらしい。とてつもないトラウマを抱えているらしくて、それに比べりゃマシなんだろ」

「いや、その原因を作り出したのボスじゃん」

「俺もそれは思うけどな。まぁ、幼児退行したあとはかなり優しく接してたし、少尉とかほかの軍人達の視線が怖いんだろ。一応捕虜って扱いだからな。厳しく接しないと行けない」

「で、俺達は軍人じゃないから面倒を見させられていると。見た目が子供だからまだまだいいが、26の大人がやっていると思うとキツイよな」

「それを言うなジルハード。彼は2桁にも行かない少年だと考えた方がいい。俺たちの精神衛生のためにも、ボクちゃんのためにもな」


 捕虜となった彼は、当たり前だがPOL軍の管轄に置かれる。


 彼らは軍人である以上、捕虜に対して厳しい態度を取らなければならない。


 たとえ幼児退行していようが、厳しくするのが仕事なのだ。


 そして、俺達は自由な傭兵。また泣き出されても困るので、面倒を見てくれと言われるのは必然的な流れである。


 なんで26の大人の面倒を見てるんだとは思うが、精神年齢は2桁にも行かないレベルだからな。


 これがトランスエイジちゃんですか。


「にしても、この調子じゃ日本にまで着いてきそうな勢いだけどな。もういっその事国民になってもらうか?日本は意外とこういうことに寛容だろ」

「そりゃ、人間じゃないやつの方が多いからな。俺たち以外で正式に日本帝国に住んでんのはおっちゃんだけだぞ。残りは技術員とか大使の人達だし。かなり良好な関係は築けているけどな」

「どうする?連れて帰る?」

「問題が多すぎるから却下で。言っておくけど、ボクちゃんは一応CHE(スイス)国民だからな?しかもSランクハンターの。例え子供になろうと、その事実は変わんないんだよ」

「この後のことを考えると、日本帝国に来てくれた方が彼は幸せだと思うがな。戦争責任を問うものも居るだろうし、私達のように子供として接する者は誰一人として居ないはずだ。見た目こそ子供だが、彼はこの人間社会においては一人の大人。例えどんな手段を使ってでも、元に戻そうとするだろう。それに、彼に待ち受けているのは国内からの批判だ。子供の心でそれに耐えられるかはかなり怪しいと思うがな」

「........11歳が言うと重みが違うっすね」

「11歳にすら大人としての責任を問う輩が多いのが今の時代だ。私は、そんな世界で生きてきたからな。子供だからで許してもらえるほど甘くは無いのさ。この世界は」


 幼い頃から大人達の中で暮らしてきたアリカが言うと重さが違いすぎる。


 それに、アリカの言っていることは間違っていない。


 事実、彼は戦後戦犯として国内で多大なる批判を受けることになるだろう。


 今はまだCHE(スイス)政府が敗戦したと言う情報を流してないが、いつの日から自分たちの敗北を知る日がくる。そして、Sランクハンターである彼は国民を国を守らなかった者として大罪を背負わされることとなるだろう。


 何せ、自分の命がおしくて中尉が指揮官を務めるような国だ。我が身可愛さに、幼児退行した大人を差し出すだろうよ。


 可愛そうに。今まで国のために働いてきた彼は、国に裏切られるのだ。


 というか、中尉が指揮官ってどう考えてもおかしいよな。


 うちの少尉はガチで有能すぎて、何故か中佐が補佐に着くとかいう意味のわからん事になってるけど。


 あれ?少尉って中佐よりも下だよな?


 少尉は下級将校で中佐は上級将校。うん。下だな。


 軍は規律を重視する。当たり前だが、階級が上の奴がいたらそいつに従わなければならない。


 なのに、彼は現場指揮官と言うとんでもない立場にいるのだ。中佐を従えて。


 それでいて、中佐との関係も良好。


 あいつガチで有能すぎるな。妬まれない方法をよくわかっているらしい。


 ........彼の授業でも受けようかな。俺、アホみたいにあちこちから恨まれるし。


「凄っ、もう書いたの?」

「ん!!これがジルハード!!」

「本当に似てるねぇ........ねね、今度は風景を書いてみてよ」

「あ、それが終わったらアリカちゃんを描いてください」

「いいよ!!いっぱい書いてあげる!!」


 俺がジルハード達と話していると、女性陣がボクちゃんに次から次へと絵を書かせている。


 リィズは純粋に風景画も描けるのか気になっているだけだろうから良しとして、ミルラ。お前その絵を完全に欲のために使うだろ。


「面白い子ですね。精神が崩壊して幼児退行してしまった人間なんて初めて見ました。魔物生物学者として、ちょっといじくり回したいですよ」

「人間も魔物ってか?絶対やるなよ」

「人も魔物もそう変わらないと言うとが私の見解ですよ。結局のところ、理性で欲を押さえつけるのには限界がありますから。もちろん、生物学上は違いますがね」

「当たり前だ」

「それで、皆様は何を話していたのですか?」

「ボクちゃんの未来があまりにも可哀想なことについて。精神が崩壊した子供に背負わすには、ちょいと可哀想だなって話だよ」

「あぁ、戦犯の話ですか。まぁ、国内での批判は凄まじい事になりそうですよね。私もちょっと同情してしまいますよ」


 レミヤはそう言いながら、携帯を取り出すと1つの記事を見せてきた。


 何だこのサイト。既にCHE(スイス)軍が敗北し、ボクちゃんが捕虜となった事が書かれてやがる。


「世の中、多くの情報を取り扱う存在がいます。そのうちの一人が運営するサイトであり、どうも政府の検閲をすり抜けてしまったようでして徐々にCHE国内に敗戦の話が広がりつつあります。政府は何とかしてこのサイトの閲覧を禁止しようとしているのですが、どうも其れが上手くいってないようでして」

「随分と事細かに書かれてんな........俺たちの情報も乗ってんのか?」

「いえ。それが乗ってないんですよ。それでですね。このサイト名見て貰えます?」


 レミヤがそう言うので、サイト名を見てみる。


 えーと、“ヌーブドール”?


 直訳で初心者の人形。


 ........あ、これってもしかして........


「おばちゃんか。こうした小銭稼ぎもしてんだな」

「木偶は役たたず。で、初心者も役たたず。木偶情報屋はシャレのセンスがイマイチだな」

「全くだ。なんとも言えない微妙なセンスをしてやがる。しかし、戦争の話はおばちゃんにとって稼ぎ口となるわけか。益々ボクちゃんが可哀想だな」

「助けるか?」

「助け舟ぐらいは出してやってもいいかもしれんな。個人的に、あの絵は気に入ってる。絵には金を払うもんだろ?金の代わりに旅行券でもプレゼントしてやろう」


 俺はそういうと、携帯を取りだしてとある場所に連絡を取る。


 街を収める王たちは基本ダンジョンの中に居て連絡が取れないから、窓口を担当してくれているダークエルフのお姉さんに。


「あ、もしもし?俺なんだけど........あー、そんなにかしこまるな。ちょっと伝言を頼みたくてな────」


 ボクちゃん。お前光なんだろ?なら、空も飛ぼうと思えば飛べるはずだ。


 密入国でもいいから全てが終わったら来るといい。その時は、一国民として歓迎してあげよう。


 パン屋のおっちゃんのように、楽しく暮らせばいいさ。






後書き。

尊厳破壊された上に(幼児退行)祖国から超絶バッシングを喰らうとか言う可哀想なショタ。早く逃げてくるんやで。

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