黙示録のダンジョン


 赤い騎士という名のストーカーに追いかけ回されていた俺達は、ダンジョンの中に飛び込んだ。


 ここで赤い騎士を倒しても外まで審判のラッパが鳴り響くようなら、この世界はもう終わりだ。


 助けてアーサー!!しなければ、地球が滅ぶ事となるだろう。


 困った時の英雄頼り。人は常に都合のいい存在を求めている。


 さて、そんなわけで飛び込んできた黙示録のダンジョン。俺とリィズは、ダンジョンに入った瞬間が最も危ないとして警戒していたが、そこでは何も起きることはなく、ただただ普通の世界が広がっていた。


 なんだここ。


 そこに広がっていたのは、ただの草原。木々が少し生い茂り、爽やかな風が吹き抜ける心地の良い場所である。


 後ろを振り向けば、そこには大きく広がる海。


 どうやら、ここは海の見える丘に近い場所らしい。


「最悪の状況は免れたか?取り敢えず、ダンジョンの入口から距離を取ろう。あのストーカー野郎が来る可能性が高い」

「そうだね。とりあえず離れよう」


 リィズはそう言うと、俺を抱えながら爆速で走る。


 凄まじい体力だな。既に何時間も走り続けているはずなのに、それでも疲れた姿を見せずにずっと走れるなんて。


 唯一息切れしたのは、転移で飛ばされてストーカー野郎に攻撃されそうになった瞬間。


 あの時は、使える全身の筋肉を作動させて走ってたのかな?


「ふふっ、こうしてグレイちゃんと2人きりで走るのは随分と懐かしいね。初めてであった時は逆だったっけ」

「あの時は俺が手押し車を具現化してリィズを乗せてたな。もう八ヶ月も経ったのか。時の流れは早いな」

「時の流れは長いようで短いからね。グレイちゃんに出会う前は一日があんなに長く感じられたのに、今じゃ、あっという間だよ。こんなにも滅茶苦茶な事ばかりしているからかな。退屈しない毎日がとても楽しい」

