第二のラッパ


 サランラップテントを作るのが思いのほか楽しかったり、改めて俺の能力がサバイバルに向きすぎているという事を認識した翌日。


 日が昇るともに目を覚ました俺達は、今後の計画を考えていた。


 取り敢えずストーカー野郎からは逃げ切ったが、今後どうしたらいいのか何も分からない。


 そのため、先ずは話し合ってどうしたらこのダンジョンをクリアできるのかを考えるのだ。


 何せ、クリア条件すら分かってないからな。なんとなくでもいいから、クリア条件を把握したい。


「周辺の探索が1番安牌だよな。どんな魔物が出てくるのか、何が起こるのかも全てが未知数だから周辺を探索して理解しないとどうしようもない」

「そうなんだよね。ボスを討伐するなら見つけなきゃ行けないし、他の条件ならそれの対策をしなきゃ。情報が少ないダンジョンだから、先ずは情報集めからしないとね」


 クリア条件を把握するために、周辺の探索はマスト。


 先ずは周辺の状況確認をした後、そこで発見したもの駆らクリア条件を推測していくしかない。


 ダンジョンの外に出るという選択肢はない。倒そうが倒さまいが厄介事しか運んでこないファッキン赤騎士が居る時点で、外へは出られないのだ。


 かなり厄介なギミックだよな。安全確保のために魔物を倒したら、世界が滅ぶのだから。


 きっとこのダンジョンを設計したやつは滅茶苦茶性格が悪い。ダンジョンに近づいた時点で、攻略を強いられるのがクソだるいよ。


 だが、ダンジョンの中にまで入ってこないのは不幸中の幸いだ。


 問題は、このダンジョンのクリア条件が何も分かってない事だが。


「グレイちゃんのお陰で食料問題は解決しているし、飲水の確保もできているから、ゆっくり行こうよ。どうせ、第三次世界大戦はおじいちゃんが居れば問題ないだろうしね」

「爺さん1人で防衛できそうだもんな。核兵器が上から降ってきても笑って生きてそうだ」

「今のお爺ちゃんが、第一次ダンジョン戦争の時に居たら、間違いなく日本は滅び無かっただろうね。そう思わせるぐらいには、おじいちゃんは強いよ」


 仲間達のことは心配しなくてもなんとでもなるだろう。むしろ、今心配しなければならないのは俺たちだ。


 ピギーと言う最終兵器はあるが、結局のところピギーだけではダンジョンの攻略ができない。


 生き残ることは出来ても、攻略ができなければ俺達はこのダンジョンという檻の中に閉じ込められたままになってしまう。


 俺はゆっくりと立ち上がると、サランラップテントを出る。


 うーん。五大ダンジョンとは思えないほどに清々しい天気だ。昨日リィズが言ったように、嵐の前の静けさと言うのがしっくりくる。


「それじゃ、適当に歩いてみよう。ダンジョンデートだ」

「やった!!グレイちゃんとデート!!」


 デートという言葉に純粋に喜ぶリィズ。五大ダンジョンでデートする頭のイカれたカップルは、きっと俺達ぐらいだろうな。


 天気もいいし、ピクニックとシャレこもう。こういう時こそ気楽に行かなきゃ。


 どうせ心配したって問題事は向こうからやってくる。


「手でも繋ぐ?」

「いいね。偶には平和ボケした連中みたいにはしゃいでみるか。ここ、五大ダンジョンの中だけど」

「それを言ったらおしまいだよ。私達が世界で初めてなんじゃない?五大ダンジョンデートだなんて」

「とんでもなく頭のイカれたファックカップルだな。普通の人間はそんなことをしようだなんて考えたこともないだろうよ」


 俺はそう言いながらリィズの手を握ると、黙示録の世界を二人で見て回るのであった。


 尚、普段は甘えたがりなピギーも今回ばかりは空気を読んだのか、一切話しかけてくることは無かった。


 ピギーのそういうところ、俺は大好きだよ。




【ブルーシートテント】

 その名の通りブルーシートで作るテント。作り方は様々だが、基本的に災害時などに使われることが多く簡易的な雨よけとして使われる。

 ブルーシート1枚だけ(紐や柱は必要)で作れるものから、何枚かを組みあわせて来るれるものまで。ただし、快適性はない上に狭く、素人が見よう見まねで作ると壊れる可能性もある(一敗)。




 リィズとのデート、もといダンジョン探索は順調に進んだ。拠点としたサランラップテントを中心にその周囲をあれこれ見て見たのだが特に魔物が襲ってくる訳でも無く、何か困ったことが起こる訳でもない。


 ぶっちゃけ、今の状態ならダンジョンの外よりも平和だ。


 人どころか、動物1匹すらもいない事が少し不気味だが、そこに目をつむれば物凄くのどかで平和な場所である。


 そしてもちろん、ダンジョンのクリア条件がこれで分かるはずもない。


 日が沈み始めた夕暮れ時。テントへと戻ってきた俺達は、再び会議をしていた。


「何も無かったね。ダンジョンの中なら魔物の一つや二つ出てきてもおかしくは無いのに。これじゃ流石にクリア条件がわかんないや」

「黙示録のダンジョンって言われているぐらいだし、多分天使達を倒すのがクリア条件なんじゃないかとは思うが、このダンジョンのどこに天使が居るのかも分からないとなると困るな。ダンジョンの広さも分からなければ、天使の居場所も分からない。こりゃ大変だぞ」

