POLの危機


 第三次世界大戦が勃発してから二ヶ月近くが経過した。


 体感的にはもっと長い間戦争をしている気がするが、あのクソダンジョンに入った事で時間感覚が狂っているだけである。


 現在、日本帝国は東南アジア及び東アジア全域を完全に支配下に置いて安全を確保している。


 手を揉みながらやってくる奴らではあるが、俺たちと敵対しないだけマシだ。


 お陰でこの国の安全は保たれている。


 北アメリカと中央アメリカの戦争は、北アメリカがかなり優勢らしい。


 物理的に半分になろうが、奴らは世界屈指の大国だ。多少の苦戦こそあれど、負けることは無いだろう。


 潰し合え潰し合え。俺達だって、USA様とドンパチやりたいわけじゃない。


 アフリカ諸国は内戦状態で、第三次世界大戦が終わろうが知ったこっちゃないと言いたげな状態。


 どうやら三枚舌ブリテンの影が見え隠れしているが、ウチとGBR(イギリス)の関係は良好なので好きにしてくれて構わない。


 んで、ヨーロッパ諸国は混沌としている。


 いくつもの陣営が互いに牽制したり戦争をしているせいで、ぐっちゃぐちゃだ。


 バルカン諸国はGRC(ギリシャ)連合と戦争しているし、FR(フランス)はDEU(ドイツ)と第二次世界大戦の続きをしている。


 更にはイベリア半島でも戦争が起こっており、ESP(スペイン)とPRT(ポルトガル)がドンパチをしている。


 他にも、何故かパスタイタリアがかつて敗戦したETH(エチオピア)に戦争を吹っかけてまた負けそうになっていたり、二重帝国を再建しようとオーストリアとハンガリーが戦争をしている。


 旧ソ連の細々とした国もあちこちでトンパチをしており、その混沌具合は第二次世界大戦を超えると言っても過言では無い。


 ネットニュースでは“歴史上最も混沌とした戦争”として第三次世界大戦のことを取り上げていたほどだ。


 そんな、いち早く少しだけ平和を取り戻した日本帝国。


 俺は次の動きをどうしようかと悩んでいると、ある情報が耳に入った。


「FR(フランス)がベルリンを占拠した?」

「はい。どうやら第二次世界大戦で大敗を喫したFRは、第三次世界大戦でその借り返したそうです。ベルリンへのマラソンを走り切り、DEU(ドイツ)の国旗を新たな3色に塗り替えました」

「以前はパリを占領されたFRが今度はベルリンを占領したのか。毎度の如く道路国家ベルギーが戦争の行く末を決めてるなあそこは」

「さすがは道路国家と言われるだけはありますね。現在、DEU(ドイツ)政府は首都をミュンヘンに移行し、臨時政府を設立して徹底抗戦を表明しています。女子供構わずに徴兵して、戦場に出しているそうですよ」

「あの国は昔から変わらんな。未だに自分達がアーリア人だとでも思ってんのか?」

「だとしたらアーリア人は三度も戦争に敗北した負け犬ですね。第一次世界大戦から今日に至るまで、全部の戦争で負け越してますよ。きっとドイツ人は戦争の才能がありません」

「全くだ。ソーセージとビールを作る才能しかないんだよあそこは。あとは、サッカーぐらいか。弾を撃つよりも蹴る方が得意だったわけだ」


 そうか。ドイツってこれで第一次世界大戦から第三次世界大戦まで全部負け越してんのか。


 弱すぎないか?彼ら。


 この調子じゃ第四次世界大戦が起きたとしても、また負け越しそうだな。なんと言うか、ちょっと可哀想。


 第一次、第二次世界大戦の時は、自業自得感が強いが今回に関しては戦争を引き起こした側ではなく巻き込まれた側だ。


 それでいながら今回もぼろ負けするとは、なんともまぁついてない。


 ちょっと可哀想すぎて同情するよ。かつての陸軍最強国家は、鉤十字の国旗とともに崩れ去ってしまったのだ。


「占領された街のドイツ市民は、抵抗する気がほとんどないようでして、ベルリンで小規模なゲリラ戦が見られるだけです。どうやら、鉤十字と共に国民としての誇りも失ってしまったらしいですね」

「そりゃこんな馬鹿げた戦争で死にたかねーよ。そいつらは賢いだけだ」

「たしかにこんなクソみたいな戦争で死にたくはありませんね。FRもさすがに無抵抗な市民には手を出しておらず、占領後の町は至って平和らしですよ。むしろ、治安が良くなったと喜ぶ人もいるそうです」

「DEUもまぁまぁ治安が終わってたからな。リィズと一緒にPOLに行く時に通ったが、あれは凄かったぞ。ギャングとポリ公の抗争に巻き込まれたり、訳の分からん人体実験をしたがるマッドサイエンティストの実験に巻き込まれたり。酷いめにあった。それでも、グダニスクよりはマシと思える辺り、POL(ポーランド)は終わってるな」

