九芒星vsSHE軍


 五個師団の軍隊にたった九人で挑むバカはこの世界に一体何人いるのだろうか。


 this little girlの爆音が流れながら、俺達はたった1台の車で五個師団に突っ込んでいく。


 自分でも思う。イカれてやがる。


 こんな事をするのは、自殺願望者か映画を見すぎた蛮勇だろう。


 いや、映画でもこんなことは無い。それはきっと頭の悪いフィクションの漫画ぐらいだ。


 が、それを実際にやる側になるとは思わなかった。


 あぁ、神よ。俺はどうしてこんな目に遭っているんだ。


「車を横転させるなよジルハード。後で綺麗に返さなきゃならん」

「おいおい、今から弾丸が降り注ぐ戦場に突っ込むってのに、無理を言うなよ。F1レーサーでも無理だと言うぜ?」

「それでもやれよ。気合いだ気合。世の中気合いがあれば大抵はなるとかなる」

「んな無茶な」


 ジルハードはそう言いつつ、さらにアクセルを深く踏み込む。


 地雷原とかなくて良かったな。あったら今頃、戦隊モノみたいに爆風でひっくり返るところだった。


 そんなことを思いながら、曲に乗って走っていると遂に銃声が聞こえ始める。


 想定よりも遅い迎撃だが、そりゃそうだろ。車1台でこんなところに突っ込んでくるやつのを見て、頭を疑わない方がどうかしている。


「私が防御しましょう。大丈夫、この車に傷1つつけさせませんよ」


 レミヤはそう言うと背中から何やら触手を生やして魔力シールドを展開。


 魔力によって作られたシールドは、当たり前のように銃弾を弾いた。


 前も思ったけど、この魔力シールド性能がおかしくねぇか?CH(中国)はまじで世界が取れそうな兵器を開発したもんだ。


「フォッフォッフォ。儂、もう暴れていていいかの?」

「私もいい?」

「私も行きたいわねん。こぶしが疼くわ」

「この爆速で走る車から飛び降りて、この車よりも先に接敵できるならどうぞ」

「ほんと?!なら行ってくるね!!let's do this!!」

「フォッフォッフォ!!かの大帝国が欧州でも暴れてやろう!!その目に焼き付けよ。これが儂ら日本帝国じゃぁぁぁぁ!!」

「行ってくるわねん」


 ........ウッソだろオイ。本当に車から飛び降りて車よりも早く走ってるよコイツら。


 リィズはまだ分かる。リィズはそもそも人間じゃないから、車よりもきっと早く走れるだろう。


 問題はお前らだ。おじいちゃんとカマ野郎。


 どうやったら車より早く走れるんだよ。お前らは人間だろ?


 車よりも早く走る3人。じいさんは銃弾の雨を切り刻み、リィズとローズはその弾丸の雨を本当に雨だとでも思っているのか全く意に介さず走っていく。


 そして、敵の防衛陣地にその拳を叩きつけた。


 ドゴォォォォン!!


 砲弾が落ちたかと思ってしまう程の轟音。そして、地面が空気が揺れていく。


 防衛陣地はあっという間に敵の侵入を許してしまった。


「........なんで車よりも早く走れるんだあいつらは」

「あの三人は俺達の中でも戦闘力が極めて高いからな。同じ人種だと思っちゃ行けねぇよ」

「防衛陣地とはなんだったんだ?あっという間に塹壕に到達してしまったぞ?」

「いいですかアリカちゃん。塹壕は本来砲撃の破片や敵の銃弾を避けながら、一方的に攻撃するために構築されます。その攻撃すら無効化してしまう化け物達に効果は無いのですよ。まぁ、爆撃機があればそんなもの知ったこっちゃ無いんですがね」

「なるほど。分かりやすい説明だ。かつて最も容易で効果的な防衛陣地として使われていた塹壕は時代遅れの産物なのだな。奴らは第二次世界大戦に生きていると。そして、制空権の大切さもわかった」

「魔物と戦うことばかりを考えていたから、現代戦についてはまるで考えてないんだろうな。ここ500年の間世界で起きた戦争は精々内戦程度だ。第二次世界大戦の時代で止まっている奴らは、能力者の使い方が理解できないというわけか」

