傭兵、九芒星

有能おっちゃん


 革命は成され、新たな日の出がセルビアを照らし出す頃。


 俺達は日本帝国に帰ってきていた。


 んー!!やはり我が祖国そこ世界一!!俺が唯一心安らげる素晴らしい場所だよ。


 可愛いサメちゃんたちと触れ合ったり、暇つぶしに街を散策してみたり。やはり平和とは素晴らしいものである。


 戦争はクソ。戦争なんてしない方が平和だよこの世界は。


 しかしながら、戦争は望まずしてやってくるものだ。そして、戦争のみならず俺のケツを狙うファッカー共も。


「お、グレイさんじゃないか。ニュースで見たぞ。なんでもセルビア社会主義共和国を再建してきたそうじゃないか」

「おっさんが家を建てるよりは簡単な仕事だったな。随分と形になってきたじゃないか」


 ハンター協会が暗殺者部隊を作っているという話を聞いたからには、何らかの対策を建てておかなければならない。具体的には、ハンター協会の動きをできる限り封じたい。


 そんな時に役に立つのが彼、セリッド・アークロイスである。


 パン屋さんになりたいだなんて言う今どきの男子小学生でも言わないような事を、彼は大まじめに夢として語っていたのだ。


 ちなみに、今はさらに薄くなったバーコード頭にタオルを巻いて、木材を運んでいる途中。


 どうやら自分の店は自分で建てたいらしく、エルフ達に協力してもらいながらもいい汗を流していた。


 いいなぁ。俺もそのスローライフに参加したいんだけど。


 サメちゃんやナーちゃん達とほのぼのした異世界生活を満喫したいよ。


「エルフの人達が随分と快く私を迎え入れてくれてね。お陰でサクサクと物事が進んで助かっているよ。君の名前はこの国において絶大な力を発揮するらしい。ある種の独裁国家とも言えるかもな」

「この国は民主主義国家だよ。俺はあくまでも人間を代表しているだけさ」

「そうは言うが、これほどまでにグレイさんに敬意を持っている国民が多く、その殆どが君の名前を聞くだけで背筋が伸びる。このまま欲に囚われず、良き君主でいたならば、今後10世紀はその名前が残ると思うぞ?」

「名前を残して何になる。死んだらその時点でそいつの物語は終わりだし、その物語を好き勝手見られる趣味もない........良かった。とりあえず隣人関係は良さそうだな」

「ハッハッハ!!こう見えても昔はバリバリの営業をやっていたんだ。コミュニケーション能力の高さは自負していてね。それと、単純にエルフの人達が優しい。この国に生まれた子供たちはさぞ幸せだろうよ」


 セリッドはそう言うと、木材を置いて首に掛けていたタオルで汗を拭う。


 この調子で汗を流していれば、あっという間にその肥えた脂肪が燃えそうだ。家づくりダイエットとか言って布教したら、ちょっと流行りそう。


「それで?私の家の進捗を聞きに来た訳でもないのだろう?何が聞きたい」

「ハンター協会は俺がとても目障りらしい。が、俺は生憎マリーアントワネットのように首を切り落とされて市民に掲げられら趣味はなくてね」

「あぁ。なるほど。動きを封じたいのか。それなら簡単だ。君の所のメイドさんに“第12ファイルを世界に公表しろ”と伝えればしばらくの間は身動きが取れなくなるぞ」


 ........うん。話が見えん。


 頭が良すぎるヤツとの会話はキャッチボールが成り立たんな。こっちが言葉を投げたら、向こうはその回答を持ってきてしまうのだから。


 話が早いのはいいことだが、早すぎても問題。いい勉強になったぜ。


「その“第12ファイル”ってのはなんなんだ?」

「私はハンター協会を出ていく際、交渉材料として色々なものを用意していてな。ハンター協会には世間に公表できない多くの事柄がある。それらをメモリーに保存して、こちらに持ち込んだんだ」

「そのファイルの内の一つという訳か。どんな内容だ?」


 このおっさん、確かハンター協会を辞める時にそんなものを持ち出してたのか。


 ハンター協会が敵に回ってからそれほど時間の経たないうちに、電撃退職したことをことを考えるとこのような事態が起きた時のために既に用意していたな?


 まじで優秀じゃん。俺の代わりに国家元首をやってみないか?


 俺が改めておっさんの優秀さを認識していると、おっさんは声を小さくしながら俺に囁く。


 どうやら、周囲にいるエルフ達には聞かせられない内容らしい。


「ハンター協会が裏で暗殺の仕事を受けていた時の契約書さ。そのほぼ全てがとして扱われたから真実を知らないものも多いがね」

「........ちなみに、誰が殺されてる?」

「どこぞの大企業から恨みを買った一般人や、国のVIP。その他色々さ。言っておくが、私はそれらを容認した覚えはないぞ?幹部が勝手にやったことだ。脅しの道具として使えるかと思って、情報は抜き取って保管しておいたがな」

「黙認はしたと?」

「腐っている中にも綺麗な果実はあるのだよグレイさん。私は、そんな綺麗な果実のためにも見て見ぬふりをするしか無かった。下手をすれば、何も関係の無い職員にも被害が及ぶからな」


