嫌な予感


 黙示録のダンジョンでは二ヶ月以上もの間過ごしていたと思った、現実世界では僅か三日しか経っていなかったという驚きの事実が判明した翌日。


 俺はようやく祖国へと帰ってきていた。


 長かった。いや本当に長かった。暇してただけだけど。


 無事に攻略出来たらとやかく言うつもりはないが、2ヶ月は長いよ。なんやかんやあった世界樹のダンジョンですら一ヶ月ちょっとで攻略できたというのに。


 そんなことを思いながらも、久々の祖国の大地を踏みしてた俺はそのまま家に帰ってベッドに寝転がる。


 さすがにね。疲れたからね。


 王達も内政で色々と忙しいらしく、で迎えこそしてくれたがすぐに仕事に戻ったし。


「─────ってことがあったんだよ。お陰で俺は死にかけた。クソいい迷惑だぜ」

『アッハッハッハッハッ!!私が必死に色男を探しているあいだ、色男はリーズヘルトとデートしていた訳だ!!全く、私の心配と時間を返して欲しいものだねぇ!!』


 日本に帰ってくるなり、俺に電話をかけてきた木偶情報屋。


 人が疲れて切っていると言うのに、仕事熱心なことだ。


 多分、黙示録の情報が欲しのだろう。普段からなんでもタダで引き受けてくれているのだから、この程度の情報をくれてやるのは構わない。


 どうせ、再挑戦とかはできないんだからな。


『それにしても、これで2つ目の五大ダンジョンすらも攻略してしまった訳か。随分と生き急いでいるね。マルセイユテロ事件から僅か八ヶ月。たった一人の男によって、我々人類が総力を上げて取り組んできた五大ダンジョン攻略を2つも成し遂げてしまったわけだ。ハンター協会のメンツは丸つぶれだろうよ』

「なんだ?また俺はどこかから要らん恨みを買うはめになってるのか?勘弁してくれよ。既に両手じゃ数え切れないほどに恨みを買ってんだぞこっちは」

『直接的に手を出すとは思えないが、快く思ってないのは間違いないだろうね。本来ならば、ハンター協会が自力で成しえて掴み取らなければならない栄光を、全て横からかっさらったんだから。この戦時中は流石に手を出しては来ないと思うが、一応気をつけておくといい。権力を持った連中は、時として何をやらかすのか分からないからねぇ』

「勘弁して欲しいんだが。いやほんとに。人類の安寧に貢献したというのに、ここまで要らない恨みを買うのは勘弁だ。最悪、アーサーに言いつけて何とかしてもらおう。あいつは話がわかるやつだからな」

三枚舌ブリテンの英雄かい?確かに彼ならなんとでもしてくれそうだがね。まぁ、そんな訳で一応ハンター協会にも気をつけておきな。下手をすれば、今度はハンター達が色男の敵となりうるからね』


 そう言って、木偶情報屋の電話は切れる。


 マジかよ。俺、今度はハンター協会を敵に回す可能性があるのかよ。


 自分たちの無能さを棚に上げて、本来手にするはずだった栄光を横取りしただの文句を言われた日には、その場所に核ミサイルでも落としてやりたくなりそうだ。


 開発しちゃおうかな。核ミサイル。


 なんか原子とか元素の仕組みを教わって、様々なことができるようになったドワーフに頼んだら一瞬でできそうだし。


 核はダンジョンにおいて意味をなさない。そもそも持ち運べないからね。


 しかし、戦争においては大きな抑止力となる。


 核は未だに人類の驚異となり得るのだ。抑止力を持って、国の安全を守ると言うことに関しては、核ほど優れたものもないだろう。


 ちなみに、核兵器の開発は国際条約によって禁止されていたりする。


 現在保有する核兵器以外の核兵器を製造、及び開発するのは全世界に禁止されているのだ。


 どうせ大国は、その条約を破っているとは思うけどね。


 やり方次第では、ダンジョンの中で核兵器を作れる。この国も情報を隠蔽するためにダンジョンの中でしか基本的に兵器開発を許してないし、俺でも思いつくことは他国もやっていることだろう。


 事実、レミヤの報告ではCHに想定されていた以上の核兵器が眠っていたそうだ。


 それらは既に適当なダンジョンに放り混んで処分済み。


 どうせ攻略もできないダンジョンの中は、ある種のゴミ箱である。


 ゲートを潜れば、そこは完全なる別世界。放射能汚染など気にせずとも問題ないのだ。


 そう考えると、ダンジョンって便利だよな。死体を捨てるにも平気を捨てるにも役立つし、何か隠し事をしたい時も役に立つ。


 地球から隔離された世界というのは、かなり便利な世界のようだ。


 そんな世界が現れた結果が、この有様なのだが。


「はぁ。ハンター協会からも敵対されることになると面倒だな。お偉いさん達がマトモな人であることを祈るしかないか」

「ナー?」

「おー、ナーちゃん。ナーちゃんは相変わらず可愛いなー」

「ナー!!」


 3日ぶりに(俺からしたら二ヶ月ぶり)にナーちゃんの頭を撫でてやると、ナーちゃんはとても嬉しそうに尻尾をブンブンと振りながら俺の服の中に入って首元から顔を出す。


 あー、可愛い。やっぱりナーちゃんは可愛いよ。癒されるし、何よりモフっとしてて肌触りが素晴らしい。


「心配かけて悪かったな。今日は一緒にゆっくり寝ような」

「ナー!!」

(ポヨン)

「お、スーちゃんは枕になってくれるのか?それはありがたいな。スーちゃんのぽよぽよした枕を使わせてもらうよ。飽きたら普通の枕を差し込んでおいてくれ」

(ポヨヨン!!)


