持つべきは優秀な部下
その日も、彼らにとっては何ら変わらない日常であった。
CHの荒野にポツンと佇む研究所。ここではないかありとあらゆる非人道的研究が政府によって許可され、毎日のように裏で流れてくる人間たちが運び込まれる。
そして、彼らは
表の世界に生きる人間からすれば、間違いなく邪悪な場所だと言えるだろう。
しかし、犠牲無くして技術の進歩はありえず、どこの国でも似たようなことはやっている。
まだ出来たてな上に、ドワーフという技術の塊をもつ日本ぐらいだろう。どんな人間にも人権を与えているのは。
そんな世界の闇とも言える場所。そこの出入り口を警備していた四人の軍人達は欠伸混じりに会話をしていた。
「おい、なんか香港が消えたらしいぜ」
「日本帝国の連中がやったんじゃないかって話だよな。第二次世界大戦に負けて、資本主義になりさがった悪の帝国が今この時代に蘇ったって訳だ。第一次ダンジョン戦争で滅んだ癖して、一丁前に国を名乗るなんざ烏滸がましい。俺達は南京大虐殺の時代を忘れちゃ居ねぇ。バルカン諸国を潰したら次は奴らだ」
「だが、ほんとうに香港が消えたのか?今どきは
「アヘン戦争の借りもあるし、これを機に祖国が世界を牛耳る為に全世界を押し潰すのも良いかもしれんな。この国が神の国になるのさ。共産主義という理想を持って、人にも劣る猿共を飼育してやるのさ」
「あはは。そいつはいいな」
第三次世界大戦が始まってから三週間。CHとバルカン諸国の戦争は一進一退の攻防が続いている。
もちろん、この研究所にもミサイルが飛んできていた事もあったのだが、あいにく全て空中で撃ち落とされていた。
人は、自らがその立場に立たなければ状況を理解しない。
重要施設の警備を任されているとは言っても、所詮は下っ端の彼らに現実が見えているはずもなかった。
特に攻撃もなく、平和な世界なら尚更。
だからこそ、車内で爆音を奏でながらノリノリになっている頭のイカれたやつらがやって来たとしても、即座に引き金を引かない。
それが命取りになるとも知らずに。
「ん?レーダーに車の反応があるな。どういう事だ?」
「こんな時間に荷物の搬送なんてなかったはずだぞ?お偉いさんが来るなんて報告受けたか?」
「いや、そんな報告は受けてないはずだ。だが、伝達ミスなんて事もある。1度連絡員に聞いてみよう」
最初は、連絡すらよこさずに視察にやってきた議員の1人でも来たのかと思ってしまった。
距離は5kmほど。目をこらせば、確かにそこには漆黒の車が二台走ってきている。
車だけ見れば、確かにお偉いさんが乗っている車と勘違いしてしまうのも仕方がない。だが、議員が乗っているのであればそれを示すマークが刻まれているはずなのだ。
それが無いということを、彼らはまだ認識でいていなかった。
そして、そののんびり足した対応が命取りとなる。
車の上から顔を出し、静かに対物ライフルを構える男が見えていれば、もう少しは長生きできただろう。
「────あーこちら、C-11警備───」
パァン!!
刹那、連絡を取ろうと通信を入れた警備兵のひとりの姿が掻き消える。。
戦車の装甲すら貫通し、エンジンを壊すほどの威力を持つ対物ライフルに撃たれればどうなるのか。
答えは簡単。頭どころか、胴体そのものが弾け飛ぶのである。
「........は?」
一瞬すぎる出来事に、何が起きたのか理解が追いつかない警備兵達。
ここは、常に平和な場所であった。彼らがもしもグダニスク帰りであれば、この一瞬で何が起きたのかを判断して素早く地面に身を伏せるか応戦していただろう。
しかし、彼らがとった行動は棒立ち。
要は、的になってしまったのである。
動かない的を相手に、高性能AIが放つ弾丸を避けられる訳が無い。
次の瞬間、残った3人の頭にも弾丸が撃ち込まれ、一切対応出来ることも無く意識が途絶える。
彼らの不幸は、この国に生まれてしまったこと。彼らの幸運は、痛みを感じることなく死ねたこと。
そして、爆音を奏でるイカれた集団は一切減速することなく研究所の門に向かって突っ込んでいく。
『緊急事態発生。緊急事態発生。職員は直ちに避難し、警備は戦闘準備を』
研究所内にアラートが響き渡る。
突如として現れた襲撃者達に研究所内は大混乱。避難訓練など一切してこなかった彼らが急に“避難”と言われてもどうしたらいいのか分からない。
警備兵達も訓練こそやっていたが、実践経験はほぼゼロ。研究員達よりは混乱が薄いがそれでも何が起きたのかを理解するまでに僅かな時間がかかる。
その間、研究所の防衛設備が稼働。
警備兵を4人撃ち殺した相手に向かって銃弾の雨を振らせようと、AIがありとあらゆる設備を操作し始めた。
が、あまりにも遅い。
適切な判断ではあるが、判断を下すにはあまりにも遅すぎた。
二台の車に向かって銃口を合わせるよりも先に、機械仕掛けのメイドが放ったミサイルが設備を破壊していく。
ドゴォォォォォォン!!