 当時のおっさんにも守るべきものはあったんだろうな。


 なんと言うか、ちょっと顔が疲れて見えるのは気のせいだろうか。


「........あぁ、幹部がやった事なのに、職員まで叩かれるって訳か。今はいいのか?」

「もう私の管轄では無いし、多くの職員に忠告はした。“私がやめた以上、今のようなハンター協会は無くなる。今すぐにでも転職先を探して辞めることだ”とね」


 どうやら、俺が思っていた以上にハンター協会は腐っていたらしい。


 この調子じゃ、人を攫って人体実験もしていそうだな。


 それにしても、暗殺者部隊を作るよりも前から暗殺家業をしていたとは驚きだ。組織は大きくなればなるほど腐敗するとは言うが、これはその典型的な例と言えるだろう。


「こいつを公開すれば、ハンター協会は自由に動けなくなる。各国がハンター協会の内部を調べ、その証拠を探すだろう」

「証拠はあるのか?」

「フッフッフ。私が証拠を残しておかないわけも無いだろ?幾つか偽装したのもあるが........ありとあらゆる場所から、昔仕込んだ不発弾が炸裂するだろうよ」

「おっかねぇ地雷原だ。ハンター協会の本部の中は歩き回れないな」

「欲にまみれた連中のタップダンスでも見ているといい。ワインを片手にね」

「あいにく、酒はあまり好きじゃないんだ。ジンジャエールやスプライトを飲んでいる方が好きだね。もしくはオレンジジュースか」

「ハッハッハ!!確かに君には酒は似合わないな!!タバコの方が似合うだろうよ!!」

「タバコは吸うぜ。あんたも吸うか?」


 俺はポケットからタバコを2本取り出し、1本を口に加えて火をつける。


 おっちゃんもタバコを俺から受け取ると、俺から火をつけてもらって一服した。


「marlboroのメンソールライトか。王道という程でも無いが、いい趣味をしているな」

「昔、俺のタバコの味を覚えさせた奴が吸っていたものさ。POL(ポーランド)から輸入してる。今の時代はハンターにとってタバコは必需品のためか、思いの外安くて助かるよ」


 大きく息を吸って煙を肺に入れ、おっさんに煙が飛ばないように上を向いて息を吐く。


 ルーベルト。お前は今も天の国で俺を眺めいるのか?


 俺は未だにお前から預けられたこのセンスの欠片も無いペンダントを持っているよ。返して欲しければ、取りに来い。


 何時でも、俺は待っている。俺が死するその日まで。


「暗殺家業をやっていたことがバレれば、奴らは慌てて火消しをするし部隊も一旦解散になる。その間は動き放題だ。何をやろうが、邪魔は入らない」

「それは助かるね。少なくとも、俺はあと三つ五大ダンジョンを攻略しなきゃならんし、三度目の愚かな戦争にも参加しなきゃならん。邪魔者は少ない方がいい」

「EGY(エジプト)もハンター協会にかかりっきりになるだろう。何せ、市民を守るための組織が市民を殺しているんだからね。他の国も、ハンター協会の支部に足を踏み入れて調査が入る。もしかしたら、第三次世界大戦が収束する可能性だってあるぞ」

「それは無いな。断言出来る」

「その心は?」

「ハンター協会の上が腐っていたように、政治家の多くは腐っているからだよ。そして、既に多くの武器や物資を購入しているにもかかわらず、大した戦果も無しにその手を止めるわけが無い。それができるなら、最初から戦争はしていない。ハンター協会だってどこもかしもこ腐っているとは考えにくいし、多少戦争は止まっても続くだろうさ」


 お互いに自国内で問題が発生したので和平しましょう?


 そんな甘い話があるはずもない。


 きっと政治家どもはその腐った連中を秘密裏に処分して、表向きは“異常なし”と言うだろう。


 もしくは迅速に処分され、戦争を継続する。


 戦争は勝たなきゃ意味が無い。引き分けも負けも、どちらも彼らにとっては負けとなるのだ。


「........随分と腐った連中の頭の中が分かっているようで」

「それが分からなきゃ、今こうして余生を楽しもうとするおっさんと一緒にタバコなんて吸ってないさ。今頃、微生物に分解されて、土の養分になっているのがオチだよ。さて、手段があるならそれでいいさ。引き止めて悪かったな。家づくりに戻ってくれていいよ」

「タバコを吸い終わったら戻るよ。朝から動きっぱなしでちょっと疲れてるから、いい休憩になったさ」


 嘘つけ。俺が助言を求めてきたその時には仮面を被ったくせに。


「なぁ、セリッド。チェスって知ってるか?」

「知らない方がどうかしてるだろ。この国のような特殊な場合じゃない限りは」

「できるか?」

「ルールは知ってる。昔、親父に遊んでもらっていた時はよくやっていたさ。大体俺が勝ち越していたな」

「俺と1局やるか。もう一服、しながらさ。もう時期昼時だし、飯も食いながら」

「そいつはいいかもしれんな。だが、私に負けてべそかくなよ?」

「そりゃこっちのセリフだ。ボコられても泣くんじゃねぇぞ?丁度いい。ジルハード達も呼んでくるか」


 こうして、何気ない日々が続く。


 なお、セリッドはちゃんと強かった。残念ながら、俺に1度も勝てなかったが。





 後書き。

 セリッドのおっちゃん、クソ有能。

 因みに、全然関係のない話だけど私の吸ってるタバコはこれ。タバコは20になってから。

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