合流
五大ダンジョン“黙示録”をクリアし、ヒマラヤ山脈の何処かでのんべんだらりと眠っていた俺は硬い地面に起こされる。
やはり、この硬い地面で寝ると体が痛い。同じ体勢で寝続けると、自分の体重で体を痛めつけてしまう。
今日ばかりは地球の重力が憎い。地球、お前を救ってやったんだから、少しは忖度してくれてええんやで?
騎士をぶっ殺して外で天使のラッパを吹かせなかったのは、どこの誰だと思っているんだ。
俺に感謝こそすれど、こうして痛めつける権利はお前には無いんだぞ!!
と、そんな地球君が“そんなこと言ったってしょうがないじゃないか”となりそうな文句を心の中で言いつつも、俺はゆっくりと体を起こす。
体は痛いが、久々にしっかりとした睡眠が取れたのか、頭はハッキリとしていた。
体の調子も悪くない。
「おはようグレイちゃん。まさか朝まで寝るとは思わなかったよ」
「寝すぎたな。済まない。食料とか出しておけばよかった」
「大丈夫だよ。私は人と体の構造が違うから、一日二日飲み食いしなくとも平気だし。でも、喉は乾いたかな。スプライトある?」
「今出すよ」
どうやは俺は自分が思っていたより疲れていたらしい。
地球に戻ってきたのが昼過ぎで、今は早朝。大体18~9時間ぐらいて寝ていたかもな。
下手したらもっと寝ていたかも。
せめて食料と飲水はリィズの為にだしてあげるべきであった。気が利かない男は嫌われてしまうぞ。
俺はちょっと反省しながら、スプライトとフランスパンを出す。次いでにトマトとマヨネーズも出して、朝食を食べることにした。
「これからどうするの?」
「取り敢えず皆と合流しなきゃならんが、そのためにはかなりの距離を移動しなきゃならん。移動手段の確保が望ましいけど、残念なことにここら周辺には人の姿がないからな........歩きで向かわなきゃ行けないぞ」
「私が空を飛べるけど、さすがに飛行機レベルの速さは出ないからなぁ........でも、他に方法がないから自力で行かないとね」
「合流したら今の世界情勢がどうなっているのか確認しないとな。大体二ヶ月近くダンジョンにいたから、かなり世界も変わっているはずだ」
「下手したら、世界戦争が終わってるかもね。平和な世の中が見られるかも」
だといいなぁ。二ヶ月で終わってくれる世界大戦とか最高じゃん。
泥沼の戦争よりもよっぽどマシである。
中には世代を超えて戦争を続けてきたところだってあるのだ。資源と人材の無駄にしかならない戦争を、そんなに長く続ける意味などない。
「レコンキスタも見習って欲しいもんだ。あっちは約700年も戦争してたんだぜ?世代を幾つ跨げば気が済むんだ」
「断続的な紛争ではあったけど、一応戦争はしてたもんね。それに比べれば、世界大戦はまだマシな方なのかな?」
そんなくだらない話をしながら、朝食を食べていく。
もうフランスパンを食べすぎで、味が分からなくなってきた。二ヶ月もほぼ同じものを食べ続けると、味覚が狂ってくるな。
味変のために色々と手を尽くしてはいたのだが、俺の能力では限界があるのは間違いない。
今度から胡椒とかそこら辺の多様な調味料は持ち歩こう。またこんなクソみたいなことに巻き込まれた時の為に。
「ピギーもお疲れ様。最後は助かったよ」
『ピギー!!ピギッ!!』
「大したことはしてないって?それでも俺達は命は助かったんだから有難いさ。今度遊んであげるからな」
『ピギー!!』
今回は最後だけ助けてピギーをしたが、その最後がなかったらワンチャン死んでいた。
最後の最後で死ぬなんて御免被りたいし、やはりピギーは偉大である。
そうしてのんびりと朝食を食べ終え、そろそろ移動するかと嫌な気分になっていたその時であった。
「ん?グレイちゃん、あれ」
「お?何だ何だ?」
リィズが何かに気づき、空に向かって指を指す。
その指の先にあったのは........うん。何も見えねぇ。
何かあるんだろうけど、遠すぎて常人の目では捉えられませんわ。
何があるんだ?俺にはさっぱり見えないぞ。
「えーと、リィズ。何が見えるんだ?」
「あー、そっか。グレイちゃんには見えないか。飛行機だよ飛行機。個人で所有するような小さな飛行機が、こちらに向かって飛んできているのが見える」
「飛行機?確か、この辺りの空は飛行禁止区域だろ。五大ダンジョンを刺激しかねないからってことで」
「グレイちゃん、今は五大ダンジョンがないんだよ。既に一日近く経過していて、世界も私達が五大ダンジョンを攻略したのを知っているはず。もしかしたら、本当に攻略したのかを誰かが確かめに来たのかもしれないね」
「なるほど。って事は、ワンチャン奪えるか?」
「落とすならともかく、奪うのは難易度高いかも。少し待ってみようよ。もしかしたら、私たちの話を聞きたがる変人かもしれないよ」
マスコミとかだったら俺たちの話を聞きたがるかもな。
だが、奴らにそんなに根性があるとは思えんぞ。人の不幸は蜜の味だが、それよりも自分の命の方が大切なんだからな。
俺は、未だにその目では捉えることが出来ない飛行機を探しながら、少しの間待つことにするのであった。
飛行機、俺達を助けてくれないかなぁ。
【レコンキスタ】