空気が、地面が揺れるほどの爆発音。つき先程まで静かだった研究所は一気に戦争の最前線へと成り代わる。
「な、何が起きたんだ?!」
「いいからアンタらはサッサと避難しろ!!バルカンの連中がここを狙ってきたんだよ!!後数分もしたらこの場にバルカンのファッキンファッカー共が押し寄せてくるかもしれねぇ!!」
「調整途中の兵器は使うのか?!」
「あれは上の許可がないと使えねぇだろうが!!意地でも許可をとって来やがれ!!」
「わ、分かった!!頼んだぞ!!」
普段聞かないアラートに、普段聞かない爆発音。警備兵たちは銃を持ちとにかく研究員を無理やり逃がす。
彼らは国の発展に欠かせない人材。例え1人でも失ってはならないと口うるさく言われている。
もし、この戦闘を生き残ったとしても、場合によっては自分の首が飛ぶだろう。
しかも、物理的に。
そんな混乱に乗して、正面の門をぶっ壊した連中が来るまでやってくる。
爆音の不死鳥を奏でながら、研究所に入ってきたイカれた集団。
「中々テンション上がるな。やっぱりロックっての最高だぜ」
「全くだ。んじゃ、俺達もそのロックに合わせて暴れますかね。取り敢えずは警備の連中を皆殺しにすればいいんだろう?」
「もちろん。全員のケツ穴をファックして地獄のそこに送ってやれ。きっと、
「了解。
【ハーデース】
ギリシア神話の冥府の神。日本語では長母音を省略してハデスとも呼ばれる。クロノスとレアーの子で、ポセイドーンとゼウスの兄である。妻はペルセポネー。その象徴は豊穣の角及び水仙、糸杉。ポセイドーンと同じく馬とも関連がある。
持っている武器はバイデントと呼ばれる槍。形状は熊手に似ていて槍先が二叉になっている。ラテン語で『二本の歯』という意味。
ノリノリで曲をかけながらのカチコミ。
初めてやってみたが、中々に悪くないな。昔なら嫌な顔をしながら車に乗っていただろうが、ロックな曲をかけると頭までロックな思考になるらしい。
何もかもがぶっ飛んで、やっちまえと吹っ切れてしまった。
この世界で生きるにはいい方法だ。今度からタバコの他にも音楽という縋れるものを用意しておくか。
え?神こそ縋るべき対象なのではって?俺がなんでこの世界でこんな目にあっているのか考えても見ろ。神に祈った次の日には、多分五大ダンジョンの中に放り込まれている。
パァン!!パァン!!
「........っ!!」
車から降りて早速近くにいた警備兵と思わしき軍陣の頭をぶち抜く。軍人のくせして、判断があまりにも遅いな。
敵だと思った瞬間には、引き金を引かなきゃ。じゃないとこの戦場では生き残れないぞ?
「オラァ!!グレイちゃんの邪魔をすんじゃねぇ!!」
「ふふふっ、そんな玩具の銃弾に当たるわけないでしょう?舐められたものねん!!」
俺が引き金を引きながら、ちまちまと兵士を殺していると、リィズとローズが大暴しながら周囲の兵士他達を躊躇無く殴り殺していく。
人って殴られると弾け飛ぶんだな。空気を入れすぎた風船みたいに。
見慣れた光景なんだけど、何度観てもマジックなんじゃないかと思ってしまうよ。
「相変わらずあの二人も馬鹿げた力をしているな。私も少しは手伝うか。ほら、植物に犯されて死ねるぞ、泣いて喜べ」
「ギィャァァァァァァ!!」
リィズとローズの暴れっぷりを見ながら呆れるアリカは、そんなことを言いながら試験管を遠くに投げて何やらヤベー液体をぶちまける。
すると、あれよあれよとなんかよく分かんないヤバそうな植物が出てきて、周囲の警備兵を鞭で絡めとった。
そして、口の中にムチが入りジタバタとさていた兵士の目が真っ白になる。
なにあれこっわ。確かに植物に犯されているようにも見えるけど、普通に恐ろしすぎて直視出来ないわ。
マッドサイエンティストアリカ。彼女も相変わらずやっている事が無茶苦茶である。
普通に怖い。あんな植物を作れてしまうのもそうだが、それを見て少し羨ましそうにしているのも。
アリカちゃん。今、トンパチ中。間違っても興奮しないでね。
「実戦経験が足りてないんすかね。全くもって弱すぎる。MEX(メキシコ)で軍人をやってたら、即死んでますよこいつら」
「訓練だけはやりますけどね。訓練だけは。所詮は連合国の力無くして戦争に勝てなかったカス共ですから。仕方がありませんよ」
軍用のアサルトライフルを的確にぶっぱなし、近くの敵から着実に排除するレイズ。
殺したであろう敵にももう1発銃弾を打ち込む徹底ぶりで、その目は完全に昔の軍人時代のものであった。
戦力としては俺の次辺りに弱いであろうレイズだが、こいつも対人戦に関してはかなり強い部類だ。
頼もしいね。上官の頭をぶっ飛ばすようなやつだが、それはそれこれはこれだ。
レミヤはそんなレイズが打ちやすいように遮蔽を作りつつ、全員のサポート。普段はポンコツだが、こういう時はちゃんと有能なので助かるよ。
出来れば、普段からそのぐらい有能でいて欲しい。頼むから。
「ハッ!!この程度じゃ俺は殺せねぇな!!おら、死ねよ!!」
そして、ジルハードは弾丸をその身で受けながらも相手に接近し、強引に首をへし折る。
うん。アイアンマンって言うか、ハルクだな。今からでも能力の名前変えた方がいいんじゃない?
「持つべきは、優秀な仲間だな」
俺はタバコの煙を吹かしながら、とにかく周囲の敵を殺しまくるのであった。
キルレ6。まずまずの成果だろうね。まぁ、俺が6人殺す間に全部終わってしまっていたのだが。
後書き。
やっぱthe Phoenixかっけぇよ。これ書いてる時は、流しながら書いてた。
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