「........思えば、俺が軍人だった頃も能力者を使って強引な突破とかはしませんでしたね。しっかりと訓練した時のように、並んで索敵とかしてましたし」

「規律と統率を重視する軍隊だからこそ、このような個に暴れさせる戦法が取れないのですね。私が傭兵時代の時は、こんなの当たり前でしたよ」

「軍人と傭兵で考え方が違うみたいだな。こんなことろで軍と民間軍事の違いを知りたかったとは思わないが」


 軍人と傭兵。彼らは似ているようでかなり違う。


 軍は規律と統率を重視し、組織によって効率的な戦い方を求める。


 傭兵は、とにかく戦果をあげればなんだっていい。組織内での規律や統率はあるだろうが、軍人ほどガチガチではない。


 だから、たった一人の強い能力者を暴れさせる戦法を好む。


 前に行くも後ろに引くも自由にどうぞ。そんなスタンスを取っている俺達は、案外自分達の強みを理解しているのかもしれない。


「さて、そろそろ私も行きますか。あの暴れる三人をサポートしなければならないので」

「頼んだよレミヤ。後、報告はちゃんとしてね」

「おまかせを」


 ちょっとドヤっているが、心配しかない。


 まぁ、流石に今回は大丈夫だとは思うが。


「制空権についてはどうするんだ?ボス」

「お前、自軍に爆弾を落とすキチガイに従いたいと思うか?」

「なるほど。確かにそうだな」


 ジルハードがアホなことを聞いてくる。


 バカかお前は。自軍に爆弾を落とすほど愚かなことは無い。既にここまで接近している時点で、俺達に空の脅威は存在しないのだ。


 むしろ、今はPOL軍の方が危ないだろう。


 あのクソ有能指揮官がそこら辺を怠っているとは思えないが。


「んじゃ、ジルハード。俺達は大きく戦場を回り込むぞ。情報のジャミングはレミヤがやってくれる」

「了解。タクシードライバーは辛いねぇ。こんな戦場にまで連れ出されるんだから」

「こんなキモの座ったタクシードライバーがいてたまるか。ほら、さっさと行くぞ。ここからは時間との勝負だ」


 デコイ役は既に放った。リィズ達ならば死ぬことは無いし楽しく暴れてくれる。


 そして、今頃報告が入った指揮官たちは慌てふためきそちらの対処に追われるだろう。


 上空はPOLが抑えてくれているし、ドッグファイトが起きるぐらいで爆撃は無いはず。


 頭がとち狂った時は知らん。その時は気合いで何とかするしかない。


「let's do this !! let's goooooooo!!どうせなら全部ぶっ殺しちまえ!!」

「フォッフォッフォ!!脆いわァ!!」

「うふふふ!!そんな豆鉄砲を私が喰らうわけないでしょう?!」


 ........うん。囮だからね。派手に騒いでくれ。


 ちょっと心配になるけど、まぁなんとでもなるでしょ。




【塹壕】

 戦争において敵の銃砲撃から身を守るために陣地の周りに掘る穴または溝。

 野戦においては南北戦争から本格的に使用され始め、現代でも使用されている。日本陸軍では散兵壕(さんぺいごう)と呼んだ。個人用の小さなものは蛸壺(タコツボ)、蛸壺壕、フォックスホール(英語: foxhole)と呼ばれる。

 戦闘陣地の一種と位置付けられる。簡素な手掘りの穴から、柵や有刺鉄線、土塁、土嚢、木材、コンクリートなどで補強された野戦築城まで、様々な様式が存在する。

 ちなみに、世界初の塹壕は627年中東で行われたハンダクの戦い。古来より、使用され、現代でも使われるれっきとした防衛陣地である。




 SHE(スイス)陸軍所属二等兵の青年、アルガド・レペルはその光景を地獄と評するしか無かった。


 永世中立国という立場を捨ててまで戦争に望んだSHE(スイス)。


 その歴史的第1歩に参加出来たことを彼は嬉しく思っていた。


 彼の親は根っからの愛国主義者であり、そんな親に育てられた彼もまた愛国主義者である。


 国が言うことが全て正しく、SHE(スイス)という国は永遠に滅ぶことは無い。


 そう思っていたのだ。


「あ、あぁ........!!」


 始まりは、たった一台で突っ込んできた頭のイカれた車。


 そこから三人降りたかと思った瞬間、SHE軍の塹壕は見る影もなく変わっていく。


 弾丸を切り裂き、味方を切り裂く老人に、笑いながら異様な形に姿を変えつつ状況に合わせて動くアルビノの女。


 そして、筋肉に全てものを言わせ前進する男女。


 何もかもが自分の知る戦争ではない。


 否、少なくともこれを戦争とは呼んではならない。


 これは虐殺だ。


 たった三人の化け物に五万人近くの人間が虐殺されるだけの光景である。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 自分は英雄になれると思っていた。この戦争で戦果を挙げ、いつの日か白い死神シモ・ヘイヘのような、ナイスの悪魔ハンス・ウルリッヒ・ルーデルのように後世に名を残せると錯覚していた。


 しかし、現実はそう甘くない。


 こんな戦場にたった1台の車で突貫し、挙句の果てには爆音で音楽を流す頭のネジがぶっ飛んだ野郎程度胸と適応力がなければ無理なのだ。


 彼は死を前にして逃げてしまう。


 奴は死を前にして呆れるか、神に中指を突き立てるか、笑うだろう。そして、最後まで足掻く。


 この差が英雄と凡人の違い。死を前にしての精神構造がまるで違う。


「........!!アルガド二等兵!!敵前逃亡は重罪だぞ!!祖国の為に戦─────」

「祖国の為に戦うとか古いよ。お前に人望がなかっただけのくせに」


 上官の頭の半分が吹き飛ぶ。


 その横では、血の着いた手を舐めるアルビノの女が立っていた。


「んー、もう面倒だし、使っちゃうか。おーい!!能力使うから離れてー!!」


 アルビノの女はそう言うと、銃弾を器用に避けながら能力を行使する。


 味方を巻き込む可能性があるため普段は使わないが、これほどの乱戦それも敵ばかりならば効果は絶大。


「“群衆蜂の女王クインビー”」


 そして、アルガド二等兵の英雄譚はここで幕を閉じた。






 後書き。

 軍と傭兵の戦い方についてようやく解説ができたぜ。軍人は基本能力ではなく、統率によって戦う為、ほぼ能力は使いません。傭兵やグレイ君達のようなアンダーグラウンドな連中は個の力が正義の為、能力主義者的な考えになる事が多いです。

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