滅べ


 研究所のパスワードがパスワードになっていなくて普通に困惑したりと在りつつも、この後もCHとの戦争は順調に進んだ。


 とは言っても、俺達がやった事は少ない。


 明確な戦果と言えば、研究所を潰したぐらいだろう。


 あとは全部爺さんが叩き潰してしまった。俺達が研究所を破壊する間に、爺さんは北京で大暴してありとあらゆるものが瓦礫の山と化した。


 斬撃の余波によって万里の長城がぶった切られたり、北京の建物がひとつ残らず崩壊したり。


 到底、人一人がやったとは思えない惨状が繰り広げられたとなれば、国民の気も滅入る。


 これが軍人だけを相手にしているなら話は別だったんだけどな。民間人まで巻き込んで皆殺しにしているんだから自分たちも殺されない保証は無い。


 何から何まで無茶苦茶な爺さんだ。破壊して殺した人の数だけで言えば、核兵器よりも上である。


 人間核兵器なんて異名を付けられる日も近いかもしれない。やったね!!非核三原則を唱えていた日本が、遂に核兵器を手にしたよ!!


 その後、何とか爺さんと合流したが、爺さんは滅茶苦茶楽しそうであった。


 そんなにCHを潰せたのが嬉しいのか。


 しかも、ご丁寧に国家首席およびその他の政治家達を生け捕りにしているんだから、仕事もできる。


 どうやら、相手が雲隠れする前にミルラが見つけ出して捉えたらしい。もちろん、情報はおばちゃんが流してくれた。


 生きた伝説を舐めていた訳では無いが、ここまで凄いと舐めた口とか効けないね。


「ボス、バルカン諸国がCHへの攻撃を停止しました。どうやら、我々があまりにも暴れすぎたようです」

「我々っていうか、そこのおじいちゃんがね?俺がやったのは研究所を潰したぐらいだから」

「フォッフォッフォ!!次は南京にでも行くかの!!南京大虐殺を再び起こしてやろう。なぁに、CHは南京での虐殺数を30万と偽っておったのじゃ。儂がその歴史を本物に変えてやるわい」


 おじいちゃん、CHが滅んだらそんな歴史無くなるよ。中国4000年の歴史に幕を下ろすことになってしまう。


 200年もすれば、きっとどこぞの滅んだ文明のような扱いをされることになるだろう。歴史の教科書でしか其の世界を知ることは出来ないはずだ。


「もう爺さん1人だけでこの戦争勝てるだろ。たった一人で国を滅ぼしてるようなもんだぞこれ........」

「俺達は研究所を潰しただけだもんな。一騎当千なんて言葉が日本にはあるが、これじゃ一騎当国だ。たった一人で国と同等の力を持ってるんだよ。普段が如何に手加減をしているのか分かったもんじゃない。そして、こんなイカれたジジィが攻め込んでも滅ぼせ無かったエルフ達がどれだけ強かったのかよく分かる」

「確かに。この爺さんをエルフ達は4回も追い返してるんだよな。そう考えると、難攻不落と言われた理由もわかる気がするぜ。まぁ、ボスの手によって陥落したんだけどさ」


 爺さんもヤベーが、そんなやべーやつ相手に4回も勝っていたエルフってスゲェんだな。


 最近は携帯やテレビの普及でかなり自堕落な種族に見えてくるが。


 後、このお爺さんを一歩も動かさせないピギーや、手合わせとは言えど互角以上に戦っていたローズやリィズの異質さがよくわかる。


 もしかして二人も一人で国を落とせたりする?


「んで、これからどうするんだ?とりあえず敵の頭は捕まえたぜ?無理やり不平等条約を結ばせることだってかなり容易なはずだ。レイズがやってくれれば、条約を強制できる」

「完全な植民地を作ることすら可能ですよ。俺達が第二のブリテンとして、この国を管理する事だって簡単です」

「だってよ爺さん。俺としては爺さんの意思を尊重させてもらうよ。植民地になろうが、国が滅びようが俺としてはどっちでもいいし」

「フォッフォッフォ。ならば─────」


 俺はマジでどっちでもいい。管理することになったら面倒だが、全てを消し炭にするのもこれはそれでかなり面倒。


 なら、この戦争に最も思うところがある爺さんに判断を委ねてもいいだろう。


 爺さんは静かに笑うと、目に見えない速さで刀を振るい、並べられていた共産党の政治家どもの首を全員跳ねた。


 どうやらうちのイカれた爺さんは、この国の滅びを望んでいるらしい。


「────滅べ。アジアの癌共よ。こやつらを下に置いても、いい事など一つもないわい」

「だそうだ。戦争続行だな。この国から中華の血が無くなるまでは、好き勝手に暴れるしか無さそうだ」

「血の気の多すぎる爺さんだ。シリアルキラーだって、ここまで人を殺せば満足するってのにな」

「主要都市はお爺さんに潰させて、残りはドワーフが開発した兵器の運用でもしてみますか?流石に村まで立ち寄って滅ぼすのは無理があるでしょうし」

「だってさ爺さん。この戦争はアンタのもんだし、好きにしてくれていいぜ」

「フォッフォッフォ!!ならば儂の手で皆殺し........と、言いたいところじゃが、他にも我が国の敵は多くいるのでな。流石にそれは辞めておくわい。後は南京や深圳など、大きめの都市を消すだけに留めておくとしよう。儂も歳をとったのぉ。昔なら、ぜんぶ自らの手で殺さねば気が済まぬところであった」


 いや、一人でその都市を滅ぼそうとしている時点で頭がおかしいんだけどね。


 これでも丸くなったと言い張る爺さん。昔はどれだけ滅茶苦茶やってたんだか。


「そういえば、CHにはSランクハンターとか居ないのか?いくら爺さんとは言えど、多少は苦戦しそうな相手とか........」

「あぁ、一応国基準でSランクハンターに該当する人はいましたが、そこら辺で死体になってますよ。なんか格好つけて出てきて、即死してました。正直少し同情しましたね。あゆな死に方はごめんです」


 マジかよ。Sランクハンターレベルの相手を瞬殺してんのか。


 しかも、殺した当の本人は殺したことにすら気づいてなさそうな顔をしてるし。


 おじいちゃん、Sランクハンターはもう殺したでしょ?