718年から1492年までに行われた複数のキリスト教国家によるイベリア半島(スペインのある半島)の再征服活動の総称である。ウマイヤ朝による西ゴート王国の征服とそれに続くアストゥリアス王国の建国から始まり、1492年のグラナダ陥落によるナスル朝滅亡で終わる。
レコンキスタとの名称はスペイン・ポルトガルの現代史学で物議を醸しており、あたかもイベリア半島は元からヨーロッパ人キリスト教徒のものであり、一時的にムスリム勢力によりその歴史が途絶えたとのニュアンスを持つとの批判がある。
こちらに向かってくる飛行機があると言うことで、俺とリィズは一旦その場に待機していた。
もしかしたら、俺達を乗せてくれてどこかへと連れていってくれるかもしれない。
そんなことを期待しながら待っていると、飛行機は俺達の上でグルグルと旋回を始める。
ここはヒマラヤ山脈のどこか。周囲の岩がゴツゴツとしすぎていて、滑走路なんてある訳もない。
つまり、飛行機が着陸するのは難しいという訳だ。
でも、旋回し続けてくれているから、多分俺達をカメラに収めているかなんかしてるんだろうな。どこの放送局なんだろう。
リィズに背負って貰って会いに行こうかと考え始めていたその時、飛行機から人が落ちてくる姿が目に入る。
黒と白の特徴的な服。顔は遠すぎて見えないが、それだけで何となく誰が飛び降りてきたのか察しが着いてしまう。
あぁ、迎えが来たのか。どうやら俺達の居場所をようやく把握してくれたらしい。
「レミヤだな。あれ」
「お迎えが早いようで何よりだよ。レミヤは仕事が早いねぇ」
仕事は早いけど、偶にとんでもないポカをやらかしてくるぞ。
俺はそんなことを思いつつも、2ヶ月ぶりに見られたレミヤを嬉しく思う。
あんなポンコツ駄メイドでも、大事な仲間でありこの世界で一緒に過ごした時間は長い(割合的に)。
ちょっと懐かしさを感じながら、レミヤが降りてくるのを待っていると、彼女は背中に翼を生やしてジェットを逆噴射しながら俺達の前に着地した。
WOW。トニースタークがいるぞ。きっと心臓部にはコアがあって、赤い戦闘服着ているんだ。
「
「ただい─────うをっ!!」
「わっ!!」
“ただいま”を言うよりも早く、レミヤは俺達に抱きついてくる。
機械仕掛けの体のはずなのに、その腕の中は何故か人肌のように暖かかった。
「良かったです........二人が消えて本当に心配したんですよ!!」
「........は、ハハハ!!随分と心配をかけたみたいだな。悪かった。転移系能力者に捕まって、ヒマラヤ山脈まで吹っ飛ばされてたんだよ。エベレストの頂上まで転移させられていたら、死んでいたかもしれんな」
「レミヤも泣く事なんてあるんだね。ごめんね。心配かけちゃって」
「良かった........良かったですぅ........」
器用な機械だ。人の温もりは捨てたはずなのに、温かみを感じるし、その目には涙が流れているように見える。
普段は滅茶苦茶しまくる子なのに、こういう時は泣いちゃうんだな。
可愛いところもあるじゃん。ポンコツなのには変わりないけど。
俺とリィズは二人まとめて抱きついてくるレミヤの頭を優しく撫でると、レミヤが泣き止むまで暫くの間何も言わずに静かにこの温もりを感じ続けた。
そして、数分後。ようやく落ち着きを取り戻したレミヤは、普段通りの姿に戻ると俺達を離す。
珍しいものが見れた。このダンジョンを攻略した一番の報酬は、この涙かもな。
「それで、転移系能力者とは?」
「そのままだよ。私達がここに飛ばされたのは、転移の能力を持った能力者が私とグレイちゃんを飛ばしたから。あの瓦礫の山の中で、運良く生き残った死に損ないが最後の抵抗でもしたんだろうね」
「今すぐにそいつを殺しましょう。私たちの全てを使って探し出して拷問にかけてぶち殺します。エリザベート・バートリーですら、裸足だ逃げ出すような無惨な死をその者に下しましょう」
こっわ。
レミヤは基本怒ることなどないが、今回はマジギレしているように見える。
あの綺麗な顔が、鬼の形相以上に歪んでいた。
それと、エリザベート・バートリーですら裸足で逃げ出す無惨な死ってやばすぎだろ。
人の性器や膣を取り出して興奮するようなイカレババァですら逃げ出すとか、拷問とかいうレベルじゃねーぞ。
「待て待て。多分俺達を転移させたやつは既に死んでるぞ」
「そうだよ。私たちが飛ばされたあと、どうせその場に残った魔力の残滓からある程度は探したんでしょ?そこから見つからなかったって事は、既に死んでるよ」
「........いや、魔力の痕跡を上手く隠せる程の実力者だったり」
「それなら既に軍のお抱えになって、俺達の妨害をしてきただろ。頭をひやせ。そのご自慢のCPUが爆発してるぞ」
「いや、もうそいつ一人が悪いわけではありません。あのファッキン
おーい。落ち着けレミヤ。
どこまで暴走するんだこのポンコツメイドは。
レミヤ、一度キレると止まらなさそうだな。
俺とリィズは顔を見合わせると“これは無理だ”と2人で首を横に振りながら、呆れ果てるのであった。
後書き。
レミヤ、可愛い。
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