「それは良かった。後、今回はピギーもいるぞ」

「あはは!!ピギーを人に数えちゃダメでしょ。優しくていい子だけど、人という枠組みに収めるのは難しいかな」

「それで言えば、リィズも怪しいけどな?」

「アッハッハ!!確かに!!」


 ジルハードが仲間になってからというもの、俺とリィズだけで行動することはかなり減った。


 たしかに懐かしいな。懐かしみたくも無い思い出が沢山あるけど。


 この世界に来て八ヶ月。あっという間に過ぎ去ったこの八ヶ月は、俺に多くのものを齎した。


 恩人の死や生涯の仲間。気の合う魔物達に、クソッタレの神との邂逅。


 きっと、この世界に生きるどんな人よりも無茶苦茶な人生を歩んでいる。


 この世界に来て3日でテロリストだぞ?頭どかしてんじゃないのか。


「........追ってきては無さそうだな。ダンジョンの外だけを守る存在だったのか?」

「てっきり、四騎士を倒しながら天使のラッパをどうにかするダンジョンだと思ってたんだけどね。何がクリア条件かも分からないから、大変かも」

「だな........クリア条件すら分からないのがいちばん困るな。天使を殺すことか?」

「ダンジョンって基本的にダンジョンボスを倒してクリアになるけど、ごく稀に例外もあるから断言はできないよ。ほら、完全クリアの条件があったりするし」


 エルフのダンジョンもクリア条件が考えられていた条件とは違ったな。


 多分、あれはエルフの王を倒したら普通にクリア出来たはずなのだ。それを、あんな回りくどい方法を使って完全クリアしてしまったのである。


 とにかく倒せばいいってもんじゃないのは、既に経験済み。先ずはクリア条件が何なのかを理解しなければ、この先やるべきことも立てられない。


「今は何も分からないし、簡単な拠点でも作ろうか。このダンジョンの中でも生活を安定させることを先ずは考えよう」

「そうだね。それがいいかも。今日はさすがに疲れたし、少し休みたいよ........」


 俺はそう言うと、昔遊びで使った鉄パイプを繋ぎ合わせて長めの棒を幾つか作っていく。


 本当はテントとか用意したいのだが、俺の能力ではテントを出すことができない。


 昔、キャンプに行ったことがあったのだが、テントで遊んだ記憶は無いもんな。


「手伝うよ。何をすればいい?」

「この鉄パイプ達をいい感じに地面に突き刺してくれ。最終的に、斜めに重なり合うような感じで」

「........あぁ、テントの骨組みみたいな感じに?」

「そうそう。そんな感じに。地面にしっかりと固定しておけば、多分大丈夫だから」

「はーい」


 リィズは返事をすると、早速地面に鉄パイプを突き刺しながらいい感じに骨組みを作っていく。


 今から俺が作ろうとしているのは、玩具で作るなんちゃってテントだ。


 ちなみに今思いつきで作るから、上手くいくかは知らん。


 ダメだったダメだったでその時考えればそれで良し。一先ずは雨風をしのげればそれでいい。


「終わったよ」

「よし、それじゃこれを巻くぞー」


 俺はそう言って、サランラップを取り出す。


 我らが玩具サランラップ。一度はサランラップを無駄遣いして遊んだことがある人もいるのでは無いだろうか。


 正確にはサランラップの芯を。


 俺は昔サランラップの死んで遊びたくて、サランラップが着いていた状態で遊んだことがある。


 何をして遊んだかは記憶が曖昧だが、その後おふくろに死ぬほど怒られたのはいい思い出だ。


 と言うか、死ぬほど怒られた思い出しかなくて何して遊んだかを覚えてない。


 人の記憶とは摩訶不思議だな。


「サランラップ?」

「そう。これを入口他となる場所以外に巻き付けていく。んで、入口にはブルーシートを被せれば完璧だ」

「全部ブルーシートの方が簡単じゃないの?」

「それだと上の方が雨漏りする。念の為にサランラップで巻き付けたあと、ブルーシートを被せるつもりだよ」


 俺、ブルーシートテントアンチなんだよね。災害などでは活躍してくれるけど、狭いからあまり好きでは無いのだ。


 どうせテントを立てるなら、立てるぐらい広々とした空間の方がいい。後、強風が来ると吹っ飛びそうでやだ。


 いや、優秀なんだよ。ブルーシートテント。でも、キャンプの時に親父と作った作ったブルーシートテントが崩れて寝ている時に起こされたのが今でもトラウマなのだ。


 だから、サランラップで作る。大丈夫。サランラップは無限に出せるぞ。満足いくまで巻き巻きしよう。


 動画で作るようななんちゃってでは無い。一生住めそうなやつを作るんだ。


「なんかグレイちゃん楽しそう。一応ここは五大ダンジョンなんだけどねぇ........」

『ピギッ........』


 こうして、ストーカー野郎から追われなくなった俺は割とノリノリでサランラップテントを満足いくまで作るのであった。


 結論、クソ面倒だけど出来上がった時の達成感はすごい。


 手伝ってくれてありがとねリィズ。滅茶苦茶疲れていただろうに。




【サランラップテント】

 その名の通り、サランラップで作るテント。ハンモックなども作れるので、その気になればサランラップ1つで居住スペースが確保できる。

 グレイ君の場合は無限にサランラップが出せるので、一切の妥協なしの超グルグルサランラップテントを作成。オマケとしてその外にブルーシートで雨よけの大きめのテントまで作ったので、雨漏りは一切ない。




 その日の夜。俺は能力で出したフランスパンとコーラそして、味付けのバターを食べていた。


 もう、玩具というか完全に食べ物だが、この能力は実に便利で食べ物で遊んだことがあるなら具現化できてしまう。


 よく仲間に“無人島に連れていくならボス一択”とか言われていたが、マジで俺って便利だな。


 雪合戦みたいに投げて遊んでたジャガイモや、豆まきで使った大豆も出せるぞ。あと小麦粉か塩なら行ける。


 やっててよかった炎色反応実験。あれを遊びとして認識していた俺も大概だけど、お陰で今を生きられている。


 ちなみに、バターは滅茶苦茶小さい頃に石鹸と勘違いして遊んだ事がある........らしい。


 俺は記憶が無いのだが、親父とお袋がよくその話をしていた。


 多分、入れ物が石鹸ぽかったから遊んでしまったのだろう。まだ言葉も理解できない赤ん坊の頃の話らしいが、ナイスだぞ赤ん坊の俺。


 いや、赤ん坊の頃なら石鹸のこともよく分かって無いだろうし、多分近くにあったから遊んでたんじゃなかろうか。


 と言うか、赤ん坊の手の届く場所にバターを置くな。食べたら危ないだろ。


「なんと言うか、平和だね。ここが黙示録のダンジョン立とは思えないよ。五大ダンジョンの一角だってのに」

「確かにそうだな。今のところ、ただの平原だ。この先何が起こるのかは知らんが、今のところは五大ダンジョンなんて言われる要素があのストーカー野郎しかない」

「不気味だねぇ。嵐の前の静けさというかなんというか」

「確かに嵐の前の静けさって感じはあるな。もし、騎士たちが俺たちを襲いに来たらここを捨てるぞ。このテント、いつでも作れるしな」

「本当に便利な能力だね。だってこの能力ひとつで衣食住が完結しちゃうんだよ?サバイバルにはもってこいすぎる能力だよ。しかも、消費魔力がとてつもなく少ないからほぼ無限に出せる。これだけで全世界の食料問題が解決できちゃう」


 そう考えると、俺の能力ってとんでもないな。


 ドンパチやらかして世界中から恨みを買わなくとも、この能力だけで世界各国から狙われそうだ。


 ある意味、自分を守るという意味でも国を持ったのは正解だったのかもしれん。


「水は?」

「水を出せる能力者は多くいるからね。それは大丈夫なんだよ。今じゃアフリカにも森が出来る時代なんだよ」

「サハラ砂漠にも緑が生える時代か。そこだけ聞けばいい時代になったように聞こえるんだがな........蓋を開けてみたら、ダンジョンによって世界は分断されて、挙句の果てには第三次世界大戦が起きている。そういえば、みんなは大丈夫かな?」

「どうだろう?多分今ごろ必死に探してるいと思うよ。なんやかんや、みんなグレイちゃんのことは好きだからねぇ。特にレミヤとジルハード辺りが取り乱してそう」

「なぜにレミヤとジルハード?」

「ジルハードはグレイちゃんがとんでもない事をやらかさないかを心配して、レミヤは単純に心配だからだろうね。レミヤ、グレイちゃんが“抱かせろ”って言ったら喜んで股を開くぐらいには狂信してるよ。今度言ってみたら?」


 言わねぇよ。俺は機械人形に興奮するほど頭根のネジが外れているわけじゃないからな。


 それと、女の子がそんな事を言ってはいけません。はしたないです。


 こうして、黙示録のダンジョン一日目は幕を閉じるのであった。


 2日目からどうしよう。やること無くて困ってるんだけど。

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