第六のラッパ


 第五のラッパが鳴り響き、大量のイナゴがこの世界に現れて人間を食い荒らす。


 そんな地球で起こったらまず間違いなくヤバそうな審判が下されてから、一ヶ月程が経過した。


 最初はうるさかった羽虫の音も、今となっては小雨が降る音にしか聞こえず、巨大なラップテントは今日も平穏を保っている。


 数は力なれど、その一体一体が弱かったら話にならない。


 油の雨は確実にイナゴを殺し、この一ヶ月間はリィズとピギーの2人とただただ平穏な時間を過ごすのみであった。


「これがあと4ヶ月も続くのか?マジでこのダンジョンは性格が悪いな。俺達じゃなきゃ今頃死んでたぞ」

「ダンジョンに入って一ヶ月と10日。これだけ長期間ダンジョンに潜るとなれば、物資の調達を現地で行う必要があるね。でも、それを許してくれるわけじゃない。そう考えると、グレイちゃん以外には攻略できないようなダンジョンだったかもねぇ........」

「1ヶ月分の物資を持ち込んだとして、問題は暇を潰すのも割と大変ってことだよな。ソロで攻略なんてしてみろ。間違いなく精神がイカれるぞ」

「いつ吹かれるのか分からない審判。それによる不安と恐怖。更には水が飲めなくなって、徐々に目減りしていく物資。いつ終わるか分からないから、精神的苦痛は想像を絶するだろうね。私達はグレイちゃんのお陰でなんとでもなってるけど」

「初めてこの能力を持ってて良かったと思ってるよ。今ならあのクソッタレな神にも感謝できそうだ」


 イナゴたちが死に絶える音を聞きながら、今日も暇つぶしにゲームで遊ぶ俺とリィズ。


 俺の能力は割とご都合主義的なのか、ゲームの充電は俺の魔力で補えてしまう。消費も少ないので、無限に遊べるのだ。


 お陰で毎日10時間以上ゲームをやっている。やったね!!五大ダンジョンニートだよ!!


 飯も自分で用意できるし、服も用意出来る(ちょっと小さいから、色々と手を加えるけど)。更には住居も自分で用意できるんだから、真面目に引きこもり生活ができてしまうのだ。


 元気代も掛からないし、この能力ってもしかして戦闘準備以外には超有能だったりする?


 初めて自分の能力に感謝してるよ俺は。


「もし、ヨハネの黙示録通りに事が運ぶなら、あと4ヶ月はここで生活しないといけないのかー。流石にちょっと長いね。こうしてグレイちゃんとゆっくりできるのはいいんだけどさ」

「リィズと出会ってからは毎日が命懸けだったし、俺はこういうのも悪くないと思っているぞ。五大ダンジョンの中だけど。一歩間違えたら生命の危機に瀕するけど」

「確かに。この生活に慣れちゃって忘れがちだけど、ここは五大ダンジョンの中なんだよね。難攻不落にして、絶対的な強さを持ったダンジョンなんだよ。しかも、耐久型とかいうクソみたいな。我慢比べなら他でやれって言いたくもなるね」

