知ってるか?


 久々に帰ってきた我らが祖国日本帝国。


 未承認国家でありながら、アジアの大国CH(中国)を滅ぼしたその快進撃は全世界に衝撃を与え、もはや蛮族の集まりとバカにすることは出来なくなった。


 そりゃそうだろう。俺たちはブリテンの脇にあるシーランド公国じゃない。


 れっきとした軍を持ち、ありとあらゆる驚異から自らの身を守ることが出来るぐらいには強く、そして頭のイカれたジジイという核兵器を持っているのだから。


 この爺さん1人を敵対国家に送るだけで、大抵の国は滅びを迎えることになる。


 もう爺さん1人でいいんじゃないかな。世界征服だってできそうだ。


「ちょっと見ない間に凄まじい発展を遂げてるな。相変わらず、ドワーフの技術力と言うのは恐ろしい」

「全くだよ。ドワーフの技術がなかったら、私達ももっと苦戦する事になっていただろうね」


 今後の方針を決める会議も無事に終わり、俺は発展したこの国を散歩する。


 今は戦時中なれど、人々の生活が変わることは無い。


 多少の緊張感こそあったものの、普通に楽しそうな日常を過ごしているのだ。


 真昼間から暴走族みたいなバイクが走り回っている事が日常と言うのも、少々嫌になるが。


 現在、この国はバイクブームを迎えている。流石にマフラーを外して爆音でブンブン走られると困るので、決まった場所以外ではマフラーを付けるように法律で決めているのだが、バイクの改造自体は違法ではない。


 法定速度を守っていれば、どんな形でもオーケー。あまり強く規制しすぎると反発が起きそうだから、最低限のモラルだけは守らせればいいのだ。


 嫌だよ。この国初めての反乱の理由が、バイクとか。


 そんなことが起こった日には、俺はこの国を捨てるね。


「今後はどうするの?内政に関しては問題なさそうだけど、戦争はまだ続いているよね?」

「クソ迷惑なことに、俺たちには敵が多い。一つ一つ的確に潰していくしかないだろうな。だが、アジアの安全は確保出来た。東南アジアとも友好的な関係が築けそうだし、後はヨーロッパと中央アメリカを何とかすれば終わりだ」

「未だに動きを見せないアフリカ諸国が不気味だけどね」

「あそこは戦争するメリットがないんだろ。精々内戦しているぐらいしかやることがない。今頃EGY(エジプト)の連中は喜んでいるだろうよ。三大大国とまで言われたFR(フランス)とUSA(アメリカ)がボロボロになりながら戦争をしてるんだからな。ちょっとしたちょっかいを掛けながら、暫くは様子見するだろう。漁夫の利を狙う可能性が高い」


 EGY(エジプト)からすれば、動く理由がない。


 独立保証をしている国が戦争しているだろうが、多少物資を融通するぐらいで戦争に参加することは今のところないだろう。


 目の上のたんこぶ達が弱っている今こそ、下手に手を出さずに自分達の利益だけを上手く確保しようとするはずだ。


 奴らだって馬鹿じゃない。必ず勝てる戦争に乗り出すに決まっている。


「第二次世界大戦まで奴隷扱いだった劣等種が、今やワイン片手に高みの見物だなんて、いいご身分だね。その内白人動物園でも作るんじゃないの?」

「いつの日か、迫害され続けた黒人が世界を支配する日が来るかもな。事実、ヨーロッパ諸国の中にはアフリカの息がかかっている国も少なくない」

「私達はどう動くの?」

「MEX(メキシコ)及び中央アメリカは今、北アメリカとドンパチやっているから下手に手を出さない方がいい。配信者大統領から声を掛けられるまでは、動かない方が無難だな。俺達はUSAからも恨みを買っている。市民はともかく、政府官僚の中には俺を殺したくて仕方がない連中がいっぱいだ。ケツの穴をバーナーで焼きたい連中で溢れかえっているだろうよ」

「となると、バルカン諸国?ソ連の残骸達はもう動く気がないようだし、そこに行くのが無難かも」


 ミスシュルカとの約束もあるし、それが一番丸いだろうな。


 滅茶苦茶に分断された元ソ連の国々は、俺達がCHを滅ぼしてからあっという間に手を引いた。


 おそらく爺さんの暴れ具合に恐れを成したのだろう。


 実は宣戦布告はされている。が、既に向こうは“和平条約を結びたい”とすら言ってきている。


“自分達はCHに従っただけであり、敵対する気は無い”と言っているのだ。


 こちらも敵が減ってくれる分には困らないので、これを了承。条約にはアバート王が行くことになっている。


 俺だけ毎回あちこちに飛ばされるのは不公平だろ?それに、俺が死んだ後もお前らは生きてんだから、経験しておけ。


 ついでとばかりに、俺たちを正式な国家として扱うように条約に盛り込んでおいたので、これで票が多少集まる。


 やっぱり、力で従わせるのがいちばん早いな。


「シュルカはボスの救出に成功したみたいだね。昨日、セルビアのニュースになってた」

「ようやく国を一つにする時が来たんだ。頑張ってほしものだな。問題は、そのボスとやらが俺たちの下に居る事を是とするのかだけど」

「どうなんだろうね?それは実際に会ってみないと分からないかも」

「もし“ぶっ殺してやる!!”とか言われたら嫌だなぁ。ミスシュルカ達とは結構仲良くやらせてもらってるって言うのに」


 そんなことを話していると、俺の携帯が鳴り響く。


 番号を見れば、それはレミヤのものであった。


「どうした?」

主人マスター、ハンター協会の本部からお電話です。お話があるそうですよ』


 あー、やっぱり来るのか。勘弁して欲しいねぇ。


 話が来た時点で敵になりうると言うのに。相手は俺達との殺し合いを望んでいるのか?


