えぇ......
研究所にカチコミを掛けた俺達は、次から次へとやってくる警備兵達を皆殺しにした後技術や情報を分取る為に研究所へと足を踏み入れていた。
研究所の中は中々に気味が悪い。
カプセルの中によく分からん液体を流し込まれ、その中に眠る人の姿。
男も女も関係なく全裸で放り込まれているが、さすがにこの光景に興奮するような奴はいないだろう。
あまりにも気色悪すぎる。
カプセルの中には人だけではなく魔物の姿もあり、ゴブリンがなんかよく分かんない変形の仕方をしているやつもあった。
エイリアンでも作ってんのか。
遂に人は、生命を弄ぶ禁忌に手を出してしまったのかと思うぐらいには、人権もクソもない研究所である。
いや、元々ひとは生命を弄んでいるが。
「気味の悪い場所だな。ふとした瞬間に中にいる人間達がカプセルをぶち破って出てきそうだぜ」
「生命反応がありませんね。死体です。一体何をしていたのでしょうか」
「エイリアンでも作ってたんじゃないか?インディペンデンスデイみたいな、気色悪いエイリアンを作って宇宙からお仲間を呼び打とうとでもしたんだろ。きっと、最終的には空軍を引退した爺さんが宇宙船に飛び込んで地球は救われるハッピーエンドだ」
「あぁ、古い映画にしては中々いいよなあれ。なるほど、映画の再現をしようとしたわけだ」
話してたらちょっとみたくなってきたな。インディペンデンスデイ。
あれ、結構好きなんだよね。バック・トゥ・ザ・フューチャーに並ぶ名作だと俺は思っている。
戦争が終わったら、みんなで見るか。この世界の人々が、あの映画を今見て何を思うのかも気になるし。
そんなことを思いながら、この気色悪い研究所内を歩き続けるとレミヤの足がピタリと止まる。
研究員はまだ逃げだしていないだろうし、探してくれとお願いしていたが思ったよりも早く見つかったな。
「この下に多数の生命反応があります。おそらく、研究員達ですね」
「OK、それじゃ下までぶち抜くか。アリカ、周囲を溶かせる薬を持ってたよな?」
「あぁ、だから私も必要だったのか。確かに、お行儀よく道を探すよりは楽だし早いよな。分かったちょっと待っててくれ」
アリカはその能力により様々な薬品を作り出せる。人の傷を治すポーションから、人を殺す毒まで。
更には使い方次第で、植物を一瞬にして育てられたり、こうして穴掘りが出来るわけだ。
しかも、ほぼリスクゼロで。
俺もなにかに使えるかなと思って薬草の勉強はアリカに教わっているのだが、その知識を覚えるのと使うのでは訳が違う。
試しに簡単なポーションを作ってみようと言われてやってみたが、滅茶苦茶苦戦した上に品質も最悪だった。
アリカは笑いながら“初めてで、ちゃんとポーションになるだけ凄い”と褒めてくれたものの、普段アリカがどれだけ難しいことをしているのかよく分かったね。
薬学、難しい。
薬草をすりつぶす時間や煮る時間によって効力が全く変わってしまったり、毒になってしまう。
アリカはそんな繊細な技術が求められる事をしているのかと思うと、普通に尊敬できるよ。
「人体実験に魔物実験。人権もクソもあったもんじゃないな。さっくり殺してくれるグダニスクの方がまだ慈悲深いと思っちまうよ」
「死んだ後も体を弄り回されると思うと、勘弁願いたいな。だが、ここにいる連中は口を揃えてこういうぜ?“死んだ後もお国のために役に立てるんだから、咽び泣いて喜ぶべき”だってな。神だってここまでは言わねぇよ。多分」
「全くだ」
アリカが地面を溶かすのを待っているあいだ、暇だったので研究所内を適当に見て回る俺たち。
とは言っても、アリカから離れるようなことはせずに、ただぼけーっと見ているだけだ。
「懐かしいなぁ。私もこんな感じの装置に放り込まれてたよ」
「私も何度がありますね。呼吸ができないはずなのに、呼吸ができる。そんな、不思議な感覚に陥っていましたよ」
「わかる!!その感覚に慣れちゃって水に潜ると大変なんだよ。肺に水が入っちゃうんだよねぇ。水中呼吸ができる魔物の細胞を植え付けられてからは、無くなったけど」
「私もこの体になってからはそういう事がなくなりましたね。そもそもこの体は魔力さえあれば動きますし。代わりに、メンテナンスが必要ですが」
俺とジルハードが人権云々の話をしていると、過去に実際にこれに似た装置に入ったことがあるリィズとレミヤがガールズトークのようなテンションで触れにくいことを話す。
そうか。リィズとレミヤも実験体の過去があるから、この装置を体験したことがあるんだ。
流石にその会話には入れないな。
チラリとジルハードを見ると、ジルハードも少し気まづそうな顔をしている。
空気が読めるジルハードは、こういう時余計な事を言わないのだ。
「過去の事だからあんなテンションで話せるのか?」
「まるで女子会のように話すな。流石にあの会話には入れん」
「だよなぁ。俺もジルハードも流石にこういう話の線引きはしっかりしてるもんな。ミルラのおバカな話ぐらいなら笑えるが........これはちょっと」
「だな。レイズもローズも聞こえないふりをしてるし、俺達も知らないフリをしておこう」
こうして、俺とジルハードは暇つぶしとしてリバーシで遊ぶのであった。
もちろん、スーちゃん達も交えて。
【リバーシ(オセロ)】
2人のプレイヤーが交互に盤面へ石を打ちながら、相手の石を自分の石で挟むことによって自分の石へと換えていき、最終的な盤上の石の個数を競うボードゲームである。イギリスで19世紀後半に考案されたリバーシ(Reversi)の一形態が1973年に日本でオセロとして発売され、爆発的な人気を呼んだ。オセロゲーム(Othello Game)とも呼ぶ。
実はリバーシとオセロは似ているようで別物。細かいルールが違うのだが、オセロの普及によりリバーシ=オセロ(商標登録の関係上)というイメージが付いてしまっている。
アリカが穴を開けてくれたので、俺達はその穴をおりて研究員たちの顔を見に行く。
人を人とも思わないクズ共だ。別に頭をぶち抜いても罪悪感などない。
いや、この世界に慣れた時点でそもそも無いか。
そんなことを思いながら、目にした研究員たちは皆当たり前だが怯えていた。
「人の命を弄ぶ事は出来ても、自分の命は惜しいらしいな。俺も人の事は言えんが」
「人なんざそんなもんだ。それで、これからどうする?あの白衣を国旗と同じ色に染めてやろうか?」
「それもいいが、まずは情報を取らなきゃならんだろ。ここに来た目的は、レイズの仕事を減らしてやるためだ」
俺はそう言うと、いちばん近くにいた研究員の頭に銃を突きつける。
研究員は“ヒッ........!!”とだけ言って、小さく怯えていた。
「この施設の情報はどこにある?研究データやその他諸々だ。大人しく出すのであれば、この引き金は引かないでやる」
「そ、そこのコンピューターに全部入っています!!」
研究員が指を指した先には、どでかいコンピューターと巨大モニター。
まぁ、この部屋に入ってきた時点で何となく察してはいたけど一応ね?