「まぁ、そのお陰で赤い騎士どもにケツをファックされなくて済んでるんだけどな。もし、耐久にプラスして鬼ごっこまであったら最悪だった」

「それはそう」


 このイナゴの群れに付く分け、四騎士まで相手にすることになっていたらここまでのんびりできなかっただろう。


 そう考えれば、まだこのダンジョンは慈悲深いのかもしれない。


 いや、水を飲めなくした挙句、イナゴの群れを襲わせている時点で慈悲もクソも無いのだが。


「ピギーに鳴かせようか迷ったが、結果的に鳴かせなくて正解だった。ピギーは力が強すぎる」

「ピギー、グレイちゃんの能力すら場合によってはかき消しちゃうからね。しょうがないよ」

『ピギー........』


 最初の判断を間違えなくてマジでよかった。正確には、赤騎士と対峙した瞬間にピギーがウトウトしててくれて良かった。


 もし、ピギーが赤騎士を止めて居たら、リィズが赤騎士を殺していただろう。


 そして、赤騎士が死ねば、地球に天使のラッパが鳴り響く。


 海は三分の一が使い物にならなくなるし、船は壊れて生物が死ぬ。


 サメちゃん家族もワンチャン死んでる可能性を考えれば、あそこでウトウトしていたのは正解だった。


 力が強すぎるあまり使い所が難しいピギー。今回は、使わない事が正解だったとは思いもしないよ。


 基本、困ったら助けてピギー!!だったからね。


「そう落ち込むなよピギー。別に役に立ってないとかそういう訳じゃないからな。ピギーが強すぎたのが問題なだけだよ」

「そうそう。ピギー以外が弱すぎるのが問題なんだよ。このイナゴの群れだって、ピギー一人で解決できちゃうしね」

『ピギー?』

「ピギーはもっと絶望的な状況の時に活躍するのさ。あの邪神ニーズヘッグと出会った時みたいにな。その時は頼むよ」

『ピギー!!』


 俺の中にいる、世界を三度滅ぼしたやべーやつ、ピギー。


 いつもは助けて貰っているが、今回はお休みだ。力が強すぎて、俺の能力すら掻き消しかねないからね。


 既に物体化したものはともかく、魔力から生成する途中のものとかはかき消しちゃうから食べ物とか飲み物が出せなくなるのだ。


 ごめんねピギー。本当は遊んであげたいが、流石に場所が場所だから。


「ここから出たら遊んであげるから、それまでは我慢してくれ。後........最低限4ヶ月の辛抱だ」

「黙示録の通りに進めば、だけどね」

『ピギー!!』


 遊んでくれると約束されたのが嬉しいのか、『ピギッピギッ♪』とよく分からない歌を歌い始めるピギー。


 本当に世界を三度滅ぼしたか分からないぐらい可愛い反応をするピギーに、俺は笑いつつ今日も暇を潰すのであった。




【第五のラッパ吹き】

 1つの星が天から地に落ち、底知れぬ所まで通じる穴を開け、底知れぬ所の使(アバドン)を王としているイナゴ達が大きな煙とともに飛び出し、額に神の印のない人達を襲い、さそりにさされる時のような苦痛を五カ月間与える。