 まぁ、今考えてもどうしようも無いし、とりあえずフカフカのベッドで傷んだ体を休めるとしよう。


 最悪アレだ。狼ちゃんに興奮するド変態英雄王に何とかして貰えばそれでいいや。


 俺はそう思いながら、2ヶ月ぶりのフカフカなベッドでゆっくりと睡眠を取るのであった。




【ベルギー】

 ドイツとフランスの間にある、通称「道路国家」。第二次世界大戦時、中立を保っていたベルギーだったが、フランスの屈強な防御線である「マジノ線」を突破できなかったドイツがベルギーに進行し、そこからフランスへと乗り込んだことで「道路国家」と呼ばれるようになる。

 この世界ではダンジョンの被害かなり少なく、比較的安全な国として人気が高かったが、ドイツ側に寄った政治をしていたため第三次世界大戦ではフランスに道路替わりにさせられてしまった。毎回二択を外す天才。ある意味才能。




 ベッドって偉大だわ。


 久々にフカフカなベッドで寝た俺は、思っていた以上に身体が回復していたことに驚いていた。


 やはり、質のいい睡眠って大事なんだな。同じ時間を寝るにしても、ベッドがあるのとないのとではここまで大きな違いがあるとは思ってもなかった。


 そんな人類の英智を目の当たりにした俺は、またしても鳴り響く電話を手に取る。


 番号を見れば、昨日何とかしてもらおうと思っていた張本人、英雄王アーサーであった。


「ベッドって偉大だなアーサー」

『........???急に何の話をしてるの君は。相変わらず変な人だね』

「狼とファックしたがるイカレ野郎程じゃないさ。それで、何の用だ?」

『ニュースで見たよ。黙示録のダンジョンを攻略したんだって?第三次世界大戦中だと言うのに、随分と余裕そうじゃないか』

「言っておくが、俺は巻き込まれただけで望んで攻略をした訳じゃないぞ。転移系能力者に飛ばされたんだ」

『あはは!!相変わらず君は運がないね。それでも攻略できてしまうあたり、君は本物なんだけどさ』


 色々と含みがありそうな“本物”だな。


 俺を変人扱いしていないかアーサー。少なくとも、お前よりはマシだぞ。


「御祝儀の電話か?なら切るぞ。今から会議に出なきゃならん」

『待って待って。確かにお祝いの言葉を唯一の友人に挙げるために電話をしたんだけど、もうひとつ用事があってね』

「なんだ?」

『どうもハンター協会が君を招集したがっているんだ。一応、君はハンター登録しているんだろう?』

「一応は」


 俺自身がハンター登録した訳では無いが、俺はハンターとしての資格を持っている。


 遡ること八か月前。俺は神に転生させられた時になんかよくわかんない神様パワーで、ハンターになっていた。


 まぁ、3日でそのハンターのカード使えなくなったんですけどね!!


 未だに記念品として持ってはいるものの、使ったのは1回あるかないかぐらい。


 マジで使った記憶が無い。


『ハンター協会としては、君を表彰したいらしい。五大ダンジョンを2度もクリアした歴史的人物の甘い汁をすすりたいらしいね。権力者はいつだってそうだから』

「なるほど。だが、今の情勢を考えたらそんなことをしている暇なんてないだろ。今は世界中が戦争してるんだぜ?そんな中で協会だけめでたい話をしたがるとは、随分と身勝手だな」

『そんなもんだよ。ハンター協会だって所詮は人が作った組織だからね。自分たちの権力が強くなればそれでいいのさ。で、ぶっちゃけた話、行かない方がいいよ。下手をすれば、君がテロ事故の首謀者として引っ張られる可能性がある』

「はなから行く気なんてねーよ。別に褒めて欲しくて攻略したわけじゃない。そうせざるを得なかったから仕方がなくやったんだ。後、うちの国今戦争中で手が離せないから」


 戦争中に表彰式に出る国の頭がどこにいる。そいつはきっと、頭の中に膿が溜まっているよ。


 真っ二つにしてその頭の腫れを治してやれ。


『あはは。だろうね。君は自分の名誉とかそういうのを気にしない人だからね。僕も心配はしてないけど、一応報告だけはしておこうと思って。そもそも君は、ハンターじゃないんだしね。その資格を剥奪されたり、日本にハンター協会を作らないと言われても特には困らないだろうさ。あの馬鹿げた強さをしたエルフ達がいるんだしね』

「外部からの組織を受け入れるつもりは無いな。ましてや、汚職にまみれてそうな連中の組織は。身内の組織ならまだしも、その他は受け付けてないぞ」

『なら、良かった。もし連絡があったら僕に行ってね。軽く圧力をかけてあげるからさ』

「助かるよ。それじゃ、狼ちゃんとお幸せに」


 俺はそう言って電話を切る。


 あぁ、また敵が増えそうな予感がする。これ、話が来た時点で敵対ルート確定なのでは?


 俺は、ハンター協会がどうかまともな思考力を持っていますようにと、クソッタレ神に祈っておくのだった。

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