聞くだけならタダなんだし、聞いてみるべきなのだ。
「だそうだ。レミヤ、データを回収しろ」
「かしこまりました。もし、嘘をついていたらその引き金を引いていいですよ
レミヤはそう言うと、電源をつけてカタカタとコンピューターを弄り始め........手が止まった。
どうかしたのか?と思いモニターに視線を移すと、そこには訳の分からん数字の羅列が。
うわ、どこからどう見ても暗号じゃん。
“8143816~”と続くクッソ長い暗号文。これ、かの有名なRSA暗号なのでは?
ほら、サマーウォーズで使われた。
「........まさか、こんな古代の暗号を用いているとは。どうしましょう。現代の魔力暗号ならともかく、アナログの暗号は解析が難しいです」
「なんで?昔の暗号の方が簡単じゃないの?簡単に破られるようになったから、新しい暗号を作ったんじゃ」
「魔力と言う概念が生まれたことにより、世界の在り方は変わったのですよ。500年以上も前の暗号を持ち出されて“はい、解いてね”と言われて解けるならやって欲しいですよ」
「確かにそれは難しいな。おい、この答えを教えろ」
RSA暗号と言えば、虱潰しで頑張るしかない滅茶苦茶大変な暗号だ。しかも、鍵が3つほど必要で、1つは完全に分からない。
そんなハーバート入試すら真っ青な問題を解けるわけないので、俺は研究員に銃を突きつけながら答えを聞く。
が、彼は首を横に振った。
「し、知らないんです........」
「は?ならどうやってこのコンピューターを開いてたんだよ。俺の気は長くないぞ?」
「ほ、本当なんです!!このコンピューターは政府関係者しか使えないものでして、俺達は実験結果をこのサーバーに入れているだけですから。毎回開く度に申請を出さないと行けなくて、俺達も文句を言いたいぐらいなんですよ!!」
「嘘じゃないね。声色が本当だよ」
えぇ........どうすんのさ。情報を持ち出せないとなるともうコンピューター事持ち出すしかないが、この大きさのコンピューターを持ち運ぶのは無理がある。
しかも、多分コンピューター内に情報を保存するやり方をしてないだろ。何時でも証拠を消せるように、オンライン上でしか使ってないとみた。
となると、解読するしかない。もしくは、政府関係者を攫うか。
困ったな。このままだとレイズの手首が死ぬ。
「解き方とかわかる?」
「何となくしか知りませんよ。因数分解するぐらいしかわからないです。今の時代ですから調べれば出てくるでしょうが、かなり時間がかかると思いますよ」
だよなぁ。あまり時間をかけすぎると、俺達を殺しに軍がやってくる。研究員諸共ぶっ殺せ!!とかされると困るんだよ。
有名なやつだと、これが答えだったか?
「The magic words are squeamish ossifrage
(魔法の呪文は「気難しいヒゲワシ」)
To know is to know that you know nothing
(知るということは、「君が何も知らない」ということを知ること)
That is the true meaning of knowledge
(それが「知識」の真の意味)」
『ピー、パスワード確認、ロックを解除します』
........え?
モニターから暗号文が消えて、なんかアクセスできるようになっている。
嘘だろ。こんな有名な暗号を使うとか馬鹿なんじゃないの?仮にもここは国家機密の場所だよな?
アホなの?バカなの?中国なの?
「すごいじゃんグレイちゃん!!もうこのよく分からない暗号を解いちゃったの?!」
「え、やば。
「よくわかんないけど、ロックが外れたんだろ?なら貰えるもん貰ってズラかろうぜ」
「そうねん。長居は危険よん」
えぇ........意味わかんねぇよ。
今回ばかりは中国が悪い。俺、有名な暗号の答えを口ずさんだだけなのに。
と言うか、これなら調べたら普通に出てきちゃうだろ。なんでこれを暗号文にしようとしたんだこの国は。
俺は、どうしてこうなったよりも、“なんでこの暗号を使ったんだ”という困惑で頭がいっぱいになるのであった。
後書き。
中国「昔の暗号使ったら分からんやろ‼︎有名なのにしてもどうせバレへん‼︎」
グレイ君「えぇ......なんか解けたんだけど」
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