 地球で起きたら終わり。人間を襲うだけではなく、植物や動物も食い荒らすので人々が生きていくのは難しくなる。




 ピギーがノリノリで歌を歌ってから四日後。急にそれは訪れた。


 もはや生活の一部となったイナゴ達がブルーシートに突っ込んでくる音が、消えてしまったのである。


 俺の能力による油の雨の音よりも、イナゴが突っ込んでくる音の方が凄まじく大きい。


 そんな爆音が消え、更にはリィズが“気配が消えた”と言うならばイナゴの群れは消え去って待ったのだろう。


「うわぁ........ベットベトな上に死体の数がやべぇ」

「でも、想像していたよりも多くないね。もしかして、共食いでもしていたのかな?それとも、死体は時間経過で無くなるのかな?」


 音が消えたということで、油の雨を止ませてブルーシートテントの外に出てみる。


 するとそこには、ベットベトになった地面と大量のイナゴの死体が転がっていた。


 集合体恐怖症の人が見たら気絶しそうだ。人の臓物とかを見慣れてきた俺ですら、顔をしかめるレベルで気持ち悪い。


 しかし、リィズの言う通り、一ヶ月以上も襲ってきてきたにしては数が少ない。


 おそらく、ダンジョン側で何らかの処置をしたのか、イナゴ同士が共食いしたのだろう。


 共食いしたにしては数が少なすぎるし、多分ダンジョン側の措置かな。


「気持ち悪いね。流石に」

「だな。暫くは夢に出てきそうだ。もう流石にイナゴは来ないかな?」

「多分来ないんじゃないかな。イナゴは消えてるし、脅威は過ぎ去ったのかも」

「なら、油は消していいか。鼻が麻痺して匂いが分からんけど、ベトベトしてて気持ち悪いし」


 俺はそう言うと、地面に染み込んだ油達を消す。


 地面に混ざってしまった油までは消せないので、今この地面にマッチの火でも落としたら凄いことになりそうだな。


 燃える地面の出来上がりだ。これから毎日地面を焼こうぜ。


「五ヶ月までは行かなかったね。一ヶ月でも充分長いけど」

「長かったな。そして、その間ずっとクエストを回してたのに、ゴール武器は手に入らなかった。やっぱり確率って糞だ」

「最高が準ゴールだったもんね。しかも、太刀の。大剣でよこせよ馬鹿野郎とは思ったよ」

「お守りは結構いいのが手に入ったんだけどなぁ........まぁ、今回はそれで妥協するか。それで、第六のラッパはいつ吹かれるんだ?」


 俺はそんなことを言いながら空を見上げる。すると、タイミングよく何も無い場所から天使が現れた。


 どうやらダンジョンは、休む暇さえ与えてくれないらしい。


 トライアスロンをやった直後に、フルマラソンを走れと言われている気分だ。


 まぁ、そのトライアスロン、思いっきり乗り物使ってるんですけどね。


「また出てきたぞ。次は第六のラッパ。これはやばいかもな」

「ユーフラテス川のほとりにつながれている四人の御使が解き放たれる。彼らは人間の三分の一を殺すために解き放たれ、赤色、青色、橙色の胸当てを着けた二億人の騎兵隊が出陣し、彼らの乗り物の口から出る火と煙と硫黄で人間の三分の一が殺される。

 二人の神の証人(預言者)が登場し、1260日(42ヶ月)の間預言をし、彼らに害を加えようとする者は、この二人の預言者の口から出る火によって滅ぼされる。またその期間何でも思うままにあらゆる災害を起こす力を持っている。

 彼らが預言の期間を終えると底知れぬ所からのぼって来る獣(反キリスト)が彼らと戦って勝ち、彼らを殺す。彼らの死体は3日半エルサレムにて公衆の面前にさらされ、地に住む人々は彼らの死を喜び、互いに贈り物をし合う。3日半の後に神によって二人は蘇らされ、天から「ここに上ってきなさい」と言う大きな声によって雲に乗って天に帰る。彼らの敵はその光景を見る。その後に大きな地震が起こり、都の十分の一が倒れ、7千人が亡くなる。生き残った人々は、驚き恐れて天の神に栄光を帰す。だったかな?どこまでを再現するかで、私たちの行動が変わるね」


 wikiに書いてあったけども、よくそんなしっかり覚えているね。


 俺なんて“なんか騎士が出てきて預言者出てきて獣が出てくる”ことしか覚えてないのに。


 リィズ、やはりスペックが高い。


「まず間違いなく2億の騎士は出てくる。俺達はそれから逃げなきゃならん。預言者と獣はともかく、最後の大地震は不味いか?」

「私、空飛べるよ」

「そうだった。ってなると、やっぱり最初の二億の騎士がやばそうだな。戦う準備だけはしておくか」


 俺はそう言うと、何時でも能力が使えるように準備だけはしておく。


 対して役にも立たないが、それでも多少は役に立つだろう。


「来るよ」

「こっからまた追いかけっこか?勘弁して欲しいぜ。せっかく建てたサランラップテントが、踏み潰されちまう」


 プヲォォォォォォ!!と、第六のラッパが鳴り響く。


 さて、ここからはのんびりできないかもな。


 俺はそう思いながら、二億の騎士がどこからやってくるのか警戒を続けるのであった。





 後書き。

 レイジバーストが神ゲーと聞いたので、Vitaを買おうか調べたら(ps4はテレビの関係で無理)クッソ高い。新品三万弱、中古でも二万弱とか高すぎるよ。

 普通にSwitch買えるぞおい。

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