セルビア大革命
その日、遂に国民と政府の衝突は大きくなり人々の我慢は限界を超えた。
国民はどこからともなく銃を持ち出し、血と硝煙に塗れた弾丸を天に向けて放つ。
人々は、遂に殺しの道具を手に取った。
そして、その手に握られた道具は人を殺すために使われる。
幾多の歴史が繰り返してきた、革命の時間だ。
旧制人民解放軍が先頭に立ち、彼らは正義の名の元に神に変わって天罰を下す。
なんと愚かで傲慢な人間なのだろう。俺が神であったなら、彼らに救いなど与えない。
「腐りきった政府を打倒し、我々の手によって新たな国家を作り上げるのだ!!」
「「「「「ウヲォォォォォォ!!」」」」」
ブロスの一声によって、人々は各々が持つ武器を天に掲げる。
銃火器を持つものから、台所の包丁まで。
人を殺す手段として使える武器が、その手の中に握られていた。
「軍人も結構いるな。中には警官もいる」
「今この情勢の中で、どちらが勝ち馬かと言われれば間違いなくこっちだろうからな。生き残りたいならこっちで銃をぶっぱなす方が生きられる。使い捨ての兵士になるよりかはマシで良かったじゃないか。少なくとも、こっちの上は兵士たちと共に戦ってくれるんだぜ」
「雨風凌げる家の中に立て篭もる政治家共よりかは、命を預けるに値するだろうな。俺はどっちもゴメンだが」
「それを言ったらおしまいだぜボス。俺だってごめんだ」
情報が出回ってから3日後には既に首都は包囲され、誰もが逃げることの出来ない網が張られている。そして、そこに集まった兵士たちの数は約3000。
元々旧制人民解放軍のメンバーが500人いたかいなかったぐらいだということを考えれば、かなりの量の国民が武器を持ったものだ。
さらに言えば、既に暴徒となった人々の一部が真実を報道しないテレビ局を襲撃。
政府との癒着の証拠が集められ、テレビ局で働く者の多くが私刑されている。
もちろん、軍や警察だって黙っていない。あるものは銃殺され、あるものは捕まり牢獄にぶち込まれた。
が、彼らの行動は火に油を注いだだけに過ぎず、今更何をやったところで国民の怒りが収まるわけもない。
国民の多くは既にリミッターが外れている。
先に罪なき国民を殺したのは向こうであり、そちらがその気ならこちらも武器を握る。
それだけの話なのだ。
まぁ、真実はマッチポンプなのだが、少なくとも彼らの目には軍が政府が牙を向いたと認識している。
「ボス。私達はどのように動きましょうか?」
「基本的にはあまり動かず待機。で、明らかにこちらが不利になるであろう兵器がでてきた場合のみ、俺達が対処する。未だに政府に協力するハンターも多いしな。聞いた話じゃ、Sランクハンターに近い実力を持ったやつが向こうにいるらしいし」
「フォッフォッフォ。ならば、儂がそれを始末してくるかのぉ。ちょいと遊べば殺せるじゃろうて」
「周囲の家まで切り刻むなよ。ここはCHじゃないんだからな」
「フォッフォッフォ。分かっておるわい。多少は加減してやるからの」
この革命にはどちら側にもハンターが存在している。
ハンターは国になくてはならない職業なので当たり前なのだが、シュルカ曰くSランクハンター並の猛者が1人向こう側に着いているそうだ。
それの排除は必須。Sランクハンター並の強さを持った化け物達の力を知っている俺からすれば、そいつを始末できるかどうかでこの革命戦争の行く末が変わる。
多分、爺さんが相手を細切れにして圧勝するだろうけどね。Sランクハンターですら歯が立たないほどに、この爺さんは強い。
「んじゃ、しばらくの間は暇だろうな。相手も最初から切り札を切ってくるほど馬鹿じゃないだろうし」
「いや、それは分からないぞジルハード。相手の戦意を早めに削ぐという点においては、初撃で大量に仲間を殺してしまった方が早いし楽だからな。切り札ってのは、その状況に応じて切るタイミングが違うんだよ。先に切って流れを掴むか、流れを覆すために切り札を切るのか。使い方次第でその効果も違ってくる。多分だが、向こうは最初から切ってくるぞ」
「........ボスがそういうって事は、そうなんだろうな。なら、最初は様子見じゃなくて爺さんを暴れさせるのが正解じゃないか」
「向こうが切り札を切ったタイミングで俺達も対応する手札を切るんだから、様子見でいいんだよ........そろそろ始まるな」
ズラリと並んだ旧制人民解放軍と国民達。
まさか国民達も、遂に1年ほど前にはテロリストと肩を並べるとは思ってもなかっただろう。
セルビアのテロリスト達はいつの間にかこの国の正義となり、政府は悪へと成り下がった。
あとは、勝ったやつが歴史を作る。
「あぁ、レミヤがいたら音楽でも掛けてもらったのにな。爽快に奏られる曲の中で響く銃声。悪くないだろう?」
「携帯があるじゃねぇか。イヤホンでもして流しとけよ」
「馬鹿。こういうのは街全体に聞こえるほどにバカスカ流すから楽しいんだろうが」
「ちなみに、何を流そうとしてたんだ?」
「courtesy collっていう曲だよ。thousand Foot Krutchの曲さ」
「なんだそれ知らねぇな」
「知らないのか?カナダのロックバンドなんだが」
大体のネタを拾ってきてくれたジルハードでも、知らない曲はあるんだな。
まぁ、この世界はなんちゃってパラレルワールドだから、もしかしたらこの世界にthousand foot krutchが生まれてないのかもしれん。
と、思い検索したが、普通にあった。
パラレルワールドの摩訶不思議。このバンド、ダンジョン戦争後にできたはずなんですがねぇ。
「これだよこれ。聞いてみるか?」
「お、ならみんなで聞こうぜ。ボスはシャレのセンスはてんでダメだが、曲のセンスは結構あるからな」
「それ、褒めてる?貶してる?」
俺はそう言うと、“Hey oh”から始まる神曲を流し始めるのであった。
危ないヤツらがやってきたぞ、この
【thousand foot krutch】
1995年に結成されたカナダのロック・バンド。これまでに10枚のアルバム(最初の1枚はOddball名義)、5枚のリミックス・アルバム(EP含む)、2枚のライブ・アルバムをリリースしている。現在のメンバーは、ボーカルのトレヴァー・マクニーヴェンとドラムのスティーヴ・オーガスティン、彼らのサイド・プロジェクトであるFM Staticのメンバーでもあり、2009年にソロ・プロジェクトをはじめたジョエル・ブルイヤー。
余談だが、私(作者)が知っている曲はcourtesy collの1つのみ。その昔、nightcoreと言うリミックス曲にハマっていた時期があってじゃな........