「ハンター協会に正式に認められたSランクハンターは居なかった筈だが、それでも似たような戦力の奴は居たはずなんだがなぁ........バケモノ過ぎないか?この爺さん」

「生きた伝説とまで呼ばれる人ですよ。歴史の厚みを持たない若造なんて、瞬殺してしまうのでしょう」

「その理論で言えば、この世界の人たち全員瞬殺されるけどね」


 500歳まで生きているこの爺さんを前にしたら、誰だろうが若造だよ。


 80過ぎのご老人ですら、若造になっちゃうよ。


 俺は、そんなことを思いながら、CHの主要都市を潰しに向かうのであった。


 既に頭は潰してしまったし、後は爺さんが満足するまで暴れるだけだな。




【RSA暗号】

 桁数が大きい合成数の素因数分解が現実的な時間内で困難であると信じられていることを安全性の根拠とした公開鍵暗号の一つである。暗号とデジタル署名を実現できる方式として最初に公開されたものである。

 サマーウォーズの映画にも使われた暗号であり、詳しく知りたければ某東大生達が出てくるYouTubeを見てみるといい。サマーウォーズはオカルト。




 CHの主要都市の一つ深圳。


 この地はCHにとってかなり重要な都市であり、多くの技術や資源を保有する場所である。


 観光業にも力を入れ、第一次ダンジョン戦争後も被害ことあれど街が滅ぶほどではなかったこの都市は現在、バルカン諸国に狙われる場所であった。


 目立つビルはあっという間に標的にされ、民間人までもを巻き込んだ被害が出ている。


 しかし、それでも抵抗できるだけの戦力は整えられていた。


「クソッ!!本部との通信が途絶えたぞ!!昨日まで何も問題なかったってのに、どうなってるんだ!!」

「ダメです。また繋がりません。本部に何かあったのでしょうか」


 作戦本部と通信を行っていた情報部隊の1人が、苦虫を噛み潰したような表情で近くにあったゴミ箱を蹴り上げる。


 昨日の晩辺りから、北京にある本部と全く連絡が取れない。


 何度も通信を繋ぎ直しているが、一度も応答がないとなれば、何かあったのではないかと不安にもなる。


「北京にバルカン諸国の連中が攻め込んできたのか?いや、でも、それなら動きから分かるから何らかの通達が入るはずだろ........何がどうなってんだ」

「通達を入れるまえに吹っ飛ばされたんですかね?それなら有り得ますが........」

「ミサイルが飛んでくる様子を見逃したってか。本部だって節穴じゃないし、何よりあそこには共産党員が大勢居るんだ。守りはしっかりとしているはずだぞ」

「それじゃ─────」


 何があったんだ。そう口にする前に、答えは自らやってくる。


 それは、バルカン諸国の兵隊と交戦していた部隊からの通信であった。


『た、助けてくれ!!』

「どうした。何があった?」

『とんでもないジジィが一人で暴れまくってやがる!!二日前に見た!!あれはフェイクニュースじゃ無かったんだ!!』


 切羽詰まった声。その声は明らかに恐怖に染っており、周囲では悲鳴や戦闘音が鳴り響く。


 とんでもないジジィ、二日前に見たフェイクニュース。


 となれば、思い当たる節は1つしかない。


「香港を1人で壊滅させたとか言うやつか........?」

『そ、そうだ!!アイツやべぇ!!バルカンだろうがCHだろうがお構い無しだ!!見るもの全部を斬り殺してやが────』

「おい?どうした?おい!!」


 突如途絶えた通信。


 通信をとっていた男は嫌な予感を覚えながら声をかけると、次に帰ってきた声は全く違う者の声だった。


 やる気のないような、どこか面倒くさそうなその声が、通信に乗る。


『あーハロハロー。共産主義者コミンテルンのマザーファッカー共。ご機嫌いかがかな?』

「........っ!!」

『あれ?聞こえてる?おーい。どうもー、日本帝国ですー』


 日本帝国。かつて第一次ダンジョン戦争で滅び、つい4ヶ月ほど前に再建された国。


 未承認国家でありながら、この第三次世界大戦に乗り込んだ頭のイカれた国家を名乗るもの達が、遂に姿を現したのである。


「な、貴様........」

『おっ、ちゃんと繋がってるみたいだわ。今から深圳の街が滅ぶだろうから、その前に神に祈ってあげようかと思ってね。ほら、悪魔共にケツをファックされますようにって』

「貴様!!この────」


 その先の言葉は出なかった。


 否、出すことが出来なかった。


 何故ならば、頭と胴体が泣き別れてしまったから。


 神速の一刀によって生み出された斬撃が、運悪くこの司令部にも当たってしまったのだ。


 落ちる首と崩れる建物。


 その音を聞いた主は、通信を繋いだまま静かに呟いた。


『あー........その、どんまい』


 ガシャッ、バキ!!


 通信が最後に残した記録はここで途絶えている。

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