ポップコーンとコーラが欲しい


 ついに始まったPOL(ポーランド)とFR(フランス)連合の戦争。


 しかしながら、俺達は一週間ほどは暇で暇で仕方がなかった。


 俺達が担当する戦線では軍が動かず睨み合い。


 塹壕を掘ったり防衛陣地を建てたりする手伝いをすることすらないのだから、本当に暇で仕方が無い。


 そうして暇を持て余した俺達であったが、流石に1週間もPOLの防衛をクズせないとなると彼らも戦線を広げる。


 遂に、SHE(スイス)軍が動きを見せたのだ。


「ミスターグレイ。君たちの出番だ。我々は大人しく塹壕に立て篭もっているから、お好きなように暴れてくれ」

「ジョンソン少尉。ついに動きが?」


 POL陸軍少尉ジョンソン・デアラート。


 彼は子の南部戦線全域の指揮を取るくそ有能な軍人だ。


 仕事の都合上、俺と話すことも多くそれなりにお互いを理解している。


 彼は根っからの愛国者でありながら合理主義者。国の為ならば命は惜しくないし、その為ならばどんな手段を使ってでも勝ちに行く軍人の鑑である。


 こんな重要な戦線を少尉と言う地位で任されているのだ。凄いなんてもんじゃない。


 ちょっとPOLの軍事階級を知らないので確かなことは言えないが。


 そもそも30代前半で少尉になっているだけで凄い。


 調べた感じ親がとても偉いわけでもないので、ガチで有能すぎるがためにこの地位まで登り詰めたすげーヤツである。


 いやマジで凄い。


 兵士達へのメンタルケアもほぼ完璧だし、できる限り親しみやすい指揮官を演じている。それでいながら、舐められないように締めるべきところはしっかりと締める。


 言うがやすし行うは難しだ。


 正直、こんな腐った国に居ていい人物ではない。


「15分前、敵の陣地が移動を開始した。恐らく、北部中部戦線が抜けなかったから、南部戦線に圧力をかけようとしているのだろう。POL(ポーランド)はその立地から大国に挟まれて、第二次世界大戦では早々に敗北を喫したが、忌々しきソ連が無ければ強い。過去の歴史に囚われているようだな」

「後方は安全だと?」

「上の連中はたしかに腐っているが、自分の身分と権力を維持することに関しては有能だ。周辺国家に金をばら撒き、安全の確保はしているのだよ。誰しも瓦礫の山の大将を演じたいわけじゃない」


 POL(ポーランド)は第二次世界大戦の敗北から、軍事的に弱い国家だと思われがちだが別にクソザコナメクジだった訳では無い。


 運がなかったのだ。


 大国2つに挟まれ、さらにはその指導者が狂人ともなれば、いやでも滅びを迎えてしまうことになるだろう。


 しかし、第三次世界大戦は違う。彼らは仮想敵国をDEU(ドイツ)として、自分達の後方にある国々をしっかりと買収していたのだ。


 自分の国でワイン片手に権力を振りかざせるように。


 まぁ、その結果がFR連合国との戦争なんですけどね。


 DEU(ドイツ)と戦争になったらぶっ潰してやる!!って息巻いていたら、なんか相手がFR(フランス)だった訳だ。


 しかも、今は三大大国の一つ。頑張って根回ししてきたもの達からすれば、なんでやねんと言いたくもなるだろう。


 その根回しが無駄ではなかったことが救いではあるが。


「我々は奴らが見えるまで待機しておく。好きなように暴れてくれ」

「そうさせてもらうとしよう。ジョンソン少尉。今まで俺たちに対する配慮、感謝する」

「ハッハッハ!!配慮と言うか、兵士達が君達とは関わりたくないと言っていたのでな。必然と孤立させてしまった形になるのはしょうがない。話してみると、意外と面白い御仁ばかりだったのだがな」

「まぁ、変人が多いからな。そもそも人間じゃないやつも多いし」

「ともかく、君達の活躍を期待する。無事に帰ってきたら安物のワインでも飲もうじゃないか。私は存外、君の事が気に入ったらしい」

「........タバコを吸ってもいいなら付き合うよ。それじゃ、行ってくるわ」


 俺はそう言うと、俺の後ろで待機していた仲間達を引き連れてテントを出る。


 ジョンソン少尉。悪くない人であった。


 最初は偏見もあっただろうが、大分払拭できただろう。


「いつ見ても思いますけど、主人マスターって人たらしの才能が凄まじいですよね。私、調べましたよ。ジョンソン・デアラート。彼は仕事として人と仲良く話すことはありますが、プライベートで誰かと話すようなことは滅多に無いそうです。そんな彼がお酒に誘うなんてびっくりですよ」

