七つの金の鉢


 第七のラッパが鳴り響き、審判の時が下される。


 最初に起こる厄災は、腫れ物がで出来ること。


 多分、これが一番ヤバイ。これだけが俺たちの肉体に作用する要素だからな。


 第七のラッパが鳴り終えたその瞬間、ぞわりと体に嫌な物が纏わりついたかと思ったその時。次は自分の番だと言わんばかりに、我らがピギーの声が鳴り響く。


「ピギィェェェェェェェェェェ!!」


 世界を三度滅ぼしたその悲鳴は、この世界に死を告げて世界そのものを飲み込む。


 それだけでは無い。


 未だ健在していた二億の騎兵達までその死の圧は降り注ぎ、その場に居たもの達が次々と膝を着いていく。


 そして、俺に一瞬纏わりついた何が消え去った感覚がした。


「........ピギーの本気の鳴き声は流石にちょっと辛いね。これでも相当慣れた方だと思うのに」

「リィズはかなり頑張ってくれてるよ。その場に立っていることすら、本来はできないはずなんだからな」

「グレイちゃんは当たり前のように立っているけどね。いつも思うけど、なんで平気なの?」

「慣れ。それだけだよ。リィズももう少し慣れたら好きなように歩けるさ」


 元々その場に現れた時点で、周囲の生物達が立ち上がれない程のえげつない圧を放つのがピギーなのだ。


 そんなえげつない圧に耐えられている時点で、かなり凄いぞリィズは。


 俺とが可愛がっているから、ピギーと話してみたいからという理由でそこまでできるだけ相当な努力家である。


 ピギーもかなり喜んでるからな。無理して欲しくは無いけど、恐れずに話してくれて凄く嬉しいと言っていたよ。


 だから、ピギーのお気に入りは俺とリィズ。何千、何万、何億年と眠ってきたぼっちな存在にとって、俺達はかけがえのないもの存在となる。


 ピギーを悲しませないためにも、長生きしてやらないとな。タバコとかジャンクフードばっかり食べてる気がするけど。


「体の周囲に何が纏わりつく感覚が無かったか?」

「あったね。多分それが鉢の攻撃だと思う。1つ目の鉢。悪性の腫れ物ができる。どうやら、魔力か何らかのエネルギー概念による攻撃だったみたいだね。ピギーのお陰で助かったよ」

「なるほど。ありがとなピギー」

「ピギー!!」


 俺は剣状態で出てきたピギーを優しく撫でると、ピギーは機嫌良さそうに鳴く。


 こうして外に出る野が久々だったピギーは、俺に撫でられてかなり嬉しそうであった。


 ちなみに、リィズから見るとピギーは毎回姿形が変わって見えているらしい。


 時として複数の腕。時として無限に広がる闇。時として無限個もある眼球。


 とのどれもが背筋が凍るほどの見た目らしいが、ピギーの性格を知っているため本当に怯えることはまず無いんだとか。


 俺は漆黒の剣にしか見えないんだけどな。リィズの目には、ピギーがどのように映っているのか少し気になるよ。


「さて、1つ目のこうげきはどれだけの時間が掛かるのかね?出来れば1時間程度で終わってほしんだけどな」

「水や食料が出せなくなっちゃうもんね。1日2日なら耐えられるけど」


 と、リィズと話しながらピギーに構っていること数十分。


 1時間もしないうちに、次の試練がやってくる。


 突如として海がざわめき始めたのだ。


「ピギー、多分もう大丈夫だ」

「ピギー!!ピギッ!!」

「あぁ、ありがとう。ここからでたらゆっくり遊ぼうな」

「ピギ〜」


 どうやら1つ目の試練は抜けたらしい。


 俺はピギーを腕の中に戻してみるが、俺の体に纏わりつく何かは無かった。


 そして、海が騒がしい。


「二つ目の鉢。海に住む生物の全てが死ぬ。第七のラッパは他の六つと比べて規模が違いすぎるな。これだけで下手をしたら人が滅ぶ。つくづく地球で鳴らさなくてよかったよ」

「全くだね。サメちゃん家族もこれで死ぬところだったよ」

「まだあとこれが五つも続くのか........大変だな」

「四つめの鉢がマズイかな。太陽の熱が強烈にするらしいし」

「どれだけ熱くなるのか。それ次第だな。流石に表面温度100度とかやられたら死ぬぞ」

「氷とか出せないの?」

「出せるけど、一瞬で溶けるだろそれ。まぁ、最悪耐久レース続行だ。出来れば、40度近くぐらいがいいな。それなら耐えられる」


 日本の最高気温は41.1度。世界の最高気温は56.7度。


 この間ぐらいなら耐えられそうだが、果たして神はどれほどまで人に罰を与えるつもりなのだろうか。


 でも確か新約聖書の黙示録16章には、太陽で人間を焼いてもヨシ!!とか言うイカれた記述があった気がするんだよなぁ........


 あれ?やばくね?