 正直出たくない。しかし、一国家の頭として出ないわけには行かない。


 彼らはこの世界で最も大きな組織であり、最も重要なポジションに位置する存在なのだから。


 ハンター協会も面倒な連中だな。誰かその本部に核でも落としてくれねぇかな。


「........出よう」

『かしこまりました。電話を繋ぎます。一応、録音はしておきますね』


 俺は嫌だなと思いつつも、出ることを決断。この時点で、ハンター協会との関係性は悪くなるのが確定している。


「お電話変わりました。グレイです」

『初めまして。ミスターグレイ。私は、ハンター協会の代表の1人ミルエドです。突然のお電話、申し訳ありません』


 ハンター協会。彼らは現在認証されている国家全てが作り出した一巨大組織であり、どこの国にも肩入れすることは無いとされている。


 ヨーロッパ、アジア、アフリカ、北アメリカの代表達が集まり、民主的に物事に対処する........というのが表向きの組織だ。


 実際は汚職も酷いし、自国にとって優位になるような采配をしたがる連中の集まり。


 要は、権力という名の餌に釣られたただの豚である。


「いえいえ。ハンター協会の代表様からお電話頂けるとは、とても光栄ですよ。それで、ご要件はなんでしょうか?いかんせん、私も忙しい身でして」

『それは失礼。では、早速本題に入らせて頂きます。グレイ様、我々ハンター協会は、五大ダンジョンの攻略及びその危機の消滅を大変高く評価しております。つきましては、貴方様をSランクハンターに昇格すると同時に、これまでの功績を表彰させて頂きたいのです』


 おばちゃんやアーサーから聞いた内容のまんまだな。


 きっと電話越しのその顔は、とても歪んでいるに違いない。その歪みが、屈辱によるものなのか今後の未来への期待なのかは知らないが。


 それにしても、俺をSランクハンターに昇格?ハンター協会も見る目がないな。


 Sランクハンターとは、人智を超えた真の化け物達に与えられる称号。それ即ち、たった一人で軍隊に匹敵する戦力が必要とされている。


 で、俺がそんな化け物じみた戦力を持っているわけが無い。


 玩具で1個軍隊相手にできるなら、今頃世界は崩壊しているよ。


「大変有難いお話ですが、生憎私はハンターではありませんので」

『良いのですか?Sランクハンターになれば、これまで以上に融通がききますし、ここだけの話ですが我々ハンター協会は日本帝国を正式な国家として認めますよ?これは貴方様にとって重要なことなのではないでしょうか?』


 コイツ、馬鹿か?


 半分脅しの交渉がしたければ、まず録音されない環境で話すべきだろ。この音源を流すだけで、ハンター協会は実質日本帝国を一国家として認めたと言えるんだぞ。


 交渉事が下手と言うよりは、“こんなにも美味しい話を断るわけが無い”と言いたげな口調だ。


 自分たちの組織の権力をあまりにも過信しすぎている。


 ハンター協会が強い力を持つのは、ダンジョンという存在があるからだ。


 荒くれ者も多いハンター立ちを管理し、適切に仕事を振り分ける。その仕事を全て請け負っているから、ハンター協会には価値がある。


 が、世界樹のダンジョンの1部となってしまったこの国は、そもそもダンジョンが発生しない。


 さらに言えば、俺たちは既に独自のシステムが存在しており、万が一の時も全て対応できるようにしてある(王達がなんか作ってた)。


 つまるところ、日本にハンターという職業は不必要なのだ。資源もダンジョンには潤沢に用意されているし、管理もしっかりとできている。


 そして、ハンター協会から支持を受けずとも、この国は既に国である。


 未承認だろうがなんだろうが、関係ない。そもそも、お前らに認められても別に嬉しくともなんともない。


 だから俺の返答は決まっている。


 俺達に借りを押し付けて、更には俺を都合のいい手駒にしたい考えが透けて見えているんだよ馬鹿。


「お断り致します。今は戦時中ですし、そもそも我が国はハンターを必要としないので」

『なっ........!!地位も名誉も保証されるのですよ!!未承認国家にとって、これほど美味しい話もないでしょう?!』


 ハンター協会の代表ってアホなんだな。交渉事でそんなにうろたえるとか、なんでコイツに電話させたんだ。


 俺は小さく溜息をつくと、最後の言葉を言う。


 間違い無く敵になるだろうが、まぁいいや。もう諦めよう。


は地位も名誉も必要ないので。それでは、失礼します」

『........この提案を断ったこと、後悔しますよ』

「そうですか。では、さようなら」


 俺はそう言って電話を着ると、早速アーサーに電話をかける。


 馬鹿だなぁ。最後の最後まで馬鹿だったぞこいつ。


『どうしたんだい?僕は今、フェルと遊ぶのに忙しいんだけど』

「やぁアーサー。愛しの狼ちゃんとファックしているところ悪いんだが─────」


 知ってるか?馬鹿野郎ちゃん。吐いた言葉は飲み込めないんだぜ。





 後書き。

 グレイ君「どうせ敵対することは決定したし、嫌がらせで音声を流してやろ」

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