「後ろで控えていた兵士達も驚いていたな。どうやら、彼の酒は高いらしい」

「まぁ、いつもの事っすよ。俺達もそんなボスに惹かれて集まったわけですし」

「グレイお兄ちゃんと話して気分を悪くするやつは数少ない。それこそ、最初から恨みを持ってるやつとかじゃなければな」

「フォッフォッフォ。して、儂らは今から暴れれば良いのかの?」

「早く暴れたくてうずうずしているわん。何気に、こうして戦場でマトモに戦うのは初めてよん」

「傭兵の時は護衛専門として働いていたので、戦争に身を投げるのは初めてですね」

「CHの時はおじいちゃんが大暴れしてただけだもんねぇ。セルビアの時は私達は脇役だったし」


 これから戦場に飛び込むというのに、緊張感などあるはずもなくペラペラと話す仲間達。


 相変わらず頼もしいこった。


 俺は何度経験しても、殺し合いの中に飛び込んでいくのが怖いというのに。


 しかし、ここで腰が引けるとダサすぎる。


 男は格好付けてなんぼの生き物なのだ。


「はぁ。どうしてこうなったんだ........」


 死んで、転生して、三日目で何故かテロリスト扱いされ、挙句の果てには第三次世界大戦に巻き込まてれ戦場に立っている。


 何をどうしたらこんな人生を歩めるんだ。


 きっとクソッタレの神様も思っているだろう。“どうしてこうなってんだ?”と。


 俺が聞きてぇよ。今じゃ一国家元首だぞ。


 ただの一般高校生がとんでもない出世をしたものだ。ダンジョン溢れるこの世界で、魔物を殺すよりも人間を殺している数の方が多いのは如何なものか。


 しかし、やらなくてはならない。俺はここで死にたくないし、死んだらきっとこの世界は滅ぶ。


 俺はタバコを加えて火をつけると、大きく息を吸って肺に入れ、静かに吐き出した。


 あぁ、この煙みたいに気楽に飛びたいものだ。世界は何時だって俺を地面にしばりつける。


「んじゃ、行くか。第二次世界大戦では哀れにも分割されたこの国を俺達の手で救ってやろう。俺達は指揮官がいる陣地を叩くから、リィズ達はあの鉄の塊をスクラップにしてこい」

「「「「「了解」」」」」


 頼もしい仲間たちの返事を聞くと、俺はPOL軍から支給してもらった車両に乗り込む。


 まだ軍はほぼ移動してないだろう。先手を取らせてもらうか。


 そして、最近のお気に入りである音楽を爆音で流しながら突っ込むとしよう。


 曲は........そうだな。乗れるやつで行こう。アップテンポのイカしたやつで。


「レミヤ、this little girlでも流してくれ。ノリノリで行こうぜ」

「cady grovesの曲ですか?」

「そうそうそれそれ。出来れば、nightcoreでアレンジしたやつの方がいいかも」

「あぁ、たしかにあの曲はnightcoreの方が有名でしたね。著作権なんざクソ喰らえって感じで」


 それはしょうがない。この世界にモラルを期待しては行けないのだ。


 装填した銃を持って歩いているのはお前だけじゃない。


 全ての人間は殺人鬼になるんだよ。




【cady groves】

 アメリカのポップ及びカントリーシンガー。2020年に亡くなっており、彼女の歌を聞くことはもう出来ない。

 有名な曲は幾つかあるが、その中でもthis little girlは特に有名。nightcoreアレンジで知っている人も多いだろう(私もそうだった)。




 ジョンソン・デアラートは自分に人を見る目が多少あると思っている。


 こいつはできる。こいつはできない。そんな簡単なことぐらいしか分からないが、それは人事をする上でとても大切な目となるのだ。


「おーい!!みんな!!ちょっと観光しようぜ!!」


 そんな彼が見たのは、ただの青年。


 どこにでも居そうな、絶望にも希望にも染まっていないただの素朴な青年であった。


 普通のものならば、彼を見下すだろう。


 その実績を知っていてもなお、彼を見下すに違いない。


 何故ならば、彼の周りにいるもの達が明らかに異常だからだ。


 誰もが歴戦の戦士の顔つきであり、その圧はジョンソンすらも圧倒される。


 どのようにして神輿に担がれたのかは知らないが、周りが全部解決してくれているから彼は実績だけが残る。


 そう判断してしまうだろう。


 しかし、ジョンソンは違う。


 彼は、グレイは、間違いなく侮ってはならない相手だと本能が告げていた。


 普通こそ最も難しく最も驚異となり得る。


 あからさまに怪しいやつが犯罪をすれば、あっという間につかまるが普通の見た目、普通の存在が犯罪をしても真っ先に疑われることは無い。


 つまりは、そういうことだ。


 そして、爆音で音楽を流しながら戦地に突っ込んでいくその様はまるでピクニックに行くかのよう。


 何千万人と殺してきてはずの男が、ただただ普通の姿をしているはずもない。


 ジョンソンは、それを理解していた。


「どうしたんですか?ジョンソン少尉」

「今からミスターグレイ達が暴れてくれる。みんなで眺めてみるとしよう。恐らくだが、彼はたった9人で5師団もあるSHE(スイス)軍を粉砕するぞ」

「........ですが、ここからでは見えませんよ。私はマサイ族では無いので」

「ハッハッハ!!安心したまえ。そのためのドローンだろう?」

「珍しいですね。ここまで貴方が馬鹿なことをするなんて」

「偶にはいいだろう?それに、私の勘が言っている。この戦争は既に勝っているとね」


 その言葉を聞いた中佐は、目を大きく見開いた。


 あのジョンソンが、ここまで言うとは。


 そんなにもグレイという男とその仲間たちはすごいのかと。


「どうせ娯楽もない仕事だ。偶にはノンフィクション映画でも眺めるとしようじゃないか」


 ジョンソンはそう言うと、ポップコーンとコーラが欲しいと思うのであった。





 後書き。

 ちなみに、現実では中尉が現場の最高指揮官になる事はほぼありません。リアリティが無いと思ったそこの君。この世界は、立場よりも命を大事にするクソが多いのだ(スイスも然り)。

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