セルビア社会主義共和国


 その日、セルビアは革命によって姿を変えた。


 何日も続くと思われた革命戦争は、たったの30分で全ての終焉を迎えたのだ。


 国会議事堂を選挙し、更には国の中枢を担っていた政治家達を拘束。そして、その後軍の総司令部を奪取。


 何名かの軍人が国の愛を叫びながら突撃してきたが、たった10数名のバンザイ突撃が3000名に敵うはずも無く呆気なく終わりを迎える。


 その他都市に関しても、今の情勢を鑑みれば白旗を振ることを決断するだろう。


 誰だって国のために命を捧げるだけの愛国心があるとは限らない。


 こうして、彼らは新たな自由を手にした。その先に待つのが戦争だとも知らずに。


 旧制人民解放軍の目的はユーゴスラビアの再建。つまるところ、バルカン半島の統一である。


 この後、軍を掌握して彼らは戦争を仕掛けることになるだろう。そしてかつての栄光を取り戻さんと剣を掲げるのだ。


 それが、彼らの目的であり生きる理由。俺は、そんな馬鹿げた戦争に巻き込まれていくのである。


「テレビ局も占拠して、あっという間にテロリストが国の正義になったな。しかも、臨時の首相はブロスと来た。テロリストが武力行使によって国を乗っ取ったんだ。しかも、国民の支持を得てな」

「こちら側の被害は軽微、軍もそこまで大きな被害にはあっていないため、この後直ぐに戦争を仕掛けることも出来なくは無いですね。ですが、確実な掌握にはまだ時間がかかるかと思いますよ」

「一旦帰るか?そこら辺の内政は俺たちの仕事じゃないしな」

「そうだな。この感じだとまだまだ戦争は続きそうだし、GRC(ギリシャ)とTUR(トルコ)に頑張ってもらったっていい。1度帰るのがベストかもな。またドンパチの時になれば呼ばれるだろ」


 革命戦争が終わった翌日。俺達は旧制人民解放軍が手配してくれたホテルの一室でのんびりとティータイムを嗜みながら、時間を潰していた。


 一旦やることは終わったので、いまは一時の平和を味わう時である。


 その平和の先にまた戦争があると知っていたとしても、紅茶の味は変わらないのだ。


「内部を掌握して安定させるには、それなりの時間がかかる。ブロスはボスみたいになんでも出来るタイプじゃなさそうだからな。できる限り迅速に動いたとしても、二ヶ月ぐらいはかかると思うぞ」

「2ヶ月もこんなところに居たかねぇな。やっぱり帰るか。必要になったら呼んでもらう方向で。俺の首には20億の金が乗ってんだ。さっさと安全圏に帰りてぇよ」

「ハンター協会とのいざこざもあるからねぇ。おばちゃんからの情報によれば、グレイちゃんを殺すための組織が作られているらしよ」

「遂にハンター協会からも暗殺対象ラブコールを貰えるわけだ。羨ましいぜボス」

「そのラブコール。お前にくれてやるよジルハード」

「ハハッ!!勘弁願いたいねぇ!!」


 遂に世界最大の組織からも暗殺の対象にされてしまったらしい。


 俺はあの五大ダンジョンの内二つを攻略し、世界に平和をもらたらした英雄ぞ?俺を殺すとは何事やねん。


 俺は自分が死にそうになったら躊躇いなくラッパを吹くからな。俺だけ死ぬぐらいなら、全部巻き添えにしてやるよ。


 強制スタンのピギーもいるんだし、やろうと思えば全世界相手に戦える。


 まぁ、全部俺の力ではないんだけどさ。


「面倒事ってのはどうして毎回やってくるのかねぇ。平和に暮らしたいよ。セリッドのおっさんみたいになりたい」

「くっそ楽しそうにパン屋の家を建ててるらしいな。レイズが言ってたぜ。ありゃおっさんじゃなくて少年だってな」


 ハンター協会から暗殺者が送られてくるなら、ハンター協会に詳しいセリッドのおっさんを頼るのもいいかもな。


 きっと面白い話がいくつも出てきてくれるだろう。ハンター協会は汚職が酷いらしいし、相手の動きを封じる為にも1度対策は立てておいた方がいいかもしれん。


 そんなことを思っていると、コンコンと扉がノックされる。


 誰かと思いながら“どうぞ”と言うと、そこにはミスシュルカが立っていた。


「おやおや。今や一国の政治家がこんなチンピラモドキになんの御用ですか?」

「随分なご挨拶だなミスターグレイ。何処に立とうが、私は私だよ」

「それで、なんの御用で?もう戦争の準備が整ったのか?」

「貴殿でもあるまいし、そんな馬鹿げた真似はできない。数ヶ月は根回しと軍の掌握に時間が掛かるだろうな。思いの外、政治家から甘い汁をすすっていた連中が多くて困っているんだ」

「手伝わないぞ」

「手伝いを依頼する気もない。流石にそれは頼りすぎだ」


 シュルカはそう言うと、葉巻を取り出して火をつける。


 ここ、一応禁煙なんですけど。


「ここ、禁煙だぞ」

「知るか。ここのオーナーは私に借りがあるんだよ。私には逆らえない」

「そんな真似をしていたら、また革命が起こるぞ。次は手伝ってやらないからな」

「安心しろ。そんなことにはならないし、させるつもりもない」

「で、なんの用?」

「我々セルビア社会主義共和国は、今日をもって日本帝国を一国家として認める。という事を伝えに来た。ボスなりの感謝の表れだ。今はやるべき事が他にも多くあるから出来ないが、落ち着いたら正式な同盟と貿易を始めたいと言っている」

