第七のラッパ


 第六のラッパが鳴り響き、人類の3分の1が殺される........はずだった。


 しかし、この世界にいる人間は僅か2人であり、分母がそもそも無いのであれば、黙示録は人を殺せない。


 そんな、偶然の幸運によって特に騎士達と戦うこともなかった俺達は、またしても暇な日々を過ごすこととなった。


 なんか、ずっと暇してね?このダンジョンに来てからずっとゲームしかしてない気がするんだけど。


 寝て起きて、ゲームしてリィズとイチャつく。そんなニートみたいな生活をずっと続けていた。


「ここ、五大ダンジョンだよな?なんか、暇つぶししかしてないんだけど」

「本来なら水や食料が日に日に減っていく恐怖と戦いながら、自分の命の危機を感じるところなんだけどグレイちゃんが優秀過ぎてねぇ........やる事が暇つぶしか料理を作るぐらいしかないから。コレが三人以上で来てたら大変なことになっていただろうけどさ」

「適正攻略人数が2人だったんだよな。マジで暇」

「本当に暇で暇で仕方がないよ。私としてはこうしてグレイちゃんとゆっくり過ごせるのは嬉しいけどね」


 リィズはそう言いながら、俺の後ろに回って抱きついてくる。


 体温がものすごく高いのか、リィズに抱きつかれるとかなり暑い。しかし、その暑さが愛情な現れだと知っているので、俺は素直にその抱擁を受け止めた。


 出会った頃から美人ではあったが、やはりリィズは可愛い。


 俺にはもったいないぐらいのよく出来た女だ。唯一の欠点は、沸点があまりにも低すぎてちょっとでも機嫌が悪くなると人を殺すことぐらいか。


 うーん。そこも可愛い。


 なんやかんや随分とリィズも最近は落ち着いてきたし、最近じゃどこのぞのポンコツメイドやおじいちゃんの方が手が早いからな。


「外の世界はどうなってんのかね。変なことをやらかしてなきゃいいけど」

「結構みんなハチャメチャな事をやるからね。ジルハードやローズが常識人枠っていう時点で終わってるよ。元ギャングのボスと男色のホモ野郎が常識人って、もう終わりだよこの組織」

「それは間違いない。あまりにも終わってるな。何気に“私常識ありますよ”みたいな顔してるレミヤとかぶっ飛んでるし、アリカはちょっとアレだし」

「ミルラはアリカにベタベタだし、おじいちゃんは日本の事になると周りが見えなくなる。レイズは........あぁ、レイズも一応常識はあるか。存在感が薄いけど」

「あれ?もしかして男連中ばかりが常識人?」

「そう言われるとそうだな........女連中は大抵頭のネジがぶっ飛んでる」


 その代表格が貴方なんだけどね?リィズちゃん。


 君もまぁまぁ常識ないから。俺とは違って、この世界で生きてきてそれなりに長いと言うのに。


「まぁ、グレイちゃんに比べればみんなマシか。この組織で1番常識がないのはグレイちゃんだからね」

「は?俺が1番常識人だろ。リィズも面白い冗談を言うな」


 俺が1番常識人だよ。おマカ野郎とか元ギャングよりも常識があるだろ。


 俺は前の世界では普通の高校生だったんだぞ。小学生の頃は確かに滅茶苦茶な事をしていたが、あれは小学生だから仕方がない。


 社会を理解し、その歯車の中に身を置いた俺が常識人でなければ全人類が常識人ではなくなるよ。


「........え、真面目に言ってる?」

「当たり前だろ。俺がいちばん常識があるだろ」

「マルセイユを吹っ飛ばして、グダニスクでありとあらゆる問題を引き起こした挙句、全世界から恨まれて、日本帝国を再建したかと思えばUSAを分断して第三次世界大戦を引き起こした張本人が?」

「全て不慮の事故だ」

「さすがに無理があるでしょ。しかも、五大ダンジョンに吹っ飛ばされたのにも関わらず、なんか普通に生活始めているし、そんな人を人は常識人とは呼ばないよ。グレイちゃんが常識人なら、ペドロ・ロペスだって常識人になっちゃうよ」

「ペド野郎の殺人鬼と一緒にすんなよ。俺はアリカを犯したいだなんて思ったことは1度もねぇぞ。流石に失礼すぎやしないか?」

「グレイちゃんが自分の事を常識人だと思っているから言ってるんだよ。私なりの優しさだよ」


 ペドロ・ロペスと言えば、アンデスの怪物と恐れられた殺人犯だ。2006年のギネスブックに、最も人を殺した殺人鬼として記載されていたこともあるほどには頭のイカれたやつである。


 それと比べられるとか流石に泣くぞ。俺にだって泣く時は泣くんだからな。


「あぁ、ごめんねグレイちゃん。別にグレイちゃんを貶そうとかそう思って言ったわけじゃなかったんだけど。ちょっと言葉が悪かったね。だから落ち込まないで」

「リィズが虐めてくる。ピギー。俺たちの組織にはいじめが存在するよ」

『........ピ?ピギー』

「は?いつも通りイチャイチャしてる?うわーん!!ピギーも虐めてくるよー!!」

「あぁ、グレイちゃんが壊れちゃった。ほら、落ち着いて。グレイちゃんがどんなになったとしても、私はグレイちゃんの味方だから」

「俺は常識人だよな?」

「うん。それは無い」


 うわーん!!リィズが俺を変人扱いしてくるよー!!