 でも、これに対策する方法がほとんど無い。


 氷出しまくって耐久レースするしか無さそうだ。最悪、氷の中にダイブしてお日様と戦ってみるとしよう。


 いい案が何も浮かばないし。


「リィズ、体が発火するぐらい熱かったら氷を出しまくって耐久レースを始めるぞ」

「私、一応、1500度の溶けた鉄を被っても生きてられるから、グレイちゃんは自分の生存だけを考えればいいよ」

「何それ初耳なんだけど」


 サラッととんでもない事を言うリィズ。


 人間辞めてるとか言うレベルじゃねーぞ。何それ。最早人間という枠組みに入れていい存在じゃねーよ。


 形態変形できるから確かに人間辞めてるなーとは思っていたが、それを通り越して人外のレベルだ。


 リィズってすげぇんだな。溶鉱炉の中に入って“必ず戻ってくるi'll be back”できるじゃん。


 そんなことを思っていると、三つ目の試練が訪れる。


 今度はニガヨモギが落ちた方向で、何かが起きたのが分かる。


 川の全てが血に染まり、水は使い物にならなくなってしまう........らしいのだが、この場所に川は無いので確認はできない。


 川の水はワンチャン死ぬからね。危ないからね。


「これで三つ目。かなり早いペースで進んでいるね」

「七つの封印を解くためには、このぐらい早いペースで進まないとダメなんだろ。六つまではゆっくりだったのに、7つ目はかなりハイペースになるんだな」

「次は四つ目の鉢だよ。どうするの?グレイちゃん」

「とりあえず水は被っとく。後、氷も出しておこう。で、後は神に祈るしかないだろ。あいにく俺達は、反キリストでもなければキリスト信者でもないしな。出来ることといえば神頼みだ。日本の神様に祈っておくよ」

「随分と運任せだねぇ」

「俺は何時だって運任せで生きてきたんだ。こういう時も、神に祈ってみるさ。死んだら死んだでその時だ」


 その時は、きっとこの世界と地球は滅ぶだろうけどね。


 俺が死ねば、ピギーがマジギレする。そして、封印は解かれて、世界は滅ぶことになるだろう。


 事実、俺が安らかな死を迎えない限りはピギーば世界を滅ぼすつもりだ。リィズが生きている時ならばともかく、俺とリィズが消えた後に世界が滅ぶことになってしまう。


 俺の命は、地球と言う人質がいるのだ。


 残念なことに、その戯れ言に耳を傾けてくれる人は仲間達ぐらいしかいないが。


 川の水が全て血に染まり、暫くすると遂に四つ目の試練が訪れる。


 ボッ!!と、俺の指先が急に発火し、一瞬だけ熱さを覚えた。


 このまま行けば全身が燃え、俺は火だるまになって死ぬこととなるだろう。


 だが、俺もまだまだ生きたいお年頃。


 指先が発火した瞬間に能力を使って水を生成すると、全身に水を被って鎮火させる。


 もちろん、リィズにも同じ症状が訪れているだろうと言うことで、俺はリィズにも水をぶっかけた。


「........マジで燃やしてきやがった。この世界の神は慈悲がないらしいな」

「ありがとうグレイちゃん。1回燃やして来たね........あっ」


 ボッ!!とまた体に火がつく。


 しかし、水を被っていた事もあって大して燃え広がらずに即座に鎮火された。


 空を見上げれば、3分の1が消え去ったはずの太陽が眩しく光る。


 あー、多分あれだな。時間経過で発火するタイプだろうな。暫くは耐久レースを続けることになりそうだ。


 ボッ!!と再び体の一部が燃え始めるが、水かぶって即座に鎮火。


 これの繰り返しになりそうだ。もう、能力で雨を振らせていた方が安心だなこれ。


「リィズ、雨を降らせるぞ。暫くは雨に打たれてくれ」

「はーい。どうも、10~20秒感覚で体が発火するみたいだね。随分と嫌らしい面倒な炎だよ。1度思いっきり水を被れば問題なさそうだけど」

「プールでもあった方が良かったな。そしたらそこに水ためて........溜めて........あ」

「どうしたの?グレイちゃん?」


 可愛らしく首を傾げるリィズ。


 あるやん。プール。


 プールと言うには少しお粗末だが、水に浸かれる方法があるではないか。


 多分具現化できるよな?あれは遊び道具のひとつとして認識していたはずだし。


 俺は能力で雨を振らせながら、小さい頃に遊んだビニールプールを具現化する。


 行けたわ。流石は俺の能力。


「なにこれ?」

「ビニールプール。子供の時は、これに水を入れて遊んだんだよ。最初から空気が入っているのは助かるな。流石に体が大きすぎて遊べはしないだろうけど、この発火する体を一瞬で消火できるぞ」

「........グレイちゃんの能力は本当にすごいね。なんにでも対応できちゃうじゃん」


 まぁ、手札の多さだけが取り柄なんで。


 俺はそう思いながら、ビニールプールに水を溜める。


 本当なら水着に着替えたいが、それは無理だからこのまま浸かるしかないだろう。


 一応、どこが発火してもいいように、雨は降らせ続けておくか。もう全身びしょびしょで燃えるところがないとは思うけど。


「おー!!急に暑くなったからか、結構気持ちいいな。リィズも入れよ」

「ん、おー。確かに気持ちいいかも。真夏に水のシャワーを浴びてる感覚だねぇ。これは悪くないよ」

「だろ?俺も悪くないと思う。んで、水遊びと言えばこれだろ」


 俺はそう言って、水鉄砲を取り出す。


 そして、水を入れて、リィズの顔に発射した。


「うわっ!!やったなー!!」

「ちょまて!!リィズ!!お前の手で打つ水鉄砲はシャレになら─────」

「それ!!」


 バシュン!!


 爆速で発射される水。その水はおれの頭を撃ち抜き、あまりの威力に天を仰ぐ。


 強すぎるだろその水鉄砲。このダンジョンに入って初めて死を意識したかもしれん。


「あ、グレイちゃんごめん」

「リィズ、次からはこの水鉄砲を使ってね」

「はーい」


 こうして、俺はリィズと水鉄砲を使って遊ぶのであった。


 所々体が発火しながら。




 後書き。

 これが一番クソゲー。一つ目の鉢を防げないと確定で死にます。

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