「それは間違いないですね。悪党たちが集まる大都会ですから。ロサンゼルスですら、グダニスクの前では田舎に成り下がります」


 治安が終わってたDEUよりも、グダニスクの方がヤベーってやっぱりあの街はイカれてるよ。


 銃声が至る所から聞こえるし、大通りから1本道を逸れれば死体の山が転がる。


 少しでも気を抜けば、そいつはその山の仲間入りだ。


 もう終わりだよグダニスク。そんなイカれた街で、半年近く生きていた俺はすごいと思う。


「それでですね。DEUを占領したFRなんですが、どうもPOL(ポーランド)に攻めこもうとしているらしいのです」

「........まぁ、FRとPOLの仲は口が裂けてもいいとは言えないしな」

「と言うか、ヨーロッパ諸国の中でPOLと仲のいい国の方が少ないですからね。上の腐敗が酷く、また自国に干渉を絶対にさせないスタンスなので」

「お陰様で俺みたいな首に20億の価値がある奴が、表で堂々と歩けるわけだしな」

「はい。情報によれば、FRは次の攻撃目標をPOLとしておりまして、さらにSHE(スイス)も永世中立国の立場を捨てて攻め込もうとしているそうですよ」

「そりゃ大変だ。長年中立を保っていたのに、自分から戦争しに行くのか」

「どうやら主人マスターのことが関係しているみたいでして、グダニスクで匿っていたと言う大義名分があちらにはあるそうですね」


 ........すまんPOL(ポーランド)。ガッツリ俺からとばっちりを受けてるな。


 俺がPOLにいたという情報は、ある程度調べればわかる話だ。


 POL歯他国からの干渉を嫌うが、その内部を調べられない訳では無い。


 そして、彼らは日本帝国がダメならPOLを殴っちまおうと考えている。


 俺を引きずり出すためなのか、はたまた、殴りやすい位置に国があったからなのかは知らないが。


 POLは現在日本帝国と貿易をしてくれる数少ない国家だ。


 東南アジアとの貿易も少しづつ始まっているが、やはり金の無い国が相手になると儲けは少ない。


 なんやかんや金だけは持ってるからなPOL。


 ブリテンと同じく、いい感じに金を落としてくれるから俺は結構すきだよ。国家予算とかその貿易を宛にしてるし。


「POLとの交易が切れるとまずいな。タバコが吸えなくなる」

「私達が外貨を獲得する数少ないルートの1つですから、援護に向かうべきかと思いますよ。POLは未だ正式に日本帝国に助けを求めてはいませんが、おそらく助けて欲しいとは思っているはずです」

「だろうな。たった九人で国を滅ぼした兵器が来て欲しいと願っているだろうよ。となれば、俺達がやるべきことは一つだ。POLには借りがあるし、助けてやろう。ついでに三度も世界大戦に負けている哀れなアーリア人達を解放して、恩を押し付けられたら最高だな。POLにもいい思いをさせてやれる」

「そういうと思いました。既に連絡の準備は整っております」


 レミヤはそう言うと、携帯を渡してくる。


 POL(ポーランド)には、かなりお世話になったのだ。


 俺がテロを引き起こした人物だと知りながら見逃してくれていた恩もあるし、どう見ても不平等な取引にも応じてくれている。


 ちょっと財布みたいな扱いにはなっているものの、俺は借りた恩は返す主義なのでキッチリ耳を揃えて返してやろう。


 だから、もうちょっとお金頂戴。金庫から毎月馬鹿みたいに金が流れていくのを見ているのは、結構心臓に悪いんだ。


 例え、足りていたとしても。


 俺は、なんやかんやこの世界に来てから1番付き合いのある国POLに向けて、電話をするのであった。




【シャルル・ド・ゴール】

 フランスの大統領。1940年5月のナチス侵攻による本国失陥後、イギリス・ロンドンにてロレーヌ十字の自由フランスを樹立してレジスタンスと共闘し、臨時政府で最初の首相となり、1959年1月に第五共和政で最初の大統領に就任した。任期中はアルジェリアの独立の承認・フランスの核武装・NATOの軍事機構からの離脱などを実現した。フランスでは救国の英雄として絶大な尊崇を集め、20世紀フランス最高の政治家の一人と見做されている。通称ド・ゴール将軍。フランスで単にル・ジェネラルと呼べばド・ゴールを指す。




 POL(ポーランド)は再び危機的状況に陥っていた。


 第二次世界大戦でナチス・ドイツとソ連に責めいられた時のように、彼等はまたしても2カ国から責められる危険性を孕んでいたのである。


 相手は大国FR(フランス)と永世中立国SHE(スイス)。


 POLの戦力を考えれば多少抵抗できたとしても、耐えることは難しい。


 保有するハンターの質や数、軍の設備に至るまで何もかもが劣っている。


 肥えた豚共を飼育するために作られたようなこの国は、国防のために割く金等用意されていないのだ。


「逃げるか?」

「逃げたとして、見逃してくれるとは思えんなぁ........まぁ、辺境の地に行けば問題ないだろうが今のような生活は無理だな」


 一刻を争う事態だと言うのに、POL政府は特段焦る様子は無い。


 何故ならば、彼等は逃げる準備があるからだ。


 国民を犠牲にすれば、逃げられるだろう。POLという国はとことん腐っているのだ。


 そんな中、1本の電話が入ってくる。


「報告!!日本帝国よりお電話です!!」

「ん?ミスターグレイからか。内容は?」

「“助けてやるから逃げるんじゃねぇぞ”との事です」

「........なるほど。彼は意外にも義理堅いようだ。これじゃアフリカへの旅行はキャンセルだな」


 授けられた一筋の光。その光はあまりにも大きく、天を照らす太陽のようであった。





 後書き。

 エチオピアにまたしても負けるパスタ。お前、弱すぎるよ。

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