カーファイト
香港で本格的に暴れ始めた爺さんを置いて、俺たちは適当に確保した車(多分マフィアが乗ってたヤツ)を走らせていた。
流石に1台で全員乗り込むのは無理だったので、二台で移動している。
「ん、早速情報が出回ってますね。香港の都市がぶっ壊れていく様子を誰かが撮影して投稿したらしいです」
「こんな時でも認証欲求に駆られてるのか。平和ボケした人間ってのは凄いねぇ。危機感が薄いと言われる俺でも、あの現場じゃ逃げ出すぞ」
「コメントにはバルカンの連中がやったんじゃないかって書かれているね。まさか、500を過ぎたお爺さんが暴れているとは思ってないみたい」
「そりゃ、思わないだろうよ。たった一人でビルを解体するジジィがいてたまるか」
どの時代にも馬鹿なヤツはいる。俺がいた世界でも、自分の命が脅かされる場面でカメラを構えるやつは居たし、人種が違えど認証欲求を満たそうとする人間は一定数存在しているらしい。
その欲求で死ねるなら本望だろう。人の愚かさとは、そういうもんだ。
それにしても、俺たちが暴れているという情報はまだ出回っていないみたいだな。
戦争が始まって2週間。その間一切動くことの無かった俺達が、ようやく動き始めたことを世界は認知していないらしい。
今は情報社会だと言うのに。情報が遅れてますよ。
「しかし、三合会とも揉めるようになっちまったな。ボスはあれか?常に誰かに喧嘩を売らないと生きていけない人種なのか?」
「ふざけんな。俺は世界平和を望む心優しき青年だぞ。割れたガラス片じゃないんだ。触れたヤツを片っ端から傷つける趣味は無い」
「どの口が言ってんだか。ボス、今まで喧嘩を売ってきた相手を数えてみろよ」
「ゼロだな。喧嘩を売った覚えはない。知らん間に敵が増えていただけだ」
「なお悪いじゃねーか。無自覚に敵を増やす奴ほど面倒なものもないぞ」
それはそう。
なんでだろうね?知らない間にアホみたいに敵が増えるんだよね。俺は何もしてないのに。
国の運営をしていても敵が増えるんだからやってらんないよ。日本を再建したのはいいけど、政治をやらされるなんて聞いてないぞ。しかも、それで敵が増えてるし。
もう、王達に全部丸投げしてグダニスクに帰るか。なんかそっちの方がいい気がしてきた。
俺に政治は向いてない。
そんなことを思っていると、ジルハードの眉が上がる。
「........ん?付けられてんな。ボス、確認してくれ。多分、三合会の連中だ。どうやら、女神に愛された奴がいたらしい」
「あの崩壊の中を生き残ったのか?そりゃスゲェ。ご利益が有りそうだし祈っておこうかな」
俺はそう言いながら、後ろを見る。
すると、確かに俺たちが乗っている車と同じ車が何台も爆速で追いかけてきていた。
先頭車両はレミヤ達が乗ってるし、間違いなく敵だな。
「
「車の上が空くはずだ。そこから頭を出してファックでもするか?」
「やるしかねぇだろ。先頭はレミヤ達に任せているし、ケツに付いた糞は俺たちが拭かなきゃなならん。レイズ、お前は上から撃て。俺はとリィズは横から顔を出して撃つぞ」
「はーい」
「了解です。車の足止めをしますか?それとも、乗っている連中を皆殺しにしますか?」
「出来れば殺したいが........防弾仕様のフロントガラスをぶち抜けるのか?」
「問題ありませんよ。こういう時の為に、俺がいるんですよ」
レイズはそう言うと、手に持っていたケースからあるものを組み立てる。
揺れる車の中でガチャガチャとやって作り出されたのは、なんとスナイパーライフルであった。
何それ。俺、そんなもの持ってきているとか知らないんだけど。
「対物ライフルバレットM82をモデルにした、軍用魔弾専用ライフルです。現代戦車の装甲をぶち抜けるヤベー奴ですよ。一撃でエンジンまでぶち抜いておじゃんにできる優れものです」
「いつの間にそんなの持ってきたの?と言うか、どこで手に入れたの?」
「ちょいとPOL(ポーランド)の方に話を通して、仕入れてきました。あ、ちゃんと自分の給料から出してますよ。ほぼ趣味みたいなものですし」
にっこりと笑いながら、サラッとヤベーことを言うレイズ。
........後で買った金額分補填しておくか。一応レイズの装備品扱い出しな。
頼むから報告してくれ。お前、元軍人なんだから報連相ぐらいしっかりできるだろ。
「うはっ!!とんでもねぇもん持ってきてんな。軍用魔弾対応の対物ライフルとか、頭いかれてんじゃねーの?相手は象じゃねぇんだぜ?」
「あはは。人も象も変わりませんよ。殺せば死体です」
「レイズもやっぱり頭がぶっ飛んでんな。戦争ですら持ち出されないようなもん持ってきやがって」
「戦争では使われないのか?」
「コストが高すぎるんだよ。それに、戦車に対して撃つように作られたものだが、今の時代は能力者が鉄の塊を踏み潰すんだぜ?戦車の価値はかなり低くなった。そんな価値の低いもんをぶっ壊すために、態々金を掛けたい物好きがいると思うか?」
「なるほど?ちょいとオーバースペック過ぎるのか」
「そんなところだ。一丁作るのに、数百万とかするレベルだからな。正直、なんでPOLもこんなもんをまだ持ってんのか不思議なぐらいだ」
「ちなみに、1発しか弾を込められない上に、リロード時間がアホほど長いのが特徴です。外したら終わりなので、暗殺任務でも使われません」
なんでそんなものを持ってきたんだこの馬鹿は。
しかし、レイズの顔を見るとちょっと嬉しそうである。
これはアレだな?実用性とか一切考えずにロマンだけで持ってきたんだな?