「地球レベルで広かったら最悪だね。まだ砂漠の中で一粒の砂金を探す方が簡単そうだよ」

「どっちも願い下げだなそれ。絶対攻略するより先に寿命が来るだろ」


 俺はそう言いながら、能力で出した木々に火をつけてその中にアルミホイルで巻いたじゃがいもを放り込む。


 バターと塩、そして砂糖が出せるので、調味料に困らない。フライパンと油も出せるから、フライドポテトも行けちゃうぞ。


 今回は蒸し焼きにするつもりだけど。


 黙示録のダンジョン2日目。特に成果なし。


 明日らもう少し探索範囲を広げて、何らかの情報を得られるところまで行きたいな。


 そうじゃないと一生をここで暮らすことになってしまう。


 そんなことを思いながら、じゃがいもが蒸し上がるのを待つこと数分。出来上がったホクホクジャガイモにバターを乗せて食べ始める。


 今日はスプライトの気分だからスプライトにしよ。


 メントスコーラが行けるならスプライトでも行けるんじゃね?と思った馬鹿な昔の俺、ナイス。


「ん、ホクホクで美味しい。こうやって風勢ある場所で蒸し芋を食べるのも悪くないねぇ........おもちゃ?」

「それを言うなリィズ。子供時代はみんなバカなんだよ。食べ物のありがたみを知らずに、食べ物で遊んでしまうものさ。フランスパンを野球のバット代わりに使ったり、ジャガイモをボール代わりに使ったりな」

「とんでもない罰当たりだね。まぁ、そのお陰でこうして今を生きられているんだけどさ。と言うか、それバットへし折れない?」

「もちろん折れた。そして、親に見つかって怒られた。流石にフランスパンを持ち出したのはバレるわな。むしろ、なぜ当時は行ける!!って思ったのか不思議なぐらいだ」


 そうして、のんびりとした時間を過ごしていたその時だ。


 ピタッとリィズの動きが止まり、静かに上を見始める。


 上はブルーシートの屋根で覆われている。俺もリィズの動きに釣られて上を見るが、そこにあるのは青い景色だけだ。


「グレイちゃん。どうやら天使様が自ら来てくれたみたいだよ」

「俺たちを殺しにか?」

「いや、敵意を感じない。私達に向けて殺意が向けられている訳じゃないね。でも、凄まじい力の圧を感じる........」

『ピギー?』

「待てピギー鳴くのは速い。相手の場所が確認できないからな。体力は温存しておけ」

『ピギッ』


 俺はそう言うと、ブルーシートテントを出て上をみあげる。


 そこには確かに天使が居た。


 黙示録を調べた時にでてきた画像の天使にそっくりだ。


 神聖なる天使と言うよりもリアルなおっさんに近いし、来ている服は紀元前の偉いやつが来てそうな白い服。


 そして何より目立つのは、その手に持ったラッパ。


 トランペットのようなものではなく、某とんがったコーンのお菓子のようなものを巨大化させた見た目をしている。


 そして俺は、その天使を見た時に何となく察してしまった。


 もしかして、このダンジョンのクリア条件ってラッパが齎す災害に耐えることなんじゃ........


 吹かせたらやばい気もするが、吹かせなければもっとやばい事が起きる気がする。


 リィズもピギーも同じ予感を抱いたのか、天使のラッパが鳴り響くまでその場を動くことは無かった。


「なぁ、リィズ。すげぇ嫌な予感がするんだが、気のせいか?」

「気のせいじゃないね。多分、グレイちゃんが思っているクリア条件が正解だと思うよ。あの赤い騎士は、私たちをダンジョンの中に閉じこめるためのキーだったんだよ。外からしかロックが掛けられないタイプの」

「最悪だ。あのラッパが何番目かもわかりゃしねぇ」


 俺がそう言うと、プヲォォォォォォ!!と、審判のラッパが鳴り響く。


 すると突然、丘の向こう側にあった海の上に、巨大な山のような火の塊が現れる。


 えーと、海に関することだから........2番目のラッパか。


 青草の三分の一が消え去る第一のラッパは既にダンジョンの外で吹かれていたもんな。


 なるほど。このダンジョンは耐久勝負のダンジョンなのか........うわぁ。やりたくねぇ。凄くやりたくねぇ。


 クリア条件が何となく分かったのはいいけど、ヨハネの黙示録の通りにことが進むとしたらこのダンジョン攻略は長いぞ。


「赤騎士を倒さなくてよかったね。もし倒していたら、サメちゃんたちが死んでいたかも」

「巨大な山のような火の固まりが海の中に落ち、海の三分の一が血に変わり、海の生き物の三分の一が死に、すべての船の三分の一が壊される。なるほど、これだけの被害が地球で産まれたら、人間はまず間違いなく死ぬだろうな。攻略を禁止した連盟は正しかったという訳だ。これ、外の世界にも鳴り響いてないよな?」

「多分大丈夫なんじゃない?第二のラッパが吹かれたって事は、第1のラッパがIND(インド)での被害ってことでしょ?ここに青草が沢山生えているから、ダンジョン野中にまで影響が及んでないのが分かるしね」


 第1のラッパ確か、血の混じった雹と火が地上に降り注ぎ、地上の三分の一と木々の三分の一と、すべての青草が焼けてしまう。だったな。


 地上の三分の一が焼けた訳では無いだろうが、間違いなくその被害はこの世界で観測されたという記録が残っている。


 そして、その被害がダンジョンの中で見られないということは、外と中は別世界という事なのだろう。


「これ、やばくね?第六のラッパとかどうすんだよ」

「これを機にキリスト教に改宗するしかなさそうだねぇ」


 俺は背中に嫌な汗をかきながら、海が真っ赤に染っていくそのさまを眺め続けるのであった。




後書き。

五大ダンジョンでデートを始めるヤベー奴ら。やる事ないからね。しょうがないね。

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