後にセルビア大革命と語られるこの革命戦争は、あっけなく終わりを迎えることになる。
Sランクハンターに準ずるとまで言われた、とあるひとりのハンターが全てを解決してくれるとタカを括っていた政府や軍が彼が死んだ後の対応を考えていなかったからだ。
「ほ、報告します!!バレン・ジョエラスが死亡しました!!」
「なんだと?!」
バレン・ジョエラス。
セルビアの中でも五本の指に入るハンターであり、Sランクハンターになることを約束された男。
そんな男が、革命戦争が始まった2分足らずで退場してしまったのである。
原因は明白。どこぞの頭のイカれたテロリストを神と崇める狂信的な老人が、軽く刀を一振してしまったからだ。
迫り来る旧制人民解放軍たちに対して、“フッ来たか”と格好付けた瞬間、その体が縦に割れて死んだとなればお笑い草もいい所である。
まだ芸能事務所に所属した方が、才能があったのかもしれない。
もちろん、その場で死に様を見ていたテロリストは爆笑していたが。
「馬鹿な!!奴はこの国でも最強格なのだぞ!!」
「そ、それが報告によれば戦場にたっていたら体が真っ二つになったと........」
「そんな馬鹿な話があるかァ!!何がどうなってみるのだ!!」
怒り狂う防衛責任者。彼はバレンが死んぬとは思ってもおらずその後の対応など欠片も考えていなかった。
セルビアにとってSランクハンターに最も近い男は、それだけ強いと認識されていたのだ。
井の中の蛙大海を知らず。
セルビアという小国でしかイキれない可哀想なカエルは、大海に住むサメの口の中で息絶えたのである。
「い、今すぐに戦車を総動員しろ!!国会議事堂に乗り込ませるな!!でなければ、我々の首が飛ぶぞ!!」
「はっ!!」
そう言って消え去る伝令。
どうすればこの状況で自分達が勝てるのだろうか。様々な思考が頭をよぎり、色々な作戦を考える。
が、その10分後、さらなる絶望が押し寄せた。
「ほ、報告!!戦車部隊が壊滅!!戦車を乗っ取られました!!」
「なにィィィィィィィッ?!」
もう何が何だか訳が分からない。
切り札は最初の2分で死んでしまい、次の手を打ったか朝と思えばあっという間に壊滅。
更にはその戦車を鹵獲され、相手の戦力にしてしまうとなれば責任者の顔もひょっとこ以上に歪むのも無理はない。
「まだ10分だぞ?!正規の軍隊ですらそんなことできやしないぞ!!」
「し、しかし、事実として鹵獲されてしまっています!!」
「今度は何があったのだ!!」
「その、蜂が飛び回っていたようでして........」
「はぁ?蜂?!何を言っているんと貴様は!!」
とある少女による、空気に舞った胞子の攻撃。しかし、そんな情報を持っているはずもない責任者は、意味がわからないと言いたげに騒ぎ立てる。
そして、絶望の報告は次から次へとやってくる。
ここまで来ると、最早彼が可哀想なレベルであった。
「ほ、報告!!国会議事堂に侵入されました!!」
「報告!!議員と首相が拘束されました!!」
「報告!!この場にテロリストどもが迫ってきています!!」
革命戦争かま始まって僅か30分足らず。気がつけば、彼らの敗北は決定していた。
これ以上足掻いても意味はなく、これ以上の抵抗の先にあるのは死あるのみ。
元々同じ人種で殺し合うことには反対であった彼は、ここが引き際だと悟り全てを投げ出した。
「降伏だ。白旗を用意して武装を解除しろ。向こうだって馬鹿じゃない。抵抗しない人間を殺すほど愚かではないだろう。死にたいものがいるのならば、勝手に死ぬといい。私も共に行く」
こうして、セルビアの歴史を塗り替えた革命は僅か30分で終わりを迎えた。
その影に世界中の教科書に乗っている男がある事を、知る者は少ない。
後書き。
革命。ほぼダイジェストで終わる。
僅か一週間足らずで革命を終えるRTA走者がいるってマジ?
後、私の洋楽の入り口はナイトコアでした。通学の時にメドレー流してたな。courtesy collはいい曲だぞ。原曲も。
で、全然関係のない話なんですが、昔諦めたダブルクロスをソロで攻略しようかなと思ってるんです(上位獰猛ジンオウガにボコられてやめた)。
誰かクソ雑魚初心者の私でもアトラル・カまで走れる武器種とスタイルを教えてくれ。実力は、村バルファルクに初見で2乙20分ぐらい。
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