なるほど。だから、自分の懐から金を出したのか。
レイズは組み立て終わった対物ライフルをもっと、車の上を開けて頭を出す。
凄まじい速度で走っているから、かなり風が邪魔そうだ。
「ジルハードさん、出来れば速度を一定にお願いします。それと、車体はゆらさないように」
「とんでもない無茶を言われているんだが?俺は王族専用のドライバーじゃないんだがねぇ」
「リィズ、俺達も援護するぞ。このロマンを追ったバカに合わせよう」
「はいはーい。でも、ピストルじゃ火力が出ないよ?」
「これを適当にばら蒔いておけ。それだけでなんとでもなる」
俺はそう言うと、能力で作ってないグレネードを三つほどリィズに渡す。
流石に防弾仕様の車相手に、なんちゃってパイプ爆弾はあまり意味が無いだろうしな。一応、使うけども。
静かにその時を待つ。
このグレネードは、約10秒後に爆発するタイプのグレネード。タイミングを見すると、仮面ライダーの登場シーンの様なアクション爆発を見せるだけになるので、慎重にやらなければならない
レバー式の方を持ってこればよかった。それならワイヤーで爆破タイミングをある程度調整できたのに。
「そこ」
ドガァァン‼︎と、到底銃が放っていい音では無い音が鳴り響き、次の瞬間少し後ろにいた車のエンジンがぶち抜かれて爆発する。
WOW。とんでもねぇ威力だ。と言うか、耳栓をすれば良かった。うるさ過ぎて鼓膜が破れそうだよ。
「hit。車両1台とその後ろに並んでいた2台を撃破。残り三台です」
「ナイスだレイズ。それ、グレネードでも味わっておけ」
レイズが車両を撃ち抜いたことを確認すると同時に、俺とリィズも行動に出る。
グレネードをポイッと後ろに投げて、車が通る場所に適当に置いておいた。
それだけでは無い。確実に当てる為に、俺は能力を行使。
道から逸れて逃げられるのを防ぐために大量の石を具現化する。
もちろん、普通に車で突っ込めば簡単に崩されるだろうが、運転手や乗っている連中は急に出現した壁に驚き、そして警戒するだろう。
そして、グレネードを転がした事も忘れて。
思考の一瞬の空白。その空白の間は、俺がやりたい放題で来てしまう。
グレネードが爆発するまであと7秒。
車のスピード的に、通り過ぎた後に爆発してしまう。
なら、スピードを落とさせればいい。
俺は能力で大量の釘をばらまくと同時にその釘にワイヤーを括り付ける。
そして、車がその上を通った瞬間、ワイヤーをタイヤに絡ませながら、無理やり釘をぶっ刺した。
防弾仕様の車だから、タイヤも何らかの対策をしているかと思ったが、別にそんなことは無いらしい。
最悪油でスリップを考えていたが、釘はぶっ刺さりタイヤはパンク。そして、ワイヤーの摩擦によって車は少しだけ減速。
しかし、まだ足りない。
残り五秒。
俺は先ずは大量の油を車のフロントガラスに落とすと、ついでにマッチで火をつける。
これで視界を封じたな。
そして、俺は即席ジャンプ台を鉄パイプと木の板、そして石とワイヤーで作成。
しかし、車をジャンプさせる訳では無い。
片輪だけ浮かせて、転倒させるのだ。
何も見えない状況下で、急に車の角度が変わればどうなるか?
答えは簡単。転ぶだけだ。
そして、車が転べば、スピードは一気に遅くなる。そして、遅くなった車は、狙い通り6つのグレネードの真横へと進み─────
ドガァァァァァン!!
────と、綺麗に吹っ飛ばされた。
ほぼ運ゲーであったが、滅茶苦茶上手くいったな。昔、どこぞの糞共に追われていた経験が生きたぜ。
次いでに大量の油を追加して、燃やせば完璧だ。
運良く爆発の中を生き残ったとしても、炎からは逃れられない。
死なずとも、俺たちを追いかけるだけの元気は無いだろう。
「........え?何が起きたんすか?」
「さすがグレイちゃん!!相変わらず能力の使い方が上手いねぇ」
「リロードは終わったか?」
「あと5秒っす」
「んじゃ、ダメ押しで何発か打ち込んでおいて。車のエンジンとかそこら辺を狙って」
「りょ、了解です」
ちょっと上手く行き過ぎた感もあるが、まぁ、終わりよければすべてよし。行き当たりばったり過ぎるやり方だろうが、上手く行けば許されるのだ。
この能力を使い始めて8ヶ月。随分と能力の使い方が上手くなったものである。
「いつも思うが、その能力、おかしくね?いや、使っているやつがおかしいのか」
「便利だぞ。なんでも出来る。できないのは、魔物を殺すぐらいだから」
「そんな多彩なことが出来る能力ってそうそう無いんだがな。神は不平等だぜ。ファッキンゴッドだ」
こうして、俺達は追いかけてきたどっかの誰かをシバいて、先へと進む。この後もこんなドンパチをやらないといけないのか。
最近平和だっただけに、少し懐かしみを覚えている自分が嫌になるぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます