睨み合いの平和


 FR(フランス)がDEU(ドイツ)を制圧してから1週間後。


 レミヤの予想通りFRとSHE(スイス)の連合軍がPOL(ポーランド)に対して宣戦布告をしてきた。


 宣戦布告の理由は、国際条例違反による軍事的制裁。


 俺と言う国際的テロリストを匿っていたという名目で、彼らは宣戦布告してきたのである。


 まぁ、間違ってはいないし、どこぞのぽんこつメイドがバルカン諸国に対して発した宣戦布告よりも幾分かマシだ。


“旧ユーゴスラビアの国々は社会主義共和国だから、実質中国。なので宣戦布告しますね”よりはまだまだ正当性があるだろう。


 と言うか、これより酷い宣戦布告を思いつけないよ。今回のPOL(ポーランド)に対する宣戦布告もまぁ酷いっちゃ酷いが、これがまともに見えてしまっている時点でお察しだ。


 宣戦布告と同時に、北部及び中央部に展開していたFR軍が進軍を開始。


 現在はDEU(ドイツ)とPOL(ポーランド)の国境部で激しい戦闘が起きている。


 割とあっさり負けるかもしれないと思っていたが、意外にもPOL(ポーランド)陸軍は善戦しているらしい。


 制空権の確保もできており、第二次世界大戦の反省を活かしてしっかりとした防衛陣地を構築していたのもあってかなり余裕を持って耐えているそうだ。


 そして、俺達がいる南部戦線は今のところ動きがない。


 20km程離れた場所にSHE(スイス)軍が展開しているらしいが、攻撃は一切仕掛けてこなかった。


 おかげで俺達は今日も暇を持て余している。


 こちらから攻撃してもいいのだが、睨み合いで済むならそれでいい。どうせ向こうの狙いは、少しでもこちらに戦力が惹き付けられればそれでいいって感じだろうしな。


 もし、北部中部戦線が突破できないとなった時、俺たちの出番が来るだろう。


 南部戦線は正規軍ではなく領土防衛軍が多いので、無理に攻め込むと逆に被害が出るという現場の指揮官の判断もあって睨み合いが続いていた。


 ここの指揮官は有能だな。下手に攻撃を仕掛けるよりも、突破されないように防衛陣地を更に固めているのはいい判断だと思うよ。


 素人目に見たら、の話だが。


「暇だな。指揮官が有能だから俺達もやることがない。激戦区になるって上は思っていたらしいが、宛が外れたな」

「おかげで俺達はこうして暇を潰せる訳だ。睨み合いの平和を味わおうぜ」

「防衛陣地の作成を手伝っても良かったんだがなぁ........指揮官に“必要ない”って言われるとやることが無くなる。俺達は傭兵と言う立場だからなのか、それもと俺達だから必要ないのかわからんが」

「多分後者でしょうね。POL軍の面々は、明らかに私達を恐れていますから。いや、正確にはボスを恐れています。コミュニケーションを取ろうかと思って兵士に話しかけたら“ヒッ........”って怯えられましたよ。普通に傷つきました」

「そりゃ、ぺドレズに話しかけられたら怯えるだろ。どうせ、女兵士だっただろ?」

「........はい」

「そいつの判断は正しいな」


 ジルハードに正論を言われ、シュンとしてしまうミルラ。


 ミルラは最近、アリカへの愛を隠さなくなってきたのか、段々密着する回数が増えている。


 こいつ、性犯罪者になるんじゃないかと不安なのだが、どうなんだろうか。


 頼むから、アリカが嫌がることはするなよ?俺はせめて仲間だけは殺したくない。


 ちなみに、アリカもミルラの好意には気付いているのか、行き過ぎた行為はちゃんと拒否していた。


 赤子をあやすかのようにアーンなんてされたら、そりゃ嫌がるわな。


 尚、頬へのキスは許している。


 キマシタワー!!なのか?もしかして、キマシタワー!!なのか?


 日本人としての感性が残っている俺からすると、頬へのキスは一種の愛情表現と捉えてしまうが海外では普通に挨拶として捉えられることも多い。


 アリカはアメリカ人だし、頬へのキスは許容範囲内なのかもしれない。


「本人が嫌がることは辞めておけよ。アリカの実験台になりたくなければな」

「私、最近気づいたんですけど、アリカちゃんに罵られたり虐められるのって悪くないなって思うんですよ。この前、“気色悪い”と言われて蹴られた時、痛みよりも先に悦びが来てしまいました。どうしたらいいんでしょうかね?」

「........おいボス。こいつが犯罪者になる前にぶち殺すか、ムショの中にぶち込んだ方がいいんじゃないか?」

「俺も今同じことを思ったよジルハード。こいつは重症だ。まだ、狼の穴をファックするどこぞの英雄様の方がマシだね。動物は犯しても犯罪にならない」


 ペドレズマゾとか、もう終わりだよミルラ。


 こいつ、その気になれば男を作れそうなぐらいには見た目も常識もあるというのに、どうしてこんなにも性癖がねじ曲がってんだ。


 あぁ、神よ。どうしてこんなにも愚かな人間を創造してしまったのですか。


 禁忌の果実を食ったからこうなったのか?全てはアダムとイブが悪いのか?


 生まれながらにして原罪を持つ人の業とは恐ろしいものだ。ぺドレズまでなら........いや、それでも充分終わっているが、ぺドレズまでならまだ神も許しを与えただろうに。


「人間って愚かだな。狼に発情する英雄もいれば、ロリっ子それも、同性に発情する女もいる。この世界は罪で成り立っていると言われても同意するよ」

「全くだ。世の中には少年をファックする腐れ野郎マザーファッカーもいるんだ。聖職者だってガキをファックするんだよ。プレナ神父事件のようにな」

「神の代弁者が神の教えに背いた訳だ。この世界も腐ったもんだねぇ」


 プレナ神父事件とは、神父が7~10歳の少年達に性的暴行を加えたと言うもの。


 確か、映画にもなってたな。タイトルは“グレース・オブ・ゴット 告発の時”だったか?


 当時のアメリカ世論を大きく動かした犯罪行為であり、社会問題にまで発展した大事件だ。


 しかも、次から次へと聖職者が少年及び少女に性的暴行をしていたことが発覚。しかも、カトリック教会はそれらの事実をもみ消そうとありとあらゆる手段を取っていたことがバレ、教会の威厳ば地に落ちた。


 相変わらず権力者達は隠し事が好きらしい。そして今、カトリック教会の次にハンター協会が同じ轍を踏もうとしている。


 今頃、世界ではハンター協会のありとあらゆる悪事が暴かれていることだろう。


 自分だけさっさと逃げて、少年の頃の夢を叶えようとしてるセリッドのおっさんはいいタイミングで逃げ出したものだ。


 自分だって色々と後暗いことはしていただろうに。


 されらは全て闇に葬り去り、自分の潔白を証明しようとするとは有能すぎる。


 おっちゃんの夢がなければ、うちに誘いたいぐらいだ。だが、あんな少年の夢を追いかけるやつをこの戦争に巻き込む気にはならない。


 平和にパンでも焼いててくれ。この戦争が終わった頃には、きっと焼きたてのパンが食べられるはずだ。


「はぁぁぁぁぁ........アリカちゃん、本当に可愛いですよね。天使ですよ天使。私は天使を崇拝してしまった哀れな子羊です。最後はきっと植物に絡め取られて死ぬ運命なんですよ」

「言ってろこのド変態。アリカにはしっかりと言っておかないとな。“ミルラがお前をファックしがってる”って」

「全くだ。アリカと二人きりにさせたらダメだぜ。こりゃ」

「失礼ですね。天使様が本気で嫌がることはしませんよ。アリカちゃんに嫌われたら、真面目に自殺します」

「なんでこのバカは胸を張ってるんだ?殴り飛ばしてもいいのか?」

「あぁ、頭が痛くなってきた。ただでさえ問題児が多い組織なのに........」


 まぁ、ミルラは本当に越えてはならない一線を超えることは無いだろう。馬鹿でアホだが、最低限の良識はある。


 そして何より、カジノオーナーの父親と母親という最強の切り札があるのだ。


 おたくの娘さん、厨二病が治ってない上にぺドレズマゾですよなんてバラされた日には、自殺したくて堪らない。


「もしアリカに何かあったら、お前の親御さんに全部チクるからな」

「本っ当にそれだけは勘弁してくださいボス。私の癖まで親に知られたら、本当に生きて行けません。死にます。人間として、娘として死にます。ボスの言うことなんとも聞くので、それだけは本当に勘弁してください。私を性欲の捌け口にしてくださって構わないので」


 速攻で土下座するミルラ。


 どんだけ親にばらされたくないんだよ。そして、とんでもないことを口走るな。俺にそんな趣味はねぇ。


 先ずは人の形を捨ててからどうぞ。


「こいつ、どんだけ自分の親に弱いんだ?やったなボス。都合のいい女ができたぞ」

「ふざけんな。俺はリィズ以外に興味無いって何回言えば分かるんだ?それとも、俺が猿だとでも思ってんのか。アジア人顔だからイエローモンキーってか」

「そうひねくれるなよ。まぁ、誰か一人しか愛せないのは分かるけどな」


 .......そういえば、ジルハードは未だに奥さんのことを大切にしていたな。


 既に亡き人になってしまったが、今も尚その形見を持って向けを張って奥さんを愛していると言う程の純愛者だ。


 なんでこいつ、ここだけピュアなの?元ギャングボスにも可愛いところがあるんだな。


「そう言えば、娘さんの話はよく聞くが奥さんの話はあまり聞かなかったな。出会いと別れは聞いたが、その間はどうだったんだ?」

「あー、それは確かに気になりますね。ジルハードさんの魂を縛るお方の話、気になります」

「聞きたいか?とは言っても、面白い話じゃねぇよ?」

「聞かせてくれよ。ジルハードが嫌じゃなければ。あ、娘さんの話はしなくていいぞ。娘さんの話は、教会の神父の説教よりも退屈だからな」

「なんだと?!俺の娘が可愛くないだと!!」


 急にキレるジルハード。


 こいつ、娘さえ絡まなければ常識的で良い奴なんだけどな。


 その1つで全てを台無しにしてやがる。


「........なぁ、何をどう捉えたらお前の娘さんが可愛くないって話になるんだ?頭大丈夫か?」

「小さい頃の“パパと結婚する”を真面目に信じるファッキンバカですよ?病院に行っても手遅れです」

「あぁ、やっぱりこの組織はクソだ。バカとアホとマヌケしかいねぇ」


 俺はそう言うと、ジルハードの奥さんの何気ない日常の話を聞くのだった。


 結果、話はクソつまらなかったがマジで聖人君主の奥さんだった。多分その奥さんマザーテレサの生まれ変わりかなんかだな。

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