 ほぼ全部巻き込まれていただけなのに!!俺、大体の事は悪くないのに!!


 結局俺は、リィズに常識人と認められることなく、泣きわめくのであった。




【ペドロ・ロペス】

 コロンビア生まれの連続殺人犯。コロンビア、エクアドル、ペルーにて、合計300人を超える少女を殺害した。ロペスによれば、「エクアドルでは少なくとも110 人、コロンビアでは100人、ペルーでは100人以上を殺した」という。

「アンデスの怪物」と呼ばれ、ギネスブックは、ロペスを「個人で最も多くの人間を殺した殺人者」と認定したが、のちに「殺人を競争の題材にするのか」との苦情を受けて、この項目は削除されるに至った。現在は行方不明。生きているのかすら分からない。




 リィズに変人扱いされ、半泣きになったりしながらも1週間が経過した。


 二億の騎兵達は相変わらずこちらを見ているだけであり、預言者が現れることもなければ反キリストの獣が出てくることもない。


 暇だなーと思いつつ、今日も護石を集めたり色々と遊んでいると遂にその時が訪れた。


 ピタッとリィズの動きが止まると、そのまま天を見つめる。


 どうやら最後の審判が下される時が来たらしい。


「来たよ」

「第七のラッパはどんな内容だったっけ?」

「底知れぬ所からのぼって来た獣(反キリスト)による世界支配、すなわち最終的な終末世界が訪れる。後に「7つの金の鉢」によって神の怒りによる災害がもたらされる。この終末世界において、反キリストによる世界統治は、メシアの天からの再臨によって終わる。メシア及びその勢力に対抗して反キリストおよびその勢力は、メシア率いる軍勢と戦い、そして敗北する。反キリスト(獣)と獣を拝ませた偽預言者は、共に生きたまま硫黄の燃える火の池に投げ込まれ、反キリストを神として選び、天の神を選ばなかったすべての人々は死ぬことになる。つまり、キリスト教以外の神を信じたものは死ねってことだね」

「わかりやすい解説をありがとう........これ、生き残れるのか?何が起こるのかさっぱりなんだが」

「7つの金の鉢がかなりマズイかも。腫れ物を起こして、海の生物を全部殺して、川の水を全部血に変えて、太陽の熱をさらに暑くして、暗闇をもたらして最初の腫れ物を悪化させて、ユーフラテス川から反キリスト集めて、壊滅的な地震と雹が降る。簡単に言うとこれが起こるね」

「腫れ物ってのは?」

「人の体に悪い何かだね。私にも分からないや。そこまで真剣に読んでたわけじゃないし」


 となると、遂にピギーの出番かもな。第七のラッパを吹かせたあと、ピギーによって守ってもらった方がいいかもしれん。


 おそらくその腫れ物は外部からやってくる魔力攻撃だ。もしそうならピギーで弾けるし、違ったとしてもピギーなら多分守れる。


 体内から始まったら不味いけど、多分死にはしないでしょ。


 死んだら死んだで、それまでだ。


「ピギー、第七のラッパが鳴り響いたら鳴いてくれ。ラッパが鳴り終わってからよろしく」

『ピギッ!!』

「ようやく暇な時間が終わるかな。あとは、これが何時間続くかだよね。一ヶ月とかは勘弁して欲しいけど........どうなんだろう?」

「預言者や獣が出てこなかったから、多少改変はされているはずだ。あとは天に祈るしかないな。僕はキリスト教信者ですとか適当言っておくか?」

「言っても意味ないでしょそれ」


 そんなことを話しながら、俺とリィズは外に出る。


 そして、天を見つめればそこには最後の審判を構えた天使の姿が。


 あれが鳴り響けば、最後の審判が降り注ぐ。それを耐えしのげば、おそらくこのダンジョンはクリアだ。


 え?もしクリアされなかったらどうするのだって?


 その時はその時考えるしかないかな。今は生き残ることの方が重要だ。


 本当はラッパを吹かせずに天使を殺したいが、それをしたらヤバいと何となく察している。


 何が起こるのかは分からないが、きっととてつもなく面倒な事が起こるに違いない。


 だから、ラッパを吹く邪魔はしない。


 ほら、はよ吹けや。この腐れ天使のゴミ野郎。お前のお陰でこちとらギルクエ滅茶苦茶回せたんじゃ。ありがとな!!ぶっちゃけほぼ休暇だったよ!!


 でもほぼ二ヶ月はなげーよ!!そろそろ肉食いたいんで、返して貰っていいですかァ?!


「来るよ。グレイちゃん、気をつけて」

「ピギー、もしもの時はよろしく」

『ピギッ!!』


 天使がラッパに口をつける。


 さぁ、最後の審判だ。ここを何とか乗り越えて、俺たちはサッサと帰りたい。


 プヲォォォォォォ!!と言うラッパの音が鳴り響き、この黙示録のダンジョン最後の試練が訪れた。





 後書き。

 神様掲示板回にて重要なネタバラシが無いことに気づいた(ストック見直して)ので、ここでネタバラシ。

 この天使のラッパを吹くのを止めると、全てリセットされてもう一周します(また第一のラッパから始まる)。やったね‼︎リセマラスタートだ‼︎

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