「あっそ。それはどうでもいいや。んで、俺達はもう帰っていいのか?どうもハンター協会のヤツらが暗殺部隊を結成しているみたいでな。俺の頭をホルマリン漬けにしてルーブル美術館辺りに飾りたいらしい。もし飾られたら、モナリザよりも人気になれるかもな」

「フッ、相変わらず全世界から狙われているのだな。テロリストよりも敵が多い国家元首とは笑える」

「好きでこうなったわけじゃないってのに、いい迷惑だ。人類の活動領域を広げ、五大ダンジョンの2つを攻略した俺に対する仕打ちとしては、あまりにも酷いと思わないか?」

「一応言っておくが、五大ダンジョンの攻略は犯罪だぞ。全く。ミスターグレイはそう言う常識が抜け落ちている」


 失礼な。俺は常識の塊だっての。


 ただ、何故か敵が毎回増えるけど。


「また皆の力を借りる日が来るだろう。それまでは好きに世界を荒らし回ってくれ。改めて、感謝してる。ボスの代わりに私が頭を下げよう。ありがとう」


 それは、セルビアを代表してのお礼。


 あの強面のシュルカが、素直に頭を下げた歴史的瞬間であった。


 意外だな。意地でも頭を下げるようなやつでは無いと思っていたが........俺は彼女を過小評価していたらしい。


「まぁ、困ったらまた呼べよ。俺達は一旦帰る。ハンター協会共の動きを封じないと、満足に観光もできないしな」

「またねシュルカ。次もまた戦争の中で」

「あの旧制人民解放軍のシュルカが頭を下げるとは........ボスってやっぱりスゲェな。グダニスクにいた頃じゃ考えられなかったぜ」

「ボス、契約は?」

「いいよいいよ。どうせ裏切らないし裏切れない。さぁ、俺達は帰ろう。ミスシュルカ。飛行機の手配は?」

「既に済んでいる。どうせ帰ると思っていたからな」


 こういうところは仕事が出来るな。普通にうちに欲しい人材かもしれん。


 よくよく考えると、シュルカってマトモなのだ。策略をちゃんと張り巡らせれるし、こうして仕事もできる。


 どこぞの自称高性能AIちゃんよりもマシかもしれん。


 だって勝手に宣戦布告のかしないだろ?それだけで100点満点だよ。


 俺はちょっと誘ってみようかと思いつつも、彼女にはやるべき事がごまんとある事を思い出して大人しく国へ帰ることにした。


 あー、今回は余計な恨みも買わずに済んで良かったよ。やっぱり平和が一番だな。




【セルビア社会主義共和国】

 ーゴスラビア社会主義連邦共和国(SRFJ)の構成国で、1943年から1990年まで存在した。セルビアはユーゴスラビアの構成国の中で最大の面積と人口を持ち、その首都ベオグラードはユーゴスラビアの首都として政治、経済の最大の拠点となった。

 それから500年後、革命戦争を経て復活。ユーゴスラビアが出来上がる日も近いのかもしれない。




 1.名無しの神

【平和!!】グレイ君、久々に平和的に仕事を終える。


 2.名無しの神

 平和(革命戦争)


 3.名無しの神

 平和とは?


 4.名無しの神

 平和でしょ。グレイ君基準では。いらない恨みも買うことなく、ちょっとしたドンパチで全部終わったんだから。


 5.名無しの神

 そのドンパチの部分が平和じゃないんだよなぁ........後、やっぱりグレイ君は人を使うことに関してはクソ有能だと証明されたね。

 なんか3日で国民を味方に付けてたんだけど。


 6.名無しの有能神

 既に手札が揃っていたとは言っても、ここまで効率よく手札を切れるのは流石だね。

 人心掌握に関しては、やっぱりグレイ君は有能。

 なんでこんなに有能なのに、毎回大事なところでポカやらかしたりするんだろう?


 7.名無しの神

 もしかして:主人公補正


 8.名無しの神

 グレイ君はこの世界の主人公じゃったか........


 9.名無しの神

 まぁ、間違ってはいない。事実、主人公みたいなことばかりやってるし、この地球はグレイ君を中心に回ってる。


 10.名無しの神

 この世界に来て3日目でテロを引き起こして、マフィアのボスに成り上がり、国家元首になる主人公とか嫌すぎる。


 11.名無しの神

 少なくとも俺はなりなくないね。


 12.名無しの神

 誰もなりたくねぇよそんな主人公。俺なら最初のオーガ戦で死んでる自信があるね。


 13.名無しの神

 それはそう。


 14.名無しの神

 グレイくんってちょっと抜けてるけど馬鹿じゃないから、ちゃんと自分の立ち位置とか理解して行動している節はあるよね。

 毎回1番の大ぽかをやらかすけど。


 15.名無しの神

 ハンター協会との敵対は確定。せや!!嫌がらせで電話の内容世界に公表したろ!!

 ス イ ス 参 戦。


 16.名無しの神

 草。

 でもスイスって強いの?


 17.名無しの有能神

 ぶっちゃけそこまで強くない。永世中立国を名乗れるだけの強さはあるけど、日本の戦力と比べたら鼻くそかな。


 18.名無しの神

 人間核兵器を持つ日本と比べてあげないで。日本にはラッパもピギーもいるんだから。


 19.名無しの神

 果たしてスイスとやり合う日は来るのかな?いや、それよりも今はフランスか?





 後書き。

 これにてこの章はおしまいです。

 いつも沢山のコメントありがとうございます。全部読んでるよ。

 今回はどこからも大きな恨みを買わず(個人では買っている)平和(疑問)に終わりました。

 やったね‼︎グレイ君‼︎

 次は、傭兵として戦場に飛び込みます。まぁ、グレイ君は弱いからタバコ吸いながら格好つけるだけだろうけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る